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    Categories: 金融

電子決済網なしで生きていけない中国に台風来ると…?

POLAND - 2020/04/04: In this photo illustration a one hundred US Dollar and a 10,000 Japanese yen banknotes. (Photo Illustration by Cezary Kowalski/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

以前、キャッシュレス化が進んだ中国と比べ、いまだに新紙幣を有難がっている日本が「遅れている」、とする趣旨の記事を見かけたことがあります。ただ、日本は現金が信頼される社会であり、新紙幣にはさまざまな技術も詰まっているため、それが一概に悪いことなのか、個人的には疑問です。こうしたなか、中国を襲った台風の影響で、キャッシュレス社会が大混乱に陥っているとするポストをSNSに発見しました。

皆さま、もう新紙幣は手にしましたか?

以前の『二十年ぶりの新紙幣を迎える日本』でも取り上げたとおり、日本ではおよそ20年に1回、紙幣の改刷を行っており、今年7月3日以降、順次、新紙幣がお目見えしています。当ウェブサイトの読者の皆さまのなかにも、こうした新紙幣を目にした、あるいは手にした、という方も多いことと思います。

新しい肖像画に登用されたのは、それぞれ渋沢栄一氏(壱万円紙幣)、津田梅子氏(五千円紙幣)、そして北里柴三郎氏(千円紙幣)です(図表1)。

図表1-1 渋沢栄一氏

図表1-2 津田梅子氏

図表1-3 北里柴三郎氏

(【出所】独立行政法人国立印刷局『新しい日本銀行券特設サイト』)

これら3名は、それぞれ新規登場であり、古い紙幣(図表2)と比べても、ずいぶんと印象が違うと思われる方は多いでしょう。

図表2-1 福沢諭吉氏

図表2-2 樋口一葉氏

図表2-3 野口英世氏

(【出所】日銀『現在発行されていないが有効な銀行券』)

紙幣が信頼される国・日本

ただ、著者自身も昔はよく外国に出かけていたのですが、やはり、自身の体験に照らすと、日本の紙幣は外国のそれと比べると、非常に精巧であり、また、概して清潔であると思います。「安心して使用できる」と申し上げた方が良いでしょうか。

実際のところ、私たちが街中で紙幣を使用する際には、受け取った紙幣が偽物であると懸念する人はほとんどいないでしょうし、店でも私たちが相手に手渡した紙幣は、それがたとえ一万円札であろうが、五千円札であろうが、たいていの場合、店員さんは透かしなども確認せず、すぐに受け取ってくれます。

ところが、外国だと、事情が異なることもあります。

たとえば著者自身がユーロ圏の複数の国で体験したのは、50ユーロ以上の紙幣を相手に出すと、それを真贋判別機やブラックライトなどでチェックされることがあった、ということです。また、米国でも100ドル紙幣などについては、一般の小売店や飲食店で、受け取りを拒否されることもありました。

現地在住の人などに事情を尋ねると、やはりニセ札を警戒している人が多かったようです(もちろん、最近だとユーロ圏も米国もインフレ傾向だと聞きますので、もしかすると現在では事情も違うのかもしれませんが…)。

いずれにせよ、日本以外だとニセ札を警戒する国は多いことはどうやら間違いなさそうです。

中国の電子決済化は中国独特の事情によるもの?

そして、社会全体で急速に電子決済システムが進んだのが、中国です。

「社会全体が電子化するなんて、素晴らしい」。

そう思う人も多いかもしれませんし、一部メディアに至っては、日本で電子決済が進まない状況を揶揄し、「そのうちデジタル人民元圏に日本も取り込まれる」、などと主張する記事も掲載しているほどです。

しかし、現実問題としては、中国の電子決済化には、「そうせざるを得ない事情」があった可能性があります。

というよりも、『中国貨幣経済「ニセ札横行と電子決済のガラパゴス化」』などでも説明したとおり、著者自身は中国で電子決済が急速に普及した理由について、「ニセ札が横行していたからだ」といった可能性が濃厚だと考えています。

要するに、中国では流通している紙幣にニセ札が大変に多く、人々がおカネを安心して使えないために、やむなしに電子決済が普及せざるを得なかった(しかも外国人旅行者などにとっては使い勝手が悪い「ガラパゴスシステム」になった)、といったところが真相に近いのではないでしょうか。

