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訪日外国人は過去最大規模だが…

2024年8月の訪日外国人数は(速報ベースで)293.3万人だったそうです。この数値は、前月と比べれば減っていますが、8月としては過去最大です。訪日観光需要が伸びている証拠と言えるかもしれません。ただ、それと同時に明らかにマナー違反をする外国人観光客が増えているのではないか、といった疑念も頭をもたげるところです。

この外国人旅行者の行動、なにがおかしい?

本稿の本文に入る前に、まずはちょっとした「腹ごなし」です。ここで、読者の皆さまには、次の文章を読んでいただきたいと思います。

満席近くいバスの車内で、健康そうな若い外国人旅客がバスの一番前の便利な場所に陣取り、持っていた大きなバックパックを隣の席においてドカッと座り、しかもバスが走り始めているにもかかわらず、ずうっと電話で大声で会話し続けている」。

この外国人の行動のツッコミどころは、いったいどこでしょうか。

答えを示す前に、まずは客観的な数値を確認しておきましょう。

今年8月の訪日者数、8月としては史上最大

先月の『観光産業もコスパの問題…外国人観光客入国税の創設を』などでも述べたとおり、ここのところ毎月、訪日外国人が過去最高を水準で推移しているようです。

日本政府観光局(JNTO)が18日に公表したデータ(※ただし速報値)によれば、2024年8月の訪日者数は2,933,000人と、6ヵ月ぶりに300万人の大台を割り込んだにせよ引き続き堅調で、8月としては過去最大を記録しました。

8月としての訪日者数
  • 2024年8月…2,933,000人(※速報値)
  • 2018年8月…2,578,021人
  • 2019年8月…2,520,134人
  • 2017年8月…2,477,428人
  • 2023年8月…2,157,190人

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

夏場になると訪日外国人数が落ち込むのは例年のことなので(図表1)、正直、あまり騒ぎ立てるべきことでもないのかもしれません。

図表1 日本を訪問した外国人合計

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

入国者数に偏りはある

なお、2024年7月における訪日外国人は、上位1~4位までが日本の近隣4ヵ国・地域であり、5位に米国が入る、という構造です(図表2)。

図表2 訪日外国人・国籍別内訳(2024年8月)
人数 構成割合
1位:中国 745,800 25.43%
2位:韓国 612,100 20.87%
3位:台湾 564,300 19.24%
4位:香港 246,600 8.41%
5位:米国 174,000 5.93%
6位:ベトナム 52,400 1.79%
7位:カナダ 46,900 1.60%
8位:豪州 41,000 1.40%
9位:フィリピン 39,000 1.33%
10位:タイ 34,700 1.18%
その他 376,200 12.83%
総数 2,933,000 100.00%

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

いずれにせよ、JNTOの統計にある「外国人旅行者の急増」については、とりわけ東京都内にて暮らしている人であれば、さまざまな場面で痛感するのではないでしょうか。

改めて当ウェブサイトを通じて著者自身が述べて来た内容を繰り返しておくと、訪日客の増加自体は望ましい話です。日本にさまざまなプラス効果をもたらすからです。

外国人が日本国内でそれなりにおカネを落としてくれること(つまり経済波及効果)が期待できることはもちろんですが、プラス効果はそれだけではありません。世界中に日本のファンを作り、世界中の人々から、日本を好きになってもらえる、という効果も期待できるからです。

日本人主演のドラマが高い評価

おりしも最近だと、「米テレビ界最高の栄誉」とされる第76回エミー賞で、ドラマ『SHOGUN 将軍』がドラマシリーズ部門の作品賞など歴代最多の18部門を獲得したことが話題となっています(主演・プロデューサーの真田広之さん自身も主演男優賞を獲得しています)。

エミー賞で歴史的快挙!「SHOGUN 将軍」キャスト単独インタビュー【まとめ】

―――2024年9月16日付 シネマトゥデイより

今回の「歴史的快挙」で日本に対する世界の印象がさらに良くなることに、多少なりとも貢献している可能性はありますし、また、今回の受賞は日本を直接訪れる米国人などが増えているなど、日本に対する関心が高まっている間接的証拠ともいえなくはありません。

