石川県能登半島地震の被災地が豪雨被害に遭っているなか、被災地の皆さまのご無事を心よりお祈りしたいと思います。こうしたなか、ニューヨークへの外遊を行った岸田首相に対し、「災害対策そっちのけで外国に遊びに行くとは何事か」、「首相は今すぐ帰って来い」、などと批判する意見が出て来ています。岸田首相自身が防災の陣頭指揮を執れ、とでもいわんばかりの意見ですが、ツッコミどころが多くて困ります。
目次
岸田首相に高まる非難
今年1月1日に発生した能登半島地震の被災地でもある能登半島では今月、記録的な豪雨被害が生じています。
豪雨の被害に遭われている皆さまには心よりお見舞い申し上げますとともに、ご無事と1日も早い復興をお祈り申し上げます(あくまでも個人的な対応としては、今年のふるさと納税は石川県内の自治体に優先的に実施させていただこうと考えています)。
さて、この豪雨を巡って岸田文雄首相に対する非難が集まっています。岸田首相自身が9月19日、能登半島地震の被災状況の視察を目的に石川県を訪問したばかりのタイミングではあるのですが、今回の豪雨被害は、その翌日である20日からの豪雨によりもたらされているものだからです。
そして、岸田首相は21日から米ニューヨーク訪問に出掛けているわけですが、こうしたなかで、X(旧ツイッター)などを眺めていると、「能天気に外遊している場合か」、「岸田(首相)は今すぐ卒業旅行を切り上げて日本に帰ってこい」、といった書き込みが散見されます。
酷いケースだと「岸田(首相)よ、今すぐ辞任しろ!」、などと罵倒する書き込みもあります(岸田首相は今週27日に投開票を迎える自民党総裁選に出馬していないため、べつにいま辞任しなくても、遅くとも来月早々には内閣総辞職すると思われますが…)。
岸田首相は「災害対策そっちのけ」で外国に「遊びに行った」のか?
彼らに共通するのは、「災害対策をそっちのけにして外国に遊びに行くなんて、とんでもない」、といった発想ではないでしょうか。
もしかして、彼らは岸田首相本人が外遊を止めて首相官邸に籠って指示を出せ(あるいは被災地までヘリで出かけて陣頭指揮を執れ)、とでも言いたいのでしょうか?それとも単に、自民党政権が不満で、岸田首相のやることなすことにイチャモンを付けたいだけなのでしょうか?
結論からいえば、岸田首相は「災害対策をそっちのけで外国に遊びに行った」わけではありません。
事実関係を整理しておくと、9月21日12時26分の時点で、岸田首相は次の3点を指示しています。
- 国民に対し、避難や大雨・河川の状況等に関する情報提供を適時的確に行うこと
- 地方自治体とも緊密に連携し、浸水や土砂崩れ等が想定される地域の住民の避難が確実に行われるよう、避難支援等の事前対策に万全を期すること
- 被害状況を迅速に把握するとともに、人命第一の方針の下、政府一体となって、災害応急対策に全力で取り組むこと
(【出所】首相官邸ウェブサイト『9月20日からの大雨に関する総理指示(12:26)』より)
この指示に先立って、政府は20日15時の時点で情報連絡室を設置し、関係省庁災害警戒会議を開催しており、岸田首相の指示があった21日12時26分の時点で官邸対策室に改組。内閣府においても20日15時の時点で情報対策室を設置し、翌午前10時には災害対策室に改組しています。
以上は官邸・内閣府の初動ですが、気象庁、警察庁、消防庁、海上保安庁、防衛省、総務省、財務省、文科省、厚労省、経産省、国交省、環境省、国土地理院なども各自必要な対処を講じており、被災地である石川県庁も21日9時7分付で災害対策本部を設置しています。
令和6年9月20日からの大雨による被害状況等について
―――2024/09/21 16:00付 内閣府HPより
必ずしも首相が陣頭指揮を執るというものではない
「岸田(首相)は何にもしていない」と述べる皆さまには、これのどこが「何にもしていない」証拠だといえるのか、ちょっと教えていただきたいと思います。
というよりも、災害に際し、首相自身が現場にやって来て陣頭指揮を執るべきものなのでしょうか?
