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「日本はユダヤ系金融機関に支配されている」は事実か

「三菱UFJ信託銀行の株主を辿っていくと米国のユダヤ系金融機関にたどり着く」。「三菱UFJFG系のMTBJは多くの上場会社の大口株主として登場する」。「だから日本はユダヤ系金融機関に支配されている」。会社法制や信託法制に関する知識が欠如し、実際の株主構成などもろくに調べないと、こういう主張を唱えるようになるのかもしれません。もちろん、こんな主張を秒も否定されるのがネット社会の良さなのかもしれませんが…。

ネットの発達で誰もが気軽に情報発信できるようになった

ネットの発達のおかげで、誰もが気軽に情報発信できる時代が到来した―――。

それはそれで、本質的には悪いことではありません。

ひと昔前だと、不特定多数の人に向けた情報発信のハードルは非常に高かったのですが、現代社会ではその「不特定多数の人に向けた情報発信」のコストは極端に下がったからです。

とりわけX(旧ツイッター)は誰でも簡単に情報発信ができるという意味で、大変に便利なツールであることは間違いありません。もはやほとんどの社会人などが所持しているであろうスマホでポチポチと入力し、「ポストする」ボタンを押せば、それで完了です。

何なら、街中でなにかおもしろいものを発見し、それをパシャリと写真撮影し、その場でXにポストすることも可能でしょう(ただし、Xに写真投稿するためのスマホの設定方法については、ご自身で調べるか、X社やメーカーなどにお問い合わせください)。

「国の借金」論も否定できるようになった

そして、著者自身が興味深いと考えているのは、情報発信のハードルが下がったことで、専門家にとっても、情報発信が容易になったという点でしょう。

著者自身は金融と(いちおう)会計の専門家ですが、一部のメディアがしつこく繰り返す、「国の借金は国民ひとりいくらになった」だの、「プライマリ・バランス(PB)の黒字が必要」だの、あるいは「財政再建が必要」だのといった主張に対しては、長らく苦々しい思いを抱いてきました。

先日の『「国の借金はひとりいくら」等と堂々と報じる大手新聞』でも触れたとおり、「トヨタ自動車の従業員1人あたりの借金は1億円」という主張が盛大な間違いであるのと同様、「国の借金」(?)とやらを国民1人あたりで割っても、何も意味がないからです。

ところが、財務官僚という、東大法学部を含めた超一流大学を卒業しているはずの「優秀な」者たちこそが、率先して、この手の虚偽を振りまいているというのは、脅威的な話です。

実際、日本が本来、財政再建など必要としていないにもかかわらず、「デフレ下の増税」という過ちを繰り返してきたことで、アベノミクスすらも中途半端なものに終わった(『雇用を無視しアベノミクスを失敗と決めつけて良いのか』等参照)、などとするのが、著者自身の見解でもあります。

しかし、ネットが存在するおかげで、著者自身は2016年7月以降、この「国の借金」論の間違いを含めた自身の考えをウェブ投稿することができるようになりましたし、最近だと、「国の借金」論が大手メディアに掲載されても、一般人からのツッコミが殺到するようになったのは、非常に良い傾向だと思います。

誰もが情報発信できる…負の側面も!

ただし、物事には常に長所・短所の両面があるものです。

そして、ここで重要な点があるとしたら、なにか特別なスキル・才能を持っているわけでもない人であっても、誰のチェックを受けることもなしに、自分が考えた内容を簡単に情報発信できてしまうことです。

これはときとして、非常に困った結果をもたらすことがあります。

端的にいえば、自身の不見識を世間に晒してしまうことで、結果的に、多くの人々から嘲笑を受けてしまう可能性があるのです。

いや、「嘲笑を受ける」くらいならまだマシで、たとえば大手回転ずしチェーン店で醤油さしを舐めたり、回転レーン上の寿司に唾液を付けたりするなどの不潔な行為を行い、それを投稿したがために「炎上」し、その行為に及んだ人物は結果的に、然るべき社会的制裁(※)を受けたようです。

(※報道等によると、そのチェーン店から損害賠償訴訟を起こされ、のちに和解した、などとされています。ただし、その和解内容などの詳細は公表されていないようです。)

このあたり、情報発信のハードルが極端に下がったことの「メリットとデメリット」を、私たち一般人は、よくよく考える必要があります。簡単に情報発信ができるということは、情報発信のやり方を間違えたら、簡単に「炎上」する(かもしれない)、ということだからです。

