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女川と島根の再稼働で具体的に発電量はどう変わるのか

女川原発2号機、島根原発2号機がそれぞれ再稼働すれば、設備利用率が70%だったとしても、年間約50億kWhずつの電力を生み出します。現時点で再稼働の優等生は関電と九電ですが、こうした原発再稼働の動きが広まっていくかどうか、あるいは石破政権がその再稼働の障壁をどこまで除去できるかについては、個人的には「お手並み拝見」と思っている次第です。

女川原発再稼働も…まだまだ再稼働は不十分

先ほどの『「2%から0%超」…立憲民主のトンデモ物価安定目標』で少しだけ振れたとおり、女川原発が再稼働に踏み切るそうです。

東北電力の女川原発2号機、29日に原子炉起動 東日本初の再稼働へ

―――2024/10/07 19:09付 産経ニュースより

これぞ、岸田前首相の置き土産です。

ですが、原発の再稼働は、まだまだ十分ではありません。以前から当ウェブサイトにて議論している通り、再稼働可能な原子力発電施設を今すぐすべて再稼働したとしたら、電力不足の問題はかなりの程度解消しますし、なにより電気代も大きく引き下げることができると期待されるからです。

現時点のステータス再確認

原子力規制委員会ウェブサイトの『原子力発電所の現在の運転状況』でステータスを確認すると、現時点(9月17日時点)で「運転中」になっている原子炉は10基、これに対して「停止中(定期検査中)」になっている原子炉は23基です。

同サイトおよび各電力会社ウェブサイトをもとに、現時点でのステータス別の原子炉数とその出力をカウントすると図表1の通りです。

図表1 原子力発電所の運転状況
ステータス 原子炉 出力(kW)
運転中 10基 9,828,000
停止中(定期検査中) 22基 22,517,000
廃止措置中 22基 15,162,000
廃止 5基 3,596,000
建設中 1基 1,373,000
合計 60基 52,476,000

(【出所】原子力規制委員会・9月17日時点運転状況データおよび電力各社データをもとに作成)

この点、資源エネルギー庁データだと、2022年における日本全体での発電量は1兆0,106億kWhで、このうち原子力発電によるものが561億kWhと、全体の5%少々に過ぎませんでした。

また、現時点で運転中の10基(合計9,828,000kW)について、設備利用率(24時間・365日フル稼働した場合の出力に対する実際の出力の割合)が70%だったとすれば、今後は603億kWh程度の電力を生み出すことが期待できますが、やはりまだまだ少ないと言わざるを得ません。

もしも上記図表の「停止中(定期検査中)」のものがすべて稼働していれば、この発電量が1500~2000億kWhと、今よりも3~4倍程度になっていたはずであり、2022年の巨額貿易赤字の原因である石油、石炭、LNG等の輸入量を削減できていた計算です。

電力会社ごとの成績表

ちなみに原子力発電所を設置している会社・団体の別に、少し意地悪な図表も添付しておきます。図表2は現時点までに運転している原子炉の数を集計したもの、図表3は「停止中(定期検査中)」のステータスの原子炉の数を集計したものです。

図表2 運転中の原子炉
電力会社 原子炉 出力(kW)
北海道電力株式会社 0基 0
東北電力株式会社 0基 0
東京電力ホールディングス株式会社 0基 0
日本原子力発電株式会社 0基 0
中部電力株式会社 0基 0
北陸電力株式会社 0基 0
日本原子力研究開発機構 0基 0
関西電力株式会社 7基 6,578,000
中国電力株式会社 0基 0
四国電力株式会社 0基 0
九州電力株式会社 3基 3,250,000
合計 10基 9,828,000

(【出所】原子力規制委員会・9月17日時点運転状況データおよび電力各社データをもとに作成)

図表3 停止中(定期検査中)の原子炉
電力会社 原子炉 出力(kW)
北海道電力株式会社 3基 2,070,000
東北電力株式会社 3基 2,750,000
東京電力ホールディングス株式会社 7基 8,212,000
日本原子力発電株式会社 2基 2,260,000
中部電力株式会社 3基 3,617,000
北陸電力株式会社 2基 1,898,000
日本原子力研究開発機構 0基 0
関西電力株式会社 0基 0
中国電力株式会社 1基 820,000
四国電力株式会社 1基 890,000
九州電力株式会社 0基 0
合計 22基 22,517,000