そもそも論ですが、地震、台風を含めた自然災害への対応は、昭和34年の伊勢湾台風を契機に制定された災害対策基本法のなかで体系化されています。
これによると災害対策本部は国、都道府県、市区町村レベルで設置されるものですが、たとえば避難指示などは基本的に自治体(都道府県、市区町村)レベルに委ねられていますし、国と自治体で適切な役割分担がなされています。
政府防災ホームページの『市町村が実施すべき主な対策(フェーズ別)一覧』によると、各自治体は平時から防災に向けて体制を整備することとされており、首相がいちいち災害時に直接命令を下さなければならない、というものではありません。
(余談ですが、2011年の福島第一原発事故に関する調査報告書を読むと、「首相官邸が事故対策に逐一口を挟んだことが被害を拡大した」とも読めますが、いずれにせよ、あまり能力の高くない人物が首相を務めている際に陣頭指揮を取られると現場が混乱する、という側面もあります。)
このあたり、「岸田(首相)は外遊を止めてさっさと帰ってこい」、などと主張している皆さまは、いったい何に基づいてそう考えていらっしゃるのかは存じ上げませんが、少なくとも災害対策基本法を含めた法体系を学習したことがないことだけは間違いありません。
「外遊」とは「外国に遊びに行くこと」なのか?
また、「岸田(首相)の外遊」という表現についても、彼らは大いに勘違いしている可能性があります。
そもそも「外遊」とは、「外国で遊ぶ」、の意味ではありません。「外国で視察をしたり、会議をしたりすること」です。実務を知らないとこの手の勘違いをすることがままあります。
もちろん、かつては「外遊」と称し、大型連休中にフィリピンでゴルフを楽しむなど、「本当の意味で」遊んでいた、旧民主党の石井一副代表のような者もいました(たとえば下記記事など参照)。
民主・石井氏、党震災副本部長を辞任 外遊ゴルフで
―――2011年5月9日 18:52付 日本経済新聞電子版より
この点、もちろん自民党にも、2023年夏、フランスに物見遊山に出掛けたと批判された松川るい参議院議員や広瀬めぐみ参議院議員らのような事例もないわけではありません(『松川るい氏が自民女性局長辞任で事実上の「幕引き」か』等参照)。
ただ、旧民主党のような実務感覚がない政党ならいざしらず、少なくとも岸田首相に関しては、今回のニューヨーク出張は間違いなく、日本の国益のためには不可欠なものでした。国連総会出席はもちろん、日米豪印のいわゆる「クアッド」の首脳会合や日米・日豪・日印の各首脳会談もこなしているからです。
日米豪印4ヵ国の枠組みは、故・安倍晋三総理大臣の置き土産を、岸田首相の前任者である菅義偉総理大臣が完成させたもので、いわば、「基本的価値を共有する国家群」が中国、ロシア、北朝鮮といった無法国家群に対峙する、といった可能性を開くものでもあります。
この点、インドが対ロシア制裁に加わっていないなど、本当の意味で日本と基本的価値を共有している国だと言えるのかは微妙ですが、それでもこうした連携を前に進めていくことは重要です。
実務家の感覚からすれば、やはり組織で仕事をしている以上、それぞれの職責に応じた役割があるわけですし、もしも輪島のために岸田首相が外交上の利益を喪失してまで日本に戻ってきたところで、岸田首相にできることは限られています。
こんな基本的なことくらい、少なくとも一般的な社会常識を持っていれば、誰にでもわかりそうなものですが…。
都合が悪いとブロックして逃亡
こうしたなか、Xでこの手の「岸田(首相)は日本に戻ってこい」、などと述べる人たちに対し、上記内容を簡潔に指摘すると、だいたいアクションは決まっています。
「ブロックする」、です。
たとえばこんなやり取りなどがわかりやすいでしょう。
山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士が「外遊=外国に遊びに行くこと」と勘違いしているかのポストに対し、岸田首相の公務について指摘したところ、別のユーザーが「災害より公務優先/人の命より我が身ってことですね」と反応。
これについてこの自称会計士が岸田首相の災害対策や外遊についての概要をまとめてポストしたところ、このポスト主は自称会計士に対し、「外務大臣にやらせろ」「岸田はのこれ」(※原文ママ)などと罵倒したうえで、最終的には自称会計士をブロックして逃亡してしまったのです。
ちなみに「アホやろ?」などの暴言、文脈などにも依存しますが、一般的に侮辱に相当します。
ですので、Xなど不特定多数の人たちが訪れるネットサイトで、この手の侮辱語を安易に使用しないことは強くお勧めしたいと思います(著者自身はこのスクリーンショットを保全しています)。
実務感覚のない人たち
なお、Xを長年やっていると次第にわかってきますが、この手の「議論が通じない人」、「ちょっと反論されたらすぐにブロックして逃げる人」には、おそらく多くの場合、いくつかの特徴があるようです。まずは、「反ワクチン」、それから「反米軍基地」「反原発」「有機農法推し」。支持政党は特定政党(左派政党や自称保守政党など)。
