10年前の今日、いわゆる自称元慰安婦問題に関連し、株式会社朝日新聞社が「吉田清治証言」を「虚偽だと判断し、記事を取り消す」と宣言しました。この一連の記事やその後の同社の対応を巡っては、さまざまな議論があることは事実でしょう。ただ、ネットと新聞の力関係は、当時と今と比べ、大きく変わりました。こうしたなか、本稿では客観的事実として、朝日新聞の朝刊部数の減少率2015年3月期以降、加速しているという点についても確認しておきたいと思います。
今から10年前にあったこと
今から10年前の2014年8月5日といえば、いったい何の日だったのでしょうか。
ご存じの方も多いとは思いますが、ちょうどこの日、いわゆる自称元慰安婦問題に関連し、当時の朝鮮・済州島(さいしゅうとう)で慰安婦を強制連行したとする「吉田清治証言」を巡り、朝日新聞社が「証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します」と宣言した日です。
「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした。済州島を再取材しましたが、証言を裏付ける話は得られませんでした。研究者への取材でも証言の核心部分についての矛盾がいくつも明らかになりました」。
該当する記述は、(少なくとも現時点では)下記のリンクで読むことができます。
「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
朝日新聞の一連の記事
ただし、世間的には「朝日新聞社が慰安婦に関する一連の報道が虚偽であったと認め、謝罪した日だ」と認識されているフシもありますが、これは正しくありません。
朝日新聞社としては、「隣国と未来志向の安定した関係を築くには(自称元)慰安婦問題は避けて通れない課題のひとつ」だとしつつ、「私たちはこれからも変わらない姿勢でこの問題を報じ続けていきます」とも宣言しているからです。
当時の杉浦信之取締役(編集担当)名による次の記事などが、それです。
慰安婦問題の本質 直視を
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
また、朝日新聞は同日付で、少なくともほかにも数本の記事を発行しており、自称元慰安婦問題を巡り「挺身隊との混同」などがあったとしつつ、「強制連行・自由を奪われた強制性があった」だの、「軍関与を示す資料があった」、「記事に事実の捻じ曲げなし」だのといった記事も配信しています。
慰安婦問題とは
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
強制連行 自由を奪われた強制性あった
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
「軍関与示す資料」 本紙報道前に政府も存在把握
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
「挺身隊」との混同 当時は研究が乏しく同一視
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
「元慰安婦 初の証言」 記事に事実のねじ曲げない
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
他紙の報道は
―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
このため、少なくとも2014年8月5日の段階では、株式会社朝日新聞社としては、「慰安婦問題の捏造を明確に認めて謝罪した」、という事実は認められません。
ただ、自称元慰安婦問題―――「1941年12月9日から45年8月15日までの期間、日本軍が組織としての正式な意思決定に基づき、朝鮮半島で少女20万人を強制的に拉致し、戦場に送り込んで性的奴隷にした」―――とされる問題の出発点のひとつが、明確に否定されたことについては間違いありません。
有報をベースにした朝日新聞の部数
さて、この朝日新聞の報道や、これらを巡る株式会社朝日新聞社の対応などについては、さまざまな議論があることでしょうし、当ウェブサイトとしても言いたいことはいくつかあるのですが、本稿では敢えて、「とある客観的事実」に注目しておきたいと思います。
『朝日新聞部数はさらに減少:新聞事業は今期も営業赤字』でも取り上げた、株式会社朝日新聞社の過年度有価証券報告書をもとにした、朝日新聞の部数です(図表1)。
