一部メディアの報道によると、7日告示・23日投開票の立憲民主党代表選に向け、「推薦人集めに難航していた」とされる泉健太氏は推薦人確保のめどが立ったとして、6日にも出馬を表明するそうです。ただ、その際に問題となり得る話題が、もうひとつあります。泉氏自身、昨年5月に、次期衆院選で立憲民主党の獲得議席が150未満に留まるなら代表を辞任すると述べているのです。
泉氏「150議席未満なら代表辞任」
まずは、こんな話題を思い出しておきましょう。
いくつかのメディアの報道によると、立憲民主党の泉健太代表は2023年5月10日に行われた同党の両院議員懇談会の場で、「次期衆院選の獲得議席数が150議席未満に留まるなら代表を辞任する」と述べたとされている。
そして、この「150議席必達」については泉氏自身が5月12日の記者会見で、「立憲民主党は政権を目指していく政党」であり、「150というのは当然、必達目標」としたうえで、「当然ながら150で良いという話では全然ない」、「もっと議席を増やしていく、そのための第一歩」と述べた。
ただ、立憲民主党はその時点で、衆議院では(会派ベースで)97議席に過ぎなかったため、泉氏が本当にそんな目標を掲げているのだ推したら、それは「議席を約1.5倍以上に増やせなければ自ら代表を辞任する」、という宣言のようなものであろう。
現時点で衆院選がいつ行われるかはわからないが、立憲民主党が有権者に信頼され、議席を大きく伸ばすというチャンスは、果たして訪れるのだろうか
―――。
これは、昨年5月の『辞任宣言?立民・泉氏「150議席下回ると代表辞任」』でも触れた論点です。
立憲民主党の泉健太代表が10日の両院議員懇談会で、次回衆院選で獲得議席が150を下回った場合に代表を辞任する考えを示したそうです。現在の97議席を死守するのも難しいと考えられる中で、えらく野心的な目標を掲げたものです。というよりも、背水の陣を装った、事実上の辞任宣言とみる方が正解でしょうか。「泉健太・新代表に期待する!」=2021年時点立憲民主党は2021年10月の衆議院議員総選挙で、109議席だった公示前勢力が96議席へと一気に13議席も減少。当時の枝野幸男代表がその責任を取るかたちで退き、泉健太氏が代表選を制し... 辞任宣言?立民・泉氏「150議席下回ると代表辞任」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
野党の皆さまは、なにか発言したらそれっきり、という事例が大変多く(※著者自身の私見です)、この泉氏の発言についても忘れているという人は多いのではないかと思います。
泉氏、推薦人20人確保にめどか
しかし、泉代表の「最低でも150議席」発言は、立憲民主党公式ウェブサイトにもハッキリ残っていることを忘れてはなりません。
【代表記者会見】泉代表が次期衆院選やLGBT理解増進法案等について発言
―――2023/05/12付 立憲民主党HPより
これが、今になって生きてくる可能性が出てきました。
泉氏といえば、立憲民主党の代表選(9月7日告示、23日投開票)に向けて立候補に苦慮している、などと伝えられることも多いようです。一説によると20人の推薦人を確保するのに難儀している、などとされていました。
ただ、いくつかのメディアが昨夜以降、推薦人確保にめどがたち、泉氏が出馬表明に踏み切る、などと報じています。たとえば産経ニュースの次の記事などが、それです。
<独自>立民代表選、泉健太代表が出馬表明へ 推薦人確保にめど
―――2024/09/05 23:15付 産経ニュースより
産経によると「関係者」が5日、難航していた、立候補に必要な20人の推薦人の確保にめどがついたため、泉氏が6日に出馬意向を表明すると明らかにしたそうです。
同党の代表戦ではすでに立候補を表明しているのは野田佳彦元首相(67)、枝野幸男前代表(60)の両名で、産経によれば、ほかにも江田憲司代表代行(68)や吉田晴美衆議院議員(52)も「推薦人確保を急いでいる」、などとしています。
いちおう、女性や若手も出揃う…のか?
最も若いのが50歳の泉氏である、という点は少し気になるにせよ、いちおう「若手(?)」や「女性」なども候補に名前が挙がることで、立憲民主党側も自民党総裁選に対抗して「刷新感」を出そうと思えば出せる状況が整ってきたのかもしれません。
ただ、伝えられるところによれば、そもそも推薦人確保がままならなかったような状況で、泉氏が代表選で勝利できるのか、という問題もありますし、また、仮に泉氏が勝利したとしても、先ほど指摘した「150人」公約が生きていれば、泉氏はすぐに辞任しなければならない、ということにならないでしょうか。
そもそも立憲民主党代表選は、ほぼ同じ時期、すなわち9月12日告示・27日投開票で行われる自民党総裁選に話題を持っていかれている格好ですし、(これは著者自身の想像ですが)自民党総裁選が終われば、おそらくかなり早いタイミングで次期首相が衆院の解散総選挙に踏み切ります。
『自民が立民の3倍の票を得たら…立民は壊滅的敗北も!』でも取り上げたとおり、日経・テレ東の世論調査によれば、次回衆院選の投票先として「自民党」と答えた割合が39%で、立憲民主党(11%)や日本維新の会(10%)を大きく上回った、といった結果もあります。
日経・テレ東が実施した緊急世論調査で、次期衆院選での投票が「自民党」と答えた割合が39%で、立憲民主党(11%)、日本維新の会(10%)を大きく上回りました。自民党は立憲民主党の3.5倍もの票を獲得するかもしれない、ということです。この調査をどこまで信頼するかという問題は脇に置くとして、もし本当に小選挙区で自民党が立憲民主党の3.5倍の票を得たら、議席数では3.5倍どころでは済まないほどの差がつき、立憲民主党が潰滅的敗北を喫するかもしれません。対照的な自民総裁選と立民代表選『立憲民主党では枝野幸男前代表が代... 自民が立民の3倍の票を得たら…立民は壊滅的敗北も! - 新宿会計士の政治経済評論 |
一時点におけるメディアの世論調査(しかも設問が精緻とはいえないもの)の結果をどこまで信頼するか、という問題はありますが、立憲民主党が衆院選で150議席を獲得し得る状況なのかについては、正直、よくわかりません。
小選挙区主体の衆院選で150議席獲得は可能なのか?
