X

「2%から0%超」…立憲民主のトンデモ物価安定目標

物価安定目標を「2%」から「0%超」に変更して「実質賃金の上昇」を掲げ、日銀が保有するETFを簿価で政府に移管して少子化対策等の財源に充当し、累進課税を強化し、消費税については低・中所得者に還元する「給付付き税額控除」を導入する―――。財政健全化は財務省の主張とソックリですし、諸外国にも例のない「0%超物価安定目標」というものも斬新です。こんな立憲民主党のトンデモ公約をみた瞬間、「あぁ、やっぱり野田さんだったか…」と落胆したのはここだけの話です。

岸田応援団vs反岸田派

X(旧ツイッター)などのSNS上で、最近、「岸田応援団(?)」と「反岸田派(?)」の、ちょっとしたやり取りを目撃しました(「岸田応援団」、「反岸田派」は当ウェブサイトが便宜上、本稿で勝手にそう呼んでいるだけです)。

岸田文雄前首相の約3年間の事績を巡り、結果論だけを見てそれを高く評価するのが「岸田応援団」、そもそも岸田前首相を含め、「(旧)宏池会」の在り方そのものを批判するのが「反岸田派」、とでもいえば良いでしょうか。

これについて、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士は、どう考えているのか―――。

結論的にいえば、著者自身は「岸田応援団」でもなければ「反岸田派」でもありません。

岸田前首相は就任直後、ややもすれば「反アベノミクス」的な性格を持つ「新しい資本主義」なる概念を掲げ、「株主資本主義」を否定するかのような言動を取っていたことに加え、対韓外交ではいつもの韓国の「約束破り」リスクを抱え込むなど、決して褒められたものではない政策分野も多々あったからです。

女川原発再稼働は岸田前首相の置き土産

著者自身、発足直後の岸田政権を見て、「なぜ菅義偉総理大臣が続投しなかったのか」、と、思わず頭を抱えたことを思い出します。

ただ、それと同時に、岸田前首相は途中で軌道修正をしたのか、日本経済にとって大変良い影響を与える政策を次々と打ち出してきたことについては高く評価したいとも考えているクチです。

その最たるものが、防衛力の抜本的強化を含めた安保3文書の制改定であり、また、原発の再稼働・新増設方針の明確化です。とりわけ岸田前首相が退任直後のタイミングで、大変よい話題が飛び込んできました。

東北電力の女川原発2号機、29日に原子炉起動 東日本初の再稼働へ

―――2024/10/07 19:09付 産経ニュースより

これぞ、岸田前首相の置き土産です。

産経ニュースの報道によると、東北電力は7日、宮城県の女川原子力発電所2号機を今月29日に起動する方針を原子力規制庁に伝達したそうです。実現すれば、2011年の東日本大震災後に再稼働する初の東日本の原発となります。

(余談ですが、正直、民主党政権時代に稼働を停止させられていた原発がいまだに再稼働できていないこと自体、民主党政権の負の遺産がいかに大きいかという証拠でもありますが、こうした民主党政権のくびきをひとつずつ解決していくことは大変有意義でしょう。)

首相を批評するなら「トータルで日本が良くなったかどうか」で見るべき

岸田政権の功績は、それだけではありません。

石川県能登半島地震からの復興への深いコミットメント、憲法改正に向けた非常に強いイニシアティブなども、絶賛に値しますし、これに加えて財務省出身の無名の若手政治家だった小林鷹之氏を初代経済安保担当相に抜擢したのも岸田首相です。(小林氏はその後、経済安保法制をまとめ上げています)。

(良いか悪いかは別として)派閥解消も(結果論としては)自民党を大きく変えるものとなる可能性があります。

このように考えていくと、当ウェブサイトの持論である、「首相を批評するなら、その首相が在任したことで、日本が総合的に見てどうなったのかを見るべきだ」とする観点に照らせば、岸田文雄氏が日本の首相になって良かったといえます。「結果として」日本に良い影響を与えたからです。

