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中国外交部報道官「同様の事例はどの国でも生じ得る」

日本人児童の殺害事件を受け、中国外交部の報道官が19日の会見で、「中国はこれまでも、そしてこれからも、中国に滞在するすべての外国人の安全を確保するために効果的な措置を講じていきます」としたうえで、「同様の事例はどこの国でも生じ得る」と発言しました。とんでもない発言です。現に犠牲者が出ているわけですから。そんな国に日本人が10万人以上も暮らしているという点を、改めてどう考えるべきでしょうか?

中国外交部報道官の記者会見

本当に、衝撃的な事件です。

昨日の『家族帯同で中国に駐在することのリスクをどう考えるか』でも取り上げたとおり、中国の深圳市で18日、日本人学校に通う男子児童が登校中に男に襲われ、翌・19日未明に亡くなるという、大変に痛ましい事件が発生しました。

これに関しては、中国外交部(※外務省に相当)の林剣(りん・けん)報道官が日本人記者の質問に対し、見解を明らかにしています。

2024年9月19日外交部发言人林剑主持例行记者会

―――2024-09-19 21:55付 中国外交部HPより

関連する3つの質疑をそのまま抜粋すると、こんな具合です。

(共同通信記者の質問に対する回答)

中方对发这样的不幸事件表示憾和痛心,男孩去世表示哀悼,他的家人表示慰个男孩是日本国籍,其父母分别日本公民和中国公民。男孩遇后第一时间被送医,广省方面安排医学行了全力救。中方将他的家人料理后事提供必要助。目前,案件一步调查中,中方有关部将依法

(日経新聞記者の質問に対する回答)

根据目前掌握的情况,是一起个案。类似案件在任何国家都有可能生。中方对发这样的不幸事件表示憾和痛心。中国是法治国家,中国政府不容任何法暴力行,将依法调查案件、惩处犯罪分子。中方一直并将继续采取有效措施,保障所有在外国公民的安全。

(日経新聞記者の質問に対する回答)

才我提到,是一起个案,中日双方正就此案保持沟通。我终欢迎包括日本在内各国人士来旅游、学商和生活,将继续采取有效措施,保障在华外国公民的安全。我相信,个别案件不会影响中日两国交往与合作。

「同様の事例はどこの国でも発生し得る」

これを、翻訳エンジンなどを参考にしながら和訳すると、こんな具合でしょうか。

  • 中国は、このような不幸な事件が発生したことを遺憾に思うと同時に、児童の死を悼み、その家族に哀悼の意を表します。
  • 児童は日本国籍で、両親はそれぞれ日本国籍と中国国籍でした。広東省側は医療専門家を手配し、児童の救命に全力を尽くしました。中国側は少年の家族に必要な支援を提供するでしょう。現在、本件はまだ調査中であり、中国当局は法に則って対処します。
  • 入手可能な情報によれば、これは独立した事例であり、同様の事例はどの国でも生じ得ます。中国はこのような不幸な事件の発生を遺憾に思い、遺憾の意を表明します。
  • 中国は法治国家であり、中国政府はいかなる不法行為や暴力行為も決して容認せず、この事件を調査し、法に従って犯人を処罰します。中国はこれまでも、そしてこれからも、中国に滞在するすべての外国人の安全を確保するために効果的な措置を講じていきます。
  • 先ほども申し上げましたように、これは個別の事案であり、中国と日本はこの事案について連絡を取り合っています。我々は常に、日本を含むあらゆる国の人々が中国を旅行し、勉強し、ビジネスを行い、生活することを歓迎しており、中国にいる外国人の安全を守るために効果的な措置を取り続けます。
  • 個々の事件が日中間の交流と協力に影響を与えることはないと信じています。

いかがでしょうか。

あまり考えたくないですが、もしも日本で同じような事件が発生したときに、日本政府の報道官や官房長官あたりがこんなことを述べたら、それこそマスメディアは鬼の首を取ったかのように大騒ぎするのではないでしょうか?