図表1 朝日新聞の部数推移
(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書開示をもとに作成)
これで見ると、とくに朝刊部数に関しては、著者自身が入手している最も古いデータである2006年3月期の813.2万部と比べ、直近・2024年3月期の部数は358.0万部にまで落ち込んでいます。減少率で見たら、半分どころか、約56%も減少した計算です。
ただ、この「減少の速度」に関していえば、2014年3月期まではだいたい毎年1~2%程度の緩やかな減少に留まっていたのが、2015年3月期以降は減少のペースがさらに速くなっているのです。
朝日新聞朝刊・前年比減少率の推移(22年3月期までは平均値)
- 2007年3月期~14年3月期…0.96%
- 2015年3月期~19年3月期…5.19%
- 2020年3月期~22年3月期…7.53%
- 2023年3月期…12.42%
- 2024年3月期…10.30%
(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書開示をもとに作成)
いったいなぜ、朝日新聞の部数が急速に減少し始めているのか。
このあたりには、かなり複合的な要因もあろうかと思われ、たとえば「昨今は新聞業界全体が『下り坂』となっていて、朝日新聞もその例外ではない」、といった仮説の説得力はそれなりにありそうです。
新聞業界全体と比べて減少速度が大きい
この点、一般社団法人日本新聞協会が刊行している『日本新聞年鑑』や、同じく同協会が公表している『新聞の発行部数と世帯数の推移』データなどをもとに新聞部数を追いかけていくと、やはり、だいたい2014年前後から部数の落ち込みが激しくなっているからです(図表2)。
図表2 新聞部数の推移
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)
ただ、グラフで視覚的に確認するだけでなく、実数でも確認しておくと、新聞業界全体の朝刊部数の減り方は、朝日新聞のそれと比べて緩やかです。日本新聞協会データをもとに、新聞朝刊の部数(※「セット部数」+「朝刊単独部数」の合計)の前年比増減率を求めておくと、こんな具合です。
新聞朝刊・前年比減少率の推移(21年10月分までは平均値)
- 2006年10月~13年10月…1.30%
- 2014年10月~18年10月…3.21%
- 2020年10月~22年10月…6.01%
- 2022年10月…6.39%
- 2024年10月…7.22%
(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。ただし、ここでいう「朝刊部数」とは、同データの「セット部数」と「朝刊単独部数」の合計値を意味する)
朝日新聞の部数データと日本新聞協会のデータは公表のタイミングが半年ずれている、という点に注意は必要ですが、明らかに、減少速度が大きい―――、すなわち、朝日新聞の部数の落ち込みは、新聞業界全体と比べても激しいことがわかるのです。
この10年で逆転した、ネットと新聞の力関係
この点、朝日新聞の2015年3月期の落ち込みは「慰安婦関連報道」で何となく説明はつくのですが、それ以降の減少速度について、どう考えるべきなのでしょうか。
慰安婦関連報道(や福島第一原発を巡る吉田調書関連報道)がその後も朝日新聞の部数変化に影響を与えたとみるべきなのでしょうか?それとも何か他に要因でもあるのでしょうか?
これに関して、著者自身が現時点で持っている仮説のひとつは、「日本新聞協会のデータは全国紙、地方紙を含めたものであり、全国紙のほうが地方紙と比べ、落ち込みが大きい」、というもので、朝日新聞「だけ」が激しく落ち込んでいるのだ、などと安易に決めつけるべきではありません。
ただ、社会のネット化が急速に進むタイミングで発生した「吉田証言報道の取消」という「事件」が、その後の朝日新聞の部数にも何らかの影響を与えていると考えるのは、べつにおかしな話ではないように思える次第です。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、10年前といえば、まだ当ウェブサイトはこの世に存在していませんでした。
ただ、この朝日新聞の一連の記事については、著者自身は昨日のことのように鮮烈に覚えていますし、その後10年間、ウェブ評論の側からオールドメディアを眺める人が増えた、大きなきっかけのひとつだったこともまた間違いありません。