ちなみに株価は岸田首相在任中に東証時価総額1007兆7050億円(2024年3月末)、日経平均42,224円02銭(2024年7月11日)を記録していますが、これは政権発足時の771兆5355億円(2021年9月末)・28,444円89銭(2021年10月4日)と比べ、大きな上昇です。

図表 マーケット指標
政権発足時 項目 最盛期
771兆5355億円
(2021年9月末)
東証時価総額 1007兆7050億円
(2024年3月末)
28,444円89銭
(2021年10月4日)
日経平均株価 42,224円02銭
(2024年7月11日)

(【出所】東証時価総額はJPXウェブサイト、日経平均株価はWSJダウンロードデータ)

この点、株価の上昇はアベノミクスの余韻という側面もあり得るため、そのすべてが岸田前首相の功績ではない、といったツッコミがあることは承知していますが(実際、日銀は7月に利上げに踏み切っています)、ただ、岸田政権下で株価が史上最高値を更新したことは事実でしょう。

これに加えて、岸田前首相の前任者である菅義偉総理の時代に始まった日米豪印「クアッド」首脳会合の定例化、電撃的なウクライナ訪問とウォロディミル・ゼレンシキー宇大統領に対する確固たる支援、米上下両院合同演説など、無法国家を挫くための試みは高く評価されるべきです。

著者自身は岸田前首相について、「就任当初はいろいろ危なっかしいところもあったが、結果的に岸田首相の3年間は日本を大変強くした」と考えている次第です(といっても、岸田文雄氏に再登板してもらうべきかどうかは別問題ですが)。

石破首相をどう見るか

そして、こうした文脈からは、石破茂・現首相についても、これとまったく同じことがいえます。

石破首相は「ヒラ議員」時代にはずいぶんと好き勝手なことをおっしゃっていたようですが(拉致問題で日朝連絡事務所を開設する、金融所得課税を強化する、など)、これらについてはさっそく、軌道修正が図られています(『良い意味で「豹変」か…石破首相の良質な所信表明演説』等参照)。

もちろん、石破首相の「良い意味での豹変」が続くのかどうかについては、今後次第です。

石破内閣の人選には個人的に高く評価できるもの(たとえば加藤勝信財務相)もある一報、現時点で自民党として、「裏金議員」(?)を非公認にするなどの措置が保守層の反発を読んでいるなど、やはり迷走の気配も見られる点には注意が必要です。

これについては以前の『自民党は「石破体制」を挙党一致でしっかり支えるべき』などでも申し上げている通り、著者自身、石破茂氏という人物のことは決して好きではありません。

しかし、自民党が党総裁選という党則に従ったプロセスを経て、新たな総裁を正当に選び出した以上、少なくとも自民党議員は一丸となり、石破首相(自民党総裁)体制をしっかりと支えていただきたいところです。

また、閣僚人事は首相としての、党役員人事は党総裁としての権限に基づいて行われたわけですから、(著者自身もその内容に一部深い疑問を覚えてはいるものの)各閣僚・各役員はそれぞれの職分に応じ、役割を全うしていただきたいところです。

そして、石破首相の自民党総裁としての任期は3年ですので、まずはその3年間、しっかりと任務を果たしていただきたいと思いますし、私たち有権者としても、節目節目の選挙などでは、石破政権、石破体制下の自民党をしっかりと評価し、適切な判断を下せるようにしたいものです。

立憲民主党「政権交代こそ最大の政治改革」

こうしたなかで、最大野党であり、(理屈の上では)自民党に代わって政権を担い得る立場に最も近い立憲民主党が、自民党政権に代替し得るほど魅力的な政権公約を出してくれば、政権交代も現実にさらに近づくことは間違いありません。

