連立入りはしない。是々非々で個別の政策協議には応じる。玉木雄一郎氏率いる国民民主党の、現在のそんな動きは、「良い意味で」狡猾なのではないでしょうか。ただ、こんな同党や玉木氏の態度を批判する意見も出て来ています。思うに、「何でもかんでも与党に反対するのが野党議員の仕事だ」という前提があって、こうした前提から抜け出せていないのは、マスメディア・ジャーナリズム業界も同じなのではないでしょうか?
目次
国民民主党が台風の目に
自民党が大敗し、過半数を割り込んだ衆院選から、そろそろ1週間が経過しようとしています。
この間、当ウェブサイトでは当初、自民党の敗因や立憲民主党の「中身のなさ」などについて言及してきました(くどいようですが、『「自民苦戦と立民躍進」は本当か』などでも示した通り、選挙前に当ウェブサイトでは自民党の大敗を予想できていませんでしたが、この点については深くお詫び申し上げたいと思います)。
ただ、火曜日の『野党結集政権に否定的=玉木代表』あたりを皮切りとして、当ウェブサイトでは国民民主党の玉木雄一郎代表の言動やその関連報道に関する話題を積極的に取り上げています。同党がいわば、台風の目になっているからです。
あらかじめお断りしておきますが、著者自身は別に国民民主党の支持者ではありませんし、また、同党の(とくに)経済政策に関していえば、野党のなかでは最もマトモだと思う反面、同党の政策スタンスを全面的に支持したいとも思っていません。
しかし、国民民主党の躍進は、想像するに、「今回(の選挙で)は自民党には入れたくない」、「かといって立憲民主党に投票するのも嫌だ」、などと考えた層が、「まともな政策を掲げている野党はどこか?」と考え、ネットなどで調べた結果、最終的に同党にたどり着いた、という可能性が高いように見受けられます。
(※ただし、今回の総選挙の各選挙区における得票状況や有権者数といった公式な詳細データについては、現時点でまだ総務省のウェブサイトには掲載されていないようであるため、詳細な分析は後日に廻したいと思います。)
改めて議席状況を確認すると…?
この点、正直なことをいえば、どの政党も過半数を取れなかったという状況は、現在の日本にとっては非常に危険でもあります。内外にさまざまな課題が山積し、また、日本を取り巻く安全保障状況も厳しさを増しているからです。
ついでに申し上げれば、自民党のリーダーが「敗軍の将」である石破茂首相のままだと、指導力も発揮し辛く、国政の停滞を避ける観点からは、もっと実務に適したリーダーに交代した方が望ましいことは間違いありません。
ただ、それと同時にウェブ評論の世界では、「こうあるべきだ」、「こうなるべきだ」といった「あるべき論」や「理想論」を唱えているだけでは意味がありません。やはり、(良いか悪いかは脇に置いておいて)石破首相が辞めずにしばらく少数与党を率いるという、現実的な観測に即した議論をする必要があります。
このように考えるならば、やはり現実的に最もあり得るのは、石破首相が率いる自公連立政権の枠組みが今後も継続する、というシナリオです。そうなると、衆院選の結果(図表1)で見る限り、自公連立政権は過半数(233議席)に足りません。
図表1 第50回衆議院議員総選挙 新勢力
会派 | 当選者 | 公示前 | 増減 |
自民 | 191 | 256 | ▲65 |
立民 | 148 | 98 | +50 |
維新 | 38 | 43 | ▲5 |
公明 | 24 | 32 | ▲8 |
共産 | 8 | 10 | ▲2 |
国民 | 28 | 7 | +21 |
れ新 | 9 | 3 | +6 |
社民 | 1 | 1 | ±0 |
参政 | 3 | 1 | +2 |
保守 | 3 | 0 | +3 |
無所属 | 12 | 14 | ▲2 |
合計 | 465 | 465 | ±0 |
(【出所】各社報道をもとに作成)
パターンとしては自公+国がいちばん自然
この点、ここ数日、無所属の6人が自民党の衆院会派入りで合意した、とする報道もあったため、自民党の勢力は191議席ではなく196議席となり(1人は議長)、最大政党ではありますが、それでも公明党の24議席と合わせても220議席と、過半数に13議席足りません。
しかし、図表1をもとに、(無所属6人と議長1人の議論を無視して)「単なる数合わせの議論」をしておくと、図表2のとおり、自公両党にとっては手っ取り早く、国民民主党を取り込めば過半数を制することができるわけです。
図表2 数合わせの議論
