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現在のロシアは典型的な戦時経済…遂に「学徒動員」も

今年3月、米メディア『CNN』は「ロシアでネパール人傭兵が1.5万人いる」と報じました。また、日経電子版は8日、ロシアでは鉄道建設などで14歳も勤労動員されるなど、軍民で人材争奪が始まっていると報じています。典型的な戦時経済に見えます。そういえば、穴を掘って埋めるだけでも(目先の)GDPは増えます。現在のロシアの経済成長は、果たして「健全な成長軌道」に乗っているものといえるのでしょうか。

経済成長続くロシア

ロシアは現在、いかなる状況なのか。

2022年2月、「特殊軍事作戦」などと称し、ウクライナに対する違法な軍事侵攻を開始したロシアに対し、西側を中心とする諸国は厳しい経済・金融制裁を課しています。

この点、「西側諸国がロシアに厳しい制裁を科している」、「ロシア経済は苦境に陥っているに違いない」、といった印象を持つ人も多いかもしれませんが、しかし、現時点においてもロシア経済が破綻したとする話題は目にしませんし、それどころか、ロシアは経済成長を続けていることがわかります。

国際通貨基金(IMF)のデータによれば、実質GDP成長率は2022年こそ▲1.2%とマイナス成長に陥りましたが、2023年は3.6%、2024年(見通し)は3.2%で、日本(2023年1.9%、2024年見通し0.9%)と比べても非常に高い水準です。

また、「旅行系YouTuber」と呼ばれるクリエイターらが制作した、「戦時下のロシアに行ってみた」などとする動画を見ても、少なくとも2024年夏時点において、(とりわけ大都市部に関しては)ロシア経済が苦境に陥っているフシはないといいます。

街の治安は良好で、物価が跳ね上がっているふうでもなく、スーパーにも商品が溢れている…。

もちろん、マクド社や丸亀社、スタバ社などは撤退してしまいましたが、それらの跡地には地元資本によるハンバーガーもどき、うどんもどき、カフェもどきのチェーン店が居抜きで営業を続けているなど、(味はともかくとして)文化的にも完全に西側諸国との縁が切れたというわけでもありません。

いったいなぜなのか。

「ロシア制裁には『穴』がある」説の限界

これには、様々な理由が考えられますが、真っ先に思いつくのは、ロシア制裁の穴でしょう。

というのも、何らかの形で対ロシア経済制裁に参加しているのは50ヵ国前後と、決して多くないのです。世界には「国」が(台湾やパレスチナなども含めれば)実質的に200ヵ国ほどあるとみられることを思い出しておくと、対ロシア制裁に参加している国の数はその4分の1ほどに過ぎない計算です。

しかも、中国、インドといった経済大国が(完全に今まで通りとはいかないまでも)ロシアとの交易を続けていますし、中東やアフリカ、南米などにも、ロシア制裁に同調しない国はたくさんありますし、なによりロシアにはベラルーシ、シリア、北朝鮮といった「心の友」もいたりします。

ただ、このように考えていくと、別の疑問が浮かびます。

先日の『ロシア「非友好国」は名目GDPで世界の約6割占める』でも指摘したとおり、対ロシア制裁に参加している国は4分の1ほどに過ぎませんが、この4分の1の国、ドル建て名目GDPで見ると、世界経済の約6割を占めているのです。

また、これら「4分の1」は金融の世界でも圧倒的な力を誇っており、国際決済銀行(BIS)の『国際与信統計』で見ても、対外与信全体に占めるシェアはざっと99%に達します(とはいえ、『国際与信統計』には中国のデータが入っていないという問題点もありますが…)。

さらに、SWIFTの2024年8月時点の最新統計で見ても、国際的な送金において米ドルが50%近くのシェアを占めており、しかも非ユーロ圏に限定すればそのシェアは60%を越えます。

それに、西側諸国は経済制裁の穴を塞ぐ努力を続けています。

日本政府が昨年夏にロシア向け中古車輸出を規制したこと(『日本のロシア向け中古車輸出が前月比で3分の1に激減』等参照)もそうですし、今年6月のG7会合でロシアに対する「二次制裁」が強化された(『ウクライナ支援…G7がロシアに対する二次的制裁強化』等参照)のもそうです。

西側諸国の経済制裁はそれだけパワフルであり、ロシアの経済社会の隅々にまで、確実に打撃が生じていることは間違いないのです。

残り4分の3もロシアを積極的に支援しているとは限らない

これに加えてもうひとつ重要な視点は、「ロシア制裁に参加していない4分の3」も、すべてがロシアを積極的に支援しているわけではない、という点でしょう。

たとえばインドはロシアに対する明示的な経済制裁を行っていないというだけの話であり、そのインドはウクライナに対して支援をしているわけではないにせよ「敵対している」というわけではなく、インドのナレンドラ・モディ首相自身も今年8月にキーウを訪れウォロディミル・ゼレンシキー宇大統領と会談しています。