そんな立憲民主党がこのほど、元首相でもある野田佳彦新代表の体制化で、あらたな政権公約を打ち出したようです。

「政権交代こそ、最大の政治改革。」政権政策発表

―――2024年10月7日付 立憲民主党HPより

パンフレット自体は上記記事からダウンロード可能で、全部で20ページありますが、これらのなかでいくつか気になった部分を抜粋してみましょう。

【財務金融・税制】
  • 格差を是正する税制改革による財源確保や、行政需要の変化に応じた予算配分、適切な執行、成長力の強化による税収増など、歳出・歳入両面の改革を行い、中長期的に財政の健全化を目指します。
  • 国会の下に独立財政機関を設置して、主要政策の費用対効果や財政の見通しを客観的・中立的に試算・公表するとともに、その試算に基づき「中期財政フレーム」(3カ年度にわたる予算編成の基本的な方針)を策定することを政府に義務付けることで、放漫財政を改めます。
  • 日銀の物価安定目標を「2%」から「0%超」に変更するとともに、政府・日銀の共同目標として「、実質賃金の上昇」を掲げます。
  • 日銀が保有するETFは、簿価で政府に移管した上で、その分配金収入と売却益を、少子化対策等の財源に充当します。
  • 所得税については「、分厚い中間層」を復活させるため、勤労意欲の減退や人材の海外流出等の懸念に十分配慮した上で、累進性を強化します。
  • 消費税の逆進性対策については、軽減税率制度に代えて、中低所得者が負担する消費税の一部を税額控除し、控除しきれない分は給付する「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入により行います。

(【出所】立憲民主党『2024政策パンフレット(報道・研究資料用)』P12)

…。

物価安定目標「0%超」に後退…あぁ、やっぱり野田さんだったか…

これは、なかなかに斬新で、なかなかに強烈です。

のっけから「財政健全化」が掲げられるなど、野田佳彦代表が率いる立憲民主党は、財務省の代弁者かなにかなのでしょうか?

また、「日銀が保有するETFを簿価で政府に移管して売却して財源に充てる」というのも意味がよくわかりません。日銀から移管する仮定で政府債務が増えることについては「財政健全化目標」とやらに反しますし、政府が株価変動リスクを負うことにもなるからです。

それに、「金融所得課税強化による累進課税導入」、「低所得者に対する消費税額還付」も非現実的です(というか、消費税の還付をするくらいなら消費税率を下げる方が手っ取り早いでしょう)。

なにより、物価安定目標「0%超」とは、正直、聞いたことがありません。

「実質賃金を上げる」とありますが、極端な話、名目賃金が同じでもデフレにすれば実質賃金は上がりますが、当然、その代償として、国民には円高と失業者急増を甘受していただく必要がありますし、アベノミクスで進み始めた産業の国内回帰の流れを止め、再び産業の空洞化が進むでしょう。

なお、なぜデフレが悪なのか、なぜ金融緩和継続が必要だったのか、金融緩和で雇用がどれだけ好転したのか、などについては、『雇用を無視しアベノミクスを失敗と決めつけて良いのか』などを含め、これまでに当ウェブサイトでは何度も指摘してきたとおりです。

アベノミクスの功績を「なかった」ことにしたい―――。そんな人もいらっしゃるようで、「アベノミクスで日本は貧しくなった」、などとする主張も出て来ています。ただ、著者自身はアベノミクスが大成功に終わったとは考えていないのですが、それと同時に現実問題として、失業率が大きく下がり、有効求人倍率が1倍を超過するなど、日本の雇用環境が非常に良くなったという点については指摘しておく必要があります。新卒者が就職し辛かった時代を覚えている身としては、この点を無視されるのは我慢なりません。アベノミクスで上昇した求人...
雇用を無視しアベノミクスを失敗と決めつけて良いのか - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、金融評論的な立場からすれば、「物価安定目標を2%から0%超へ」というトンデモ目標を掲げた時点で、「やはり野田さんだったか…」、という落胆を禁じ得ません。

野田佳彦氏といえば、現職首相時代、日韓通貨スワップの規模を総額700億ドルに拡大した人物でもありますし、また、民主党政権時代を通じて円高が放置されるなどし、2012年2月にはエルピーダメモリが経営破綻に追い込まれていることも思い出しておく必要があるかもしれません。

著者自身、そんな野田氏が「良い意味で」豹変するのを期待していたフシがありますが、この政権公約を見た瞬間、「あぁ、やっぱり立憲民主党は立憲民主党のままだなぁ…」、などと思ってしまったのは、ここだけの話です。