もっといえば、社会的影響力や媒体としての広告収入、ページビュー(PV)と部数の関係などに照らし、事実上、ネットと新聞の関係が完全に逆転したと考えています。
ネットの隆盛もその大きな理由ですが、それだけではありません。
新聞業界が「モリカケ・さくら・統一教会」などのスキャンダル追及、あるいは福島第一原発事故を巡る一連の「汚染水」報道、あるいは科学の知見を完全に無視した「お気持ち」報道、さらには「国の借金」や「悪い円安」論など、専門知識を完全に無視した報道を繰り返したからです。
少し厳しい言い方をすれば、(一部の心あるメディアを除き)新聞業界自体が、みずから読者からの信頼を裏切るような記事を配信し続けていることが、新聞業界に対する国民の信頼が低下している大きな要因であることに、新聞業界関係者自身が気付いていないフシがあるのです。
いずれにせよ、ネットと新聞の力関係がほぼ完全に逆転したいま、改めてこの「2014年8月5日」という日付を振り返るとともに、しっかりと記憶に刻む価値があるのではないかと思えるのですが、いかがでしょうか。
View Comments (14)
朝日が嫌気されたのは、先鋭化の末に正体が露呈したからなんですよね。
朝日新聞が名実ともに『アサシン(刺客?暗殺者?)』だったってこと・・。
朝日と他紙との減少率比較ですが、【図表1と「図表2から図表1の数値を減じたもの」との比較】が実情に近いのかもですね。
>「挺身隊」との混同 当時は研究が乏しく同一視
研究など、もともとない。なぜか? 両者が違うことなどみんな知ってたから。
現在80台後半の人で「姉が挺身隊で働いていた」と言う人いっぱいいるはず。
記事以前から韓国人が混同していると言われていたが朝日新聞ともあろうものが混同はあり得ない。
韓国のしかけた謀略を感じるね。
こうの史代『この世界の片隅で』
でも、挺身隊のくだりがきっちり描かれてましたね。
朝鮮進駐軍?らしきものまできっちり描かれているから、所謂パヨクさんたちは褒めるも貶すもできなくて、黙ってるのかなぁー、とか。
毎度、ばかばかしいお話を。
某大学前総長:「朝日新聞の販売数が落ちていることは、日本人のリテラシーが落ちている証拠である」
蛇足ですが、朝日新聞としては、先輩の記事を否定しないことで、社内の温かみを示しているのではないでしょうか。
ウソは犯罪です
ウソツキは泥棒の始まり
毎度、ばかばかしいお話を。
朝日新聞:「噓つきは泥棒の始まりである。我々は泥棒ではない。だから、我々は噓つきではない。だから朝日新聞の記事は間違っていない」
だから、朝日新聞は、自身の記事の間違いを認めることができないのですね。
蛇足ですが、もし朝日新聞社内で、先輩の記事の誤りを指摘すると、「先輩への温かみはないのか」と批判されるのではないでしょうか。結論、「人間関係は他人なら忖度。自分なら温かみ」
朝日は実は戦争大好き。アメリカ空母がやってくると聞きつけると報道ヘリ飛ばしてノリノリで報道する。朝日の左寄りは部数増やすための方便であって信念ではない。信念ないから、記事書くのに邪魔になる継続性なんかは全く気にならない。まあ慰安婦報道の訂正なんて彼らの立場じゃ終わった話なのでしょう。
最近面白い傾向なのは読売。元々ここは部数が全て、信念がない(部数命という信念)。最近突然左傾化し出してますよね。主な購読層である高齢者が左寄りになっていることに対応したのでしょう(高齢者の左傾化傾向は新聞の将来の話だけでなく、選挙の話にも通じるので一度頭の整理をしたいです)。記事が左傾化しつつも、ネット記事では「Xからの引用」みたいのをとうとう大手新聞もやり出したか。でげんなりしてしまいます。PV稼ぎでしょうね。SNS引用は裏取りがいらない、嘘もバレないからすごく楽でしょうけど、逆に情報価値はゼロ。あっ新聞記者自分の感想だろうねと読み飛ばすのが吉。
未だに朝日新聞が朝刊358万分というのが驚きです。地方は地元紙が強く、5大紙といえども弱小です。という事は地元紙の無い東西の都市部?で購読者が居るのでしょうか。あと公的サービスで置いている場所が多いのかも。でも嘘、捏造、でっち上げがしにくくなったので、オールドスタイルの旧マスコミは、インターネットに完全に不可逆的に逆転されましたね。もう終わってます。
かなり昔の話になりますが
教育委員会の偉い方の話を聞く機会がありました
世の中の出来事にまんべんなく知見を広めるため
出勤したらいくつもの新聞の隅から隅まで目を通すと自慢気に語っていました
当時、それって普通に人は出勤前にしてることだろと思いました
しかし公費で購読する新聞を強制的に読めせられるのは苦痛でしかありませんし
