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日韓スワップと消費増税の野田氏が立憲民主党新代表に

マニフェストにない消費税の増税を実現した。日韓通貨スワップを700億ドルに増額して韓国を助けたのに日韓関係が悪化した。破れかぶれ解散で民主党が再起不能なまでに惨敗した。野田佳彦元首相といえば、2009年から12年まで3年続いた民主党政権の最後の首相ですが、立憲民主党の刷新感なき「旧旧対決」を制したのは、野田元首相でした。

ビジネスマンと同様、約束を守らない政治家は信頼されない

著者自身は社会人であり、また、ちょっとしたビジネスを営んでいる「ビジネスマン」でもあります。

こうした立場からすれば、ずいぶんとさまざまな人たちとお会いしますが、その際に注意点があるとしたら、(あくまでも私見に基づけば)「どんな人を信頼するか」という論点であり、また、「どんな人を信頼しないか」という論点ではないかと思います。

その際に、やはりひとつの注目点は、「約束を守るかどうか」という論点です。

ビジネスマンやサラリーマンの世界だと、「担当者同士だと話を進めたいと思っていても、自分が所属している会社の上司がノーだといえば、それ以上、話が進まなくなる」というのはよくある話です。

こうしたときに、その相手が「僕が上司を説得するよ、トラストミー!」だの、「僕がこの職に留まっている間は絶対にそんなことしないよ、トラストミー!!」だのと威勢の良い発言をしていたわりに、実際に話が進むとその相手の約束が「空手形」になってしまう、といった事態は、わりとよく発生することでもあります。

「約束を守る」。

これは、信頼の第一歩ではないでしょうか。

民主党アーカイブ『政権交代』

そして、これとまったく同じことが日本という「国」単位で頻繁に発生した時期が、2009年から2012年だったと記憶しています。

私たちの国・日本は、中国やロシアなどと異なり民主主義国家ですので、私たち日本国民が主権者であり、政権与党は私たち主権者が選挙で投票した結果に基づき選ばれます。その際に、政権与党になろうとする政党は、「我々はこれを達成します」、と、有権者と約束をするのです。これがマニフェストです。

いまでも『民主党アーカイブ』に残っている、『政権交代』と題したパンフレットによると、『鳩山政権の政権構想』には、こんなことが掲載されています。

5原則
  • 原則1 官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ。
  • 原則2 政府と与党を使い分ける二元体制から、内閣の下の政策決定に一元化へ。
  • 原則3 各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ。
  • 原則4 タテ型の利権社会から、ヨコ型の絆(きずな)の社会へ。
  • 原則5 中央集権から、地域主権へ。

(【出所】民主党アーカイブ資料P2より)

政権政策の実行手順
  1. マニフェストで国民に約束した重要政策を、政治の意志で実行する。
  2. 「税金のムダづかい」を再生産している今の仕組みを改め、 新たな財源を生み出す。
  3. その他の政策は、優先順位をつけて順次実施する。
  4. 政策の効果を検証し、次の年度に反映させる。

(【出所】民主党アーカイブ資料P3より)

八ッ場ダム中止/普天間移設/オフレコ発言

どちらかといえば「官邸主導の政治」が実現したのは民主党の鳩山、菅(直人)、野田の3政権時代ではなく、これに続く自民党の安倍晋三政権、菅義偉政権の頃ではないか、といったツッコミどころもさることながら、実際に民主党が政権を獲得したあとの動きを思い出しておくと、何ともいえない気分になります。

マニフェストの4ページ目に、こんな記述が出てきます。

国の総予算207兆円を全面組み替え。税金のムダづかいと天下りを根絶します。議員の世襲と企業団体献金は禁止し、衆院定数を80削減します。

議員の世襲という意味では鳩山由紀夫氏自身も世襲議員ではないか、といったツッコミどころもありますが、それ以上に、こんな記述も重要です。

川辺川ダム、八ツ場ダムは中止。時代に合わない国の大型直轄事業は全面的に見直す」。

八ッ場ダムといえば、現実に民主党政権下でいったんは建設が中止されたものの、群馬県や長野原町といった地元自治体や共同事業者である東京都、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県といった自治体からも強い反発の声があがり、結局は2011年末に建設再開が決定。

その後は2019年の台風19号で治水効果が認められる(※異説あり)などしていますが、この八ッ場ダムを巡る混乱を見るだけでも、民主党政権の素人ぶりがよくわかる、といったところでしょう。

結局、鳩山首相自身は普天間飛行場の辺野古移設を巡り、「最低でも県外」などと発言して事態を混乱させ、バラク・オバマ米大統領(当時)に「トラストミー!」などと叫んだものの、移設先の代替案も示せないまま、2010年6月に政権を投げ出してしまいました。