新宿会計士:

View Comments (24)

  • 5-6月は大学ではダンスパーティーの季節。今でもそうなのかな。
    スポーツの同好会など色々な団体が主催するが、下っ端はパーティー券を20枚くらい渡され「ノルマは10枚だからな、ノルマ以上売ったらクラブに納める必要ないから」などと言われる。自民党議員のパーティー券「裏金」ってあれと同じか?
    要は収入として記載していなかった。したがって支出も同額記載していなかったということなのか。(でないと現預金が合わなくなる)
    閣僚をやるような忙しい議員がパーティー券を売り歩いて現金を受け取っているとも思えない。おそらく秘書の仕業だろう。ただしそれは言えない。

  • ワイドショーが立憲の物価安定目標を称賛すれば、(高齢者だけではないかもしれませんが)高齢者は釣れる(?)のではないでしょうか。

  • >物価安定目標「0%超」

    実質賃金上昇ではないのですね♪
    石破総理もなんだかな~ってとこがあるけど、こういうのを野党第一党が言っちゃうと、自身の投票行動に選択肢がなくなっちゃうのです♪
    選択肢があってこその民主主義だと思うんだけど・・・

    いっそ自民党が分裂してくれないかな?首班指名にのみに影響させて、政策も一緒、必ず連立するってことでも良いのです♪
    (人´∀`*)オネガイ

  • ホンネでは「デフレに戻したい!」
    と叫びたいところなんでしょうね。

    立憲民主党の主な支持層は、全共闘世代の左寄りリベラル層の老人たち。(に見える)

    年金生活者には、雇用なんか知ったことではないので、ひたすらデフレが望ましい訳で。

    「もう人生が残り少ない老人たちのために、今の若い人たちは5分だけ息するのを我慢してくれるかな?ニコッ」

    と言ってる訳ですよね、今回も。

  • 立憲がやりたいのはデフレ進めてみんな平等に貧乏になろうぜ、ってことか。まさに共産主義。
    野党第一党がこれかよ。

  • 支持層を考えると「物価下落がいい」けど、さすがにそこまでは言えない。
    2%以上になると自民党と同じになる。

    「そうだ、間を取って0~2%にしよう」

    そんなとこですかね。知らんけど。(笑)
    中途半端な小粒感。

  • …浮世離れ経済政策…
    まーたマスゴミ動員してエエように宣伝戦展開する気かしらんけど…
    このスーサイドノダタケシノミクスに批判的姿勢だと劣等民族扱いされるんンやろか…?
    野党第一党がコレは「万年野党宣言に等しいンぢゃね??」
    知らんけど

  • >中低所得者が負担する消費税の一部を税額控除し、控除しきれない分は給付する「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入により行います。

    これもどうするのかな?
    消費税を納めるのは事業者だから、消費者からの控除ってどうするのか不思議なのです♪
    なんか買うたびに所得証明を提示したりするのかな?
    それとも、買い物のレシートを1年間保存しておいて確定申告で還付してもらうのかな?
    新宿会計士様なら、上手いやり方が思いつくんじゃないかと思うんだけど、如何でしょうか?

  • 「法人税増税社会ニッポン2024」でしょうか。マジ外資逃げますぜ。せっかく世界のビジネスパーソンからの注目が日本に集まっているのに。

  • >>なにより、物価安定目標「0%超」とは、正直、聞いたことがありません。
    >>「実質賃金を上げる」とありますが、極端な話、名目賃金が同じでもデフレにすれば実質賃金は上がりますが、当然、その代償として、国民には円高と失業者急増を甘受していただく必要がありますし、アベノミクスで進み始めた産業の国内回帰の流れを止め、再び産業の空洞化が進むでしょう。

    立民はフィリップス曲線という経済学の基礎の基礎も知らないのでしょうか?
    石破が総裁になったとき、野田の方がマシじゃないかと思ってしまいましたが、やっぱり立民なんですね(呆)。

1 2 3