対外与信統計の日本の集計結果が出てきました。これによると、円安の影響もあるのでしょうか、6月末時点の邦銀の対外与信総額(最終リスクベース)は4兆9706億ドルと、5兆ドルの大台を割り込んでしまいました。ただ、円換算額ベースだと対外与信総額は799兆6763億円と、800兆円の大台乗せ目前です。こうしたなか、邦銀の香港と韓国向け与信がさらに減っていることは印象的です。
目次
国際与信統計(CBS)とはなにか
国際的な資金の貸借・投融資状況を見るうえで、最も確実な統計のひとつが、国際決済銀行(BIS)が四半期に1度公表している『国際与信統計』(Consolidated Banking Statistics)です。英語の頭文字を取って『CBS』と呼んだりすることもあります。
このCBS、この地球上のすべての銀行によるデータが収録されているわけではありませんが、「どの国からどの国に資金が流れているか」を手っ取り早く把握するうえでは大変に優れた統計です。
「報告国」は世界の31ヵ国・地域で、日銀の分類に従えば、先進国(21)、オフショア(3)、発展途上国(7)であり、これらの地域に存在する銀行から世界各国の各地域への与信状況を、このCBSにより把握することができる、というわけです。
先進国…21ヵ国・地域
オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国
オフショア…3ヵ国・地域
香港、パナマ、シンガポール
発展途上国…7ヵ国・地域
ブラジル、チリ、台湾、インド、メキシコ、韓国、トルコ
(【出所】日銀『BIS国際与信統計の日本分集計結果の解説』より)
ギリシャが「発展途上国」ではなく「先進国」に、台湾が「先進国」ではなく「発展途上国」扱いとなっている点について、個人的には違和感がないではありませんが、いずれにせよ、上記分類は日銀の公式ウェブサイトの解説に基づくものです。
最新国際与信状況(最終リスクベース)
それはともかくとして、日銀も四半期に1度、このBIS統計の公表に先立ち、日本独自の集計結果を公表しており、その最新版が26日までに日銀ウェブサイトで公表されました。
これによると日本の対外与信総額(最終リスクベース)は4兆9706億ドルで、前四半期と比べ1656億ドル減少しました。減少率でいえば3.33%です。図表1は、邦銀の与信相手国を上位20位まで並べたものです。
図表1 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年6月末時点、最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
これによると日本の対外与信はどの相手国に対しても減少しており、とりわけ米国、ケイマン諸島などに対する与信の落ち込みが大きいですが、想像するに、これは2024年6月末時点においては円安が進み、円建て与信などのドル換算額が減ったという効果が大きかったのではないでしょうか。
とりわけ3月末時点で1ドル=151円だった為替レートが6月末時点で160円を少し超過する程度にまで6%ほど円安が進んでいますので、対外与信総額が前四半期比3%ほど減っていたとしても、円建てで見れば3%ほど増えている、という計算です。
上位国は欧米豪に集中:タイが9位、中国が10位
興味深いのは、上位国です。
トップは米国で与信額は2兆3050億ドル、対外与信に占めるシェアは46.37%と、いわば、米国だけで邦銀の対外与信の半額近くを占めている計算です。日本の銀行が米国の消費生活を下支えしている、などとする指摘もあながちピント外れでもないのかもしれません。
また、2位のケイマン諸島は邦銀などにとってオフショア投資の拠点であり、税制優遇などのさまざまな要因により、仕組投資などのスキームに利用されることが多いです(ということは、いったんケイマン諸島に投資されたマネーの多くは、日本国債投資などを通じて日本国内に還流している、ということでしょう)。
一方で、3位から8位までの6ヵ国(英、仏、豪、独、ルクセンブルク、加)は、いずれも欧米豪諸国であり、アジアは向けは9番目に初めてタイ(973億ドル)が、10番目に中国(807億ドル)が、それぞれランクインしています。
アジア最大の経済大国であるはずの中国に対する対外与信が、タイに対するそれよりも少なく、欧米豪各国などと比べても圧倒的に少ないというのは、なんとも興味深いことです。
また、タイ、中国以外のアジア諸国に関しては、シンガポールが783億ドルで11位、インドが544億ドルで15位、インドネシアが475億ドルで17位、韓国が463億ドルで18位、そしてアジアのオフショアセンターだったはずの香港は、なんと451億ドルで19位です。
円換算ベースでは対外与信は増えている:800兆円台目前に!