(【出所】原子力規制委員会・9月17日時点運転状況データおよび電力各社データをもとに作成)

これによると、原発再稼働で優秀な成績を収めているのは関西電力株式会社と九州電力株式会社の2社で、それぞれ「運転中」のステータスは関電が7基、九電が3基で、「停止中(定期検査中)」は関電、九電ともに0基です。

これに対し、たとえば東京電力は柏崎刈羽原子力発電所の7基がすべて再稼働できておらず、したがって7基、出力8,212,000kW分の原発が「停止中(定期検査中)」状態です。

本当にもったいない話ではないか―――。

そう思わざるを得ません。

具体的な発電量

さて、話題の女川原発は、廃止措置中の1号機が出力524,000kW、「停止中(定期検査中)」の2号機・3号機がそれぞれ出力825,000kWずつですが、このうち2号機が再稼働するだけでも、「設備利用率」が70%だったとしても、約50億kWhの電力を生み出します。

理想をいえば3号機も早期に再稼働してほしいところですし(そうなれば同じ条件で発電量はあと50億kWh増えます)、もし東北地方で電力の余剰が生まれれば、(設備次第ですが)ラピダスなどの半導体メーカーの進出などで電力需要が増える北海道への送電も期待したいところです。

また、報道等によれば、中国電力が島根原発2号機(出力820,000kW)の再稼働を目指しているとのことですが、これも実現すれば、(同じく設備利用率が70%だったとすれば)年間で50億kWhの電力を生み出します。

これに加えて「建設中」の島根原発3号機(出力1,373,000kW)が完成し、稼働を始めれば、84億kWhの電力が新たに生み出されます。

つまり、女川(2号機、3号機それぞれ50億kWhずつ)、島根(2号機50億kWh、3号機84億kWh)の4つの原子炉だけで234億kWh、2022年の日本全体の発電量の約2%以上に相当する電力が作られることになります。

このように考えていくと、少しずつ、しかし着実に原発の再稼働が進むことは、歓迎すべき話でもありますが、やはり再稼働に向けた動きはさらに加速してほしいところです。

半導体メーカーの進出などで電力需要が増える北海道だと、泊原発(1~3号機までで合計出力は2,070,000kW)が再稼働すれば、同じく設備利用率70%という条件で127億kWh。中電・浜岡原発の3~5号機(合計3,617,000kWh)も同じく設備利用率という条件で222億kWh。

また、能登半島地震の被災地を送電地域に含む北陸電力が志賀原発1、2号機(合計1,898,000kW)が設備利用率70%で再稼働すれば116億kWh、といった具合ですが、先ほど挙げた東電・柏崎刈羽はもっとすごいことになります。

柏崎刈羽は1~7号機までで合計8,212,000kWですので、同じく設備利用率が70%という条件で719億kWh―――、すなわち日本全体の太陽光発電所の発電量(2022年実績で926億kWh)の8割ほど―――が、だけで賄える計算です。

さらには、先ほどの図表には示していませんが、廃炉措置中の東電・福島第二原発(4基で合計出力は440万kW)について、もしこれらの廃止措置を止め、再稼働に踏み切れば、同じく設備利用率が70%程度だったとしても年間で約270億kWhの電力を生み出します。

