世論調査でウソをつく人が増えているのでしょうか?数量政策学者の髙橋洋一氏が21日、出演したラジオ番組で、出口調査を巡り、かつては「正しいと思われていた」ものの、最近は「わざとウソつく人がすごく多くなった」と述べたのだそうです。これについて、事実関係は良くわかりません。ただ、当ウェブサイトでここ最近指摘しているとおり、「自民惨敗/立民躍進」などのメディア予測については、もしかすると世論調査に過度の信頼を置いている可能性はないでしょうか?
目次
メディア報道への強い違和感
メディア報道などを見ていると、今回の衆院選では「自民党が単独過半数割れする」、あるいは「自公両党合わせても過半数割れする」、といった調査結果ないし観測報道が多く流れているようです。
あくまでも個人的な感覚からすれば、こうした記事自体、公選法が禁止する「人気投票」に該当するのではないか、といった疑念を覚えざるを得ませんし、どうして日本のメディアはこうやって平気で法をないがしろにするのか、という点については、毎度ながら強い違和感を抱く次第です。
ただ、先日の『それでも議席減の可能性は野党の方が高いといえる理由』などでも述べましたが、正直なところ、野党(とくに立憲民主党)が今回の選挙で大躍進するというのは、過去の選挙戦に照らし、ちょっと考え辛いというのが実情です。
小選挙区で自民党惨敗があり得るのか
そう判断する根拠の最たるものは、「小選挙区」という仕組みにあります。
小選挙区では当選できるのはたった1人であり、かつ、(一般論ですが)現職に大変有利なのです。現職は知名度もありますし、一定の支持層も持っているからです。
今回の選挙では小選挙区の区割り変更(いわゆる10増10減)が行われたため、その影響で野党が躍進する可能性は否定できませんが、区割り変更の影響を受けるのは289区中の最大20人であり、また、区割りが変わるだけでそこに住んでいる人たちは変わりませんので、支持層も大きく動くとは考え辛いところです。
実際のところ、自民党が前回の小選挙区で勝利した187選挙区のうち、「結構ギリギリで当選した」という候補者はさほど多くなく、仮に「2位の候補者との得票差が2万票以下だった」当選者を「ボーダー当選者」と定義すると、自民党の「ボーダー当選者」は58人に過ぎませんでした(追加公認を除く)。
もちろん、この「58人」を多いとみるか、少ないとみるかは微妙で、とりわけこの58人のうち、得票差が1万票以下だった34人については、前回同様の野党共闘が行われ、自民党に逆風が吹く中でもう1度立候補すれば、落選していた可能性も十分に考えられるところです。
メディア報道は野党共闘の消滅を見落としていないか?
ところが、今回、多くのメディアが(意図しているかどうかは別として)見落としている論点がひとつあります。
それが、野党共闘の消滅です。
自民党が苦戦に追い込まれた58選挙区に関していえば、うち少なくとも53の選挙区で野党共闘が実現していたためか、日本共産党が候補を立てず、主要野党で候補を統一していたのです。
ところが、その日本共産党は今回、この53選挙区のうち30選挙区で候補を立てており、この時点で立憲民主党などの野党系候補者は票が割れて苦戦することが予想されます。
日本共産党の固定票は年々減っているものの、前回・2021年の時点では1選挙区当たりだいたい2.5万票でしたので、上記30区では、前回、立憲民主党や社民党などの野党系候補に向かっていた票のうち2万票前後が日本共産党に向かうと考えられます。
これに加えて、野党自身も前回、野党共闘の恩恵を大きく受けていたことを忘れてはなりません。というのも、最大野党・立憲民主党は前回衆院選で、小選挙区では57議席を獲得していたのですが、うち54選挙区で日本共産党が候補を立てていなかったからです。
このことは、立憲民主党が57もの議席を獲得するのを助けた要因のひとつが日本共産党との選挙協力だった、という可能性を濃厚に示唆していますが、それだけではありません。
先ほど定義した「ボーダー当選者」、つまり2位の候補者との得票差が2万票以下だった当選者の数は、じつは立憲民主党にも41人いて、この41選挙区中の39選挙区で、日本共産党は候補者を立てていなかったのです。
ところが今回、この41選挙区のなかの26選挙区で、日本共産党が候補者を立てており、有権者の投票行動が前回とほぼ変わらなかったとすれば、立憲民主党は単純計算で26選挙区を落とす可能性が高いことになります。
風は吹いているのか?