遺憾の意を表するのは良いのですが、「中国は法治国家だ」、「いかなる不法行為も暴力行為も容認しない」だの、「中国にいる外国人の安全を守るために効果的な措置を取り続けます」だのと言われても困惑する限りです。現に犠牲者が出ているのですから。

また、同様の理由で、「我々は被害者の究明に全力を尽くした」、「我々は被害者の家族に必要な支援を提供するだろう」、などといわれても困惑する限りですが、それだけではありません。

なにより驚くのは、「同様の事例はどの国でも生じ得る」の部分ではないでしょうか。

この発言を聞いて、「今回の事例は中国のみで発生し得るものではなく、あくまでも特殊事例だ」、などと納得するという人が、日本国民の多数派を占めるものでしょうか。

いずれにせよ、この報道官の短い発言だけで、中国共産党政権というものが、いかに信頼できないものであるかはあきらかでしょう。

いや、「中国は法治国家である」の発言を見て、「あぁ、中国はたしかに法治国家だねぇ」、などと共感する人が、(とりわけまともな日本企業に勤める人の間では)極めて少数派であろうと考えられる、という点については間違いありません。

パナHD、中国からの一時帰国支援方針

この点、今回のような事件が生じ、日中が「断交」できるのか、という話になると、論点はまったく別です。

現実問題として、日本にとって中国は最大の輸入相手国であるとともに、米国に続いて2番目の輸出相手国でもあるからです。

また、私たち日本人は現在、身の回りで、さまざまな中国製品(衣類、雑貨などの軽工業品、家電やPC・スマホといった組立加工品)を使用しています。

これらの多くは中国以外の国でも作れる物が多いことは事実ではあるにせよ、今すぐこれらの製品を使うのを止めて国産品に切り替える、あるいは中国以外の製品に切り替える、といったことは、非現実的です。

したがって、中国からの輸入が続く限り、中国で製品の買い付けを行う日本人、あるいは中国に進出した日系企業で働く現地への駐在員としての日本人は、最低限、存在し続けると考えるべきでしょう。

ただし、その「人数」については、議論の余地があります。

実際に、中国駐在員と家族の一時帰国を支援するという動きも出て来ているからです。

パナソニックHD、中国駐在員と家族の一時帰国支援 深圳での男児死亡事件受け

―――2024/9/19 22:10付 産経ニュースより

産経ニュースによればパナソニックホールディングスが19日、中国に駐在している従業員と帯同する家族に対し、状況に応じ、会社負担による一時帰国の支援を実施する方針を明らかにしたのだとか。

この点、動きとしては鈍いといわざるを得ません。

6月に蘇州で日本人母子が襲われた事件が発生した時点で外務省が公式に中国に対する渡航アラートを発出していれば、企業としてはもっと早いタイミングで従業員の家族の一時帰国などの措置を打ち出せていた可能性もあるからです。

しかし、こうした動きが出てきたこと自体、腰の重い日本企業としても、中国における日本人の安全確保にリスクが高まってきたという認識がやっと広まってきた証拠かもしれません(というか、2012年の反日デモの時点で気付いておくべきだったのかもしれませんが…)。

じつは減り続けている日本人

もっとも、昨日の前出記事でも指摘しましたが、外務省の統計によると、中国に在住する日本人は(最近でこそ永住者は増えているとはいえ)「長期滞在者」は減り続けているようです。

2010年以降のデータで見ると、在中日本人がピークを付けたのは2012年の150,399人(うち長期滞在者147,863人、永住者2,536人)でしたが、これが2023年だと、約3分の2の101,786人(うち長期滞在者96,420人、永住者5,366人)にまで減っています。

この数値をグラフ化したものが、次の図表1です(製図の都合上、軸には2009年と2024年が表示されていますが、グラフ化の対象データは2010年から2023年までです)。

図表1 中国に在留する日本人(2010年~)

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

とりわけ、この「長期滞在者」とは、「いずれ帰国することを予定している人」という意味であり、典型的には留学生、あるいは企業の駐在員やその家族などが考えられます。

このあたり、「コロナで日本人が外国に行かなくなった」、などとする主張もよく見かけるのですが、これは現実の統計的事実とは合致しません。中国に在留する日本人が減り始めたのは、2013年以降のことだからです。毎年平均して4~5千人ほど減り続けた格好です。

2013年に関していえば、中国在留者は前年比15,321人減っていますが、その理由は2012年に中国全土で発生した反日デモの影響もあったのかもしれません。しかし、2014年以降も、毎年数千人ずつ減り続けているのです。

年間数千人といえば、減少率でいえば数パーセントというレベルであり、単年度で見たらさほど大きく減っているというレベルではありませんが、やはりこれが累積していけば、10年あまりで3分の1がいなくなるというレベルにまで減少したのでしょう。