パターン | 議席数 | 対立政党 |
①自公 | 215 | 立民148 |
②自公国 | 243 | 立民148 |
③自公維 | 253 | 立民148 |
④自公維国 | 281 | 立民148 |
⑤立共 | 156 | 自公215 |
⑥立国 | 176 | 自公215 |
⑦立維 | 186 | 自公215 |
⑧立維国 | 214 | 自公215 |
⑨立維国共 | 222 | 自公215 |
⑩立維国共れ | 231 | 自公215 |
(【出所】図表1をもとに作成)
もちろん、自民党にとっては国民民主党だけでなく、日本維新の会との連携を模索するという道も残されていますし、また、自民党にとっての最悪のパターンである⑩が実現することを阻止することに成功すれば、政権を立憲民主党中心の「野党連合」に渡すこともないといえます。
ただ、やはり現実的には、「是々非々の交渉を通じて政策の実現を目指す」などと公言している玉木雄一郎氏率いる国民民主党こそが、自民党にとっては連携を模索する最も有力な相手であることは間違いありません。
国民民主党にとってそれは理想ではない
ただし、ここに罠があるとしたら、国民民主党の側の理論です。
当たり前の話ですが、自民党にとっては国民民主党に連立政権入りしてもらうのが最も理想かもしれませんが、それが国民民主党の側にとって理想とは限らないからです。
冷静に考えるとわかりますが、国民民主党は日本共産党や公明党を抜き、自民、立民、維新に次ぐ第4勢力となるなど大躍進したとはいえ、依然、勢力でいえば28議席の少数政党に過ぎません。このような少数政党が自公連立政権に入り、どこかの大臣のポストをもらうことが、果たして同党にとってよいことでしょうか。
じつは、自民党は1993年にも政権を失っているのですが、そのときは翌・1994年に「自社さきがけ連立政権」を発足させ、政権に戻っています。
当時、連立政権では首相ポストは社会党の村山富市委員長に渡されましたが(※このため、自民党の当時の河野洋平総裁は、谷垣禎一氏と並び、自民党総裁でありながら首相になれなかった2人のうちのひとりです)、その後社会党がどうなってしまったのか。新党さきがけがどうなってしまったのか。
社会党は結局、長年のライバルだったはずの自民党とともに政権を作り、自衛隊容認など、長年の方針をあっさり転換したなどとして支持層からは非難を浴び、分裂を繰り返した挙句、現在の社民党は所属国会議員3人(衆1・参2)という泡沫政党になり果てています(さきがけは事実上完全消滅)。
あるいは、自民党はその後、1999年に公明党、小沢一郎氏が率いる自由党と連立したのですが、自由党は保守党(のちに保守新党)と分裂し、保守新党は自民党に吸収され、自由党は民主党に合流し、それぞれ消滅しています。
※逆に、四半世紀の間、自民党に吸収されずに残っている公明党という政党は、ある意味では特異といえるかもしれません。
こうした過去の歴史を振り返るに、やはり連立政権は少数政党にとって、非常に危険な選択肢です。下手に自民党に近づくとその引力に引き込まれ、バラバラになってしまうかもしれないからです。社会党しかり、さきがけしかり、自由党しかり、保守党しかり、です。
国民民主党にとって連立入りは「あり得ない」
玉木氏や榛葉賀津也・国民民主党幹事長が、自民党と連立を組んだ政党(小政党を含む)の末路を知らないはずがありません。
私たち有権者にとっては、政治の安定は大きな利益であり、国民民主党が自公連立政権に入ってくれることが私たち自身にとっても利益ではあるのですが、そのことは同時に国民民主党に票を投じた有権者にとっては、期待を裏切ることにもつながります。
よって、国民民主党の立場に立てば、連立政権入りは「あり得ない話」なのです。
そして、国民民主党が連立入りしないことが私たち国民にとって望ましくないことだとしても、それは私たち有権者が総選挙を通じてそのような決断をした以上、文句を言えません。国民民主党は自党の最適戦略を粛々と実行すれば良いだけの話です。
その国民民主党、幸いにも経済政策に関しては、野党の中では最もマシ(著者私見)なわけですから、ここはもう自民と国民民主党との政策協議が整うか(あるいは整わないか)に注目するしかありません。
国民・玉木氏を「石破政権にこっそり手を貸す狡猾さ」と批判する記事
こうした文脈で、本稿でもうひとつ取り上げておきたいのが、こんな記事です。
「手取りを増やすために石破首相を支持する」と言えばいいのに…石破政権にこっそり手を貸す国民民主の狡猾さ