仮にその時点の世論調査どおり、自民党が立憲民主党の3倍以上の票を得た場合には、小選挙区では自民党は70~80%の議席をかっさらう可能性があります。
小選挙区の70~80%といえば、289議席中、200~230議席というレベルで、これに加えて比例代表(176議席)のうち半数(88議席)以上を自民党が制すれば、自民党だけで300議席台に迫るかもしれません。
参考までに、衆議院の総議席数のうち、小選挙区に配分された議席数と、自民党、民主党(または立憲民主党)がそれぞれ何%の得票率で何議席を得ていたかというデータを示しておきましょう。
【参考】自民党の獲得票数と獲得議席数(小選挙区)
- 2005年…32,518,390票(47.77%)→300議席中219議席(73.00%)
- 2009年…27,301,982票(38.68%)→300議席中*64議席(21.33%)
- 2012年…25,643,309票(43.01%)→300議席中237議席(79.00%)
- 2014年…25,461,449票(48.10%)→295議席中222議席(75.25%)
- 2017年…26,500,777票(47.82%)→289議席中215議席(74.39%)
- 2021年…27,626,235票(48.08%)→289議席中187議席(64.71%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』データをもとに作成)
【参考】民主党(~2014年)、立憲民主党(2017年~)の得票率と獲得議席数
- 2005年…24,804,787票(36.44%)→300議席中*52議席(17.33%)
- 2009年…33,475,335票(47.43%)→300議席中221議席(73.67%)
- 2012年…13,598,774票(22.81%)→300議席中*27議席(*9.00%)
- 2014年…11,916,849票(22.51%)→295議席中*38議席(12.88%)
- 2017年…*4,726,326票(*8.53%)→289議席中*17議席(*5.88%)
- 2021年…17,215,621票(29.96%)→289議席中*57議席(19.72%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調』データを加工)
なお、当たり前の話ですが、現実の選挙では、当選者は選挙区の個別事情にも大きく左右され、立憲民主党の衆議院議員のなかには小選挙区でかなりの力を持っているケースもあるため、「自民党が300議席」、などという事象は、滅多なことでは発生しません。
ですが、衆議院で150議席を獲得するためには、少なくとも小選挙区で110議席程度、比例代表で40議席程度を確保しなければならないと考えられますが、過去の民主党/立憲民主党の得票数と議席数の比較から考えて、現在の立憲民主党が小選挙区だけで100議席を上回るのは困難です。
このように考えると、泉健太氏が代表選に出馬し、なんとか当選できたとしても、ご自身の昨年5月の発言が生きているならば、もし衆院選で150議席に満たなかった場合、泉氏自身はすぐに代表を退かなければならないということでもあります。
正直、泉氏自身の政治家としてのキャリアを考えるなら、ここでいったん身を引くというのが正しいのではないか、といった気もしないわけではありません。余計なお世話かもしれませんが…。
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もし泉党首が立憲党首続投となった場合、選挙結果ではなく、党内対立で党首辞任になるのではないでしょうか。まあ、選挙に負けても、党内基盤盤石のため、党首が交代しないよりは、ましかもしれませんが。
「前言を覆さない」という前提がなければ「泉代表が当選しても直ぐに辞任」ということにはなりません。彼らが自分の言ったことを守るとでも思いますか。
不思議ですねぇ。戦後の日本政治は、与党と野党第一党が2:1の比率になることが多いですね。
1 1/2(いっかにぶんのいち)と呼ばれていて、これが与党と野党の黄金比になっています。
「政権奪取をするつもりはないが、ある程度の発言は可能」というのが、この比率なのでしょうか?150議席の目標は、政権奪取は考えていないというのを晒しています。悪夢の民主党の再現はご免ですが、政権奪取を本気で考えない野党の存在価値が分かりません。
そもそも小選挙区を導入したのは、「カネがかからない政治」、「政権交代が可能な仕組み」が目的だったはずです。しかし、どちらも実現できていないのであれば、もう一度選挙制度を見直すべきでは?
昔の3~5人区の中選挙区制度であれば、2:1の比率ぐらいになるのは不思議ではありません。
野党第1党の場合3人区で2人立候補させると共倒れになると思えば、候補者を1人に絞って選挙戦に臨むことになります。他方与党自民党の場合は過半数の議席を獲得するためには3人区で2人立候補させます。そのため、3人区では与党2野党1に固定されがちです。
4人区の4番目や5人区の4,5番目が勝ったり負けたりして全体では2:1から若干外れます。
また、旧日本社会党の3分の1戦略は憲法改正を阻止する目的があったと聞いています。
立憲民主党の戦略はよくわかりませんが。
本日、(野党第一党の)立憲の泉健太党首だけでなく、自民の小泉進次郎(元)環境相も党首選立候補を表明しました。ということは、(もちろん、新聞ごとに違うかもしれませんが)明日の新聞朝刊の一面は、どうなるのでしょうか。