経済・金融・市場の専門家でもない人物が、公共の電波を使い、「いずれ再び円安に向かう」と発言したそうです。専門知識がない人が経済を「語る」(いや、「騙る」、でしょうか?)ことができてしまう時点で、日本は何とも報道の自由が守られている国だと思わざるを得ません。そして、いっそのこと報道の自由を極限にまで突き詰めるという意味で、記者クラブ制度なども全廃し、記者会見には誰でも参加できるようにするとともに、電波オークション制度を導入するなどしてみてはいかがでしょうか。
目次
RSFvsFH:信頼できるのはどちら?
「日本は報道の自由度が非常に低い国」=RSF調査
日本は言論が自由な国なのでしょうか、それとも言論が不自由な国なのでしょうか?
フランス・パリに本部を置く非政府組織「国境なき記者団」(Reporters sans frontières, RSF)が公表している『報道の自由度』(Classement mondial de la liberté de la presse)という調査だと、2024年における日本の「報道の自由度」は、180ヵ国中70位です。
また、これをG7諸国同士で比較すると、図表1のとおり、G7諸国間で比べても、日本は最も低いことがわかります。
図表1 報道の自由度ランキング・G7比較
(【出所】Reporters sans frontières, Classement mondial de la liberté de la presse データをもとに作成。なお、米国については2003年~11年のデータが欠落しており、また、2012年については公表されていない)
先進国だ、自由主義国だ、などと名乗っていながらも、現実のRSFランキングでは非常に低い…。
すなわち、この調査結果だけを見ると、日本は世界の中でも「報道の自由」(≒「言論の自由」)に、非常に強い制限がかかっている国であるかに見えてしまうのです。
あれれ?FH調査だと日本は9年連続・G7で2番目
ただし、同じく非政府組織である「フリーダムハウス(FH)」が公表している「世界の自由度」調査によれば、日本は100点満点中、なんとG7でカナダに次いで2番目に高い96点(!)を獲得しています(※しかも9年連続で、です)。同じくG7同士で比較しておくと、図表2のとおりです。
図表2 世界の自由度調査
(【出所】Freedomhouse, Freedom in the World データをもとに作成。ただし、グラフのタテ軸の起点がゼロではない点には注意)
少なくとも日本に関しては、なんとも対照的なグラフです。
RSFとFHの、相矛盾するふたつの調査。
「果たして日本は言論の自由があるのかないのか」。
「日本に関しては、少なくともどちらかが誤っているのではないか」。
そういう疑問点が浮かぶゆえんです。
「両者の評点が異なっていても当然だ」←???
ただし、これらの疑問点のうちひとつめに対する著者自身の現時点における結論とは、「少なくとも政府は言論の自由に制限を加えていない」、というものです。
というよりも、先日の『首相に落書きしてネットに投稿しても罰せられない日本』などでも触れたとおり、現実問題として、日本では首相の顔写真に汚ならしい落書きを施してネット上にアップロードしても、逮捕されたり、投獄されたりすることはないからです。
また、ふたつ目の、「RSF、FHの調査のどちらかが誤っているのでは?」という点に関しても、先日の同論考で議論したとおり、評点の客観性や透明性、検証可能性については、FHの調査の方が圧倒的に高い、という点については指摘しておきたいと思います。
ちなみに「RSFとFHの調査結果に大きな矛盾がある」という点に関しては、ごく一部の方は、こういう趣旨のことを主張します。
「両者は調査項目や調査目的が異なるから、評点が大きく異なっていても当然だろう」。
…。
まさか!(笑)
さすがにこれは、思わず笑ってしまうほどには、なかなかに強烈な主張です。もしもRSFとFHの両方の調査結果がともに正しいのだとすれば、日本は「言論の自由はあるが報道の自由がない国」、ということになるからです(笑)。
さすがにこの言い分は苦しいのではないでしょうか?