インド首相がウクライナ訪問、平和実現を支援する「用意ある」とゼレンスキー氏に伝える

―――2024年8月24日付 BBC NEWS JAPANより

また、こうした「どっちつかず」の態度を取っているのは中国も同じです。

たとえば中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席はゼレンシキー大統領に対して5月、電話会談で「ロシアにいかなる兵器も売却しない」と約束したとの情報もあります(※ただし、これはゼレンシキー氏の自己申告ベースです)。

中国の習近平国家主席「ロシアに兵器売却せず」 ゼレンスキー氏と電話会談で約束

―――2024/06/14 07:20付 産経ニュースより

これに加えて最近だと、中国の銀行のなかには米国の「二次的制裁」を回避するために対露取引を中止する事例も相次いでいます(『米国がロシア「二次的制裁」で中国の銀行を締め上げか』等参照)。

ロシア側が常々、「BRICS諸国の脱ドル化は急速に進んでいる」、「BRICS諸国同士の貿易は9割が自国通貨で行われている」などと豪語しているわりには、その中国はロシアに対し、自国通貨・人民元を積極的に使用させているわけではないのです。

穴を掘って埋めるだけでもGDPは増える

このように考えていくと、ロシア経済が成長している(ように見える)理由を、「ロシアに対する経済制裁が機能していないから」だと決めつけて良いのかは疑問でしょう。

現実問題として、ロシアの経済成長の理由は、なにか別のところにあると考えるのが自然な発想です。

そして、ここで思い出していただきたいのが、経済学の鉄則です。

それは、「GDPは税金を使って穴を掘って埋めるだけでも増える」という事実です。

もちろん、J・M・ケインズが本気でそう主張したわけではありませんが、それでも「アスファルトの道路をほじくり返して水道管を設置して埋め戻す」などの事業は、公共事業としては大変に効率が良いものでもあります(著者私見)。

これを現在のロシアに当てはめたら、大量の砲弾を作ってそれらを戦場にせっせと送り、消費していること自体、「穴を掘って埋めている」ようなものではないでしょうか。

その砲弾を作るための工場がフル稼働すれば、その労働力に少なくない報酬が支払われ、それにより人々がさらに消費活動にいそしむであろうことが想像できるからです。

また、それらの砲弾も、ロシアを勝利に導くものであれば、公共投資としては意味のあるものだといえる可能性もあります(というか、ウラジミル・プーチンは少なくともそう考えているのでしょう。もっとも、fウクライナ戦争でロシアが何を目指しているのかについてはいまひとつよくわかりませんが…)。

労働力逼迫のしわ寄せは…?

ただし、問題は、それらの砲弾がロシアに対し、確実に素晴らしい未来をもたらしてくれる保証はどこにもない、という点です。

ケインズの「穴を掘って埋める」式のGDP拡大法は、「数字としてのGDP」を短期的に成長させることには間違いなく寄与しますが、そのときに使われた莫大なおカネ(多くの場合は税金)は、中・長期的に見たら負債として残ります。穴を掘って埋めただけでは、社会に公共財は何も残らないからです。

現実の公共事業では、道路をほじくりかえしても、たいていの場合はそこに水道管を埋めたり、ガス管を埋めたりしますし、アスファルトを舗装することで道路としての機能を維持するなどの目的もあるため、それらが社会全体の生産性を向上させるという機能があります。

しかし、砲弾を作って消費するだけだと、ロシアが戦争に勝てばまだ良いのですが、負けた場合はそれこそ(時代が時代なら)巨額の賠償義務を負うかもしれませんし、最悪の場合、自国の領土を取られ、国家が消滅することだってあり得ます。

侵略戦争というのは、公共事業として見てみると、大変リスクが高く、かつ、非常に効率が悪いものでもあるのです。

そして、第二次世界大戦中の日本がそうだったように、戦争が長期化してくると、次第に社会全体の生産力が逼迫してきます。多くの場合、学生や退役軍人、さらには外国人など、社会的には「労働力」とみなされない層に、そのしわ寄せが及ぶのです。

実際、現在のロシアでは、春と秋に年2回の徴兵が実施されているらしく、AFPの次の記事によれば、今年4月にも15万人規模の徴兵が行われています。

ロシア、春の徴兵開始 15万人招集

―――2024年4月3日 19:01付 AFP BB Newsより

AFPによるとロシア国防省はこれらの徴兵者がウクライナの「特殊軍事作戦」の前線に送られることはないとしているようですが、それは建前かもしれませんし、また、実戦部隊がウクライナの前線に送られているがために、その欠員を埋める必要がある、という可能性もありそうです。

その一方で、米メディア『CNN』は今年3月、ロシア軍でネパール人傭兵が増えていると報じています。

ロシア軍のネパール人傭兵は最多1万5千人、傷心の帰国多く

―――2024.03.03 16:05 JST付 CNNより

CNNの取材によると、ロシア政府の勧誘に応じて露軍に加わったネパール人は約1.5万人で、金銭的な好条件を材料に徴兵に応じたケースが多いとのことです。

日経「鉄道建設などで14歳も勤労動員/軍民で人材争奪」

これに加えて日経電子版も8日、こんな記事を配信しています。

ロシア、鉄道建設などで14歳も勤労動員 軍民で人材争奪

―――2024年10月8日 17:03付 日本経済新聞電子版より

日経はこう報じています。

ウクライナ侵略が長期化するロシアで働き手の不足が目立ち、労働市場における学生への依存が強まってきた。鉄道建設で組織的に学徒を勤労動員する案などが浮上する。小売りや工場の現場でパート勤務に就く学生が増えており、軍の徴兵計画に狂いが生じる可能性もある」。