また、上記までの議論と無関係に、仮に立憲民主党に「風」が吹いたならば、立憲民主党が多くの議席を確保するという可能性は十分にあります。自民党の「裏金問題」(?)とやらに怒りを覚える有権者が、小選挙区でも、たとえば立憲民主党の候補者に票を投じるかもしれない、という可能性です。
実際、2009年の総選挙では、小選挙区全体で当時の民主党が獲得した票数は自民党のそれと比べ約1.2倍に過ぎませんでしたが、逆転する選挙区が相次ぎ、結果的に自民党は小選挙区で64議席しか獲得できず、これに対し民主党は221議席と自民党の3倍以上の議席を獲得したのです。
ただ、これに関しては、2009年のときには選挙前の各メディアによる世論調査で、少なくとも民主党に対する支持率が自民党に対するそれを上回っていましたが、現在はそうした状況がありません。
逆に、選挙が始まってから突然、各メディアが「立憲民主党は数十議席上積みする」だの、「自民党は単独過半数割れする」だのと騒ぎ出したのは、極めて不自然です。
これに関しては先日の『それでも議席減の可能性は野党の方が高いといえる理由』でも紹介した、こんな記事が参考になるかもしれません。
自民減で単独過半数の攻防、立民は議席上積み・維新も躍進の公算大…読売衆院選序盤情勢
―――2021/10/21 10:14付 読売新聞オンラインより
じつは、メディアが「自民党過半数割れ」などとはやし立てるのは毎度のことであり、前回選挙では多くのメディアが予測を大きく外し、立憲民主党は「議席上積み」どころか100議席の大台を割り込んだのです。読売記事で当たっていたのは「維新の大幅躍進」「公明は現状維持」くらいなものでしょう。
高橋洋一氏「メディアは信頼されていない:人々は調査でウソをつく」
最近は、この手のメディア報道、多すぎませんか?
前述したとおり、そもそもメディアが世論調査をもとに議席予想を記事にすること自体、公選法に抵触する可能性が濃厚なのですが、この点を差し置くとしても、メディアの独善的な(しかも外れる)予測が相次ぐのは、どうにも不思議です。
これに関し、『日刊ゲンダイDIGITAL』が23日、こんな記事を配信しています。
高橋洋一氏は「たくさんいる」と指摘…選挙出口調査で「ウソをついた」と主張する人の心理
―――2024/10/23 09:06付 Yahoo!ニュースより【日刊ゲンダイDIGITALより】
同記事によると、嘉悦大学教授で数量政策学者の髙橋洋一氏が21日、ラジオ番組に出演し、出口調査については「わざとウソをつく人がすごく多くなった」と述べたのだそうです。
これは、いったいどういうことでしょうか。
髙橋氏は出口調査に関し「以前は正しいと思われていた」としつつも、最近だと「要はマスコミが信用されていない」ため、メディアの調査に対してわざとウソをつく人が増えた、と指摘したのだそうです。
日刊ゲンダイは「この発言はあくまでも髙橋氏の自説」と断りを打ったうえで、こう指摘します
「X(旧ツイッター)を見ると、確かに、『出口調査でうそをついた』というツイートが少なからずある」。
こうした投稿について日刊ゲンダイは、2017年10月22日執行の第48回衆院選あたりから、ツイッター(現X)などで「投票所の出口調査でウソを答えた」などとする投稿が確認できる、などとしており、そのうえでITジャーナリストの井上トシユキ氏のこんな発言も取り上げます。
「あくまでも自分の体感だが、特定のクラスターの中では3人に1人ぐらいが『ウソをついてきた』という話で盛り上がっていたことがある」。
そのうえで日刊ゲンダイは、こうした虚偽の回答が「どのような信念で行っているかまではさすがに調べようもない」としつつも、(なぜか)こう結論付けます。
「『出口調査でウソをついてきた』と報告している者は相当なひねくれものである可能性は高そうだ」。
