岸田文雄首相が今年9月の自民党総裁選に出馬しないことを表明したことで、思わぬ余波が生じています。新旧代表の一騎打ちになる可能性が取りざたされる立憲民主党で、自民党の「刷新感」への警戒が高まっている、というのです。正直、立憲民主党の問題点は「実務能力のなさ」であり、もはや「イメージ」の問題ではないとは思いますが、有権者がいかなる判断を下すかについては興味深いところです。
目次
都知事選での齊藤蓮舫氏の惨敗
先月7日に行われた東京都知事選では、メディアなどから「有力候補」のひとりとみなされていた「蓮舫」こと齊藤蓮舫(村田蓮舫、謝蓮舫)氏が、3位で落選しました。
しかも、得票数では128万票あまり、得票率で見て18.81%に留まりましたが、これは現職の小池百合子氏(約292万票、42.77%)の半分以下であり、2位だった石丸伸二氏(約166万票、24.30%)にも37.5万票の差を付けられてしまっています。
齊藤蓮舫氏といえば、2004年に参議院議員に初当選して以来、4期連続し、東京選挙区で当選し続けて来た人物で、とくに2010年の参院選では、たった1人で171万票を獲得していました(得票率で換算すれば28.06%)。
こうした「飛ぶ鳥を落とす勢い」だった齊藤蓮舫氏(※といっても、当時は「齊藤蓮舫」氏ではなく「村田蓮舫」氏でしたが…)を覚えている人にとっては、ずいぶんと大きな時代の変化を痛感するのではないでしょうか。
立憲民主党(旧民進・旧民主党)の凋落は続いている
ちなみに参議院議員通常選挙の東京選挙区における、立憲民主党(とその前身政党である民進党、民主党)の候補者の合計得票数は、2010年の約241万票をピークに減少傾向が続いています。
民主党・民進党・立憲民主党の東京選挙区の得票状況
- 2007年…1,868,405票
- 2010年…2,407,407票
- 2013年…**552,715票
- 2016年…1,631,276票
- 2019年…1,184,581票
- 2022年…1,042,403票
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙結果調』データをもとに作成)
このうち2010年に関していえば、民主党だけで圧倒的な得票力を誇っていました。当時、齊藤蓮舫氏が所属していた民主党では小川敏夫氏も約69.7万票を獲得して当選していたため、2人あわせてなんと241万票を獲得していた計算です。
これに対し2013年の得票数が極端に少ないのは、当時の民主党の現職2人のうち、1人が無所属で出馬し(236,953票で落選)、民主党の現職候補も552,715票で落選したからです。このとき、東京で立憲民主党参議院議員がゼロとなりました。
また、2016年の選挙では、民進党は辛うじて2人を当選させることができましたが、2019年、22年の2回に関しては、いずれも立憲民主党は東京選挙区で1人を当選させるのがやっと、という状況になっています。
ちなみに上記に挙げた得票齊藤蓮舫氏が出馬した2010年、2016年、2022年の3回ですが、過去最大級の得票数だった2010年と比べ、2022年は獲得票数が半分以下に落ち込んでいることが確認でき案す。
つまり、東京選挙区だけで見たら、もともと立憲民主党は齊藤蓮舫氏の人気にあやかっていたのが、肝心の齊藤蓮舫氏自身の人気が凋落している、といった仮説が成り立つゆえんです。
都知事選の結果は「立憲共産党」効果か
そして、冒頭に挙げた東京都知事選の結果は、齊藤蓮舫氏に対する人気が剥落しただけでなく、立憲民主党という政党そのものの勢いが失われていることを強く示唆しています。
ことに、2022年の参院選では、立憲民主党と日本共産党は、合わせて173万票程度を確保していたのに、2024年の都知事選で齊藤蓮舫氏が得たのはたった128万票で、単純計算で50万票以上が「逃げた」格好です。
あるいは、当ウェブサイトでいうところの「オール左翼」―――立民、共産の2党に社民党、れいわ新選組をたしたもの―――の参院選の得票数は235万票でしたので、都知事選の「128万票」は、この「オール左翼」を100万票以上も下回っています。
こうした客観的事実は、とても重要です。
もちろん、齊藤蓮舫氏という候補者個人の問題なのか、このたった2年で立憲民主党がずいぶんと凋落したという意味なのか、それとも日本共産党との共闘(俗にいう「立憲共産党」状態)が有権者に嫌われたのかについては、少し、判断に留保は必要です。