続く菅直人政権下では、菅直人首相本人に外国人からの献金疑惑が持ち上がり、そのタイミングで生じた東日本大震災では災害対応への素人ぶりを遺憾なく発揮しました(※個人的に、福島第一原発の水蒸気爆発の原因は、だいたい菅直人氏のせいだと考えています)。

さらには、松本龍・復興対策担当相が同年7月3日に地元自治体を訪問した際、マスコミ陣のいる前で暴言を吐き、「今のはオフレコ。書いた社は終わりだから」などとマスコミを恫喝したものの、地元メディア・東北放送が勇気を出してこの発言を放送。

ネットに転載されるやいなや「大炎上」し、松本氏はその発言から2日後の7月5日に辞任し、2012年12月の衆議院議員総選挙では無事、落選しています。

この松本氏自身は2018年7月に他界していますので、故人を過度に批判するつもりはありませんが、いずれにせよ、民主党政権の「失敗」を象徴する人物のひとりであることは間違いないといえるでしょう。

再エネ賦課金、消費増税、復興税、日韓通貨スワップ

さて、そんな民主党政権のなかでも、なんといっても思い出深いのは、「増税」および「国民の負担増」でしょう。

民主党政権時代に国民負担が増額されるきっかけを作ったものとしては、少なくとも復興税、再エネ賦課金制度、そして2度にわたる消費増税です(正確には「消費税と地方消費税」ですが、本稿では便宜上「消費税」と称します)。

これらの増税ないし国民負担増には、「(当時の野党だった)自民、公明両党も賛成していたし、政権を取り返したあとで廃止することもできたはずなのにそれをやらなかった(から自公両党の責任だ)」、といった主張もあります。

しかし、それを「始めた」のが民主党政権時代だった、という事実は変わりません。

とくに民主党はマニフェストのなかで「税金の無駄をなくす」、「埋蔵金を発掘する」などと称していたにも関わらず、現実にたった3年あまりの政権で増税を実現したわけですから、これは(一部ネット用語でいう)「詐欺フェスト」、などと批判されても仕方がありません。

そして、消費税の増税法案を提出したのが、野田佳彦内閣だった、というわけです。

ちなみに野田政権時代といえば、個人的には就任早々の2011年10月、当時130億ドルだった日韓通貨スワップの規模を一気に700億ドルに増額し、これにより韓国の通貨・ウォンが安定し、翌・2月にはエルピーダメモリが経営破綻に追い込まれた、というエピソードを思い出します。

また、巨額の日韓通貨スワップのおかげで、欧州債務危機の余波が韓国に波及するのを防いだ、という意義もあったにも関わらず、韓国は日本に自称元慰安婦問題を蒸し返し、李明博(り・めいはく)大統領(当時)は日本を侮辱こそすれ、感謝することなどいっさいありませんでした。

金融評論的な立場からすれば、野田首相といえば、どうしても「消費増税」と「日韓通貨スワップ増額」という、なんとも強烈な2つのエピソードを思い出してしまう、というわけです。

刷新感なき旧旧対決を制した野田氏

結局、野田首相は当時の野党・自民党の故・安倍晋三総裁との国会論戦で衆院解散を約束し、2012年12月の総選挙では自民党が圧勝して第二次安倍政権が発足し、かたや民主党(やその後継政党である民進党、立憲民主党)は大型国政選挙でただの1度も第1党になれず、党勢が低迷しています。

その意味で、野田首相は民主党、民進党、そして現・立憲民主党にとっては、党崩壊の引き金を引いた人物として逆恨みされているのではないか、という気がしないではありません(といっても、鳩山、菅両政権時代に、民主党は有権者の信頼をかなり喪失していた可能性もありますが…)。

こうしたなか、23日には立憲民主党の代表選が行われ、『事実上の旧旧対決か…立憲民主党代表選「刷新感」は?』でも予想したとおり、枝野幸男、野田佳彦両氏による事実上の「刷新感なき旧旧対決」となり、最終的には野田氏が勝利を収めました。

これについては立憲民主党の国会議員やサポーターらの選択の結果であり、部外者として「その選択が正しかったのですか?」などと申し上げる立場にはありません。その決断を尊重する、としかいえません。

また、枝野氏と比べ、より保守的とみられる野田氏が代表に就任したことで、立憲民主党がより穏健で現実的な路線を取るのではないか、といった期待も一部ではあるようです。

それに、故・安倍総理のように、(体調の都合もあって)いったんは退陣を余儀なくされたものの、再び政権与党の座に戻ってきた、という事例もあるわけですから、いったん辞めた人物が再びトップに立つことを無碍に否定すべきではありません。

ただ、くどいようですが、著者自身はその人を評価する際には、その言動だけではなく、その人が「何をやってきたのか」という軸も必要だと考えている人間です。

  • マニフェストにない消費税の増税を決断した。
  • 就任後すぐに日韓通貨スワップを増額した。
  • やぶれかぶれの解散で民主党を野党に転落させた。

そんな野田元首相の再登板で日本の政治シーンはどうなるのでしょうか。

まぁ、ぶっちゃけあまり変わらないという気もしますが。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 旧民主党政権で何が駄目だったのか
    そうした総括を聞いた記憶が無いのですがやっているのでしょうか?