まさに、昔の「学徒動員」そのものです

徴兵、外国人傭兵、学徒動員。

なんだか過去の日本を見ている気がしてなりません(余談ですが、ロシアも「強制徴用」する相手を間違えると、今から50年後、100年後に、「ロシアに強制徴用された」、「ロシアに慰安婦として拉致された」などと言い出す民族が出るかもしれません)。

いずれにせよ、現在のロシアで経済成長が続いていることは間違いないのですが、それと同時にその経済成長の「正体」が健全な成長軌道によるものなのか、それとも単なる「戦時経済」の一過性のものなのかについては、判断が微妙なところではないか―――、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • >なによりロシアにはベラルーシ、シリア、北朝鮮といった「心の友」もいたりします。

    同じ穴の狢って事で『穴兄弟』で良い気がしますが。

    • >余談ですが、ロシアも「強制徴用」する相手を間違えると、今から50年後、100年後に、「ロシアに強制徴用された」、「ロシアに慰安婦として拉致された」などと言い出す民族が出るかもしれません

      負けたロシア蓮舫の分割が現実となれば!

          • アレなら、確かにロシアに亡命かまして「日本に強制徴用された」、「日本に慰安婦として拉致された」って言う…かな?笑

        • 『私はまず何としても広いロシヤへ行きたいね。 旦那 ( バーリン ) 、 旦那 ( バーリン ) 。ロシヤは日本よりか広いに違いない。女の少ない国だったらどんなにいいだろう(放浪記)』
          満たされない承認欲、そうだ、北へ行くのだ。地上の楽園が待っている。

  • ロシアは次に、(特に地方で)老人徴用、(ある決まった職業では)女性だけが働くことになるのでしょうか。

    • 毎度、ばかばかしいお話を。
      ロシア:「戦前の日本に倣って、雨の神宮球場で学徒出陣式をするから、神宮球場を貸してくれ。ついでに日本の学生も」
      さあ、○○(好きな言葉を入れてください)どうする。

  • >>今から50年後、100年後に、「ロシアに強制徴用された」、「ロシアに慰安婦として拉致された」などと言い出す民族が出るかもしれません)。

    北朝鮮、ロシアをガン見。

    • 北朝鮮の将校がウクライナで死亡したというニュースがありましたから、ロシアのために死んだのだから補償しろと言いだすんでしょうね。

  • > 余談ですが、ロシアも「強制徴用」する相手を間違えると、今から50年後、100年後に、「ロシアに強制徴用された」、「ロシアに慰安婦として拉致された」などと言い出す民族が出るかもしれません

    出たとしてもどこ吹く風で完全に無視でしょうね。
    実際に強制労働させられた日本人はロシア/ソ連から何か保証がありましたっけ?

  • 「女性は子供を持たず自由に生きて良い」とネットで主張する事がロシア国内で禁止されたようですね。代わりにプーチン自ら女性に多産を呼びかけているそうで。
    本土防衛に街角から強制徴兵するウクライナもかなりギリギリですが、こういう時に安易に言論統制するか否かは一応自由主義国家という事ですね。

  • ロシアはいずれせよ西側との衝突は避けられないもだった。

    国の存亡をかけて特別軍事作戦を遂行している。
    少年を徴用したり外国人に頼るのも当然のこと。

    特別軍事作戦の目的

    ・ドンバス(ルハンシク、ドネツク)の解放
    ・ウの中立化(NATO非加盟)、非軍事化、非ナチ化

    プーチンもぺスコフも必ず目的を達成するとしている。

    https://www.theamericanconservative.com/j-d-vances-point-of-departure-for-peace-in-ukraine/

    米国共和党のヴァンス副大統領候補がウクライナ紛争終結の計画を発表。

    ・ウクライナはロシアに既に占領されている領土を放棄する。
    ・緩衝地帯が設置される。
    ・ウクライナは主権を保証されるが、NATOを放棄し、中立を受け入れる。
    ・ドイツがウクライナの復興に資金を提供する。

    ほぼロシアの要求通りである。
    多少のディールはあろうがこの線で戦争は終結する。

    ただ民主党の勝率も50%であり、その場合は戦争が継続される。

    現在の米国はイスラエルに「無条件、無制限」の支援をしている。
    イ、ウの2正面で制限ない軍事援助、資金援助が続くことになる。

    ロシアは戦争を継続してとことん米国を疲弊させればよい。
    西側と完全に決着をつける機会となる。

    露中は民主党が勝つことを望んでいると思われる。

    ここはウクライナ応援団・最後の砦!
    ウが陥落するその日までせいぜい頑張ってもらいたい次第だ(^^♪