ただ、少なくとも、2021年11月に泉健太氏が立憲民主党の代表に選ばれて以来、同党が議席を大きく伸ばせる状況にあるとも思えません。
各種世論調査では、「自民党に対する支持率が低迷している」などと指摘されることもありますが、それでも多くの調査では、立憲民主党は支持率で自民党に「ダブルスコア」以上で敗けているのが実情ですし、補選や地方選挙などでも順調とはいいがたいのが実情でしょう。
もちろん、今年4月に行われた3つの補選では、立憲民主党は全議席を獲得するなど、局地的には健闘もしています。
しかし、現実問題としてみれば、やはり定数465議席の衆議院で99議席、定数248議席の参議院で40議席(いずれも統一会派ベース、副議長を含まず)という状況から、党勢を大きく拡大するめどが立っているとは言い難いのが実情でしょう。
産経「立憲民主党が自民党の刷新感を警戒」
こうしたなか、岸田文雄首相(自民党総裁)が14日、今年9月の総裁選に出馬せず、退陣する意向を示しました(『岸田首相「総裁選不出馬」を表明』等参照)。
これについては、個人的には「非常に残念だ」という気がしてなりませんが、それと同時に、あくまでも自民党の選挙戦略として見れば、なかなかの妙手でもあります。
いわゆる「裏金問題」の責任を岸田首相が取る形にしたことで、自民党に対する逆風を岸田首相が一手に引き受ける格好となり、おそらく次の首相のもとで行われるであろう次回総選挙での自民党への影響を帳消しにするだけでなく、次期総裁次第では、自民党に大きな風が吹く展開も予想されるからです。
また、(どこまで実現可能性があるかはともかく)保守層の一部で人気が高い高市早苗氏、あるいは岸田政権下で外相として実績を積んだ上川陽子氏が、仮に次期総裁に就任するようなことがあれば、「史上初の女性総理大臣」が自民党から輩出されるということにもなります。
新しい総理が直ちに衆院解散総選挙に踏み切れば、立憲民主党が大きく議席を減らすという展開も考えられます。
こうしたなかで、産経ニュースが14日、なにやら興味深い記事を配信していました。
立民、首相不出馬で自民の「刷新感」警戒 党代表選の埋没懸念
―――2024/08/14 20:19付 産経ニュースより
産経は、岸田首相の自民党総裁選不出馬表明が、同時期に行われる立憲民主党の代表選(9月7日告示、同23日投開票)の「戦況にも影響を与えそう」だと指摘。そのうえで、こう述べています。
「新たなトップのもとで次期衆院選に臨むことがほぼ確実な自民に、『刷新感』という追い風が吹くことは必至といえる」。
というのも、産経によると、立憲民主党の代表選は現職の泉健太氏と前職の枝野幸男氏の両者が軸となる方向だからです。
この点、自民党の総裁候補や立憲民主党の代表候補に誰がなるのかについては、もちろん、現時点では確定しているわけではありません。しかし、仮に立憲民主党代表選が「泉氏対枝野氏」の争いとなれば、たしかに、立憲民主党にはフレッシュさがありません。
立憲民主党は「イメージ」の問題ではない
これについて産経は、こう指摘します。
「立民の『新旧トップ対決』が国民の目に色あせて映る可能性は否定できない」。
問題は、それだけではありません。
泉健太氏の3年弱で、立憲民主党は党勢を大して拡大したわけではなく、また、枝野氏は前回・2021年の総選挙で大敗の責任を取って辞任したという経緯もあるため、どちらが代表になったとしても、立憲民主党が「旧態依然としている政党」というイメージが伴う可能性はあるでしょう。
ただ、立憲民主党の場合、党勢が拡大しないのは、「党のイメージ」の問題ではありません。
当ウェブサイトの主観も交えて申し上げるならば、「国政課題」をちゃんと認識する能力自体が欠落していることと、インターネット環境が社会的に普及・発達したことで、立憲民主党の国政担当能力を正確に把握することができる日本国民が激増したこと、という2つの要因があるからです。
日本の新聞、テレビは、なぜだか知りませんが、昔から立憲民主党などの特定野党に対し、やらたと甘いという特徴があります。
たとえば梅谷守・衆議院議員が有権者買収という公選法違反を行った際にも、立憲民主党は党員資格停止1ヵ月という激甘処分で済ませましたが、自民党議員の不祥事を針小棒大に報じるマスメディア各社が、この梅谷氏の公選法違反を大々的に報じた形跡はありません。
しかし、かつてのような、新聞・テレビが情報を統制していた時代と異なり、現代ではネットの普及で、立憲民主党を含めた特定野党の実態が、かなりの程度、一般国民の知るところとなっています。この流れはおそらく不可逆的なものであって、今後、進むことはあっても戻ることはないでしょう。
