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石破政権電撃解散方針…協力進まなければ野党は苦戦へ

自民党の獲得議席数は石破政権への支持率と無関係に決まる

衆院選で自民党が勝てるかどうかは、最大野党(現在でいえば立憲民主党)がどれだけまとまっているか、そしてその最大野党がそれ以外の政党とどこまで選挙協力が組めるか、という2つの要素で、だいたい決まってくるように思えます。こうしたなか、読売新聞が1日、野党間で選挙協力が進んでいないという実態を報じています。野党の選挙協力がままならなければ、石破政権に対する支持率と無関係に、結果的には自民党が圧勝し、石破政権にとっては幸先の良いスタートとなりそうですが、いかがでしょうか?

「私はもう、自民党には投票しない」

現実問題、衆院の早期解散総選挙となった場合に、それぞれの政党に勝算はあるのか―――。

先週金曜日に行われた自民党総裁選を制した石破茂総裁は本日、衆参両院で首班指名され、第102代首相に就任する予定です。その石破「首相」はすでに、衆院の早期解散総選挙を行う方針を明言しており、報道等によれば、今月中に総選挙が実施されるでしょう。

この点、一部「保守派」にとっては、石破「首相」の姿勢、あるいは組閣方針に違和感を覚えており、とりわけ岩屋毅・元防衛相が外相として、村上誠一郎・元内閣府特命担当大臣が総務相として入閣することに対し、深い失望の意見も見られます。

なかには、「私はもう、自民党には投票しない」、などと宣言している人もいるほどです。

自民党以外に保守層が投票し得る政党は?

この点、当ウェブサイトは「政治経済評論」と名乗っていることからもおわかりの通り、著者自身は政治家ではありませんし、政治家になる予定もありません(政治家はリスクだけ高いですからねぇ…)。

また、当ウェブサイトとしてはこれまで、「選挙では必ず投票してください」とお願いしたことはありますが(今後もそうするつもりです)、「次の選挙でこの政党/この候補に投票してください」とお願いしたことはなかったつもりですし、おそらく今後もそうすることはないでしょう。

したがって、「私はもう、自民党には投票しない」、などと宣言するのは自由ですし、それに関して当ウェブサイトとしてとやかく言う問題ではありません。

ただ、現実問題として、(おそらくは当ウェブサイトをご愛読いただいている方々の圧倒的多数を占めているであろう)良識的な保守性向を持つ有権者の方々にとって、自民党以外に投票する政党・候補者が存在するのか、といった点については、議論しておく必要があります。

もちろん、自民党の議員の中にも、闇が深い人は多々含まれているでしょうし、著者自身も自民党が100%、素晴らしい政党だとはこれっぽっちも思っていませんが、それと同時に、とりわけ最大野党である立憲民主党もまた、自民党に代替し得る能力を持った政党であると言えるのかについては疑問です。

マスコミは立憲民主党応援団

というよりも、(これも著者自身の持論ですが)立憲民主党が能力のわりには多くの議席を持っているのも、マスコミという応援団を抱えているからだと思います。

自民党と野党が同じことをしていても、一部メディアは自民党に対しては悪意のある、あるいはトゲのある表現を使い、野党に対してはマイルドな表現を好む傾向にあります。

自民党ならば「裏金」、野党ならば「記載漏れ」。

自民党ならば「料亭」、野党ならば「日本料理店」。

自民党ならば「派閥」、野党ならば「グループ」。

自民党ならば「民意無視」、野党ならば「苦渋の決断」。

自民党ならば「刷新感なし」、野党ならば「即戦力人事」。

自民党ならば「素人の人事」、野党ならば「フレッシュな人事」。

自民党ならば「派閥の人事」、野党ならば「挙党一致体制」。

例を挙げればキリがありません。

さらにいえば、自民党については「裏金議員」などと批判するわりに、立憲民主党に関してはやたらと追及が甘い、というのも、日本のメディア業界の悪い癖です。参考までに、ほんの一部ですが、安住淳、野間健、川田龍平の3氏のケースを紹介しておきましょう。

ケース1 安住淳衆議院議員国対委員長

立憲民主党の衆議院議員で国会対策委員長の安住淳氏は2023年11月、自身の資金管理団体の2022年分の政治資金収支報告書に、30万円分のパーティー券収入を購入した団体名と金額を記載しておらず、前日付で報告書の訂正を行ったことを明らかにした。

立憲・安住氏もパーティー券収入を不記載 政治資金収支報告書を訂正

―――2023年11月29日 18時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より

ケース2 野間健衆議院議員

立憲民主党の野間健衆院議員(鹿児島3区)が代表を務める政治団体が、政治資金パーティー収入の50万円を2020年分の政治資金収支報告書に記載しておらず、総務省に25日付で訂正を報告したことが27日、産経による野間氏の事務所への取材でわかった。事務的なミスだと説明している。