―――2024/11/01 07:17付 Yahoo!ニュースより【プレジデントオンライン配信】
「石破政権にこっそり手を貸している」だの、「狡猾さ」だのといった記事タイトルに含まれる表現でもわかるかもしれませんが、この記事は国民民主党と玉木雄一郎氏に対し、非常に批判的なものです。
つまり、国民民主党が連立入りしないことで「与党に恩を売り、来夏の参院選では野党として戦うことができる」ことを「非常に狡猾な戦略だ」と述べているのです。しかも国会の首班指名選挙で「玉木」と書く方針を巡って、「暴走」とも称しています。
「あきれてものも言えない。10月29日公開の記事<中略>の中でも指摘したが、決選投票の候補者は、あくまで最初の投票で誰も過半数に達しなかった場合の、上位2人だけだ。『石破vs野田』の構図になった場合、『玉木』と書いた票は全て無効票になる」。
<中略>
「玉木氏の言動の軽さは今に始まったことではないが、まさかここまでとは」。
記事を執筆された方は、すいぶんとお怒りのようです。まるで、「野党のくせになぜ与党に協力しているんだよ」、とでも言いたいかのようです。あるいは言外に、「なぜ玉木氏は立憲民主党との連立を模索しようとしないのか」、といった不満でもあるのでしょうか?
正直、当ウェブサイトとしては、「政治記者やジャーナリストの方々が、自分自身の思想を持ってはならない」とまで申し上げるつもりはありませんが、あまり自分の政治的な思想・信条を持ち過ぎていると、出来上がった文章が客観的なものではなくなってしまいます。
この記事も同様で、タイトルと最初の1ページだけでも「狡猾」だ、「こっそり」だ、「あきれてものも言えない」だ、「玉木氏の言動の軽さ」だといった否定的なニュアンスを伴う文言をちりばめることで、国民民主党に対して否定的な印象を刷り込もうとしているフシがあります。
なるほど、ジャーナリズムが信頼を失う理由もわかります。
狡猾で何が悪い?
ただ、いみじくもこの『プレジデントオンライン』の記事でも指摘されたとおり、たしかに玉木氏は「狡猾」なのかもしれません。というよりも、ここでいう「狡猾」が悪い意味であるとは限りませんし、もっといえば、「狡猾」で何が悪いのでしょうか?
「政権入りせず、都度、是々非々の交渉を通じて自党の政策の実現を目指す」。
野党政治家として、ある意味では極めて真っ当な姿勢です。
それともあれでしょうか?
マスコミ業界の皆さんは、「野党なら与党の政策に何でも反対すべきだ」、とでも思っていらっしゃるのでしょうか?
もしそうだとしたら、根本的に知識のアップデートが足りません。
国会議員の本業とはあくまでも「法律を作ること」であり、国会とは週刊誌片手にスキャンダルを追及する場でもなければ、反ワクチン系の陰謀論を唱える場でも、お葬式のパフォーマンスをする場所でもありません。
そして、野党でありながらも選挙で自分たちが主張した公約を部分的に実現できる手段があるなら、それを全力で実現しようと動くのは当然のことであり、自民党の連立政権入りを拒絶しながらも政策協議を行うという姿勢は、野党政治家としてはむしろ良い意味で狡猾であり、非常にまっとうな態度ではないでしょうか。
余談ですが、こうした国民民主党の「野党としての新しい在り方」を模索する態度を否定するかのような新聞、テレビの記事を見るにつれ、日本を本当の意味で悪くしてきた新聞、テレビを中心としたオールドメディアの膿が、ここにきて、一気に出て来ているのかもしれない、などと思う次第です。
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なるほど、元毎日新聞記者どすか。
あるべき野党の確固たるビジョンがあるんでしょうぬ。
この元毎日新聞記者は、自分が書いたものが(ネットの時代では)永遠に残ることを自覚しているのでしょうか。
この世界的乱世になりつつある今、建前を掲げて狡猾に動く政治的指導者のいない国は生き残れない、ということでしょうか。
そうそう、僕もそう思います。
野田を首相指名したい有権者なら、そもそも立憲民主党に投票してる訳でして。
石破も野田も嫌な人たちが玉木に投票してるのに、野田を首相指名しないのはおかしいとか、どういう短絡をしたらそういう考え方になるのやら。
密室でやらないからこそ、弱者が強者に
「絡め取られない」
訳なので、むしろ弱者の王道戦略ですわな。
この毎日新聞社さんの考察の前提としては、大臣になると、そんなにフトコロが潤うの?
