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ふるさと融資から垣間見える新聞業界と官僚の癒着構造

株式会社琉球新報社に対する「ふるさと融資」制度に基づく無利子融資を巡って、沖縄タイムスが「ファクトチェック」と称した記事を配信したようです。ただ、「ファクトチェック」であれば(沖縄タイムス様には大変失礼ですが)当ウェブサイトの方が遥かに正確であろうと思われるのですが、それ以上に興味深いのは、同記事で株式会社沖縄タイムス社を含め、新聞社やその関連会社が過去に19回、「ふるさと融資」の援助を受けたという事実です。

ふるさと融資による無利子融資という支援を利用する新聞社

新聞社への公的支援…例の印刷機器はすでに稼働済み?』を含め、当ウェブサイトで先日より何度か取り上げている話題のひとつが、「ふるさと融資」の制度を利用した新聞社への無利子での長期貸付と、それに関連する問題点です。

株式会社琉球新報社に対する「ふるさと融資」の問題点を整理すると、少なくとも3つあります。それは①過大投資の問題、②金利負担の問題、そして③ジャーナリストの独立性の問題です。ただ、本件について調べていくと、ほかにもいくつかの問題があることに気付きます。沖縄自民党の小渡良太郎県議によると、同社はすでに印刷機を購入しているのだとか。また、本件とは別に、やはり新聞業界には未来がないと思わざるを得ません。ネットの集合知がインテリジェンスという面で新聞を圧倒し始めているからです。琉球新報印刷機更新事業の3つ...
新聞社への公的支援…例の印刷機器はすでに稼働済み? - 新宿会計士の政治経済評論

すでに説明している通り、この「ふるさと融資」という制度は地方自治体(都道府県・市町村)からの民間企業等に対する無利子融資の仕組みで、実務的には一般財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)がその自治体からの依頼に基づいて一連の事務を行っています。

そして、当ウェブサイトにおいて取り上げている株式会社琉球新報社に対する融資も、この「ふるさと融資」に基づく融資の対象となり得るものです。同社も「法人格を有する事業者」だからです。また、この融資を受ける条件は、(県が実施するものに関しては)5人以上の新規雇用が生まれることが必要とされています。

過大投資の問題とジャーナリストの独立性の問題

ただ、この問題点は、少なくとも大きく3つあると考えられます。

ひとつめは、同社の経営体力に対し、印刷機更新の事業総額(26.8億円)、貸出額(8.5億円)ともに、同社の経営体力に照らして過大であるという可能性です。

株式会社琉球新報社は資本金1億円、2024年3月期の売上高62億円少々、経常利益330万円、2024年6月1日時点の従業員数255人、2024年9月時点の部数(公称)は125,685部で、1部あたりの税込の定期購読料は月額3,075円です。

(※これらのデータのうち購読料以外はそれぞれ、株式会社琉球新報社『企業情報』、沖縄タイムス・2024年5月31日付『琉球新報社は減収減益決算 専務取締役に松元氏』、株式会社株式会社琉球新報開発『琉球新報部数表・エリアマップ』などから取得しています。)

正直、この売上高の規模、この従業員数、この利益水準に照らし、26.8億円の投資(うち県からの借入8.5億円)を行う体力があるのか―――。

こうした問題もさることながら、ふたつめの問題があるとしたら、それはジャーナリズムの独立性の問題でしょう。

後述する通り、この「ふるさと融資」は、本来ならば同社が負担しなければならない金利負担の多く(条件にもよりますが、試算次第では8割以上)を国民の税金から補助するという仕組みであり、見方によっては、ジャーナリストの皆さまが批判しているはずの「国家権力」からの助成金でもあります。

新聞業界はふだん、「新聞は権力の監視役だ」、だの、「新聞記者は国民の代表者だ」、だのとうそぶいているわりに、消費税の軽減税率制度などの優遇措置を受けているではないか、といったツッコミどころもさることながら、そのうえ「ふるさと融資」で補助を受けることが何を意味するかについてはよく考えておく必要があります。