「運転中」が少しずつ増えていることは非常に良いことではありますが、それと同時に稼働できるのに運転を止めているという点については、本当にもどかしい点でもあります。

このあたり、再稼働可能な原発の再稼働が今後、どこまで進むか。

それを阻んでいる要因(第一義的には原子力規制委員会でしょうか?)をどこまで特定し、排除できるか。

石破政権のお手並みを拝見したいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • 政治・経済的観点は除き、技術視点からのコメントです。稼働初期は意図しない故障などの初期不具合が発生することは一般的で、その対応を行った後暫くの間は故障率が少ない時期が続き、その後、部品劣化により故障率が増加するといういわゆるバスタブカーブが観察されます。
    それら劣化する部品を定期検査、定期交換により故障発生を未然に防止しバスタブカーブを長期にわたり低位に保持できるようになります。
    またこのような大規模システムで大量生産品ではない種のものは、個々のシステムの運用ノウハウの蓄積をそれら自身から得ることも非常に重要です。
    ハインリッヒの法則で言うところの小さなヒヤリハット事例などのノウハウ蓄積しその対策をうつことは大きな事故を未然に防止することにつながります。
    このような特性からシステムを長期間停止しノウハウを持った人財が育成できず保持できず更には離散してしまうことは大きなリスクであり一刻も早く定常運転できるようになることを望んでいます。

  • とどのつまり、
    ①福島第一原発事故をこれ幸いとばかりに、左翼代表の菅直人総理が電力会社に圧力を掛けて無理やりに原発を止めた。
    ②供給力不足のショックにより、東日本主体に極度の節電が行われ電力需要自体も大きく下がったが、それでも必要な電力は低質の火力発電に頼ることとなり、大量のCO2を発生させることになった。
    ③大震災以降、原発に危機を及ぼすような地震・津波は全く起きていない。
    ④結果として、原発停止により地球温暖化を大きく加速させた。

  • 東日本は、被災地から近いという理由だけでは説明できないほど再稼働が遅いですね。

    捕鯨委員会と同じで、再稼働を阻止することが前提になっている組織に権限を持たせすぎと思います。原子炉直下に活断層がある「可能性を否定できない」などという難癖がまかりとおっています。可能性だけなら何とでも主張できます。
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA017UV0R00C24A8000000/

    科学的に具体的な危険性を指摘できない限り、再稼働申請を拒絶できないように、権限を縮小する必要があるでしょう。この判決のように。
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240329/k10014406191000.html

    • >科学的に具体的な危険性を指摘できない限り、再稼働申請を拒絶できないように、権限を縮小する必要があるでしょう。

      石破首相は再生可能エネルギー推進派ですので、原子力発電の稼働や新しい原子力発電の研究には積極的に取り組めないと思います。
      既に、早期解散やアジア版NATO、日米地位協定などで変節を余儀なくされています。選挙の公認問題でも基準が曖昧で選挙目当ての姑息な手段だという批判が有権者からも多いようです。
      原子力でも従来の主張を曲げるようなことになれば、信用失墜は免れない事になると思いますので、再生可能エネルギーに固執する可能性が高そうです。
      しかし、半導体の製造やデータセンターの稼働には24時間365日大量の電力を消費するそうですので、再生可能エネルギーは解決策にならないと思うのですが。
      私としては石破新首相の変節を期待していますが、批判を恐れて頑なになる可能性が大きいように感じます。
      石破首相には、過去の耳障りの良い数々の発言のツケを払う時が来ています。
      選挙での自公過半数確保で逃げ切りを図っているのかも知れませんが。

  • 今日本で稼働中の原発は全て加圧水型と呼ばれる方式のものです。一方、東日本大震災で事故を起こした福島第1原発は沸騰水型(その中でも最も古いタイプ)です。今度再稼働を予定している女川、島根原発は共に沸騰水型です。つまり、女川、島根は沸騰水型としては、大震災以降初の再稼働となる訳です。この女川、島根の再稼働が順調であれば、同型の東電柏崎刈羽原発の再稼働の追い風となるでしょう。なので是非とも順調に行って欲しいものです。

    とにもかくにも、電気代が高くて困ります!我が家の今年の夏は、補助金を差し引いても月当たり2万円超!!早期の再稼働を望みます!!

  • 再稼働する原発の発電量もさることながら
    これまで代替してきた火力発電所の燃料代が幾らぐらい減らせるかも大事かなと思います

    • 発電に要した燃料費の低減分だけ、再エネ賦課金が増額される仕組みとなってます。
      再エネ推進が国策なのであれば、本来は国費(税金)で賄われるべきなんですけどね。