どうしてそういう結論になるのかについてはよくわかりませんが、ただ、「出口調査でウソをつく人」、ひいては「世論調査でウソをつく人」は、それなりに増えて来ているという可能性はないのでしょうか。
いつもの「3つのお願い」
いずれにせよ、著者自身、選挙情勢分析は最新世論調査の手法ではなく、これまでの累積データをベースに判断するという手法を使っているのですが、逆にメディアが世論調査に過度に依存し、こうした基礎データのトレンド比較という手法を使わない方が疑問でもあります。
いずれにせよ、「自民党が過半数割れし、立憲民主党が大幅に議席を積み増す」とのメディアの予測が正しいのかどうかについては、あと数日で判明します。
当ウェブサイトとしては特定政党の躍進を支援したり、逆に特定政党の惨敗を祈願したりするつもりはありませんが(著者自身、そうした活動はX上で行っています)、その反面、次の「いつもの3点」のお願いをしておきたいと思います。
- 納得できない報道をする新聞は、解約しましょう。
- 納得できない報道をするテレビは、消しましょう。
- 選挙では必ず投票しましょう。
ご賛同いただける方は、是非とも共有・拡散にご協力ください。
View Comments (39)
日刊ゲンダイが高橋洋一氏の発言を取り上げているのは、珍しいですね。
高橋氏は、日刊ゲンダイのライバル紙である夕刊フジにてコラム「日本の解き方」を連載しているので、こちらに同内容を寄稿されるのではないかと思いました。
新聞 TV 気に入らんのう、せや
世論調査でうそついてやれ、これでおあいこや
政府としては「投票の秘密に関しては、公職選挙法第五十二条において、何人も投票した被選挙人の氏名等を陳述する義務はないとされているが、選挙人が任意に自らの投票内容について言及することは制限されていない」という見解らしい。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/b143002.htm
「答え合わせ」をしてみないとわからないけど、結果によっては、調査に答える人と答えない人の投票行動が同じでないということが、また裏付けられるかもしれない。
>「『出口調査でウソをついてきた』と報告している者は相当なひねくれものである可能性は高そうだ」。
当落の情勢の報道がされることで投票行動を変える人がいるかもしれません♪
その結果、選挙結果が変わっちゃうとしたら、それは報道を利用した選挙への介入を許すことに繋がるのだろうって思うのです♪
そんな不当な介入が行われないようにするためには、出口調査やその結果の報道を制限できない以上、出口調査自体の信頼性を落とすしかないと思うのです♪
だから、出口調査では、意図的に自身の投票行動と違うこと言うようにしているのです♪
前回の衆院選だったと思いましたが出口調査で朝日新聞の人に聞かれたので
喜んでくれるかと思って共産党と答えたことはあります。
共産党には入れてなかったのですが。
メディアのウソの本題とチトズレますが、総選挙関連で。
twitter分析で有名な鳥海氏の記事が公開されていました。
「#国民民主党に騙されるな」というハッシュタグの拡散があったそうで(知らなかった)、どういう人達が主に拡散したのかについての分析です。
なんか、10/21から急に現れたそうです。共同通信の世論調査で彼の党の支持率が急上昇していた影響かな?(笑)
結論はまあまあ面白かったです。
国民民主党に騙されたくないのは誰だったのか
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c52ced8f4544aef7106d821dc21046ef27c6e454
・拡散に関わったアカウント数は10,082
・上位5アカウントからの合計拡散数は83.5%に上る(5アカウントのインフルエンサーによって拡散のほとんどが説明できる)
