財務省税関は30日までに、2024年6月までの貿易に関する統計データを公表しました。これによると日本にとって最大の貿易相手国は中国ですが、輸出額では台湾が韓国を抜いて3位に浮上しているほか、サウジアラビアが輸入額で9位に転落するなど、ランキングの変動が見られます。とりわけ台湾は日本にとって重要なパートナー・友人であり、日台関係発展自体は歓迎すべきですが、それと同時に日本企業は地政学リスクも意識しているフシもあります。
2024/07/30 14:46追記
図表1-2のタイトルが誤っていました。申し訳ありませんでした。
最新版・貿易相手国の状況(輸出、輸入、貿易額)
財務省税関は30日までに2024年6月の貿易統計を公表しました。
これによると輸出額は9兆2091億円、輸入額は8兆9851億円で、貿易収支は+2108億円と、3ヵ月ぶりの黒字に転換しました。当月輸出高を国別に展開すると、図表1のとおりです。
図表1-1 輸出金額(2024年6月)
相手国 | 金額 | 割合 |
合計 | 9兆2091億円 | 100.00% |
1位:米国 | 1兆9268億円 | 20.92% |
2位:中国 | 1兆6272億円 | 17.67% |
3位:台湾 | 6290億円 | 6.83% |
4位:韓国 | 5676億円 | 6.16% |
5位:香港 | 4529億円 | 4.92% |
6位:タイ | 3456億円 | 3.75% |
7位:豪州 | 2439億円 | 2.65% |
8位:シンガポール | 2411億円 | 2.62% |
9位:ベトナム | 2220億円 | 2.41% |
10位:ドイツ | 2161億円 | 2.35% |
その他 | 2兆7368億円 | 29.72% |
図表1-2 輸入金額(2024年6月)
相手国 | 金額 | 割合 |
合計 | 8兆9851億円 | 100.00% |
1位:中国 | 1兆9627億円 | 21.84% |
2位:米国 | 1兆0566億円 | 11.76% |
3位:豪州 | 6143億円 | 6.84% |
4位:UAE | 4194億円 | 4.67% |
5位:韓国 | 3967億円 | 4.42% |
6位:台湾 | 3890億円 | 4.33% |
7位:ベトナム | 3163億円 | 3.52% |
8位:タイ | 3158億円 | 3.51% |
9位:サウジアラビア | 3084億円 | 3.43% |
10位:インドネシア | 3073億円 | 3.42% |
その他 | 2兆8987億円 | 32.26% |
図表1-3 貿易高(2024年6月)
相手国 | 金額 | 割合 |
合計 | 18兆1943億円 | 100.00% |
1位:中国 | 3兆5900億円 | 19.73% |
2位:米国 | 2兆9834億円 | 16.40% |
3位:台湾 | 1兆0179億円 | 5.59% |
4位:韓国 | 9643億円 | 5.30% |
5位:豪州 | 8583億円 | 4.72% |
6位:タイ | 6614億円 | 3.63% |
7位:UAE | 5579億円 | 3.07% |
8位:ベトナム | 5383億円 | 2.96% |
9位:ドイツ | 4965億円 | 2.73% |
10位:香港 | 4950億円 | 2.72% |
その他 | 6兆0314億円 | 33.15% |
(【出所】財務省貿易統計データをもとに作成)
日本の基本的な貿易構造
この点、日本の貿易構造には、次のような特徴があります。
- 日本の産業は「川上工程」に非常に強く、輸出品目の多くは(自動車などを除けば)「最終製品」よりも中間素材や生産装置、資本財など(いわゆる「モノを作るためのモノ」)で占められており、これらの「モノを作るためのモノ」を中国、韓国、台湾などに売って儲けている
- 日本の産業は「川下工程」に弱く、1990年代以降、多くの企業が中国やASEANなどに生産拠点を移していったという事情もあり、軽工業品・組立品目(衣類、雑貨、PC、スマホなど)の輸入額が非常に多い
- 民主党政権時代になかば強引に原発稼働が止められたなどの影響もあり、電源の多くを火力発電に依存しているため、エネルギー(とくに石油、石炭、LNGなど)の輸入が非常に多く、資源の国際価格などにより輸入額が大きく増えたりすることもある
実際、日本にとっての貿易相手国のトップは、上位5ヵ国が中国、米国、台湾、韓国、豪州であり、これにタイ、UAE、ベトナムなどが続きます。ただし、世界最大級の産油国であるはずのサウジアラビアは、輸入額ランキングで9位にまで下がっています(1年前の2023年6月は6位でした)。
国ごとに見た輸出入額・収支の推移
次に、輸出入額と収支差額の推移を見ていくと、図表2のとおり、貿易赤字額については上半期累計で-マイナス3.24兆円であり、これを単純に2倍すれば6.48兆円ですが、2022年のマイナス19.98兆円、2023年のマイナス9.29兆円などと比べれば、いまのところ、貿易収支は改善傾向にあるとみて良いでしょう。
図表2 日本の輸出入額と収支の推移(※2024年については6月まで)
(【出所】財務省貿易統計データをもとに作成)
これを国ごとに見ると、貿易額にはさまざまな特徴があります(図表3/【出所】財務省貿易統計データをもとに作成)
まずは、日本が貿易黒字を計上している相手国です。
たとえば対米貿易だと、上半期の貿易収支は3.90兆円の黒字で、単純に2倍すれば7.80兆円ですが、この黒字額は2023年実績の8.73兆円、2022年実績の6.54兆円などの水準と遜色(そんしょく)ありません。
図表3-1 対米貿易
また、対韓貿易では2024年上半期で1.10兆円の黒字を計上しており、単純に2倍すれば2.20兆円と、昨年実績(2.23兆円)なみの黒字を確保しそうであり、対台貿易でも上半期は1.04兆円の黒字で、単純に2倍すれば2.08兆円と昨年実績(1.03兆円)を大きく上回る黒字となります。