いずれにせよ、国家ブランドとして見てみるならば、歴史的遺構も多く、独特の文明を維持・発展させてきた日本が世界中で特別な存在感を放っていることは間違いなく、こうした観点からは、「日本旅行」が一種のブランドとなることで、世界の人々から見た日本の印象がさらに良くなる効果も期待できるかもしれません。

このあたりは、 “Shogun” だ、 “Samurai” だ、 “Ninjaだ” 、といった具合に、英語圏の人にも通じる日本語が増えて来ているという点も踏まえて、非常に興味深い現象です。

米国などで、「日本の歴史」オタクが発生している可能性は、それなりにあると言えるのかもしれません。

インバウンド振興は正しいのか?

ただ、それと同時に数字的な面の話でいえば、インバウンド観光は経済波及効果という観点で、十分とは言い難いのも事実です。

貿易統計などによれば、自動車産業は関連産業も含めて、(昨年実績で)年間20兆円を超える莫大な輸出をもたらしていますし、トータルで100兆円少々の輸出のうち、自動車産業を含めた工業は、(カウント方法にもよりますが)輸出額の約8割を占めています。

また、国際収支統計によれば、第一次所得収支(おもに外国向けの株式・債券等の有価証券利息配当金や子会社株式からの配当金などの純受払額)は、2024年7月までの1年間で、なんと37.6兆円(!)という巨額の黒字を計上しており、結果的に経常収支も26.5兆円の黒字となっているのです。

これに対し、旅行収支の黒字は4.9兆円の黒字で、黒字幅の絶対値としてはたしかに大きいのですが、経常収支が黒字化している大きな要因のひとつは、外国人観光客が日本に多くやって来ているから、というものだけでなく、単純に日本人が出国しなくなったことも大きいというのが実情です(著者私見)。

なにより、観光業はもともと、典型的な労働集約産業であり、今後の日本社会において労働力不足が深刻化するとみられることなども踏まえると、観光業に過度に依存した産業構造には、リスクがあります。

こうした観点からは、観光産業を現在並みに振興するつもりならば、その収益性を高めることが必要です。

すなわち、新規の需要を掘り起こすなどの努力はもちろん必要ですが、わが国の観光政策が必要としているのは、どちらかといえばリピーターなど、高付加価値をもたらす観光需要をいかに振興していくか、といった論点ではないでしょうか。

外国人観光客のマナーの問題

さて、冒頭の次の文章を再掲してみます。

満席近くいバスの車内で、健康そうな若い外国人旅客がバスの一番前の便利な場所に陣取り、持っていた大きなバックパックを隣の席においてドカッと座り、しかもバスが走り始めているにもかかわらず、ずうっと電話で大声で会話し続けている」。

この行動、いかがでしょうか。

これについて東京空港交通株式会社のウェブサイトに設けられた『ご利用ガイド』のページによると、こんな趣旨の内容が記載されています。

優先席を必要とされているお客様に席をお譲りください

当社の車両は、前方4席を優先席としております。(共同運行他社車両では異なる場合があります)/お体の不自由な方、高齢の方、怪我をされている方、妊娠されている方、小さなお子様連れの方にお席をお譲り下さい。

マナーモードの設定をお願いいたします

優先席付近では携帯電話の電源をお切りください。その他の座席ではマナーモードに設定のうえ、通話はご遠慮ください。なお、メールやWebをご利用の際は周囲の方のご迷惑にならないよう、音が出ないマナーモードでご利用ください。

車内ではお静かにお願いいたします

お休みの方もいらっしゃいますので、ヘッドフォンの音量や大きな声での会話は控えめにお願いいたします。

荷物等での座席の占有はおやめください

次の停留所から乗車されるお客様のために、荷物や衣類などで空き座席を占有することはご遠慮願います。

また、乗車券をお持ちでない6歳未満の乳幼児は保護者の膝の上にお抱きください。

(以下略)

…。

答えをわざわざ述べるまでもなく、この外国人旅行者の行動は、いくつかの点において、マナー違反行為を犯していることがわかるでしょう。

ちなみに、バスや電車の車内で携帯電話で話したりしない、というのは、多くの日本人であれば常識の範疇かもしれませんが、一部の外国人観光客等にとっては、常識とは限らない、ということがよくわかるかもしれません。