新聞が(とくに自民党の)政治家を普段から舌鋒鋭く批判しているわりに、官僚機構(とくに財務省と総務省)については滅多に批判しない理由も、もしかしたらこういうあたりに原因があるのかもしれません。

金利負担について…改めて詳しく説明しましょう

ただ、本稿で今一度、詳しく繰り返しておきたいのが、ひとつめの問題にこれに関連する問題点―――「金利負担」―――です。この問題については少しややこしいので、ちょっと長くなって申し訳ないのですが、もう一度、ちょっと丁寧に説明させていただきます。

通常、企業が金融機関からおカネを借りるときは、市場金利に何らかの上乗せ(いわゆる信用スプレッド)を考慮した金利を支払う必要があります(金利の決まり方はもう少し複雑なのですが、このあたりの事情は割愛します)。

この「信用スプレッド」は、金融機関から見たら、一種の保証料のようなものです。

つまり、その企業におカネを貸したときに、金利が支払われなかったり、元本が返って来なかったりするリスク(いわゆる貸倒リスク)がありますので、そのリスクを織り込まなければなりません。結果的に、倒産リスクの低い優良企業などと比べると高い金利でしかおカネを貸せないのです。

株式会社琉球新報社に対し、金融機関がどのような内部格付(IR)を付与しているかはわかりませんが、常識的に「信用力がピカピカの会社」とは言い難く、したがって、もし同社が金融機関からおカネを借りたら、下手をすると年数パーセントの金利が必要です。

ところが、「ふるさと融資」の仕組みだと、この金利を払う必要がありません。

また、金融機関による信用保証を付すことが必要ですが、「ふるさと財団」の『ふるさと融資とは【制度融資、無利子・無利息融資】』などの資料によれば、自治体がその保証料の75%相当分まで補助することができるとされ、その場合はその保証料は地方交付税交付金で賄われるそうです。

さらに、自治体(今回の例でいえば沖縄県)が債務者(今回の例でいえば株式会社琉球新報社)におカネを貸す場合、その原資は県債で賄われるのですが、沖縄県が支払う県債金利についても同様に、地方交付税から75%相当額が支払われるのです。

その本質は本来の利息負担を国民に押し付けるもの

これについては、どう考えれば良いのか。

理論的に言えば、これは本来ならば株式会社琉球新報社が支払うべき資金調達コストの75%相当額を国民負担に押し付ける仕組みです。

たとえば、ある銀行が株式会社琉球新報社に無担保で8.5億円を融資するときの条件が年金利4%だったとしましょう。また、8.5億円の債務保証をするときの保証料が年3%、県債の金利が1%だったとしましょう。

このとき、借入金の場合の年間金利負担は3400万円、保証の場合の年間保証料負担は2550万円です。

しかし、この8.5億円部分は、借入ならば必要な年間3400万円の負担が生じず、その代わり保証料2550万円を負担すれば済み、しかもこの保証料のうち最大75%相当額(≒約1900万円)を沖縄県が補助してくれるのです。

結果的に株式会社琉球新報社の自己負担分は年間でたった約640万円(!)に過ぎず、結果的に金利負担を3400万円から2割以下に抑えることができてしまうのです(図表1)。

図表1 株式会社琉球新報社の自己負担分試算
ケース 年負担 備考
銀行から直接借り入れた場合(①) 34,000,000円 8.5億円×4%
ふるさと融資から借り入れた場合
信用保証料(②) 25,500,000円 8.5億円×3%
沖縄県からの補助金(③) 19,125,000円 ②×75%
実質的な負担額(④) 6,375,000円 ②-③
①と④の割合 18.75% ④÷①

(【試算の前提】銀行の融資条件を年利4%、銀行の保証料を年3%とし、沖縄県が保証料の75%を補助すると仮定)

一方、沖縄県としては、株式会社琉球新報社におカネを貸すために8.5億円を県債で借り入れなければならず、年1%の金利(850万円)と保証料の75%(約1900万円)、年間で合計約2750万円を負担する必要があるのですが、ここにもカラクリがあります。