立民・野間健氏の政治団体、パーティー券収入50万円記載漏れ 総務省に訂正報告

―――2024/03/27 16:22付 産経ニュースより

ケース3 川田龍平参議院議員

文春オンラインは3月、立憲民主党の川田龍平・参議院議員(48)の後援会の収支報告書に、支援者からの寄附金の不記載があることが『週刊文春』の取材で明らかになったと報じた。文春はこの後援会が川田氏の資金管理団体と所在地が同じであるなど、川田事務所とほぼ一体の関係にあるとみられる、としている。

参院議員・川田龍平に政治資金規正法違反の疑い! 隠蔽された寄附者は一審有罪判決を受けたあの“臓器移植仲介人”

―――2024/03/13 16:12 文春オンラインより

自民党なら疑惑段階で大騒ぎするのに…

このうち川田氏に関しては文春オンラインなどで報じられただけの状態です。

ただ、立憲民主党側はこれまで、自民党の関係者に対しては疑惑が報じられた状態でも「説明責任」を求めて来たわけですから、その基準に照らすならば、疑惑が報じられただけでも有権者に対し、真摯に説明する責任があると考えるのが自然な発想でしょう。

こうしたなかで、さらに酷いのが、梅谷守衆議院議員の事例です。

梅谷氏は地元の会合などで日本酒や現金を配っていたことが2月頃までに明らかになったのですが、この件に関していまだに議員辞職もしていませんし、それどころか立憲民主党は徹底的に説明責任から逃げ回り、あげくの果てに、梅谷議員を「党員資格停止1ヵ月」などの「激甘処分」で済ませたくらいです。

これについては『立憲民主党の二重基準:松島みどり氏と梅谷守氏の比較』などでも紹介しましたが、自民党側はうちわや線香などを配っただけで閣僚や議員を辞職しているケースもありますが、梅谷氏は日本酒と現金を有権者に手渡していますので、同じ基準に照らせば離党・議員辞職ものでしょう。

こうしたダブル・スタンダードぶり、一部の有権者を心底呆れさせるものです。

いくら日本の(一部)メディアが野党に対してやたら甘いからといって、さすがにこれは酷過ぎます。

ただ、「一事が万事」といいますが、立憲民主党はメディアの「報道しない自由」で守られているという性格もあってか、あまり政策論争が得意ではないようであり、だからこそ、「自民党の不祥事を追及する」というかたちでしか、自民党の批判票を取り込むことができないのかもしれません。

野党の選挙協力の進展状況

こうしたなかで、立憲民主党以外の国政政党といえば、日本維新の会、日本共産党、公明党、国民民主党、れいわ新選組、社民党などがありますが、いずれも今すぐ政権交代で政権を担い得る規模の政党ではありません。

近い将来、日本維新の会が立憲民主党に取って代わる「最大野党」に伸長する可能性はもちろんありますが、それ以外の政党が最大野党、ひいては単独与党となり得る可能性は、考え辛いところです(というか、これらのなかの公明党は、すでに連立与党です)。

このように考えていくと、有権者が現実に「政権交代」を発生させようと思えば、やはり立憲民主党か、せいぜい日本維新の会の候補者を勝たせる以外に方法はなさそうです。

とりわけ立憲民主党に関しては、現在の支持率や各候補の地盤などに照らし、ある程度の議席を獲得するためには日本共産党や社民党、れいわ新選組などと選挙協力を行い、候補者調整を進めることが必須ですが、これに関しては読売新聞が1日、野党連携が進まなければ「共倒れ」のリスクもあると報じています。

早期解散、立憲民主党に危機感…野党連携進まず小選挙区「共倒れ」の恐れ

―――2024/10/01 09:13付 Yahoo!ニュースより【読売新聞オンライン配信】

読売によると野田佳彦・立憲民主党代表は30日、石破茂・自民党総裁の衆院解散表明を巡り、「首班指名も受けていないのに衆院解散を決めるのは国会軽視だ」と批判したうえで衆院選の候補者数を200人以上に積み増す方針を示したのだそうです。

ただ、野田路線に対し反発を強める日本共産党では、田村智子委員長が30日、党本部で開かれた第3回中央委員会総会で、「小選挙区にも最大限、候補者を立てる」と表明。日本維新の会の藤田文武幹事長も30日、立憲民主党との選挙協力は「かなり難易度が高い」と述べたとのことです。

