才能あるクリエイターがテレビ業界に見切りをつける事例が増えているとの指摘があります。そもそもテレビ視聴層はいまや高齢者に極端に偏っており、その高齢層にしたってネット利用時間が増えているわけですし、また、番組スポンサーにとっても広告媒体としての魅力がないテレビよりも、ネットへの広告出稿にシフトしつつあるわけです。これが「視聴者離れ、スポンサー離れ、クリエイター離れ」の三重苦です。テレビ業界の崩壊は、著者が想定している以上の速度で進展しているのかもしれない、などと思う次第です。
目次
かつては娯楽の王様だったテレビだが…視聴時間は激減
視聴者離れ、スポンサー離れ、クリエイター離れ。
テレビ離れは加速していくのでしょうか―――。
テレビといえば、かつては「娯楽の王様」とも呼ばれ、お茶の間のど真ん中に鎮座して、人々にさまざまな情報、そしてエンターテインメントを提供してきました。
しかし、以前の『ネットが好調、新聞・テレビは苦戦=メディア利用時間』などでも報告してきたとおり、総務省の委託調査によれば、いまやテレビのメイン視聴者層は高齢者に極端に偏っていて、若年層はかつてと比べてほとんどテレビに見向きもしなくなっているのです(図表1)。
図表1-1 平日の年代別メディア利用時間(2013年)
図表1-2 平日の年代別メディア利用時間(2023年)
(【出所】総務省『情報通信白書』等を参考に作成)
広告費の長期低落傾向が意味するところ
この点、新聞業界には「部数」という概念があるのに対し、テレビ業界には「総視聴時間数」や「視聴回数」などのデータがほとんどなく、「視聴率」という尺度しか存在しないようですが、それでもテレビ業界の苦境を示す証拠はほかにもいくつかあります。
民放テレビ局の場合は、地上波の放送は基本的に無料であり、広告を流すことで広告主から番組制作費などを回収するというビジネスモデルを採用せざるを得ません(テレビ局によっては、ほかにもコンテンツビジネスや不動産ビジネスなどで稼いでいるケースもありますが…)。
株式会社電通が毎年公表している『日本の広告費』というレポートを定点観測するとわかりますが、しかし、肝心の広告収入が最近、激減しているようなのです(図表2)。
図表2 広告費の推移(ネットvsマスコミ4媒体)
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』データおよび当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)
すなわち広告の世界では、テレビ広告費は2018年にはネット広告費とほぼ並ばれてしまい、翌年に逆転。ネット広告費は2020年にマスコミ4媒体を合計した広告費と並び、それがいまや、ネット広告費はマスコミ4媒体広告費を1兆円以上、上回ってしまっているのです。
テレビ業界に絞れば、ネット広告費はテレビ広告費の2倍
これをテレビ業界に絞ると、状況はさらに深刻です(図表3)。
図表3 広告費の推移(テレビvsネット)【億円】
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』データおよび当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)
テレビ広告費がこの四半世紀、2兆円前後とほぼ横ばいであることにも驚きますが、2000年に590億円に過ぎなかったネット広告費が2023年に3.3兆円に急成長する一方、テレビ広告費は近年、2兆円の大台を割り込み、直近では1.7兆円とネットのほぼ半分になってしまった格好です。
これは著者自身の私見でもありますが、ネットの世界はこれからもますます便利になるでしょうし、必然的に、ネット広告費はさらに伸びていくと考えられます。
ただ、その反面で、肝心の企業側の総広告費がそこまで伸びていくとも考え辛いことを踏まえると、今後は企業側としても広告媒体としての「効率性」をこれまで以上に重視するでしょうし、そうなると、業界によっては「テレビ広告から撤退し、ネット広告にシフトしていく」という動きが生じてくることも予想されます。