    かつての民主党は有権者から支持を受けて政権を担いました。
    ただしそれ以降はそっぽを向かれています。
    自民党の支持率が下がっても野党の支持率は上がりません。
    それだけ就職率の悪化赤松口蹄疫でに無策無能さが打撃となっているのでしょう。

    国民の多くは政権を担える野党を望んでいるのではないかと考えています。
    ですが果たしてできるのでしょうか?

    無党派層よりの政策を打ち出すとコア支持層が阿鼻叫喚となり
    コア支持層受けの政策を打ち出すと支持率が増えません。
    進むも地獄退くも地獄
    野党は改革が必要です。

    • >旧民主党政権で何が駄目だったのか
      そうした総括を聞いた記憶が無いのですがやっているのでしょうか?

      あの人達には反省は全く無いです
      無いどころか「悪の権化の自民党を斥けた栄光の歴史」と、心の底から信じています
      枝野、菅(最高顧問)、野田(新代表)、辻元・逢坂(代表代行)、岡田(幹事長)、長妻(政調会長)、安住(国対委員長)、(蓮舫)・・

      いつまで経っても悪夢政権の昔の名前が幅を利かせているのも、何の反省も無いからです

  • 立憲の野田(新)党首は、元総理であることは事実です。そして、その時の業績を、評価するか批判するかは人それぞれです。そして、批判する人が多ければ、元総理を党首に選んだことが、立憲にとって裏目にでることもあります。立憲は、そこまで覚悟して野田党首を選んだのでしょうか。(党首、総理を経験したことがない人を選べば、経験不足という批判はあっても、過去の失敗への批判はなくなります)

    • ロシア哨戒機が、昨日、3回の日本領空侵犯を行いました。「政権をとる」と言っている以上、野田(立憲)党首には、立憲として、この件にどう対応するのか言ってもらいたいものです。

  • しかもこの人物は、『女系天皇容認論』を「皇統の安定した継続の為」などと言いながら発言したりしています
    政権を投げ捨ててまで断行した消費増税にしてもそうですが、要するに自分の言ってる事の内容すら、なーんも分かっちゃいない人物だと思われます
    分かってないわりには、言ってる内容は日本国・国民にとって多大な損害となる事ばかりで、同じく何も分かってないで思いつきを言う類形の、小泉、石破、あるいは鳩山などと比べて、危険の度合が更に高いとも言えると思います
    こんな人物を一部の人は「立憲党内の保守派」の様に言ったりしてますが、とんでもない見当違いで、期間を少なく見積もっても1600年以上の皇室の伝統を覆そうとしてるのは、保守や左翼というより、国家転覆計画者、テロリスト、アナーキスト、原理主義者、大逆罪・・・そういう極端な言葉の範疇の方が当てはまると思います
    しかも自分でよく分からず発言、行動してるという危険人物です・・

  • >やぶれかぶれの解散で民主党を野党に転落させた。

    これは野田元総理の正の成果だったと思います♪
    お灸を据えるつもりでお灸を据えられたひとりとしては、自身の選択ミスを取り戻すチャンスを早期にいただけたことは、素直に感謝なのです♪

  • 率直な感想としては「嫌な人がなったな」と思いました。
    立憲民主党には、早々に消滅してくれることを希望していたのですが、野田になれば、少し延命しそうです。泉続投でよかったのにな。。。

    それでも、少しは野党がマシになるかなぁ、とも思います。全く期待してませんが。
    「ゴミの中から使えそうなゴミを選ぶのが選挙」だとすれば、野田は立憲民主党の中ではかなりマシな方だと思う。お手並み拝見と言ったところでしょうか。

  • Z大歓喜でしょうね。
    Zによる自民党潰し立憲推しとか無けりゃいいんですけどね…

  • 帰って来た亡霊政権を衆議院選挙で打ち倒す総裁はこのひとしかいない。という展開になってくるのでしょう。
     「failure is not an option」失敗という選択肢はない。
    自民党の決めることですが。