新聞、テレビを中心とするマスコミが「第四の権力」として政治に介入する時代は、いよいよ終わりを告げるのかもしれません。メディアコンサルタントの境治氏はかねてより、「いまや政治とYouTubeは切り離せなくなった」と強調してきましたが、その境氏は今回の選挙を通じ、国民民主党がYouTubeチャンネル登録者数を大きく増やすなどの事実を指摘しています。
目次
第四の権力を使い政治に介入してきたマスコミ
先月行われた衆議院議員総選挙、著者自身の(希望的観測も含めて)総括を申し上げるならば、それはこんな具合ではないかと思います。
「マスメディアの報道が有権者の投票行動に大きな影響を与えた最後の事例」。
なぜそんなことを申し上げるのかといえば、新聞、テレビを中心とするマスメディア・マスコミ業界は、しばしば報道という「第四の権力」を使って政治に介入してきたからです。
「マスメディアの報道が有権者の投票行動に大きな影響を与えた事例」として、私たち国民が語り継ぐべきものがあるとしたら、それは少なくとも1993年の事例と、2009年の事例です。
「1993年の事例」とは衆院選で自民党が過半数割れし、野党8党派(日本新党、社会党、新生党、民社党、公明党、さきがけ、社民連、民主改革連合)による「非自民・非共産連立政権」が誕生したことをさします。
また、「2009年の事例」とは衆院選で自民が定数480議席のうち119議席と惨敗し、民主党が308議席を獲得して圧勝し、政権交代が発生した事件のことです。
非自民政権は、1993年の政権交代時には1年未満で崩壊し、2009年の政権交代時には3年3ヵ月続いたものの、野田佳彦政権下で行われた2012年12月の総選挙で民主党が獲得議席57議席と惨敗し、自民党が294議席を獲得したことで終わりを告げたのです。
反自民的な立場から偏向報道を繰り返したメディア
そして、(これも著者自身のやや主観的な見立てですが)1993年、2009年、2024年の3つの衆院選における共通点は、メディアがさかんに反自民的な立場から偏向報道を繰り返したことではないかと思います。
たとえば1993年の選挙におけるメディアの介入については、以前の『椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』を含め、これまでにしばしば当ウェブサイトで取り上げている「椿事件」が有名です。
これは、テレビ朝日の椿貞良(つばき・さだよし)取締役報道局長(当時=2015年12月死去)が民放連の会合で「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」と発言し、その責任を取って辞任したものです(ただし、本人はその後、偏向報道の事実については否定していたようです)。
また、2009年の選挙では、自民党と民主党の党首討論(客観的・公正に見て麻生太郎総理の勝ちと見るべきでしょう)を新聞、テレビがいっせいに無視したこと、主要メディアが「政権交代」と煽ったことが、民主党の勝利につながったと考えて良いでしょう。
つまり、この1993年と2009年の2つの事例は、メディアが報道の力を使い、有権者に強く働きかけ、政権交代を実現したという事例であり、メディアがもつ報道の力が事実上の権力であることを示した事件であるとともに、著者自身に言わせれば日本の民主主義史における汚点でもあります。
これを「汚点」と呼ぶのには、理由があります。
メディア、とりわけ新聞、テレビの記者は、私たち国民が直接選挙で選んだ者たちではないからです。
また、新聞社、民放テレビ局に関しては、私たち国民が消費者として、不買、不視聴をすれば「倒産」という形の社会的制裁を与えることはできますが、NHKに関しては私たち国民が自由経済競争を通じて「倒産」という形のペナルティを与えることができない組織です。
- 記者は国民から選ばれてない。
- 専門知識があるとは限らない。
- 誤報しても滅多に訂正しない。
- 報道の事後的検証を拒否する。
- 捏造報道に対し処罰が不十分。
- 記者クラブで情報を独占する。
- 新聞社に各種税制優遇がある。
- テレビは電波利権で守られる。
- 投票で落とされることはない。
そんなマスメディアこそ、まさに「腐敗した権力」そのものではないでしょうか。
政権交代は生じない(多分)
さて、1993年から2009年までのインターバルは16年でしたので、2009年から2024年までのインターバルの15年で、再び自民党が過半数割れを起こしたことは、興味深いところです。
そして、自民党が過半数割れを起こしたものの、自民党以外のどの政党も過半数を取っておらず、また、自民党以外の政権が「非自民連立政権樹立」で一致しているわけでもありませんから、(おそらくは)自公連立政権が少数与党状態のままでしばらくは続くのでしょう。
少なくとも「1955年体制」が成立して以降に限定して言えば、政権を握っている連立政党が衆院で過半数を割れているという状況は、非常に異例です。少数与党といえば1994年に2ヵ月だけ存在した羽田孜政権を除くと、ほとんど事例はないのではないでしょうか。
ただ、今回・2024年の衆院選に関していえば、メディアの偏向報道体質はあまり変わらないにせよ、また、最大野党である立憲民主党が150議席近くを獲得して大躍進したにせよ、自民党は過半数を割ったにせよ、依然として自民党が最大政党であり続けています。