いずれにせよ、9月の「ダブル代表戦」、そしてその後、遅くとも約1年以内には実施される衆院選に向けて、有権者が両党を含めた政治家にどういう判断を下すのかについては注目する価値がありそうだと思う次第です。
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毎度、ばかばかしいお話を。
自民党:「党名を変えることで刷新感を出そうとした党に、党首を変えることを言われたくない
党首を変えることと、刷新感を出すことは別だと思うのですが。
蛇足ですが、当たり前ですが、自民党は立憲のためでなく、自分たちのために動くものではないでしょうか。
バイデンさんみたいに一旦再選に向けた党内手続きを始め、他の民主党候補を撤退させた上で突然立候補を取りやめて、意中の候補を党公認候補に捩じ込んで、予備選や党員集会の決定を無にしたわけでなく、むしろ総裁選に幅広い候補が出やすいようにと時期を選んで再選辞退を表明したわけで、他党が批判をする要素は一切ありません。自民党所属国会議員は一切の不公平なく総裁、総理に挑戦できます。アメリカ民主党に比べても雲泥の差の対応です。
岸田さんの政策にはいろいろ功罪、批判ありますが、引き際だけは無条件で高評価されるべきです。誰の権利も侵害してないので、批判のしようがないです。
新政権の支持率は展開次第ですが、岸田さんが正しく身を引いたことはポジティブに効いてるはずです。イメージオンリーの立憲にとっては大ダメージでしょうね。
昨日の岸田総理の事実上の引退会見を受けての泉代表の発言「党の顔の交代で刷新感を出そうというのはあまりにも浅はか、国民には見抜かれている(要約)」を聞いて思わず吹き出してしまいましたよ。一体どこの党に対する批判なんでしょうかね?
>泉氏は14日、首相の総裁選不出馬表明を受けて「党が危機になると首相を代え、過去を忘れてもらう。そういう手法に国民が引っかかってはいけない」と記者団に強調した。
民主党政権時代の総括をせず、党名や代表を代え、過去を忘れてもらう。そういう手法に国民が引っかかってはいけない。
まんまブーメラン。
推薦人20人のハードルが自民党と同じなんですけど、議員の数がずっと少ないんだしもう少し緩くすりゃいいのに。党首選を活性化させたいなら。
党首選を大所帯グループで統制したいのかもしれないですけど。
枝野さんに党の顔を戻すことも厭わない党は言うことが違いますね。
>新たなトップのもとで次期衆院選に臨むことがほぼ確実な自民に、『刷新感』という追い風が吹くことは必至といえる
アリの背比べ中に新しいゾウがやってくる。そんな時にアリが風なんて気にしたってしょうがないでしょうに。
昔とんでもない大風をおこしてもらって、ゾウの上まで少しの間だけ舞い上がった記憶から抜け出せないのでしょうけども。風を無理やり吹かせた連中はもう衰弱しているし、今は別の風がアリにむしろ吹き下ろしているというのに。
なんか寄生されて重くなってるし。女王アリも居なくなったし、早く羽でも生やさないと。
都知事選で
一位どころか2位にもなれず
悔しがってた蓮舫さんですが、
ようやく女性政治家のなかで
一位を獲得なされたようです
(^o^)
https://smart-flash.jp/sociopolitics/299944/
まあ立憲民主党としては、当然の反応ではないでしょうか。
国民が、岸田不出馬を受けて、これまでのように「自民党内の疑似政権交代」で満足するのか、あの「悪夢の民主党政権の再来」を望むのか、私にもさっぱり予想がつきません。
自民党が新総裁誕生とともに、解散総選挙に打って出るのか、はたまた任期満了まで先延ばしするのか、もなかなか難しい。
まずは、新総裁に誰がなるのか、が第一課題です。
立憲民主党や大手メディアが激怒するのは、さもありなん。
安倍晋三のように、手塩にかけて
「悪役として育て上げた岸田ブランド」
が、一気に使い物にならなくなった(笑)んだから。
これまでの投資を返せ!と言いたい気分なんでしょうよ。
フワちゃんに向けてGoogleが激怒したようなもの、でしょうかね。
(岸田は誰も傷付けてないから全然違うか?)
「立憲民主党の問題はイメージではなく政策能力の低さ」
仰る通りですが、政策能力の低さは”どうにもならない”と最初から諦めているのだと
思います。だから無党派層にアピールする為のイメージだけで勝負したいのかと。
まあ、立憲民主党は今の複雑怪奇で不安定な世界情勢で政権なんか握りたくないと
思っていそうですが……