これらについては「ふるさと財団」を通すことで、それぞれの75%相当額、つまり合計約2000万円を、地方交付税措置、端的にいえば「私たち国民の血税」で賄うことになるのです(図表2)。

図表2 沖縄県の負担と国民の負担
区分 年負担 備考
株式会社琉球新報社への補助金(上記③) 19,125,000円 8.5億円×3%×75%
沖縄県の県債利子(⑤) 8,500,000円 8.5億円×1%
③と⑤の小計(⑥) 27,625,000円 ③+⑤
地方交付税措置(⑦) 20,718,750円 (③+⑤)×75%
沖縄県の最終的な負担(⑧) 6,906,250円 ⑥-⑦
国民負担 20,718,750円

(【試算の前提】沖縄県債についてはパー発行・表面利回り=ローンチ利回り=1%と仮定し、また、沖縄県が保証料の75%を補助すると仮定)

このあたり、試算によって国民負担額の割合は異なりますが、上記利回り・保証料の前提どおりであれば、金利負担3400万円のうち、株琉球新報社はたった20%未満しか負担せず、20%を沖縄県が、60%あまりを国民が負担することになるのです。

  • 新聞社の負担…*6,375,000円(18.7500%)
  • 沖縄県の負担…*6,906,250円(20.3125%)
  • 交付税の負担…20,718,750円(60.9375%)

沖縄タイムス「新聞社や関連会社への融資は過去に19回」

さて、本件にもうひとつ、新たな情報が出てきましたので、付け加えておきます。

「琉球新報社が税金で輪転機を買ってもらう」は不正確 沖縄県議会で県議が批判【ファクトチェック】

―――2024/10/11 07:03付 Yahoo!ニュースより【沖縄タイムス配信】

沖縄タイムスは記事の中で、沖縄自民党の島袋大県議による「『税金で輪転機を買ってもらう』は不正確」、「新聞社でこれ(融資制度)を使うところはない」などとする発言を「ファクトチェックすると誤りだった」と指摘する、というものです。

ただ、この融資制度については(沖縄タイムス様には大変失礼ですが)当ウェブサイトの解説の方が遥かに正確だと思いますが、もし気になるという方は、念のため、リンク先記事を熟読してみてください(なお、「同社が税金で印刷設備を買おうとしている」と述べたのは、少なくとも当ウェブサイトではないと思います)。

それよりも本稿で注目しておきたいのは、次のような趣旨の記述です。

ふるさと財団のデータベースによると、新聞社やその関連会社への融資実績は19件あり、株式会社沖縄タイムス社も含まれる

…。

これは、なかなか良い示唆です。

新聞社が折に触れ、自分たちを「権力の監視役」などと自称するわりに、「無利子融資」(という名の実質的な補助金)が、株式会社沖縄タイムス社を含め、新聞業界には過去に19回も注入されたことがあると明示したからです。

「ファクトチェック」をしたつもりが、藪蛇になっていないでしょうか?

新聞業界と官僚機構は癒着しているのか?

いずれにせよ、くどいようですが、新聞社が無利子で融資を受けるということ自体、法的に後ろめたいところはありませんが、そもそもこのような怪しい制度を(おそらくは)総務省の事実上の天下り法人が担っているという点も奇妙ですし、8.5億円も融資して5人しか新規雇用が生まれないと点にも違和感があります。

さらにいえば、新聞社が(とりわけ自民党の)政治家のことを「裏金議員」だ、「統一教会」だと批判するわりには、財務官僚や総務官僚などに対し、「天下り」だ、「利権」だと批判しないのも、新聞業界自体が利権の恩恵を受けているからではないか、といった疑問を抱かせるものでもあります。

要するに、新聞業界と官僚機構の癒着、という問題点です。

そういえば、いわゆる「Fラン大学」と呼ばれる大学に、官僚のみならず、新聞業界からも多くの記者らが教授などとして天下り、それら「Fラン大学」を含めた私学に教育経費の半額が税金から補助される、といった仕組みも、広い意味では新聞と官僚の癒着の構図といえるのかもしれません。

このあたり、新聞業界から納得のいく説明があるのかどうか―――。

いちおう、注目したいと思います(どうせダンマリだと思いますが)。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 「リクルートの未公開株」
    が、
    法律的にアウトなのかセーフなのか。
    道義的にアウトなのかセーフなのか。

    みたいな?