これを著者自身は、新聞、テレビといった腐敗権力の力が弱まっている証拠と捉え、歓迎しています。
そして、(良いか悪いかはともかくとして)「政権交代よりも政策」を訴えて躍進した政党(とりわけ国民民主党)が少数与党の「ハング・パーラメント」状態をうまく利用し、政策実現を目指すという状況は、考え様によっては悪い話ではないのかもしれません。
境治氏の「YouTubeと政治家」論
そして、「新聞、テレビ報道に代わる情報発信手段」として一気に存在感を増したのがインターネットでしょう。
こうしたなか、『政治家のネットでの直接発信…メディアの権力が崩壊へ』では、メディアコンサルタントの境治氏が「いまや政治とYouTubeは切り離せなくなった」と述べたとする、東洋経済オンラインが配信したこんな記事を話題に取り上げました。
総選挙を左右するか?「テレビよりYouTube」戦略 Googleも積極的に後押しする「選挙系YouTube」
―――2024/10/23 08:02付 Yahoo!ニュースより【東洋経済オンライン配信】
この記事自体が執筆されたのは総選挙よりも前の時点ですが、同じ境氏が8日付で、そのフォローアップとしての記事を寄稿し、これを東洋経済オンラインが配信しています。
テレビが選挙報道をやめた結果「起きた大逆転」 玉木雄一郎氏は「YouTube」をどう使ったのか
―――2024/11/08 05:32付 Yahoo!ニュースより【東洋経済オンライン配信】
境氏は今回の記事で、国民民主党の躍進に焦点を当て、同党がYouTubeを活用したという点を解説しています。
比例代表における各政党の得票状況に対する堤氏の分析は、こうです。
- 自民党は前回と比べ約4分の1減った
- 立憲民主党はたった7万票しか増えておらず、自民が減った分、立民が相対的に浮上しただけだ
- 維新の減少分は保守、参政を足した票と同じで、右寄りの維新が極右に票を奪われた
- れいわの増加分は共産党と旧NHK党の減少分お合計とほぼ同じ
- 自公の減少分と投票しなかった人数を合わせれば国民民主党の増加分とほぼ帳尻が合う
興味深い分析です。
国民民主党はYouTube登録者を増やしている
参政党や日本保守党を「極右」と表現している点について、一部では議論もあるかもしれませんが、ただ、この境氏の分析に立てば出て来るであろうこんな結論は、非常に説得力があります。
「国民民主の支持者はほとんどが若者層で高齢層は少ないので、今回の投票率が前回より下がったのは自民と公明支持の高齢層が投票しなかったことによると考えていいのではないか。投票率が下がるとすぐに若者のせいにしたがるが、今回に限っては高齢者が投票率を下げたと見ていいと思う」。
そして、若年層の支持を集めたであろう国民民主党が、YouTubeでチャンネル登録者数を大きく増やしているという事実に注目したうえで、こう述べるのです
「つまり、国民民主党が上手にYouTubeを使って若者層にアピールしたら自民党から票を奪って大躍進したのだ。議席数を7から28に伸ばしたおかげで、彼らの政策「手取りを増やす」を実現するべく与野党との間でキャスティングボートを握れた」。
大変興味深い仮説です。
境氏の記事では、玉木雄一郎代表によるYouTubeの活用法について、ショート動画や長尺動画の使い分け、ターゲット層への長尺動画のリーチの手法などを説明しているのですが、これに関してはリンク先の記事でご確認ください。
境氏は記事を通じて、「政治を動かすのはテレビではなくYouTubeになった」と結論付けていますが、これに関してはおおむね同意せざるを得ません。
報治主義の終焉を歓迎すべき
もちろん、境氏の記事のすべてに賛同するわけではありません。
たとえば、「2014年に当時の自民党副幹事長・萩生田光一氏の名で選挙報道の公平を求め、出演者の発言回数や時間も同じにする旨の要望を各キー局に書面で送った」ことが「テレビ局の選挙報道を委縮させた」とする指摘には、まったく同意できません。
テレビ局はその後もやりたい放題、自由奔放に報道を続けているからです(その意味で、テレビ局に「民主主義の担い手としての資格」がこれまでもあったのかどうかという点については、極めて疑問だと思わざるを得ません)。
ただ、私たち有権者にとっての投票行動を決める判断材料として、テレビでもなく、新聞でもなく、ネットが大きな役割を果たす時代が到来したことは間違いありません。
だからこそ、著者自身は今回の選挙について、「新聞、テレビを中心とした『第四の権力』が最大限頑張っても立憲民主党を約50議席躍進させただけに終わった」という見方もできると考えています。
その意味では、「報治主義」に終わりが見えたことは間違いないと思う次第です。
View Comments (12)
マスゴミは、自身の政治介入の既得権を守るために、YouTube活用の国民民主党を嫌っている、ということでしょうか。
毎度、ばかばかしいお話を。
マスゴミ:「専門知識のあるYouTubeより、専門知識のないテレビの方が優れている。なぜなら、テレビならどれを選んでいいか迷わなくてもいいからだ」
たしかに、YouTubeでも玉石混交ですが。
一連の流れを俯瞰するなら、安芸高田市で石丸伸二(元市長)が、たった一人で三年間も公式動画だけを頼りに戦い続けてきた成果が、トリクルダウンして花開いたように見えますねえ。
マスメディアという中間卸問屋は邪魔で、生産者と消費者がダイレクトに意志疎通する手法が、目に見えて結果を出せている。
…みたいな?