いずれにせよ、インバウンド観光客が増えるということは、日本社会における何らかの衝突を招く行為と無縁であり続けることはできない、という典型例ではないかと思えてなりません。

そして、著者自身は、訪日観光客等の増加自体は歓迎すべきと考えている反面、それによって日本社会のマナーに馴染まない外国人観光客等が急増することは避けられない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 注意書き、警告文こそ 多言語で表示しないと、意味がありません。
    「日本語わかりませーん」で 誤魔化されること、必須です。

  • > 観光業はもともと、典型的な労働集約産業であり、今後の日本社会において労働力不足が深刻化するとみられることなども踏まえると、観光業に過度に依存した産業構造には、リスクがあります。

    確かに、超近視眼的に見れば、「今後の日本社会において労働力不足が深刻化するとみられる」でしょう。
    しかし、近い将来シンギュラリティを迎え、大失業時代になる可能性も考慮すべきです。
    観光業等の、AIに駆逐され難い労働市場を、目下の労働力不足を乗り越えて、如何にシンギュラリティ迄温存するかが課題でしょう。

    観光業の現課題で大きいのは、「負荷の平準化」です。
    繁忙期と閑散期の差をどう縮めるか。
    インバウンドは、負荷平準化に貢献してます。
    負荷が完全に平準化されたなら、現状程度の需要量では、さほど労働力不足ではない、という話を聞いた事があります。

  • 1年間(2022-2023)免税で購入した観光客は371万人、購入金額の合計は6000億円。
    うち一人で1億円以上購入している人が374人いたそうだ。その金額の合計は1704億円(全体の28%)。
    つまり1億円以上を購入した人374人の平均は一人約4億5500万円。
    何か変だね。観光客の消費税免税を悪用して何か商売やってるんじゃないの?。

  • 高島屋が大阪国税局の税務調査で消費税追徴5億2000万(2年間)というニュースがあった。
    免税の要件を満たさない永住外国人に高級バッグを免税で大量に売っていた。
    永住外国人、大阪ですぐにピンとくるね。

    • 大黒屋は似た事例で重加算税を課されている。
      「重加算税」とはかなり悪質と言う意味。
      永住外国人とグルになってやっていたようだ。

    • 消費税は必ず払わせて、空港出国ゲートの「外側の」「ボーディングブリッジに向かう途中に」に払い過ぎ還付カウンターがありましたね、タイの場合。

    • タイでなかったらすみません。アジアのどこかの空港で目にしました。
      これを可能にするのはレシートにユニーク番号がついている必然がある。
      スキャンすると販売情報が即座に検索表示されて実存無二性が特定でき、余計に払った分は出国者へと返金になり、販売者は納税対象から削除できないといけない。
      台湾ではレシートはユニーク番号が振られて統一發票と呼ばれている。それはアタリ付きクジでもある。ふた月に一度?だったか当選番号が発表になり、数字が当たっていればパスポート持参で日本人でもキャッシュを受け取ることができる。くじ付きレシートを政府が推進した理由は商店の適格納税化を推進するためと聞いています。

  • 世界で日本の文化が人気で
    はるばる遠くから訪れる外国人の方には
    ぜひ日本を堪能してほしいと思います。

    しかし、オーバーツーリズムで混み過ぎで
    躊躇されてしまう現状では、一定の
    適正化対策が必要です。

    ただ単に近くて円安で割安だからと食い散らかし
    さらには免税悪用し転売犯罪までする
    必要以上の割合が多すぎる国に対しては
    一律の入国税の早期導入により
    渡航費滞在費消費額も低い一位の国が
    適正な水準になる効果が期待できます。

    なお、一律入国税では
    発展途上国で日本に憧れる人が来にくくなるのなら
    UNCTADで先進国以外の国には割引がいいでしょう。
    都合の良いことに、無駄に多すぎる国は
    なぜだか不思議とUNCTADの先進国なんだそうですから
    ちょうど好都合だと考えます。