かなりの確率で、だいたいこれのいくつかに当てはまっているようなのです。
いずれにせよ、日本という国は言論の自由が許されていて、岸田首相に対し「岸田!お前辞めろ!」などとネットに書き込んだとしても逮捕されることはないわけですが、ただ、そのような「実務感覚を欠いた言いがかり的な投稿」は、見る人が見れば「あなたはいったい何を言っているのですか?」状態です。
あまり厳しいことは言いたくないのですが、その人の主張を見るだけで、その人が企業や役所といった組織の現場で厳しい実務を経験して来た人なのかどうかが何となくわかってしまうというのも興味深い限りだ、などと思う次第です。
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「実務感覚のない人たち」の理論でいくと、
こんな非常時に某党は代表選挙の投票なんてやってて大丈夫かいな、
ということですね。
あ、某党は石川県で衆参の議席もってないようなので、問題なしなのかな。
なお、比例復活の方はいらっしゃるようです。
ざっと目を通しただけですが、紹介されたX投稿者に対しては「世も末」という感想しかありません。それへの対応ご苦労様です。
X投稿者には、隣国韓国の風を感じました。韓国メディア(例えばハンギョレなど)では大統領の一挙手一投足にクレームをつけて退任を迫ります。「一君万民主義」というのでしょうか、世の中トップ次第という発想なんでしょうね。残念ながら。
あっち系の人達の発信なのだから、
当然最高指導者様が現地(今回の場合は能登)に
行かなければなりません。
最高指導者様のご指摘・お言葉無くして
そこらのお役人様が勝手に行動する事は許されないのです。
だから、311の東日本大震災の原発事故の時も、最高指導者様が
現場に行って、各職員にお言葉をかけないといけなかったのです。
そう、中共・半島諸国みたいにね。
こういう批判は、レベルの低い人をターゲットにしているプロパガンダの可能性がある。だいたい「被災地の人が災害で大変な時に~」「庶民が物価高で苦しんでいるときに~」という紋切型が多い。
「自分達は被害者に寄り添っている」と思い込み、「権力者は被害者に冷酷な態度を取っている」と考えているからでしょう。
政府・与党は見えないところで確りとケアをしているのに、パフォーマンス重視の彼らにとって、目立たなければ全てダメだと言う考えなのでしょう。
目立つだけでは後で弊害になる可能性もあると考えないといけないのですが、そこまで考えが到らないのでしょう。
災害対策は、本件について全権をもたせた代理をたてればよいが、外国での首脳会談は首相にしか出来ない、ということですね。
毎度、ばかばかしいお話しを。
○○(好きな言葉をいれてください);「岸田総理が日本にいれば、災害は起きなかった」
まあ、安倍元総理が台風を起こしたそうですから。
実務を知らずに、的はずれな正義を振りかざす人たち(自称ジャーナリストなども含む)。ブロックしても、コミュニティノートの着弾は避けられない。
新宿会計士さんは、この毒女さんの、「最愛の人」ではなかったようですね。おめでとうございます。
日本の、特に自民党の首相は何をやってもマスコミとそのシンパから叩かれる上に、仕事は分刻みの激務です。なのに首相になりたい人が9人もいるのですね。
野党党首の方がよっぽど楽ちんに見えます。
だから、何だということはなく、余計なお世話でした。
>野党党首の方がよっぽど楽ちんに見えます。
マスコミの口車に乗っかって、イ・チャモンを付けるだけですからね。
しかもマスコミによる擁護(不都合案件は、報道しない自由を行使)がありますしね。
此程楽な仕事はないと思いますよ。
なんか「野球を見ながら罵声を浴びせてビールを飲む」姿を浮かべてしまいました。
この方は心の均衡を保つための方策の一つなのでしょう
なんて弱い方なのでしょう
でも弱い方のしでかす事は恐ろしいものであることは知っています
注意することにしましょう
このような情報やコメ不足情報に関して個人のブログからしか情報を得られないことが不思議です。
能登の水害では仮設住宅の場所について非難している人間も多いです。なぜそこに建てざるを得なかったのかの情報が得られないからです。
ネットで個人が簡単に間違った情報を基にして発信できる時代になりましたマスコミの使命や矜持とはを問われる時代ですね。
「岸田は災害対策そっちのけで外遊」
毬谷氏、毒女氏ほか
「トランプはバイデンとカマラそっちのけで暗殺対象」
イーロン・マスク氏(表現は変えてますよ、もちろん w)
ブロックして逃亡と、削除してアレ冗談よと言い逃れする。
X投稿者の作法として、どっちがマシなんやろ?
リベラルな人達にロジカルな回答を求めるのは酷です。
処理水の件も含めてですが
自身にとって心地よい言葉を求めています。
憎き自民党を叩ければそれでよいのです