「日本はユダヤ系金融機関に支配されている!」

さて、こうしたなかで「小ネタ」的に紹介しておきたいのが、Xで発見した、こんな趣旨のポストです。

『三菱UFJ信託銀行の株主企業は?』『その先は?』と辿っていくと、アメリカのユダヤ系金融機関にたどり着きますよ。調べるならちゃんと調べてください」。

敢えてリンクは示しませんが、個人的に、仰天してしまいました。

じつは、多くの上場会社は、株主のトップに「マスタートラスト信託銀行」(以下「MTBJ」)や「日本カストディ銀行」(以下「CBJ」)の名前が出てきます。

MTBJもCBJも、有価証券の管理や資産管理に関連する信託業務などを専門に行う「マスタートラスト」の専業銀行として、金融業界では「知る人ぞ知る会社」です。

ちなみにMTBJは三菱UFJ系の三菱UFJ信託銀行が最大株主で、ほかに日本生命保険相互会社や明治安田生命保険相互会社、農中信託銀行株式会社などが株主として参加しています。

また、CBJは三井住友信託銀行(※「三井住友銀行」、ではありません!)系の日本トラスティ・サービス信託銀行(JTSB)とみずほFG系の資産管理サービス信託銀行(TCSB)が2020年に合併して発足した銀行です。

いずれにせよ、MTBJやCBJが多くの企業の大株主として登場するということは、それらの企業はMTBJやCBJに支配されている、という意味なのでしょうか?

他人勘定という概念がありまして…

結論からいえば、間違いです。

細かい説明は割愛しますが、信託銀行は「受託者」として、基本的に「委託者」などからの指図を受けて資産を管理します(※ただし、信託銀行が投資を一任されているケースもあります)。信託勘定の持ち物は銀行本体の持ち物ではないため、信託勘定を俗に「他人勘定」とも呼びます。

「アメリカのユダヤ系金融機関」が具体的に何を意味するかは不明ですが、少なくともMTBJやCBJがカストディアン(資産管理業者)として大株主に名前が挙がっている会社が、MTBJやCBJによって支配されているということは、実態として考えられません。

(※どうでも良いのですが、三菱UFJFGは米国の金融機関に支配されているのではなく、むしろ逆に、米投資銀行大手のモルガン・スタンレーに出資を行っているはずですが…。)

それに万一、三菱UFJFGの株主の多くが外国人だったと仮定して、三菱UFJFGがそれらの株主の意向通りに動くというものでもありません。株式会社においては、所有と経営は完全に分離しているからです。

いずれにせよ、「日本の金融機関がユダヤ系に支配されている」といった主張も、冷静に考えていくと、そもそも会社法制や信託法制に対する理解が欠如しており、株主構成などの事実関係も誤っていることが多いようなのです。

あるいは、この手の陰謀論も、ネット上では秒で否定されるというのは、非常に良い時代になったものだ、などといえるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • 「ユダヤ陰謀論」というのは「反ユダヤ主義」というのが強く滲み出ています。
    社会主義・共産主義もそうであり、共産党の始祖とも言えるカール・マルクスは、出自はユダヤ系で有りながら、反ユダヤ主義者だったそうです。
    共産党をはじめとした左翼・極左勢力がユダヤ系金融機関を敵視するのは、上記の影響を受けているからだと推測出来ます。

  • >モルガン・スタンレーに出資を行っているはずですが

    “Too big to fail”という本の中に感動的な場面が描かれている。
    モルガン・スタンレーがリーマンショックで破綻しかかった時に最後の最後に三菱UFJ銀行が増資に応じて救済したのだ。
    90億ドル(当時のレートでも1兆円超)の資本注入に応じたのだが、なんと90億ドルの小切手をもってモルガンスタンレーに現れたシーンが描かれている。
    その日銀行が休日でその方法しかなかったとのこと。
    こんな高額の小切手見たことないということでみんなで写真をとった。
    このせいでモルガンスタンレーの筆頭株主は三菱UFI。

  • う~む、昔懐かしい「ユダヤ陰謀論」。五島勉さんのまいたタネ、未だそこここで芽を出すほどの生命力はあったってことですか。

    まあ、金融の世界では、ユダヤ系資本の影響力は非常に大きいそうですから、無理矢理それに結びつけようとしたら、何だって言えちゃうってことなんでしょうけどね。

    だけどなぜ「三菱UFJ信託銀行」なんだろう。投稿者の個人的偏見から来るものなら、たいして面白くもないんだろうが、それでもせめて思わせ振りしたいんだったら、もう少しはそれっぽいことを書いてくれないとね(笑)。