文科省の出向者の接待から解放され
お茶でも飲みながらくつろげるわずかな憩いのひと時であったのかもしれません
家庭で新聞を取るのは当たり前だと疑問も抱かずにきましたが
いつの間にか記事は読まなくなり古紙の整理だけが負担という状況になりました
購読を停止して一年ほどですが個人的に特に不都合はありません
新聞の廃刊は教育委員会その他の貴重な仕事を奪い
公費の使い道を新たに考えねばならない面倒が発生するので残念なことですね
朝日新聞などの全国紙は、全国紙と言っても、地方紙にシェアを奪われずにいる所謂三大都市圏の雇用される又は雇用されていた所謂サラリーマン世帯の方々が主たる契約者である印象があります。
かつ、主たる契約者はかつて新聞片手に持って満員電車に乗って通勤されていた団塊世代に方々。その方々が大凡定年後の第二勤務も終えて大多数が年金のみの生活に入られるのが70歳前後とするとそれが2015年前後。年金のみ生活者にとって年6万円の契約費は厳しく、その上小さい文字を読むのも面倒で、契約を打ち切りTV主体の生活習慣に移行した。
一方、大卒者の多い団塊世代首都圏雇用勤務経験者は、ITスキルを持つ人も多いため、その方々はTV主体ではなくインターネット主体の生活環境に移行した。
これは新聞界にとって共通の背景だが、前述のように主たる契約者が首都圏雇用勤務者であったであろう全国紙ではその傾向が顕著にでた。ということのように感じます。
「新聞業界全体の朝刊部数の減り方は、朝日新聞のそれと比べて緩やか。とくに、2014年同新聞が朝鮮人従軍慰安婦強制連行という「吉田誠治証言」に基づく記事が誤報であったことを認めて以降、この乖離は顕著。これは、朝日新聞というメディアが、とりわけ社会的信頼を失われていることを示す、有力な証拠だ。引用URL:https://shinjukuacc.com/20240805-01/」
こんな文章を噂の「陰謀論チェッカー」にかけてみました。
以下がその判定結果。
>投稿内容の要約
投稿者は、新聞業界全体の朝刊部数の減少が朝日新聞に比べて緩やかであることを指摘し、特に2014年に朝日新聞が従軍慰安婦に関する誤報を認めて以降、朝日新聞の社会的信頼が失われていると主張しています。
検出された陰謀要素
- 特になし
陰謀度
★☆☆☆☆
判定理由
この投稿は、朝日新聞の部数減少の背景に、過去の誤報が影響を及ぼしているとするもので、特定の新聞に対する批判が中心です。朝日新聞が社会的信頼を失ったことを指摘している一方で、陰謀や隠された意図を示唆する内容は含まれていません。このような批判はメディアの評価に関する主観的な意見であり、陰謀度は低いと評価されます。
まあ、このサイトの開発に携わって人物が、上念司氏だという部分は、ある程度割り引く必要があるかも知れませんがね。
「子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う」
朝日は今からでも遅くはない。一度きちんとこの誤報問題を自社としてどう総括しているのか、一週間ぶっ通しで記事にするくらいのことはやった方が良いよ。でないと、いつまでもネチネチとあげつらわれてしまう(本エントリー記事のように)。
まあ、土曜日の「雑談コーナー」でコメントしたんですが、そんな反省など微塵もなく、日本人の良識を代表するが如き言説を臆面なく記事にし続けるって、天晴れとも言うべき勘違いさが面白くて、未だに購読を続けてるへそ曲がりも、居るにはいるんだが(笑)。
朝日新聞は「挺身隊」と「慰安婦」の区別はできていたはずです。
1985年の戦後40周年を記念した「朝日グラフ」で戦前から戦中や学徒動員や女学生の勤労動員「挺身隊」の写真特集を出しています。
現物がないので大きなことは言えないのですがね。
慰安婦報道の数年前ですよね?
このころ、ビックコミックスかビックコミックススピリッツで慰安婦の読み切り漫画が掲載もされました。慰安婦問題が出る前だと思います。
朝日新聞にとっては戦前や戦中のやらかし報道と同様で謝罪はないと思います。その「朝日グラフ」で「決意も新たに学徒動員」的なコメントを書いた神宮球場の学徒の出陣式の写真を大画面で出していたからですね。
ちなみにその写真の中には、戦前から戦争初期に行われた学連航空連盟のフライト合宿(グライダー部の合宿)も残ってました。戦争の後押しをしていたことはしようがない(うちは悪くない)ようにも見えた内容でした。
個人的に気になるのは、英語版では検索にヒットしないようにしたままで公開をしていた件が修正されたかですね。非を認めないところは筋金入りのようですね。