さて、こうしたなか、当ウェブサイトでは以前から報告してきた通り、電子決済は慣れれば非常に便利ですが、それと同時に災害に非常に弱いという特徴があります。

現金は原始的な決済手段

当ウェブサイトでは、「災害に備えて普段から準備しておきたいもの」として、たとえば次の図表3のようなリストを作成・公表していますが、そのリストの末尾に「現金」を置いている理由は、やはり現金こそが非常時にも問題なく決済可能な、もっとも原始的な手段だからです。

図表3 災害時に備え、普段から準備しておきたいものの例(転載自由)
品目 めやす 備考
飲料水や調理用水 1人3リットル×3日分 飲料用および調理用
生活用水 ポリタンク数個分 トイレ用など
非常食(主食) アルファ米、パン、乾麺など3日分 加水だけで食べられるものなど
非常食(副食) インスタント味噌汁、レトルトのおかずなど3日分
非常食(その他) ビスケット、板チョコ、乾パンなど 糖分が含まれているものなど
紙食器、紙コップ、ラップ、アルミホイル それぞれ数日分 食器にラップやアルミホイルを巻いて使用すると洗わなくて済む
衛生用品 トイレットペーパー、ティッシュペーパー、衛生用品など 普段の生活に必要な分量に加えある程度ストックしておく
消耗品 マスク、軍手、厚手の靴下 転倒した家具の片付けなどに重宝
ビニール袋、レジ袋等 それぞれ1パック以上 ビニール袋はゴミを密封するのに有益
災害用品 災害用トイレ、凝固剤など トイレが流せない場合に備える
着火具・照明具 マッチ、ろうそく、カセットコンロ、懐中電灯など 夜間の災害に備え取り外すと自動で光る電灯なども便利
非常用電力 ポータブル電源、モバイルバッテリー、太陽光パネル、乾電池 ポータブル電源と太陽光パネルで簡易発電・蓄電が可能
現金 とくに10円玉、100円玉、1000円札を数枚から数十枚 キャッシュレス決済が機能しなくても買い物が可能

©新宿会計士の政治経済評論/引用・転載自由

著者自身は普段、電子決済システムを愛用している人間のひとりですが、自宅などには災害に備え、ある程度の現金を準備しています。これは、自身の体験および報道等により、電子決済網が完全に止まったことを想定したものです。

あたりまえですが、キャッシュレス決済(クレジットカードや交通系ICカード、コードなど)については、自身のカードないし端末が何らかの事情で動かなくなったり(たとえば電池切れ)、店の側もネットがダウンしてしまったりすれば、一切使えなくなります。

災害時は電力供給が止まることが想定されますので、大規模災害に対しては、やはり「災害用現金」については、自宅にある程度保管しておくべきでしょう。

台風で混乱する中国社会

こうしたなか、電子決済に依存した社会の危うさを見せてくれる事例が出てきました。先日、最大風速65メートルという「スーパー台風」が中国に上陸したのです。テレ朝newsが配信した次の記事などによると、台風が中国南部を直撃するなど、大きな被害をもたらしたとのことです。

風速65m「スーパー台風」 中国で猛威

―――2024/09/09 08:52付 Yahoo!ニュースより【テレ朝news配信】

そして、X(旧ツイッター)などを眺めていると、複数の人が、Xに電子決済が使えなくなり混乱する中国社会の様子をポストしているのです。おそらくその元ポストのひとつが、これです。

直訳すると、こんな趣旨の文章です。

キャッシュレス社会の負の側面:中国海南省で台風により断水・停電が生じたことで、中国の人々は携帯電話の充電に群がっている。彼らはすべてのおカネを携帯電話に入れているからだ。形態がなければパンのひときれも買えない」。

中国がもし「現金が信頼される社会」で、ここまで急速にキャッシュレス化が進んでいなかったとしたら、こんな事態に陥らなかったのではないか―――。

そんな怨嗟の声も聞こえてきそうです。

このあたり、社会全体で停電しているならばネットが使えず、個々人が携帯電話を充電したところで、あまり意味はないのではないか、といった気がしないではありません(あるいは、中国のキャッシュレス決済は、ネットがなくても使えるのでしょうか?)。

ただ、こういうリスクを見るにつれ、やはり、「いつでも使える小額紙幣・コイン」をある程度、普段から備蓄しておくことが大切であると思わざるを得ないのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (14)