実際、広告主である企業の広告宣伝担当部署としても、テレビの媒体としての宣伝力が低下していることを痛感しているはずですし、また、ターゲットを精緻に絞り、効率的に広告を表示することができるネット広告の方が、広告媒体としては遥かに魅力的であることも事実でしょう。
したがって、今後、テレビ広告費は今以上にさらに落ち込む可能性が高く、下手をするとこれから数年の間にネットと3~4倍以上の開きが生じることだって想定されますし、企業としてはますますテレビ広告を絞り、ネット広告にシフトしていく動きが生じて来るのではないでしょうか。
三重苦とスパイラル
そうなると、番組作りの予算が次第に枯渇し、視聴者を引き付けるような面白いコンテンツを作る能力も極端に低下するだけでなく、優秀なクリエイターはどんどんとテレビ局を辞めて他業界―――たとえばVODなど―――に転職していく、という未来が見えてくるのです。
つまり、テレビ業界はごく近い未来、下記①~④の無間地獄に陥る、という仮説です。
①テレビ広告が減る。
②番組の財源が減る。
③優秀なクリエイターがテレビ局を去る。
④視聴者層が減る。
要するに、テレビ業界を「視聴者離れ」、「スポンサー離れ」、「クリエイター離れ」の三重苦が襲っている、というスパイラル状態です。
ただ、こうした仮説ですら、やはりちょっと甘かったのかもしれません。すでにクリエイターのテレビ離れが始まっている可能性があるからです。それを示唆するのが、『集英社オンライン』が12日付で配信した、こんな記事かもしれません。
「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ
―――2024/11/12 11:02付 Yahoo!ニュースより【集英社オンライン配信】
記事は「お笑い評論家」のラリー遠田氏が上梓した近著・中公新書ラクレ820『松本人志とお笑いとテレビ』から抜粋したものだそうです。
タイトルの「僕たちテレビは自ら死んでいく」とは過激ですが、内容はいたって冷静で、「右肩下がりの苦境に置かれている昨今のテレビ業界では、テレビ局を離れて独立する人が目立っている」、と指摘するものです。
アマゾンの説明によると、ラリー遠田氏はテレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター・お笑い評論家となったという経歴の方らしく、また、テレビ業界の内情に通じているためなのか、非常に生々しい事例が実名入りで多く出てきます。
「もともとテレビ局の社員が退社や転職をすること自体は珍しいことではなかったのだが、近年は誰もが知るような人気番組を手がける現役のテレビマンが、続々と独立を果たして話題になっている。これは今までにはなかった現象である」。
実力あるクリエイターが続々テレビ局を退社
詳しい事例については直接、リンク先記事でご確認いただきたいところですが、個人的に大いに気になったのが、『日経テレ東大学』というプロジェクトに関する記述です。
ラリー遠田氏によると、これはテレビ東京のグループ会社である日本経済新聞社の新事業として2021年に始まったもので、ビジネスパーソンを中心に幅広い層からの支持を集め、チャンネル登録者数は100万人を超える人気コンテンツに成長したにもかかわらず、2023年3月に突如として更新を停止。
現在ではアーカイブ等もすべて削除されたらしく、プロジェクトに関わっていた人物が同年2月にテレビ東京を退職して新たに立ち上げたビジネス系YouTubeチャンネル『ReHacQ-リハック-』が好評で、現在はチャンネル登録者数104万人の人気チャンネルに成長したのだそうです。
ラリー遠田氏はこれを含めたいくつかの事例に関連し、こう述べます。
「人気番組や話題作を多数生み出している優秀なテレビマンが、続々とテレビ業界に見切りをつけているというのは、テレビの衰退を改めて浮き彫りにする事実であると言える」。
おそらく、この「テレビ業界に関わる実力のあるクリエイターが、続々とテレビ業界に見切りをつけている」というのは、テレビ業界の現状を象徴する現象のひとつなのではないでしょうか。
そして、(これも著者自身の予想ですが)テレビ業界はクリエイターにとっても、「活躍する場のひとつ」に過ぎなくなりつつあるのではないかと思います。
じっさい、私たち一般人―――この文章をお読みになっている、あなた自身も含めて―――も、ちょっとしたPCと動画編集ソフト、動画を撮影するためのウェブカメラなどがあれば、今すぐにYouTubeにチャンネルを開いて情報発信を始めることができます。