    • 日本のバブル経済崩壊の感覚で、何も学ばない・ギブアップ\(^o^)/」 の負け組(弱小戦犯)の起死回生の悪巧みですね(見透からせてるけど・・・)。

  • 例えば「日本製鉄」、ここの筆頭株主」もマスタートラスト信託銀行、2位が日本カストディ銀行。
    日本株を組み入れている投資信託は国内にも海外にもあるが、それらの持株を管理してる信託銀行なんじゃないの。

  •  私がもし強大な権力と財力と影響力と野心を持ち合わせていたら、陰謀論にハマっちゃうような人が辿り着けないところで陰謀をはりめぐらします。

  • 高校生の頃、家にあった会社四季報の大株主欄を見て「日本証券決済グループ?」の存在感に度肝を抜かれたりしたのはここだけのお話・・。(ありがちな勘違いですね。)

  • 欧米系のクレジットカードを 集金決済に利用している企業が 欧米基準の倫理規定の押し付けで 支配されているようです。
    コミックマーケットで 「とらのあな」(販売代理店みたいな会社)通信販売でのVisa/Mastercard決済が停止されました。
    理由は明らかにされていませんが 扱う個人出版物の内容が 性的、暴力的、差別的など、あちらのお気に召さない出版物があるという事由だと思います。
    購買決済を支配することで 日本を支配しようとしている。
    さらに日本に浸透しているGAFAが 欧米基準を 押し付けて 強い利用制限を してくる可能性が高い。
    これこそ支配される日本になりつつあることだとおもいます。

    • そればかりではありません。SDGsも、結局は銀行からの押し付けになります。(これをしないとお金を貸さない、利率を上げる、投資しない、株を買わない、など)。その銀行の向こうにユダヤ系金融機関の思惑を感じる人がいるのでしょう。

  • わりとどうでも良い自己レス。

    昔、「公認会計士」という資格や「監査法人」という業態を知らない親戚に自分の仕事を説明するときに、「勤務先は四季報に載っている会社だよ」、と伝えた記憶がある。

    「四季報に載ってるってことは、上場会社なの?」

    「いえいえ。勤務先の監査法人自体は非上場会社だけど、上場会社の監査をしてるから、四季報を見れば、監査人を務める監査法人名が載ってるんやで」

  • いつもお疲れ様です。
    「日本はユダヤ系金融機関に支配されている」だなんて…それを言うなら日露戦争でジェイコブ・シフに支援してもらっているそうですしそもそも明治維新なんてどうなるのでしょうかね。
    第一次世界大戦後のドイツでは「共産主義者とユダヤ人の背後の一刺しのせいで敗れた」なんて説が流行っていたそうで…歴史は繰り返すのですかね

  • まあまず三菱UFJ信託銀行は持ち株親会社であるMUFGの 100%子会社です。この基本的な仕組みを無視して「三菱UFJ信託銀行の」って言った瞬間稚拙な文章と判断出来るので結果は無視できます。そのほかの議論は本文で新宿会計士さまがされているのでそちらにお任せします。

    一方で、こんな稚拙な結論でも、「ソースを示せ」といった場合のソースにはなりうるってことを私は指摘しておきます。自分で理解する分には「アホな議論」と一蹴すれば良いですが、ソースとして他人から示された時にこれを打ち消すのは結構困難です。それは「株主を辿っていくと」の部分で、否定するためには何段階でも元を辿って1つ1つ潰さなければいけません。
    信託勘定の話をして、モルガン・スタンレーはむしろ支配している関係であり、MUFG株を所有されてたとしても劣位の持ち合いの意味しかなく・・云々。まあ、こんな丁寧な反論は時間かかりますから、相手を「論破」する材料としては十分です。

    論破王ひろゆきさんなんかにしてみれば十分使えるネタでしょうね。

    無論者論に負けず と言います。ネットで議論なんて100%無意味です。まあ、議論するとしたら、そういった不毛なものだと認識して、余暇の楽しみと思ってテキトーにやりましょう。やり込められそうなら逃げれば良いのです。決して熱くなって相手の誹謗中傷なんかに発展しないよう気をつけて。

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