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立憲民主党はじつは小選挙区で大幅に票を減らしていた

立憲民主党は小選挙区で議席を積み増しましたが、じつは小選挙区での得票数は減っていたことが明らかになりました。総務省が公表しているデータに基づけば、立憲民主党の得票は約1574万票で、前回比約147万票へっています。ではなぜ、小選挙区で47議席も増やしたのか。その理由は簡単で、自民党が約676万票減らしたからです。

選挙資料分析

総務省のウェブサイト『選挙関連資料』のページでは、通常、国政選挙後に各選挙区における各政党・候補者の得票状況などに関する情報が掲載されるのですが、今回、10月27日に投開票が行われた衆院選に関しては、その結果がまだ掲載されていません。

ただ、検索エンジンなどを使って調べてみると、現時点で『令和6年10月27日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報資料』というページに、選挙結果の詳細レポートが掲載されているのを発見しました。

端的にいえば、大変読み辛い、また、加工し辛い資料ですが(とくに小選挙区における得票状況・当選状況などについては読み辛いことこのうえありません)、ただ、現時点ですぐにできる分析として、各政党の選挙区トータルでの獲得票数、獲得議席数に関するデータが出てきました。

各党の議席数

前回、すなわち2021年と対比させるかたちで、各政党の獲得議席を示すと、図表1のとおりです。

図表1 各政党の獲得議席
政党 2024 2021 増減
自由民主党 191 259 ▲68(▲26.25%)
立憲民主党 148 96 +52(+54.17%)
日本維新の会 38 41 ▲3(▲7.32%)
国民民主党 28 11 +17(+154.55%)
公明党 24 32 ▲8(▲25.00%)
無所属 12 12 ±0(±0.00%)
れいわ新選組 9 3 +6(+200.00%)
日本共産党 8 10 ▲2(▲20.00%)
参政党 3 0 +3(+-)
日本保守党 2 0 +2(+-)
社会民主党 1 1 ±0(±0.00%)
諸 派 1 0 +1(+-)
合計 465 465

(【出所】総務省。以下同じ)

これで見ると自民党が68議席、公明党が8議席とそれぞれ減り、立憲民主党が52議席、国民民主党が17議席、それぞれ増やしています(※国民民主党は2021年選挙後に前原誠司氏らが離党しているなど、いわゆる「公示前勢力」とは異なっています)。

また、れいわ新選組が6議席増えている一方で日本共産党は2議席減らすなどしたほか、参政党、日本保守党などの新興政党が議席を得ています(※ただし、総務省資料だと日本保守党は小選挙区に関しては諸派扱いであるため、上記図表では日本保守党の獲得議席は2議席と表示されています)。

小選挙区では立民が圧勝したが…

では、小選挙区に限定すれば、どうでしょうか?(図表2)。

図表2 各政党の獲得議席(小選挙区)
政党 2024 2021 増減
自由民主党 132 187 ▲55(▲29.41%)
立憲民主党 104 57 +47(+82.46%)
日本維新の会 23 16 +7(+43.75%)
無所属 12 12 ±0(±0.00%)
国民民主党 11 6 +5(+83.33%)
公明党 4 9 ▲5(▲55.56%)
日本共産党 1 1 ±0(±0.00%)
社会民主党 1 1 ±0(±0.00%)
諸 派 1 0 +1(+-)
れいわ新選組 0 0 ±0(±-)
参政党 0 0 ±0(±-)
日本保守党 0 0 ±0(±-)
合計 289 289

自民党は小選挙区でなんと55議席落としており、立憲民主党はこれに対し47選挙区で議席を獲得しています。この結果だけを見ると、自民党が票を大きく減らし、立憲民主党がその分、票を積み増したのかと思えますが、実際のところはどうなのでしょうか。

立民はむしろ票を減らしていた!

なんと、大変意外なことに、立憲民主党は小選挙区で票を増やしていないのです。その票数を示したものが、次の図表3です。

図表3 各政党の獲得票数(小選挙区)
政党 2024 2021 増減
自由民主党 20,867,762 27,626,235 ▲6,758,473(▲24.46%)
立憲民主党 15,740,860 17,215,621 ▲1,474,761(▲8.57%)
日本維新の会 6,048,104 4,802,793 +1,245,311(+25.93%)
日本共産党 3,695,807 2,639,631 +1,056,176(+40.01%)
無所属 2,534,571 2,269,168 +265,403(+11.70%)
国民民主党 2,349,584 1,246,812 +1,102,772(+88.45%)
参政党 1,357,189 0 +1,357,189(+-)
公明党 730,401 872,931 ▲142,530(▲16.33%)
れいわ新選組 425,445 248,280 +177,165(+71.36%)
社会民主党 283,287 313,193 ▲29,906(▲9.55%)
諸 派 228,867 71,826 +157,041(+218.64%)
日本保守党 0 0 ±0(±-)
合計 54,261,878 57,306,491

立憲民主党は約147万票減らしていて、本来ならば小選挙区の議席を減らしていなければおかしいと思いがちですが、それ以上に自民党が約676万票も減らしているため、それにより小選挙区で自民党の「ボーダー議員」が相次いで落選したとするのが自然な解釈ではないでしょうか。