専門知識のない人が公共の電波で…
「報道の公正さランキング」だと考えると辻褄がある
もっとも、少し視点を変えると、じつはRSFの調査も、ある意味では日本の現状を正確に表現している、という仮説は成り立つと思います。「少なくとも日本政府は報道・言論の自由に制限を加えていない」からといって、「報道が公正になされている」という話につながるとは限らないからです。
違う言い方をすれば、このRSFランキングについては「報道の自由度ランキング」ではなく、「報道の公正さランキング」だと考えれば、辻褄がピッタリと合うのです。
そもそもRSFの原文、何と書かれているのでしょうか。
これについては以前の『日本の報道の自由度を引き下げているのはメディア自身』でも指摘したとおり、RSFの日本に関するレポートを熟読すると、日本については、じつはメディア自身の問題点がいくつか浮かび上がるのです。
これらのなかでも特筆すべきが、「少数メディアの市場独占」と「記者クラブ」です。原文を意訳しておくと、こんな具合です。
メディアの状況
従来型メディアは依然としてニューズサイトよりも大きな影響力を保持している。主要な新聞・放送局は、読売、 朝日、日経、毎日、フジサンケイの5大メディア複合企業体が所有している 。うち読売・朝日は1日の部数がそれぞれ620万部、360万部と世界最多の新聞発行部数を誇る。また、Nippon Hoso Kyokai(NHK)は 世界最大の公共放送局のひとつである。
経済的背景
紙媒体の新聞は依然として主要な経営モデルであるが、この国では世界で最も高齢化が進んでおり、読者の減少によりその将来は不透明である。日本には新聞と放送グループの相互所有権を制限する規制がないため、極度のメディア集中と、時には記者数が2,000人を超えるかなりの規模のグループの成長につながっている。
政治的背景
2012年に国家主義的な右派勢力が権力を掌握以来、ジャーナリストたちからは、自分たちに対する不信感に加え、ときには敵意さえも漂っている全体的な風潮に不満を表明してきた。記者クラブ制度は既存の報道機関のみに対し、記者会見や高官へのアクセスを許可する仕組みで、記者を自己検閲に追い込み、独立系ジャーナリストや外国人ジャーナリストに対するあからさまな差別的取り扱いの温床となっている。
これらを要約すると、「日本には新聞とテレビのクロスオーナーシップを制限する法制がなく、結果的にごく少数のメディアが日本の言論空間を支配している」、「これら少数メディアは記者クラブで情報を独占し、フリージャーナリストや外国人ジャーナリストらを排除している」、というものです。
報道の自由の敵は政府ではなくメディア自身だった
なんのことはない、「日本の報道の自由」の敵は、政府ではなくメディア自身なのです。
そして、これらのメディアは、自分たちを「権力の監視役」などと誤認している可能性も濃厚です。
実際、RSFレポートの冒頭には、こんな趣旨の内容が書かれています。
「日本は議会制民主主義国であり、一般的にメディアの自由と多元主義の原則は尊重されている。しかし、伝統の重圧、経済的利益、政治的圧力、男女不平等により、ジャーナリストが反権力としての役割を十分に発揮することが妨げられることがよくある」。
「ジャーナリストの役割」は「反権力」だ、などといわれても、なんだか困惑します。
ただ、現実問題、日本のメディアやジャーナリストは、そのメディア・ジャーナリストとしての政治思想や見解を、あたかも事実であるかのように垂れ流している、という問題もあります。
想像するに、多くの一般人がジャーナリストやメディアに対して求めているのは「事実をありのままに伝えること」であって、そのジャーナリスト・メディアの政治思想を求めてはいないと思うのですが、このあたりについてはメディアと一般社会の「期待ギャップ」のようなものなのかもしれません。
あれれ?いつから金融・為替の専門家に?