最近のスマートフォン、あるいはMacbookを含めた最近のPCなどであれば、たいていは本体にカメラもついていますので(※著者自身もMacbookでウェブ会議を頻繁に開催します)、スマホまたはPCが1台あれば、それで番組配信ができてしまうのです。
私たち一般人ですら、ほんの10年前だと考えられなかったほどに高品質な画像の動画コンテンツを気軽に作って配信できるわけですから、才能あるクリエイターであれば、わざわざテレビに拘る必要などありません。
画質は2K、視聴者層は高齢者、その高齢者ですら最近はネットにシフトしつつある―――。
そのうえ才能を潰すような上層部が鎮座しているテレビ局を去るという決断を下すことは、そのクリエイターが優秀であればあるほど、決しておかしな感覚ではありません。
著者自身の拙い経験でも、傾きかけている会社ないし業界からは、「外に行っても通用する人材」「自分自身で独立してもやっていける人材」であるほど、真っ先に辞めていくという傾向が認められます(※あくまでも一般論ですが)。
その意味では、テレビ業界の崩壊は、著者が想定している以上の速度で進展しているのかもしれない、などと思う次第です。
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引用する記事の出所から、あくまでも参考情報としてですが。
では、テレビ局員達がどこに転職しているかというと、NetFlixのような外資系みたいですね。
転職理由には、年収もあるんでしょうが。
スポンサーやタレントの顔色を伺わずに、本当に面白い番組を作りたいという欲求を満たしてくれるからではないかと言っている人も見たことあります。
「正直、Netflixに引き抜かれたい」テレビ局員の本音が爆発…プロ野球とメジャーリーグと同じ構図がテレビ業界にも
https://news.yahoo.co.jp/articles/4c77d1e21efc412d1c9306a722bd78a9175fe0f7
TBS「ふてほど」の敏腕女性プロデューサーがNetflixに転職…TV各局の人材流出が止まらない
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/341404
地上波テレビに見切り!? 民放の若手社員が退社ラッシュ、外資系の転職先で年収が倍額以上に
https://www.cyzo.com/2020/02/post_232037_entry.html
ReHacQ。
都知事選の安野さんをきっかけに頻繁に訪れるようになりました。
面白いですよね。しかも場所を選ばず視聴できる。
ほんの一部の番組を除きテレビが勝てる要素はないように思います。
そういえば先週たまたまベストヒットUSAを観ました。
わぁまだやってたんだぁと思い見始めると
小林克也DJは声質は昔のままですが見た目はおじいちゃん。
CMは見事に老人対象。膝の痛み、腰の痛み。。。
視聴者層は小林さんと一緒に年老いたのだなぁと思いました。
毎度、ばかばかしいお話を。
テレビ局:「番組のクオリティーを落として製作費を安くあげよう。どうせ、年配の視聴者はクオリティーなんて分からないし、スポンサーはクオリティーより視聴率だ」
まさか。
蛇足ですが、テレビ局は(視聴率より)スポンサー企業に宣伝効果があると思ってもらえる番組つくりをするようになるのでは。
野党の不祥事ばかり取り上げる番組、(優秀なクリエータさん)誰か作らないかな。
常にブーメランだし、絶対面白い番組出来ると思うのですが・・・
テレビ局はアニメを蔑ろにしています。
例えば世界的に人気のワンピースのような作品であっても
放送していない/凄く遅れて放送といった日本国内のテレビ放送で視聴に著しいマイナス要素がある物があります。
昨今情報は鮮度が命です、人気アニメともなれば最速放送後Twitterで感想が飛び交います。
しかしながら地方のテレビ局に頼っているとそれが出来ません。
もうネットで配信されている方が早いのです、わざわざテレビに頼る必要が無いです。
鬼滅の刃やスパイファミリーといった子供層に人気のアニメの放送時間も24時近くだったりし、とても出ないがリアルタイムで見れません。