でなければ、政策ごとに是々非々で賛成反対を議会で投票するだけで、普通の行動でしょうに。
103万円の壁はいきなり改訂のマナイタの上に乗せられてますし、動きが早い。
玉木グッジョブ。
立憲民主党の政策でなにかマナイタに乗ったものがあったっけ?
与党でも野党でもつべこべ言わずに
「仕事しろ」
それだけですよね、有権者として見てるのは。
毎日新聞では、自民党に投票しない人は、野党第一党党首を首相にしたい人となっているのでしょう。
連投失礼。
そもそも立憲民主党やサポーターさんたちは、あたおか。
小選挙区ではそれなりに勝ってるけれども、
51:49で負けてたところが、
49:51になっただけでも雪崩を打って勝てる。
ところが比例区での得票は、増えていない。
本来なら批判票はすべて立憲民主党が受け皿になってきたのに、今回はみんな他に流れた。
これ、地味に石破自民党並みの惨敗かと思いますけどね。
浮かれてるから理解できないのかもしれませんが。
批判票の受け皿になる「第二自民党」が健全に育ってきて、悪夢のリスクなしに批判票を投じられるようになったのは、よいことですわ。
https://twitter.com/satoushio14/status/1851900732683035113
連中が口を開くたびに玉木氏の支持が増えそうです。と同時に連中の非常識さ、無能さも広まると。
玉木氏の判断は、政治家としては真っ当なもの。
狡猾ではなく、「老獪」と称したいところですね。
戦略的互恵関係。
日中外交のような基本的価値観を共有しないがそれなりに付き合う必要のある相手との関係の形態ですが、それに類似した関係性となるのだろうと推察しています。
国民民主党の提案した政策は財源確保など不透明なので、いざ実行となると課題山積みに感じるのですが、選挙前後でブレがないのは評価できます。
一方の石破内閣。自身の判断で衆議院を解散し選挙の結果自党はボロ負けしたのにも関わらず辞任しない。
穿った見方をすれば、辞任する気などはじめから更々無く、自党がボロ負けして党員数が過半数割れするリスクは折込済で、そんなことよりとにかくとにかく安倍残党を始末したかった。それだけだった。
という気がします。
石破自身だけか執行部の意向かその両方か判りませんが、そうだとしたら本当に本当になさけない。その一言です。
「ズルさ」に訴え嫉妬心に火を付けるのは世論誘導の常套手段でして・・・以上終わり。
「不公平感」と言い換えられると思いますが、近年のサルの実験で動物レベルでかなり根が深い感情的現象であることが確認されています。欲望でもある。
https://grapee.jp/188541
感情に流されて社会が動く時代はもうやめにして欲しいです。
>国民民主に投票した有権者を無視する「職務放棄」
国民民主党に投票した有権者を無視しているのはどちらか。(笑)
有権者の気持ちが読めない新聞記者。
2000年以上前に孫子に文字として残されてるんですよね。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」。そりゃ負けるわ。それにしても学ばねー現代パヨク。
自民党と公明党が玉木雄一郎を首相指名すれば、責任が国民民主党にいくのではないでしょうか。
1点気になった点は連立した際のメリットが書かれていないことです。
入閣し大臣を輩出し与党側を経験した・・・というのは今後の経験になるはずです。
無論現在がデメリットの方がが多いことは同意します。
リベラルの支持者は非常に自分本位で言論を発します。
日頃自身の支持しない正当に対して罵詈雑言を吐きながら、
いざとなったときになぜ味方にならないのか、など意味不明な事言います。
諍いは言論で解決するべし、と言っているのです、それを実行しては如何でしょうか?
国民民主の候補者全員当選しても政権はとれませんよね。
自分たちの主張した公約を実現するには(1)連立に入る(2)キャスティングボートを握りながら自分たちの公約実現を要求するの2つがあると思うけど。 (2)は与党が過半数取ってたらあり得ない。今回の選挙で与党過半数割れという僥倖、それで(2)を選んだ方が効果的と考えただけでしょう。何が「狡猾」なのか理解できないけど。