  • 今では禁止されているそうですが、インドでお札を受け取ると紙幣の中央部が傷んでいて大穴まで開いている損傷ルピー札だったというのは以前はよくありました。穴が開いている理由はホッチキス針で何度も串刺しになって来たからです。ではなぜお札に対してホッチキス止めがなされるかというと、数えて重ねたお札の途中を抜き取られて、内側だけそっくり偽札にすり替えられてしまうのを阻止するための自衛行動なんだそうです。傷んだお札は支払い時にこれは駄目とレジ係に断られることがあります。
    そんなことを想い出していたら、ATM から出て来た紙幣に偽札が混じっていたとする投稿をちょうど大紀元系動画が紹介していました。ATM がばば札が沸いて出て来る、とか、キャッシュカード・クレジットカードが取り出せなくなって青くなる(タイムアウトするとあとで排出されるように機械は作られている、はず)とか、海外で Cirrus なり Plus のおかげで現金が手軽に下せるのもいつどんな目に遭うか分からないのでコワいです。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    中国:「電子決算が使えなくなったら、一時的に大量のニセ札で売買させればよい。問題は、それを偽人民元にするか、偽米ドルにするか、それとも偽日本円にするか」
    ある日本の大物政治家が許可してたりして。

  • 習近平「(災害で)電子マネーが使えないなら現金を使えばいいのに」

    とか言ったら革命まっしぐらなんですけどねぇ。

  • >中国がもし「現金が信頼される社会」で、ここまで急速にキャッシュレス化が進んでいなかったとしたら、こんな事態に陥らなかったのではないか―――。

    災害時の配給とか機能してるんですかね?

    まぁ、機能してても先ずは横流しで減り、家族人数の水増し申請で更に減り、がめた連中は高額転売して大儲けして、正直者は馬鹿を見るだけになりそうですが。

  • 外国(特に先進国以外)では高額紙幣をくずすのに苦労する。少額紙幣を持っていないと、タクシーや電車に乗れなかったり、ミネラルウォーターすら買えないことがありえる。
    逆に、高額紙幣が存在しない国だと、USドルがそのまま使えないところでは、札束を持ち歩くか、スキミングのリスクを承知でクレジットカードで買い物することになる。
    日本では1万円札を出しても、拒否されたり露骨に嫌がられることは少ない。

  • 10年以上前の中国旅行を思い出しました。

    ホテル等の高額支払いではカード(米系)を使用したので、当分のあいだは不正使用がないか毎月の報告書に神経質になっていました。一方、銀行のATMからも偽札が出てくると言われた現金は、中国国内で使い切ればいいので、あまり気にせず食事や買い物におおいに利用しました。

    電子マネーの利用は偽札氾濫を受けてのようですが、そもそも「あわよくば…」「得すりゃ、何でもあり」の社会でデジタル決済が不正無く通用できているのか、疑問に思っています。

  • サイト主どのが注目する同じ X 投稿に注目してインドの新聞が英字記事を書いていることに気がつきました。
    India TV News / 2024-9-11 現地時刻昨夜10時ごろ公開
    'Downside of cashless society': People line up to charge phones after typhoon Yagi strikes China
    (ググる翻訳でチープに機械生成)
    今年アジアで最も強い台風「八岐」が9月6日に中国海南省に上陸し、激しい雨と時速234キロの風速をもたらした。この超大型台風は広範囲で停電を引き起こし、その後住民に困難をもたらした。現在、あるXスレッドが注目を集めており、「キャッシュレス社会のマイナス面」を浮き彫りにしている。ユーザーが共有した動画では、混雑したエリアの臨時ステーションで携帯電話を充電する地元の人々の姿が映っており、販売者はエンジンを電源として使用しているようだ。
    (自動車充電が現地で著しく困難になっていることを指摘したあと)
    また(X スレッドは連続投稿において)電気自動車の充電は中国のデジタルウォレットであるWeChatのユーザーで社会信用スコアが550以上の人に限られていることにも言及している。
    (生きるも死ぬも社会スコア次第ということですね)

  • 中国人が日本で爆買いしていたころは何故輸入業者が仕入ないのだろうと思っていたら
    後年聞くところ中国人消費者からして中国人商店をまったく信用していなかったとの事
    だから日本で直接医薬化粧品を買ったり転売するにも日本で買ったレシートが品質保証という
    あきれた状況でした

    そんな中で台頭してきたアリババ等のECサイトは代金決済で出店企業の首根っこ掴んでいて
    ある程度の信用をもてるとなったらもう消費者は電子商取引以外の選択肢はない
    というところでしょう

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