各政党の推移

この点、自民党の得票数は、小選挙区、比例ともに、少なくとも2005年以降で見て最低です(図表4)。

図表4 自由民主党・得票数
小選挙区 比例代表
2005 32,518,390 25,887,798
2009 27,301,982 18,810,217
2012 25,643,309 16,624,457
2014 25,461,449 17,658,916
2017 26,500,777 18,555,717
2021 27,626,235 19,914,883
2024 20,867,762 14,582,690

自民党が小選挙区で64議席しか取れず惨敗した2009年ですら、自民党は小選挙区で2730万票を獲得していたのですが、今回はそれすら約643万票下回りましたし、比例代表に至っては小泉郵政解散で圧勝した2005年と比べ1000万票以上少ない約1458万票にとどまりました。

ちなみに当ウェブサイトでは、2021年の選挙分析をもとに、「ボーダー議員」は自民党で58人、立憲民主党で41人いると申し上げてきましたが、奇しくも自民党が減らした55議席は、このボーダー議員数と似通っています(ただし、現実には非公認候補なども存在していましたが…)。

通常、自民党がここまで票を減らしたら、最大野党であるはずの立憲民主党がそれこそ地滑り的に圧勝していても不思議ではないのですが、肝心の立憲民主党の得票数は、前回と比べ比例ではほとんど増えておらず、小選挙区に至ってはむしろ前回比減らしているのが実情です(図表5)。

図表5 (旧)民主党(~2014年)・立憲民主党(2017年~)得票数
小選挙区 比例代表
2005 24,804,787 21,036,425
2009 33,475,335 29,844,799
2012 13,598,774 9,628,653
2014 11,916,849 9,775,991
2017 4,726,326 11,084,890
2021 17,215,621 11,492,095
2024 15,740,860 11,564,222

すなわち、今回の選挙では、投票総数が減ったこと、自民党が前回と比べて30%近く票を減らしたことの影響で、結果的に第2政党である立憲民主党の候補者が大挙して当選した、という構図が見えてくるのです。

日本維新の会や国民民主党も躍進したとはいえ、小選挙区の当選者数はそれぞれ23議席、11議席に過ぎず、やはり100を超える議席を獲得した立憲民主党は、これらの政党と比べれば最大野党としての組織力に大きな違いがあるといえるでしょう。

そして、もしも立憲民主党が2009年の民主党なみに「自民批判票」の受け皿となっていたならば、立憲民主党は148議席どころか、かつての民主党なみに300議席前後の議席を獲得していて然るべきです。

このように考えると、立憲民主党がこの程度の票しか取れなかったがために、自民党は辛うじて第1党の地位に留まったのだ、という言い方ができそうです。

日本共産党は支持層が高齢化?

さて、日本共産党が約370万票と、前回と比べておよそ106万票ほど票を上積みしていますが、これは同党が今回の選挙で立てた候補者が前回の2倍以上だったことによる影響と考えられ、しかも増加率でいえば40%ほどに過ぎません。候補者が倍増したならば得票数も倍増しそうなものですが…。

ちなみに日本共産党についても票数を確認しておきましょう(図表6)。

図表6 日本共産党・得票数
小選挙区 比例代表
2005 4,937,375 4,919,187
2009 2,978,354 4,943,886
2012 4,700,290 3,689,159
2014 7,040,170 6,062,962
2017 4,998,932 4,404,081
2021 2,639,631 4,166,076
2024 3,695,807 3,362,966

日本共産党は比例代表で、毎回の票数がジリジリと減っています。

もちろん、毎回の変動は大きく、2012年には約369万票しか取れなかった反面、次の2014年には606万票も獲得するなどしていますが、それでも2005年以降のデータで見ると、平均してだいたい▼2000年代は500万票弱、▼2010年代は450万票前後、といったところでした。

ところが、これが2021年に約417万票、そして今回は約336万票にとどまりました。前回からで見ても80万票以上減っていますし、小選挙区も2017年の約500万票と比べ、ざっと130万票以上は減少しているのです。

これは正直、日本共産党の支持層の高齢化とも関係があるのでしょうか?

いずれにせよ、得票分析はほかにもいくつかの視点があるのですが、これについてはまたどこかで時間を作り、別稿にて議論したいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 立憲の選挙区の候補者は前回214→今回207で3%減。対して得票は9%減。投票率は2%減。
    比例で票が増えず、選挙区ではむしろ票を減らしていたと。
    有権者の支持が増えたのか、自民の批判の受け皿となったのかでいえば、野党第一党としては「敗北」といっていいかもですね。
    共産党が4億円払って大量に候補を立てて得た+100万票。これはどこから来たんでしょうねー。

    • 日本共産党の場合は単純に前回105区でしか候補を立てていなかったのが、今回は倍以上の選挙区で候補を立てたためですかね。
      あれぇ?だったら得票も前回比倍以上になっていないとおかしくない?