なお、図表1で示した相手国別の与信額を、6月末時点の為替相場で円換算したものは、図表2のとおりです。
図表2 日本の金融機関の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年6月末時点、円換算額)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータおよびThe Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series デfータをもとに作成)
これで見ると、対外与信はもうすぐ800兆円の大台に乗せるというレベルで、円換算したらほとんどの国で与信が伸びているのですが、例外として韓国と香港に関しては、円建てに換算したとしても信額の減り方はかなり激しいことがわかります。
近隣国に対する与信状況
ちなみに日本の近隣国・地域に対する対外与信のうち、近隣6ヵ国・地域(中韓台港+北朝鮮+ロシア)、ASEAN10ヵ国に対する与信状況は、図表3の通りです。
図表3 日本の対外与信(アジア・近隣国向け、2024年6月末時点,最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
中国向け、台湾向け、ベトナム向け、ミャンマー向けなどに加え、ロシア向けががプラスに転じ例ますが、これらについては先ほども指摘したとおり、邦銀がこれらの諸国向けの投融資を積み増したからなのか、それとも単なる為替変動の影響なのかについては、これだけでは断定できません。
ただ、これらの図表からは、日本の金融機関がどこの国との関係を深め、どこの国との関係を薄めようとしているか、という「ベクトル」が浮かび上がってくることも事実です。
とりわけ邦銀が距離を置こうとしているように見えるのは、香港と韓国でしょう。
このうち香港については、邦銀による対外与信はコロナ禍の途中までは800億ドルに近づくなど増え続けていたのですが、香港国家安全法が施行されたあたりからでしょうか、邦銀の対港与信は減り続けており、また、対港与信シェアに至っては、2023年12月に1%を割り込んで以降、さらに減り続けています(図表4)。
図表4 香港に対する与信(最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
その一方、韓国に対する与信も、一時期は600億ドルを超えていた時期もあるのですが、近年では横ばいから減少傾向を維持しており、対外与信の対韓シェアは0.93%と、こちらも2023年6月に1%を割り込んで以来、低迷を続けているのです(図表5)。
図表5 韓国に対する与信(最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
いずれにせよ、「日中友好」だ、「日韓友好」だ、などと言いながらも、邦銀のアセット・アロケーションはなかなかにシビアです。
邦銀の対外投融資は欧米豪に偏重していること、アジア向けの与信はもともと少ないこと、そして中国、韓国、香港、台湾に対する与信についてもシェアが落ち続けていること―――などについては、特筆すべき本邦金融機関の特徴といえるのではないでしょうか。
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図表2を見ると、ドイツ相手は兎も角、オランダ相手の額が大きく減っていて、この理由は何か気になります。
>アジア向けの与信はもともと少ない
対経済規模(=GDP比)の観点では、相応の影響力を保持してるかと思います。
ASEAN圏に貢献し得る与信寄与の事実が日本を信頼たらしめる所以かとも。
・・・・・
https://www.youtube.com/watch?v=jNX4a1tOljw
↑かくざとういっこ♩
かくざとういっこ ゾウさんがたべました ちいさなちいさな かくざとう
かくざとういっこ アリさんがたべました おおきなおおきな かくざとう
ちいさなちいさな しあわせと おおきなおおきな しあわせで・し・たー♩
鈴置さんの本にも出てたけど韓国の金融はヤバいことになっているらしい。
邦銀の韓国向け与信が減るのはその反映か。
香港は「金融センター」としての存在感がなくなってきたのではないか。
対日貸し込み額はどうなのでしょうか。調べるのは大変そう。
台北加権指数が創新高していく中華民国台湾人、カネの使い道を探して日本を物色しています。さる2月のTSMC熊本工廠開設に合わせて刊行された「財訊2月22日号」表紙に踊っている文言は
・槍先直撃
日本廠2月開幕
人流金流超前部署
台積電兆圓投資
熊本
百年一隅商機
・専訪熊本縣知事
となっています。
香港については、強欲チャイナが「金の卵を産むガチョウ」を絞め殺した図が頭に浮かびます。それも、腹の中にあると期待した金をうまく回収する手立てを考えた上ってわけじゃなく、ガチョウの肉を喰らっても、金の卵は相変わらず手に入り続けるなんて、バラ色の夢に取り憑かれた結果として。
韓国の方はねぇ、「卵産まなくなったニワトリ」は、鶏ガラスープに使うくらいしか値打ちがないってことじゃないですか?
香港雨傘運動は若い世代が起こしたものですが、あれは世代間抗争という側面もあったと当方は考えてます。彼らが問題視したのは、カネ儲け以外に興味がなく、深圳東莞進出にうつつを抜かし、儲かったら誰より先に海外へ「潤」しようとする親世代の無責任さを間接的に攻撃するものでした。現実に蓄財を持ち、逃げおおせた連中は外でよろしくやっている。そして深圳東莞は今このようなことに。
毎度、ばかばかしいお話を。
○○:「香港向けと韓国向けの国際与信を減らすなんて、邦銀はどうかしている」
さて、皆さんは○○に何をいれますか。(もっとも、減らすのが正解だと分かったら、「内心では、最初からそう思っていた」と言い出すかもしれませんが)