Twitter Japan を浄化できた前例もあるので、イーロン・マスクにお願いしてみると何か違ってくるかも知れません。
このハッシュタグ拡散騒動面白いですよね。
何がって、拡散した人がどの党をフォローしているか多い順に
れいわ
共産
立憲
社民
左翼w
まあ、今までマスコミに散々と偏向報道や印象操作などで、有権者が騙され続けてきたのですから、有権者が出口調査で嘘をついても罪にはならないと思います。
向こうの騙しの方がもっと酷いレベルなのですから、これくらいは許されるべきでしょう。
何なら出口調査の時に特定野党以外の野党に入れたと答え、相手の顔が苦虫を噛み潰したような顔をしていたら「おたく、○○党に入れたと答えて欲しかったの?」と言い、続けて「駄目だよ、○○党は国会でいちゃもんばかり付けて、碌に仕事をしていないじゃないか。」と言ってトドメを刺しましょう。
※○○の部分には、特定野党の名前が入ります。
私的にはすごく不思議でもあります
その人が投票後とはいえまだ選挙期間中に投票先を取材者に言ったりそれをマスコミが報じる必要性なんかあるのでしょうか?
我が家が特殊なのかも知れませんが、家族間でも思想の自由は護られており投票先を家族にすら言う事がない両親の元で育ちました。
父が最後の頃の学徒動員組で遅れて徴兵尚且つ外地にすら行かない軍の研究所配属だったので、戦後左翼にも右翼にも叩かれてきた背景もあるからかも知れません。
思想信条は自分の心だけが決めるもの…と教わって育ちました。
家族にすら秘するものだったのでペラペラ話している映像や選挙期間中に「◯◯党の△△さんに投票してくれよ」だの「比例は◎◎に入れて」とか軽く言われると本当にびっくりします。
実績みたり普段の原動や政策を見て投票先決めます。
投票締め切り後ならまだともかく、選挙期間中にどこが優勢だの知る必要が本当にあるのかな?
選挙活動中に街宣中になにを発言しているかとかの方がはるかに大事だとは思うのですが…まぁ政党の左右問わず「お願いいたします」と他者への悪態とキャッチフレーズ連呼しかしてないから仕方がないのかな?
日本語だけじゃないですけど政治家が幼稚でどうしようもないな…と嘆く昨今。
「日本」って書くところを「日本語」って書いちゃう子どもの能力の私の戯れ言でした
>>有権者はメディア調査に対しウソをつく・・
?? そうですかねえ?
まあ、町なかでも同じような言い訳
したガがる人は居るものです。
周囲「おまえ、いつも嘘つきだなあ」
M氏「いやいや。オレはAとBが言ってたから
そういっただけ。嘘つきなのはAとBだ」
A 「そんなこと言ってない」
B 「私も言ってない」
とまあこんな具合です(^^)
さあて、嘘つきさんはAさん?Bさん M氏の誰でしょう?
当方の Youtube 画面に自民党党首や立憲民主党党首の大写し CM が割り込んで来ました。
2度目以降は見たくないので、スキップ措置をしたうえで、広告表示停止措置をしました。これでそれぞれ2度分は広告費用がチャリーンしたかと思います。
いかにも広告代理店と編集スタジオを使って作成したと思われる両雄党 CM とは明確な違いを見せていたのが、大阪維新でした。クルマの車内で、スマホか GoPro に向かって語る党首。動画スタイルをよく分かっている。閉鎖空間の内側で1メートルの距離から話しかけられる「対人アピール効果」を彼は十分に知っているのです。2度目以降はスキップしています。
個人的に首の後ろに紙やすりを当てられた気分になったのが Japan Communist Party でした。あれ、あかんわ、オレ。
そして Youtube なり各種広告配信会社は、新聞 TV などテクノロジーの分からない周回遅れ産業には決してできないようなやりかたで、ちゃっかりデータを効率的に収集し続けるのでした。マル