    二枚舌…にはならないんだろうなあ。
    大手メディアは報道すらしないだろうから。

  • 新聞記者がたくさんの意見の中から都合がよい意見をチェリーピッキングし
    それを論破することでファクトチェックした!というのは詭弁が過ぎると考えます。
    多くの読者が知りたい内容についてはだんまり、そして勝利宣言している有り様です。

    いつから新聞記者はこうもレベルが低い職業になったのでしょうか?
    よい新聞記者は読者が知りたいことを調べ、確固たる論拠と共に提示することです。
    読者も自分達に持っていない情報を持っている新聞記者を尊敬することでしょう。

    残念ながら現在は自身の主義主張に都合が良いものだけを持ってくるし
    まともな論拠も持ち合わせていない記者が、新聞記者として闊歩しています。

    日本の不幸は格もレベルが低いマスコミが居座っていることです。

    マスコミはまともな存在だ!というのであればこの記事で提示されている内容に解答することです、でも出来ないでしょう?
    警備員の事故の件ももみ消すのですから。

    • これって、島袋県議に対する典型的な藁人形(ストローマン)論法ですね。
      ストローマン論法:相手の意見を正しく引用せず、捻じ曲げて引用し、それに反論するという論法
      https://globis.jp/article/1818/

      島袋氏は独立性についても疑問を呈しています。融資制度について掘り下げて検討せず、融資実績だけで規制事実化しようとするのは、ファクトチェックでもなんでもありません。

    • きっと元から高尚なものでもなかったんでしょう、私が産まれる前の新聞の記事の調子は知りませんが…。でもマスコミを憎んでた人達はそこかしこにいて、インターネットがそれをあまねく人に可視化・共有して今に至るのです。
      職業に貴賤はないと信じたいですが、賤業ぶりをまざまざと見せ続けているので。

      まあマスコミ連中は特に痛み感じてないので横柄ぶりを改める必要性を感ないでしょう。
      広告費とかの財源が着々と失われている昨今、この先はどうか知りませんけど、改められればそれもよし、駄目でも誰にも同情されずに滅び去るのみ。

    • >いつから新聞記者はこうもレベルが低い職業になったのでしょうか?

      ライバル社と結託して嘘報道で鈴木商店を攻撃したりとか、戦前から「ブン屋」呼びされていたようですしもとより大したレベルではないのではないでしょうか?

      • 政治家がいなくなり 政治屋が横行し、学者がいなくなり御用学者ばかりとなり、
        ジャーナリストがいなくなり、ブン屋、ゴロ新聞ばかりとなってしまった。
        小学生は礼儀正しいのに その後どんどん悪くなっていくのは 親が悪いのか 教育が悪いのか 社会が悪いのか。お金は大事だがお金よりも大事なものあると思うが。

  • 新聞業界が19件も制度を利用済みとは、新たな事実をありがとうございます。(笑)
    「ズブズブ」やないですか。w

    「既存の制度だから問題ない」「返すんだから問題ない」「他者も使ってるから問題ない」という認識で思考停止ですか。周回遅れというか・・・
    「権力のチェック機関」がチェック対象から便宜供与を受ける問題、貸倒れリスクがゼロではなく金利負担含めコストの国民負担の問題、知られていない制度の怪しさの問題。
    自らの業界を擁護するのではなく、身を律する姿勢を表明してこそ読者の信頼を得られるというもんでしょうけどね。

    >本紙がNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに沿ってファクトチェックした。(編集委員・阿部岳)

    阿部岳氏ですか。
    コミュニティーノートでファクトチェックされまくりの有名記者ですがな。(笑)
    https://x.com/ABETakashiOki