図表3-2 対韓貿易
図表3-3 対台貿易
一方、日本が貿易赤字を計上している相手国もあります。
たとえば、対中貿易だと、2024年上半期だけで2.87兆円のマイナス(つまり貿易赤字)を計上しており、単純に2倍すれば5.74兆円で、2023年実績のマイナス6.66兆円、2022年実績のマイナス5.83兆円という水準からあまり変わっていません。
図表3-4 対中貿易
また、豪州に関しては、上半期の累計での貿易赤字額は2.79兆円であり、単純に2倍すれば5.58兆円ですが、これは2023年実績の6.77兆円、2022年実績の9.45兆円などと比べ、赤字幅は縮小しています。
図表3-5 対豪貿易
この点、中国が日本にとって、米国に次ぐ2番目の輸出相手国であるという事実や、中国が日本にとって最大の輸入相手国であるという事実は、「日本が中国に生産財などを輸出しているが、それ以上に、最終消費財を中国から輸入している」という事情を反映したものでしょう。
また、韓国、台湾などに対する輸出が引き続き好調であるというのは、「これらの国の工業がさかんになればなるほど、日本製の工作機械や中間素材などに対する需要が伸びる」という状況にあることを示唆するものでもあります。
台湾が日本の重要な貿易相手に浮上
さて、本稿でもうひとつ注目しておきたいのが、台湾との関係です。
貿易統計だけで見るならば、輸出額で最近、再び台湾と韓国の逆転が生じていることも見逃せません。とくに日本の輸出先では、今年4月に台湾が3位に浮上し、韓国が4位に転落していて、この状況が3ヵ月継続している状況です。
台湾といえば、日本企業にとっては台湾海峡問題などの地政学リスクが強く意識される地域ではありますが、それと同時に日本政府をして、『令和6年版外交青書』などで、次のように表明している相手でもあります。
「台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(P50)。
台湾自体、人口、面積ともに「大国」とはいえないかもしれません。
しかし、中国、北朝鮮、ロシアなどの「4つの無法国家」が近隣にあるなど、周辺国に恵まれない日本にとって、台湾は数少ない「普遍的価値などを共有する重要なパートナーであり、大切な友人」である(と日本政府が表明している)ことを踏まえると、日台の貿易関係の発展は歓迎すべきことかもしれません。
ただし、現実の経済的関係が、「友好関係」だけで動くわけでもありません。
たとえば金融分野に関していえば、国際与信統計など他のデータで見ると、日本の台湾に対する与信は、中国、韓国、香港などと並んで、急速に縮小している、という傾向が認められます(『邦銀の対外与信は過去最多更新:近隣国向け与信は低調』等参照)。
このように考えていくと、やはり日台友好は重要ではあるものの、邦銀・日本企業などは、地政学リスクなどを案外シビアに評価しているのだ、といえるのかもしれません。
View Comments (6)
>台湾自体、人口、面積ともに「大国」とはいえないかもしれません。
さりとて重要性は高いと。それも対中防波堤というような受動的かつ悲劇的な理由ではなく、積み上げてきた技術的価値や外交の駆け引きによって。国家の選択の全てが安全保障にも繋がっているという好例に思えます。
逆に、現代に於いてなお大国たらんとする事自体を志向する国は、大抵失敗をしているように思えます。いよいよ足元がぐらつく中国、突如自ら泥沼に嵌ったロシア、なんかよくわかんないけど韓国、など。
中国はあまりにも強引なやり方で国力を増し、その過程で発生した問題やリスクは
無視と誤魔化しで押し通してきた結果、多くの人が言っていた通り
”ツケを支払わされて”いますね。
「共産主義(つまり独裁体制)のまま経済だけ資本主義にしようとしたらこうなる」
と言う人類の歴史の教訓になりそう。
かと言って、(アフリカや中東を見る限り)下手に民主化を目指すと国がどんどん
分裂したりするので、「民主化しとけば良かったんだ」とも断言できませんが。
ロシアが突如暴走した理由は……「取りやすい資源が尽きて、採算が合わない場所に
ある物ばっかりになってしまった」でしょうかね?
中東の金持ち国家はいずれ石油が尽きた時の為に色々手を尽くしている様ですが、
そっちも上手く行くかどうか……
韓国は反日と言う名の「病」もしくは「邪神」を自ら生み出し、それに囚われ続けた事が
死因となった……と後世では言われそうな気がします。
日本と張り合って発展を加速しようとせず、自国の問題に丁寧に対処し続けたら、
あるいはカナダくらいの安定国家になれたかも知れないのに……
多民族国家で民主化すると51が必ず勝つので
49の方が「阿保らしい、やっとれん」となって独立戦争必至となる
「図表1-2 輸出金額」は、輸入金額なんでしょうか?
naga 様
ご指摘の通り、誤りです。大変申し訳ありませんでした。また、ご指摘いただき大変ありがとうございました。
引き続きのご愛読並びにお気軽なコメントのほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
私は国家間の関係を考える時は好き嫌いの感情は一切排除すべき(現実には難しいことですが、できるだけそう心がけるべき)だと考えていますが、そんな私でも日韓関係よりも日台関係を深めることを優先すべきという新宿会計士さんのご意見には賛同します。
韓国は常に日本をベンチマークしているため、競合関係になりやすいから。
水平分業でWin-Winの関係を構築できる見込みがありません。
この傾向は今後も続くものと思われるので、故意に冷遇する必要はありませんが、関係強化の努力は台湾やフィリピンやベトナムに向けるべきだと考えます。