そういえばココではジェントルマンな新宿さんは、エックスではベランメェなキャラですね。
白新宿と黒新宿。
ジキルとハイド?(笑)
ガス抜きが必要なのでしょうね
〉「報治主義」に終わりが見えたことは間違いない
とはいえ、マスメディアの影響力の大きい高年齢層は75歳前後のピークを中心にまだまだ多くいらっしゃいます。年単位では変化はあると思いますが、変化が明白になる前にこっちがジジイになってしまいそうで心配であります。(-_-)
デジタル赤字という聞きなれない単語が報道に出現していました。
国家支出の少なからぬ額が、社会デジタル化の名のものとに大手国際IT企業への支払いに消えていることを指してこんな命名をしたと理解しています。
憂慮すべき事態を指摘するため新聞やジャーナリストに順々に記事を書かせたのは、財務省なのではないかと当方は判断しています。日本経済新聞はデジタル赤字とは言わずに(ニッポンの)デジタル小作人(化)と独創性を見せていました。語るに堕ちたとはそうは考えないところが、意識高い系新聞記者の限界なのでしょう。
デジタル赤字って、サービス収支のその他の中の「通信」「コンピュータ・情報サービス」の部分の赤字のことですよね。
要はプラットフォームを米国企業に握られてて政府を始め日本の金が流出してるという。
デジタル小作人・日経でググって、結構な数の記事が出てきたのですが、どれも有料で途中までしか読めませんでした・・・
日経は結論としては日本はどうせよと言ってるんでしょうか?
ちょっと気になります。
希望的観測 次の総選挙で国民が議席倍増。公明党に代わって高市総裁の自民党と連立政権を 何てことはないか。
国民民主党は閣外で少数与党に政策を提案、要求し続けた方がいいような気もする
> 萩生田氏は今回かろうじて当選したが、テレビが選挙報道を前のようにやっていれば、自民党支持者が見直してくれてもっと楽に勝てた可能性がある。2014年の要望書が遠因となり萩生田氏は自分の首を絞めたと言える。
私はこの点に疑問。
マスコミが選挙報道を自重せずに自由にやってたとしたら、萩生田氏は落選してたんじゃないかと思います。
マスコミ性善説。(笑)
youtubeはあまり面白くない。その理由としてトラフィックを稼ぐために誇張、歪曲、うそ八百が多すぎる。
石丸伸二が安芸高田市長時代にyoutubeで議会に対して散々悪態をついてきた。もう少し大人の対応をすればいいのに、毎日のように新しく動画配信をしていた。人の関心を呼ぶためか、トラフィックを稼ぐためかよくわからないが安芸高田市の住民はどう思っていただろうか。
googleに何度となく、コンテンツの削除報告を出したが、そのたびに新しく配信手続きをしていたように思われる。
石丸信二は、市制運営はどうしていたのかわからないが、市長報酬+広告収入で多額の利益を手にしていた。
今回の選挙ではオールドメディアが2009年頃と同様に自民党の弱体化を狙いましたが、
結果は「石破体制の迷走」と言う大チャンスがありながら「与党の過半数割れ」がせいぜい。
まさにオールドメディアの衰弱ぶりを裏付ける結果であり、暗澹たる気分でしょうね。
だからこそ、「マスゴミと言う蔑称は差別だ!」などとわめきちらす
自称ジャーナリストなんかも出てくる様で……相当イライラしているんでしょうねえ。