貿易高は多いが…ヒト、カネの面では少ない日中関係

いずれにせよ、中国在留日本人が(毎年で見ると目立たないレベルであるとはいえ)減り続けている、ということは、日中の経済関係(というよりも、日本経済から見た中国の相対的な重要性)が徐々に低下している、ということではないでしょうか。

この点、「ヒト、モノ、カネ」という観点から、日中の関係を数字でまとめたものが、図表2です。

図表2 日中の経済関係(ヒト、モノ、カネ)
比較項目 具体的な数値 全体の割合
訪日中国人(2024年1月~6月) 3,067,987人 訪日外国人全体(17,777,186人)の17.26%
訪中日本人 データなし 不明
中国に在住する日本人(2023年10月) 101,786人 在外日本人全体(1,293,565人)の7.87%
日本に在住する中国人(2023年12月) 821,838人 在留外国人全体(3,410,992人)の24.09%
対中輸出額(2024年1月~6月) 9兆1414億円 日本の輸出額全体(51兆5173億円)の17.74%
対中輸入額(2024年1月~6月) 12兆0146億円 日本の輸入額全体(54兆7548億円)の21.94%
対中貿易額(2024年1月~6月) 21兆1559億円 日本の貿易額全体(106兆2721億円)の19.91%
対中貿易収支(2024年1月~6月) 2兆8732億円の赤字 日本の貿易収支全体は3兆2375億円の赤字
邦銀の対中国際与信(2023年12月) 833億ドル 邦銀の対外与信総額(5兆0435億ドル)の1.65%
中国の銀行の対日国際与信(2023年12月) データなし 外銀の対日与信総額は1兆2681億ドル
日本企業の対中直接投資残高(円建て)(2023年12月) 18兆7693億円 日本の対外直接投資全体(288兆8913億円)の6.50%
日本企業の対中直接投資残高(ドル建て)(2023年12月) 1358億ドル 日本の対外直接投資全体(2兆1357億ドル)の6.36%
中国企業の対日直接投資残高(2023年12月) 81億ドル 日本の対内直接投資全体(3506億ドル)の2.31%

(【出所】日本政府観光局、外務省、法務省、財務省税関、国際決済銀行、財務省、JETRO)

わかりやすくいえば、ヒト、モノ、カネの流れ、ということですが、日中で経済関係が大きいといえるのは貿易の分野(つまりモノの流れの部分)であり、ヒトの流れに関しては、少なくとも日本から中国への流れに関しては減り続けているという傾向があります。

さらにカネの流れ(国際与信や直接投資など)については、もともとサイズが小さく、正直、日本の銀行や企業にとっては、意外とすぐに「損切り」できる水準なのかもしれません。

このように考えたら、もちろん、著者自身は日中関係が今すぐに断絶状態に陥るとは思いませんし、外食産業を中心に中国に進出・展開している日本企業も多いわけですが、日本企業全体という視点で見れば、5年、10年という単位で見て、中国の相対的重要性を下げようとする動きは広まるでしょう。

というよりも、企業は海外進出等にあたって、常にリスク評価を実施すべきです。

従業員やその家族の生命と安全、といった観点から、中国に進出するということが許容し得るかどうか、あるいは中国外交部報道官の述べる「中国当局が日本人を含めた外国人の安全に配慮している」なる発言が信頼に値すると判断できるかどうか。

このあたりが日中関係の将来を占ううえでの、最初の大きなポイントであることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (28)

  • 海外事業のために優秀人材が掛かりっきりになり日本では本社機能が細っている。
    そうこぼしたところ、水原の高層マンションに住み、三星や LG のために黙々と回路設計をしているケイデンスのインド人電子技術者は Same in US と短く答えました。

  • (前日もコメントしましたが)近藤大介氏によると、今回の事件の動機は「失業のイライラ」ではないか、というものでした。
    >https://gendai.media/articles/-/137863
    もし、これが正しいとすると、これまでも、これからも失業者による、中国人相手または(日本人を含む)外国人相手の襲撃事件が増えることになります。ならば、日本のマスゴミも、その観点で取材することが重要になります。もっとも、そんな中国でそんな取材をすれば、直ちにスパイ容疑で捕まるかもしれませんが。
    蛇足ですが、日本のマスゴミは、中国で取材するとスパイ容疑で捕まるので、中国当局の発表を、そのまま伝えるか、現地のフリージャーナリストに取材させているのではないでしょうか。