そうなるとやはりネット配信に頼ることになるでしょう。
子どもの内にテレビを見る習慣がつかなければ大人になってもテレビは見ないでしょう。
遅い情報、視聴できる番組格差。
そうした物がないネット配信に重心が移るのは当然でしょう。
最近のテレビのリモコンすごいことになってる。
テレビチャンネル(1~12)以外に NetFlix, ABEMA, TSUTAYA, Hulu, U-NEXT, YouTube, PrimeVideo のボタンがついている。
テレビ画面でネット番組を見ることが前提になっている。
実は昨日、テレビではなく自分のPCでYouTube の「砂の器」を観た。ノーカット、無料。
テレビはどんどん落ちぶれていくだろう。最近テレビをつけると8割くらいの確率で「何か食べてる」「何かを調理している」「どこかを歩いてる」映像。
製作費が安く上がるのはその手の番組なのだろう。いずれ「そして誰もみなくなった」になる。
スポンサーにも見放され放映するものがなくなるのではないか。
sqsq さま
>「何か食べてる」「何かを調理している」「どこかを歩いてる」映像。
もっと製作費を安くあげるには、再編集して同じ番組を放送することでは。この手の番組は、いつ撮影しても中身に違いはありませんから。
ごく稀ですが「先週と同じ番組を流してしまった」という放送ミスが話題となることがあります。今後は「先週と同じ番組を流してしまったが視聴者からの指摘が全く無かった」が話題になるのかも知れません。
前回との違いをみつけるために、番組を視聴してください、ということでしょうか。
ウォーリーを探せ????
すみません。ウォーリーは違いましたm(_ _)m
「◯つの間違い探し」ですね....
いずれテレビ局はYouTuber 向けの貸しスタジオになるのではないか。撮影、編集サービス付きで。すでにABEMAの収録はテレビ朝日のスタジオを使っているとのこと。
個人向けの「ビデオスイッチャー」製品というジャンルがあります。高価な製品ではありません。
これがあるとなんちゃってテレビ局ができるのです。ごっこ遊びどころでなくて、もはや本格的なところが、商品の値打ちです。
当方の周囲では ATEM Mini を今度買う、オレはもう買ったという発言が出ていました。流行りもの好きはヒットをちゃんと知っている。ローランド社が参入したことで、さらに裾野は広がりました。
人を集めて、バックドロップの造作に凝り、腕のいいカメラマンにテクニックをぶいぶい言わせてもらうのでなければ、TV 放送級動画はいまや高校生にでも作成できます。我々が日々目にしている「無料なのに制作クオリティーの高い動画」はそうやって作られているのですね。
他人事ながら心配ですね。
放送局は、鉄道や遊園地みたいな設備産業なので、損益分岐点がやたら高そう。
仕事が回せてるなら量でなんとかなるけど、遊休が生じると一気にガタガタになりそうな。
「なんだかちっとも面白くないな」と感じるようになり、テレビ視聴を殆どゼロにしてしまってから既に10年近くは過ぎたものと思います。「報道系」が許容できないまでに偏向しているのはさらにそのずっと前から認識していましたが、「娯楽・エンターテイメント系」もどうしようもなくつまらなくなったんですよね。一瞬「トシかな」とも思ったんですが、同時にネットの方(特にYouTube)にどんどんハマって行きました。「玉石混交」は当然なのですが、ともかくメニューが膨大で、しかも視聴のTPOも完全に受け手都合100%で構わない訳ですしね。つまらないコンテンツを送り手都合100%で垂れ流しているテレビが太刀打ちできる訳がないと思うとロコです。
で、まぁ、タレント・リテンション(有能な人材の維持・確保)に失敗しつつあるテレビ業界ということのようですが、先細りする広告収入の中、高額な人件費を守りつつお手軽経費のつまらない番組の量産を続けるより、いっそのことヒトはばっさりと切り捨てた上で、彼らの「黄金時代」に作られた無敵コンテンツを提供するようなビジネスモデルに転換していった方が生き残りの確率を高めることができるかもしれませんね。
例えばということで云えば、「8時だョ!全員集合」を漏れなく全部流してくれたら、まず間違えなく見ちゃうと思う次第ですね。