      • 世間ではかつての立憲共産連携効果(剥落)のあぶり出しに期待が集まっているようです。(多分)

    • ご想像の通り、立憲の減少147万のほとんどは、共産105万とれいわ18万に回ったのでしょうね。

  • 高齢者で保守派の人は 「自民党にお灸を据えるために他党に投票した人」 よりも 「単純に棄権した人」 のほうが圧倒的に多かったんでしょうね。

    そのおかげで 「絶対数の少ない若者や現役世代」 に支持された国民民主党が躍進できたのなら、今回の選挙結果は、ある意味 「奇跡的」 と言えるかもしれません。

  • 日本保守党は、愛知1区で河村前市長が当選しています。小選挙区0ではないですよ。保守党嫌いなのですか?

    • 日本保守党支持者の方ですか?本文に

      >(※ただし、総務省資料だと日本保守党は小選挙区に関しては諸派扱いであるため、上記図表では日本保守党の獲得議席は2議席と表示されています)。

      と書いたつもりだったのですが、それを読み飛ばされたのでしょうか?

      念の為本文をご確認ください。

  • 玉木氏がここでいきなり、首班指名選挙で石破氏や野田氏に投票するなどと言ったら、次の選挙で国民民主は消滅するでしょう。
    決戦投票で無効になるのくだりがありますが、少なくとも国民民主を支持した有権者への責任は果たしたことになるのかと。
    庶民の味方のふりをして、結局何も為せない(それどころか庶民にとって害になる)政党より(どことは言いませんが)は、はるかにましです。

  • 安倍派の稲田朋美候補は裏金196万を非難され比例重複立候補を受けられませんでした。
    ところで岸田派には3000万の使途不明金があったと読売新聞が報道しています。
    これについては首相派閥での問題ということもあり、もっと大々的に報道されていいはずですが不思議なことに、これ以降の続報が全くなく岸田首相も関与した議員数・議員名を明らかにすることはありませんでした(官房機密費でもばら撒いて口止めをしてるのでしょうか?)
    3000万はあくまで初報の金額であり、安倍派議員同様、各議員の聞き取りを行えば額が増えるのは確実ですが、そんな形跡はありません。
    私は「この岸田派議員200万以上裏金があるのに何で安倍派だけ処罰なの?」と国民に詮索されないよう岸田が議員名等を隠蔽していると思うのですが、穿ちすぎでしょうか?
    こういう自民執行部のアンフェアな安倍派排除が有権者に嫌われ大敗北を喫した一因ではないでしょうか。

  • 菅原琢氏の総選挙考察が上がっていました。

    衆院選の結果を「裏金」だけで語るのは誤り――自公過半数割れの要因を整理する
    http://blog.sugawarataku.net/article/191120933.html

    ・短期イベントの裏金だけでは自民支持の長期低落は説明できない。多分、物価高
    ・2000万円の影響はなかった。23日赤旗報道前に、朝日と毎日の後半の情勢調査が発表され過半数割れが予測されている。2000万円の前に決まっていた。(朝日毎日の後半調査は的中率9割弱)
    ・10増10減、区割り変更は自民に大きくマイナスとなった
    ・日本保守党により東名阪の比例で自民は3議席減の影響。下落幅の2割を占め無視できない。

    読めば読むほど自民のダメージの大きさを感じます。
    物価高が要因なら、毎年7兆円(財務省発表)の景気対策は自民には追い風だと思いますけどね。どうせやるなら「よろこんで」やる姿勢が必要かと。

  • 選挙は得票数ではなく、得票率で見るものではないでしょうか?
    全体の投票数の中で、最も多く票を獲得した人が当選するので。
    全体の投票率ならびに投票数を考えずに得票数の増減比率を考えても意味が無いと思います。

    ちなみに、獲得票数(得票率)で見ると、小選挙区の推移はこのようになります。
    総務省の選挙関連資料にある各年の届出政党等別得票数(小選挙区)と、この記事の記載データから抜粋しています。2014年より前や他の党の推移は面倒なので省略。興味がある人は、調べてみると面白いかも知れません。
    あと、総務省のデータと、この記事のデータで微妙に誤差が生じている理由はよく分かりません。
    ※2021年の立憲民主党の得票率は、この記事のデータにある(17,215,621:立民の得票数)/(57,306,491:全体投票数)票で計算すると、30.04%となります。

    2014年
    自民:25,461,448(48.10%)
    民主:11,916,849(22.51%)

    2017年
    自民:26,500,776(47.82%)
    立民:4,726,326(8.53%)

    2021年
    自民:27,626,235(48.08%)
    立民:17,215,621(29.96%)

    2024年
    自民:20,867,762(38.46%)
    立民:15,740,860(29.01%)

    率で見ると、立憲民主党は2021年から2024年にかけて、特に大きく減らしていません。
    逆に自民の得票率は約48%から38%へと、大きく減らしていることが分かります。
    今回の選挙を見るに、立民が支持を得たというわけではなく、自民から立民以外の党に票が流れたというところではないでしょうか?

    • 自民以外の保守政党が現れたからでしょうね。
      とりわけ国民民主に注目が集まったようです。
      今後この流れはより一層強くなると思います。
      玉木さんが間違わなければ。