    • もしかして、中国は今回の事件の(日本の)自民党総裁選候補や立憲党首選候補の反応を見ているのではないでしょうか。

    • 毎度、ばかばかしいお話しを。
      中国外交部報道官:「中国は、日本の政治家や企業経営者が、リスクをとって決断できるかのテストをしてやっているのだ」
      蛇足ですが、中国で外国部報道官は、中国共産党内部で、どれほどの権限をもっているのでしょうか。

    • もし日本企業が中国駐在を続けた結果、大きな被害を出して責任問題が発生したら、「内心では早めに中国から撤退した方が良いと思っていた」と言い出す日本の政治家や企業経営者が、大勢、でてくるでしょう。

  • 在中国の日本人学校の生徒は登下校はランドセルを着用するので一目で日本人だと判ります。
    中共外務省はどの国でも起こりうると火消しに躍起ですが、登校中に襲撃されたことを踏まえると日本人を標的にしたと考えるのが妥当です。
    10年くらい前ですが南朝鮮で反日旋風が吹き荒れた際、登校中の日本人生徒が襲撃された事件がありました、校舎に生卵や空瓶が投げ込まれることも。この時は日本人学校側からランドセル着用での登下校を禁ずる通知が発せられました。
    世界の国々で日本人子弟を標的としたヘイトクライムが生じる国は中国と南朝鮮の2か国だけです。大東亜戦争で壮絶な戦いを繰り広げた米国では同様の事件は生じません。
    なぜなんでしょうか

  • 中華民国台湾のステートメディア中央通訊のフォーカス台湾はこんな記事を公開しました。

    深圳で男児死亡 中国在住日本人が不安を吐露 保護者の声を取材
    https://japan.focustaiwan.tw/society/202409190007

    中文記事もセットで存在しているようです。

  • 私はテレビを見ませんが、Xなどの情報を見る限り、NHKはじめ、各テレビ局は火消しに必死なようですね。これがテレビ局内の蟲のせいなのか、政府からの通達なのかわかりませんが。
    変に憎悪を煽る必要はないですが、注意喚起等の正しい情報は発信してほしいと思います。

    外務省の渡航レベルは相変わらず0のまま。こう言うところですよね。ホントダメな省庁だと思います。

  • この問題は、個人・企業の問題ですが、本当は国が対応しないといけない。
    いくら国が中国の外交官に言っても、ロボットのように回答する女性報道官しか出てこない(日本を馬鹿にしている)。
    国が各企業に中国撤退を言わないと解決しない。
    もし、家族が中国民に殺害されたら企業は責任をとれない。
    中国に何を言っても知らないで終わってしまう。

  • 東郷「それで大臣 ... 要点はなんだ」
      「海外旅行? たびレジは安全対策の基本だ」

  • >同様の事例はどの国でも生じ得ます

    先日の事件の際にも「世界で最も治安の良い国」と外交部が述べて矢先ですがね。どこの国でも起こりえるような国が治安がいい国だって?
    毎度の言い逃れで一回転してます。

    昨日は忙しくてネットのチェックをしていませんで、今朝少しあちこち見て見ましたが・・・
    立場に関わりなく憎悪の感情の奔流が見えた気がして、ちょっとキツかったです。
    こんな国とも付き合わなきゃならないんですね。今更ですが。

  • 東郷「1.目立たない
       2.行動を予知されない
       3.用心を怠らない、だ」

    空港のラウンジでこれ見よがしにお大尽ぶってみせたり、大メーカーのロゴ入りバッグなりを手に移動するわきの甘い日本人旅行者たちを目にするたびに、ぉぃ気を付けろと内心思っています。自分はゴキ精神を発揮して背景に溶け込む術を鍛錬してます。

  • 東郷「アジュール社はもう撤退した」
    商社「!
       あんなやつらはただの臆病者だ」
    東郷「空港はじきに閉鎖する
       お前はあの世でビジネスをするつもりか」
      「社員の命ほど重要なものはない
       その程度のことが分からない上に立つ資格はない」
    (中略)
    商社「タイミングを逸するものに未来はないGはそういっていたな」

    (番外編1 万が一の「退避」への備えより剽窃)

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