自民党の獲得議席は野党の存在と選挙協力の有無で決まる

このように考えていくと、石破氏の電撃的な早期解散表明は、(それが国会軽視だとの批判もあるにせよ)結果的には野党共闘を阻み、最大政党である自民党にとって非常に有利な状況を作り出したといえるでしょう。

現実問題として、著者自身が昨年、選挙区ごとに2021年10月の衆院選について分析してみたところ、各小選挙区で1位と2位の候補者の得票差が2万票以下である選挙区が約100少々あり、とくに維新・立民共闘で自民党候補者が落選する可能性がある選挙区は約60~100だと判明しています。

また、「ウィナー・テイクス・オール」という側面が強い小選挙区制度では、立憲民主党が日本維新の会との共闘に失敗したとしても、日本共産党、社民党、れいわ新選組などと選挙協力するだけで、自民党の議席をある程度抑制することが可能です。

野党側にこうした共闘条件が整っていなければ、自民党は小選挙区で50%弱の得票率でありながら、小選挙区全体の80%近い議席を獲得したという、2012年型の選挙の再来もあり得るところです。

【参考】自民党の獲得票数と獲得議席数(小選挙区)
  • 2005年…32,518,390票(47.77%)→300議席中219議席(73.00%)
  • 2009年…27,301,982票(38.68%)→300議席中*64議席(21.33%)
  • 2012年…25,643,309票(43.01%)→300議席中237議席(79.00%)
  • 2014年…25,461,449票(48.10%)→295議席中222議席(75.25%)
  • 2017年…26,500,777票(47.82%)→289議席中215議席(74.39%)
  • 2021年…27,626,235票(48.08%)→289議席中187議席(64.71%)

(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』データをもとに作成)

【参考】民主党(~2014年)、立憲民主党(2017年~)の得票率と獲得議席数
  • 2005年…24,804,787票(36.44%)→300議席中*52議席(17.33%)
  • 2009年…33,475,335票(47.43%)→300議席中221議席(73.67%)
  • 2012年…13,598,774票(22.81%)→300議席中*27議席(*9.00%)
  • 2014年…11,916,849票(22.51%)→295議席中*38議席(12.88%)
  • 2017年…*4,726,326票(*8.53%)→289議席中*17議席(*5.88%)
  • 2021年…17,215,621票(29.96%)→289議席中*57議席(19.72%)

(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調』データを加工)

とくに2012年以降の選挙に関していえば、自民党およびその時点の最大野党の獲得議席数は、最大野党が一致団結できているかという論点と、その最大野党がそれ以外の政党との間で選挙協力できているか、という、だいたい2つの要素で決まっているのです。

つまり、仮に自民党が圧勝したとしても、これはシンプルに衆院選の特徴という話であり、石破氏を国民が支持したという証拠にはならない点には注意が必要ですが、いずれにせよ石破政権にとっては幸先の良いスタートとなる可能性がありそうです。

こうした見立てが正しいかどうかは、早ければ今月中に判明すると思うのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (24)

  • >近い将来、日本維新の会が立憲民主党に取って代わる「最大野党」に伸長する可能性はもちろんありますが、

    日本維新の会も今回の解散に文句を言ってますし、個人的には無能でコスト意識のない連中の集まりでしかないと考えるんですけどね。

    国民に信を問わずに逃げ切った岸田文雄に文句を言うならまだマシでしたが。

  • 私はれいわか国民民主党もしくは積極財政派に投票します!自民党には最高に失望した!

  • 衆議院で自民党以外の政党に投票する意義

    「自民のことが気に食わないけど、私が応援する政党は規模が小さいから投票しても政権交代できないなぁ。けど立憲はもっと嫌だなぁ。はぁしょうがないから自民のがマシだから自民に投票しよう。」
    違います。応援する政党の規模が小さくとも投票することに意義はあります。必ずあります。確実にあります。なぜならば衆議院において議席が20以上になると単独で法案を提出できるようになるから。

  • 自公勝利の影のMVPは共産党です。今回の衆院選は与党勝つ確率高い

  • まー衆議院は解散できるけど参議院は任期6年解散無しだから、本チャン勝負は来夏の参院選やろね

    とか考えてそう、知らんけど

  • 岩盤保守層の票は逃しても、浮動票を獲得できると考えているのかもしれません。
    結果はじきにわかります。

  • まあ決まった話のようではありますが。
    早期解散するかしないか。
    ここしばらくは政権成立後に信を問うのが続いてましたから、解散しなきゃそれはそれでケチが付くのは間違いないんで、早期解散しない選択肢はなかったと思いますけどね。だいたい各候補者、絶対解散しないって言ってたひといなかったような。総裁選中の解散関係の発言、まったく注目してなかったです。そんな正直に答えられる質問じゃないのに一つ覚えで質問する記者の方もどうかと思ってました。