さて、それはともかくとして、日本のメディアが報道の自由を満喫し切っている証拠がもうひとつでてきました。
玉川徹氏、株価乱高下に「一定の状態が次の状態に移る時に大きく動く」今後は「円はもっと安くなる可能性」
―――2024/08/08 13:44付 Yahoo!ニュースより【スポニチアネックス配信】
スポニチによると、テレビ朝日の元従業員でもある玉川徹氏が8日、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組に出演し、日経平均株価の乱高下や円相場の急変について、次のように語ったのだそうです。
「株価が急落したのは大きな意味で為替が関係している。アメリカは高かった金利を下げていこうとしている。日本はずっと低金利だったのをそろそろ上げてもいいんじゃないか」。
「日米の金利差が縮小しようとしている。開いてたから円安だったのが縮んでいったら円高になる。だから今まで1ドル150円くらいだったのが120円とかに寄せていくのを株は先に織り込んだんじゃないかなと思っている」。
…。
はて?
玉川徹氏は、いつから金融市場・為替市場の施文下になったのでしょうか?著者自身の記憶がたしかなら、玉川徹氏は長年、テレビ朝日に勤務していた人物であり、証券会社のマーケット・セクションやリサーチ・セクションなど、マーケットに近いところにいた人物ではなかったはずですが…。
もちろん、市場動向については、本来ならば、どなたがなにを述べるのも自由であるはずです。
しかし、ラジオというのは(衰退しつつあるとはいえ)「公共の電波」を使ったメディアであり、客観的に見て「市場の専門知識がある」とはいえない人物が、公共性のあるメディアで相場観を述べるという時点で、やはり個人的には、大いに違和感を覚えざるを得ません。
アナリスト規制に服していない人が公共の電波で市場予想を述べる
ちなみにスポニチによると、玉川氏はこうも述べたそうです。
「もっと長いトレンドでどうなるかというと、購買力平価で見ると日本の今の為替は100円切るくらい。今150円でものすごく開いているけど、先進国の主要通貨は2、3年乖離しても戻っていく傾向があるらしい<中略>長期的にはこれからは円はもっと安くなる可能性が高いと思っていた方がいい」。
この予想、当たるかもしれませんし、外れるかもしれません。
私たちは神様ではありませんので、金利、為替、株式などの市場の未来の動向については、「予測」をすることくらいならできますが、ピタリと言い当てることなどできっこないからです。
(※ちなみに余談ですが、著者自身は「円安が長期化すれば、日本企業は業績が向上し、日本経済にもプラスである」と考えている立場ですが、それと同時に「もし日本経済が輸出主導で回復していけば、再び円高トレンドに戻らざるを得ない」という予想を持っています。)
この点、金融商品取引業者等のアナリストらが相場について予想する場合は、いくつかのアナリスト規制(たとえば日本証券業協会『アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則』など)に服する必要があるなど、一定の制約を受けます。
しかし、メディア人らには、こうした規制は適用されていないらしく、結果的に(言い方は失礼かもしれませんが)「その分野についての十分な専門知識もない人たちが公共の電波を使っていい加減なことを言いっぱなし」、という状況が生じているわけです。
こうした玉川氏の事例など、日本において「報道の自由」が貫徹している証拠ですが、そのことが日本の社会のためになっているとは言い難いのです。
いっそのこと報道を徹底的に自由化しては?