    時間経過によって自民保守票は回復するのか、野党共闘は進むのか。後者は明らかでしょうが、前者はわかんないですよね。
    「嫌いだけどしゃーねー」パターンで石破氏に票を入れた議員から見ると、時間とともにさらなる支持率低下を心配したかもしれませんね。

    私の住む神奈川の選挙区の自民議員は「ガネーシャの会」です。
    どうしよっかなー。(笑)
    難しいのは、自分の投じた一票の結果が議席数に及ぼす影響が読めないところなんですよね。

    よく考えて、大事に権利を行使したいと思います。

    • 石破氏は「解散は野党と話し合って」と明確に言ってたんですね。
      それを後ろ盾氏が変更させた可能性。

      後ろ盾氏(or管理者)は今後、石破氏にどの程度の自由度を認めるんでしょうかね。

  • 媚中自民党にノーを突きつける選択肢を与えられる和歌山の皆さんがうらやましいです。

  • 早速,解散ですか.
    総裁選で小泉坊ちゃんが唱えてた早期解散には否定的な疑念を示して批判していたのにね.
    しかも,自分が正式に内閣総理大臣になってからならばともかく,まだ単なる予定の段階でねえ.
    昔から言うじゃありませんか,「予定は未定で決定に非ず」とね.

    それにしても石破新内閣は凄まじい布陣ですね.

    火器管制レーダー照射事件で韓国にペナルティを科すどころか「信じることが大切だ」などという寝言をほざいてロクな抗議すらしなかった岩屋元防衛相を,日本外交の舵取りを担う外相に据えるとはね.只の悪夢としか思えない.

    それに故安倍総理を国賊呼ばわりした村上さんを入閣ですか.

    他にも中谷元さんとか問題児がテンコ盛りの内閣ですね.素晴らしい組閣センスだこと.

    他方,旧安倍派からは入閣ゼロ.
    ここでも石破さんのスバラシイ人間性が良く反映されていること.

    そう言えば,高市下げのためとはいえ決選投票で石破さんに協力してくれた岸田派も閣僚ゼロなのかな? いやあ用済みになったら只のゴミとばかりにポイ捨てですか.

    石破さんの人間性は本当に素晴らしいなあ,こういう人間性だからこそ幾多の挫折を乗り越えて頂点にまで登り詰められるのかと,ここまで具体的な事例で示して頂けると感動すらしてしまう.

    昨日も書いたが,自分は安倍さんに敗れた時,勝者の安倍さんから幹事長の座でもって遇されたのに,自分が勝者になったら敗者の高市さんを幹事長にはしようとせず,岸田さんが総理の時に「言うだけ言わせて無視しておけば飼い殺しにできる」と証明した党政調会長のポストを提案するという器量の小ささ.

    その件を述べた昨日の※では書きそびれたが,政調会長というポストは総理次第で簡単に飼い殺しにされて徒に時間を浪費させられるだけになり得ることを経験済みの高市さんだから,政調会長を提案してやれば高市さんの方から確実に断って来ると石破さんは最初から計算してたのだろうが,だから姑息だとか小狡いと言われるのだよ,君は.

    そして現実離れしていて空疎な言葉だけのアジア版NATO.
    西ヨーロッパ(と米加と)で何故にNATOを創れたのか? 
    それを可能にした西欧+北米諸国の内的条件と外的条件は何なのか?
    それら内的・外的な諸条件は,対中封じ込めが目的の筈のアジア版NATOを組織するはずのアジア諸国も満たしているのか?

    これらのことを全く考えずに,「中共は困るから封じ込めなくっちゃ.そうだ,西欧はソ連/ロシアの脅威を封じ込めるための軍事機構としてNATOがあるから,あれをパクっちゃえ」ぐらいの考えで言ってるんだろうな,アジア版NATOは.

    • NATOを拡大させて
      ワルシャワ条約機構という名前の機構を発足させたら面白いかも

    • 高市さんが党幹部を固辞したのは「次」を考えているからではないでしょうか。
      小林さんも同じだと思います。
      仮に衆議院選挙で与党が過半数以上を確保しても、閣僚からボロが出てくれば内閣支持率や政党支持率も下がりますし、途中で投げ出すのではないかと思います。
      石破さんの事なので、主要閣僚を防衛族で固めていますが、これで安心だとも言えませんしね。
      安倍政権下で色々とやらかしている人がいますし、石破さんもその一人ですからね。

    • 石破氏が高市氏に提示したのは党総務会長、断られたので麻生氏の義弟(前財務相)を据えた
      幹事長代行に福田氏(旧清和会=安倍派)
      官房長官は岸田派の林氏が留任…

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