ただ、これについて著者自身は、「言論の自由に制限を加えるべき」、などと申し上げるつもりはありません。
むしろ著者の主張はこれと真逆で、先月の『「新聞版BPO」創設よりも自由競争貫徹の方が現実的』などでも指摘しましたが、「いっそのこと、言論の自由を徹底的に進めるべきだ」、と考えています。
つまり、新聞、テレビなどのオールドメディアは、今まで通り、たとえば「経済の専門知識を欠いた人たちが経済について語る」(あるいはこの場合、「騙る」、でしょうか?)のも自由としつつ、いっそのこと政府高官などの記者会見への参加も、すべて自由化してしまえば良いのです。
つまり、「報道の自由度」を引き下げている主要な犯人である「記者クラブ」制度を撤廃する、という発想であり、あわせてテレビ局については電波オークションを導入すれば良いのではないでしょうか。
もっとも、新聞業界に関しては、正直、放っておいても消滅するでしょうから(『皮肉…相次ぐ新聞値上げはむしろ業界衰亡早める可能性』等参照)、自然淘汰の原理に委ね、政府としては「何もしない」のが正解ではないかと思いますが…。
いずれにせよ、くどいようですが、日本社会において「報道の自由度が低い」というのは虚偽の主張である可能性は限りなく高いといえますし、こうした実例は、放っておいたらどんどんと出て来るというのも面白いと思う次第です。
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扇文家
専門外に代弁させるのは、表現の自由を謳歌しつつ、責任を回避する算段ですね。
「素人なんだからそんなこと知る由もない!」ってのが、クレーマーの常套句です。
毎度、ばかばかしいお話を。
マスゴミ:「報道の専門家でない某会計士が、報道の自由について語るな」
ありそうだな。
かなり前に、何故か軍事・地政学の専門家ではなく、ノーベル化学賞を授与された先生に戦争論を書かせるような新聞があったような…
新聞にとっては、ノーベル賞受賞者という肩書が重要だったのですね。
次はノーベル賞受賞者に、新聞社経営について語ってもらいましょう。
・【放送事故】 報ステで古舘アナがベンゼン環図を間違え、ノーベル化学賞受賞の鈴木章さんが半切れ
https://itainews.com/archives/1551925.html
https://daigo-8899.hatenadiary.org/entry/20101007/1286417435
報道の自由度って、国ごとに報道に携わってる人へのアンケート調査ですよね♪
だから「国のランキング」というよりも、「ジャーナリストの程度」を表すものになっちゃうのは仕方ない気がするのです♪
記事に対して批判があったとき、批判を受け入れて事実と論理で反論することができないと、こういう意見になるのは仕方ないのかな?って思うのです♪
↓ ↓
>ジャーナリストたちからは、自分たちに対する不信感に加え、ときには敵意さえも漂っている全体的な風潮に不満を表明してきた。
自分の言っていることと逆のことが起こった時何というか。
「私は専門家ではないので」で始まる言い訳。
最後は「投資は自己責任で」
マスメディアのコメンテーターで、よく顰蹙をかっている御仁がナニを言ってるんだろう。起用するのは私の理解の及ばないところで、価値があるのかなぁ?
「予言」が当たって嬉しいのは本人だけなんですよね。
他人から見れば根拠不明な予言はアテにできないから何の役にも立たなくて。
あ、本人以外では「信者」も嬉しいかもですね。
「今回も教祖様の予言どおりだった(えっへん)」
信者もいないのに予言をぶつ行為は見ていてイタイです。
EVもそうですね、車を知らない素人が偉そうに論評し、
車のイロハを熟知している豊田氏のEVに対する現実的な対応や発言に対してこき下ろしてましたね。
ある意味コメンテーターや発言を求められる有(?)識者も専門外の意見を求められるのでかわいそうだと思います。
許せないないのは専門外のことを聞きかじりで雄弁に論評している弁護士や漫画家。元官僚、NPO団体代表。
あの「サンモニ」では、庭師が政治や経済を語ったりしていましたからね。弁護士や医師などでも得意分野は細分化されているので、まともな人ならおいそれと専門外のことにコメントできないはずなんですが。有名人や社会的地位が高そうな人なら、世の中のことをなんでも知っていると錯覚してはいけません。
厚顔無恥な玉川徹氏を重用し続けるテレビ朝日の企業体質が知れますね。
報道の質よりもエンターテインメント重視なのでしょうね。
テレビ朝日にとって玉川氏は、テレビ朝日の元報道局員なので、もっともらしく変なことを言ってくれる使い勝手の良い芸人さんなのでしょう。