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日鉄「米企業買収+中国合弁撤退」が象徴する日本経済

経団連の副会長も輩出するなど、日本を代表するメーカーである日本製鉄は、昨年12月、USスチールを買収すると発表。今年3月の声明では、この買収が「中国に対する経済安全保障の強化」になると宣言しているのですが、日本製鉄自身も中国企業と合弁会社に投資していて、この言い方は大丈夫なのか、ちょっと心配になります。ところが、その答えのひとつが出てきました。日本製鉄は中国の2つの合弁会社のうち1社については合弁を解消するというのです。

昨年暮れにUSスチール買収を発表した日本製鉄

日本製鉄といえば、昨年12月18日に米老舗鉄鋼メーカーのUSスチール(United States Steel Corporation)の買収を発表。合併契約はすでに締結済みであり、当局承認などを前提として、いわゆる「逆三角合併」の手法を使い、USスチールを完全子会社にする方式にて行われるとのことです。

これに関しては、あくまでも報道等によれば、労組やバイデン政権などの反発もあり、今後の展開は不透明なままではありますが、これに対して日本製鉄が3月15日付で発表した声明が興味深いところです。

USスチールの買収に関するステイトメント

―――2024/03/15付 日本製鉄株式会社HPより

日本製鉄はこの声明で、USスチールへの投資の拡大や先進技術の提供などの技術連携が実現すれば、「米国の優位性を高め、同時に米国のサプライチェーンと中国に対する経済安全保障を強化する」ことにつながる、と宣言しています。原文の一部を抜粋すると、こんな具合です。

日本製鉄は、USスチールへの投資の拡大と先進技術の提供を通じて、米国の鉄鋼を必要とする重要産業のお客様に対して、より高品質で競争力ある製品・サービスを提供することで、米国の優位性を高め、同時に米国のサプライチェーンと中国に対する経済安全保障を強化します。独占禁止法の要件を満たした上で、このような米国の優位性強化を独力で実現し得る、他の米国企業はありません」(下線は引用者による加工)。

日本製鉄も中国に進出しているはずだが…?

なんだか、まるで「中国は経済安全保障の脅威だ」、とでも言いたいかの文章です。

ほんの十数年前、一部のメディアがやたらと、「これからは中国の世紀だ」と大騒ぎしていた熱気を覚えている身としては(また、中国と関係を深めすぎることへの懸念を抱いていた身としては)、日本を代表するメーカーでもある日本製鉄が、こうやって堂々と、「中国」を名指ししているというのには驚きます。

しかも、日本製鉄はたしか、中国企業とも連携をしていたはずですが、ここまで堂々と「中国」に言及してしまって大丈夫なのでしょうか。

実際、日本製鉄の有価証券報告書(2024年3月期)『製鉄事業/主要な持分法適用会社』(P11)によると、中国・上海市の「宝鋼日鉄自動車鋼板有限公司」(資本金30億元)、「武鋼日鉄(武漢)ブリキ有限公司」(資本金23.1億元)の2社に対し、それぞれ50%を出資も行っています。

このうち「宝鋼日鉄自動車鋼板有限公司」は「BNA」と略すのだそうですが、「宝鋼」とは中国の「宝山鋼鉄株式有限公司」のことで、同有報P46『経営上の重要な契約等』によると、この「宝鋼」とその合弁会社であるBNA社に関しては、こんな記載もあります。

中国における冷延及び溶融亜鉛めっき鋼板製造・販売に関する合弁事業(事業主体 宝鋼日鉄自動車鋼板有限公司)

ちょっと、これは心配になってしまいます。

なにせ、「経済安全保障上、中国が問題だ」、などといわんばかりの声明文を出してしまうと、2社との連携がどうなるのかがきになると頃ですし、さらには中国ビジネスを今後、同社が拡大するうえでも差し支えとなってしまうかもしれないからです。

中国の合弁事業のひとつを解消

ただ、その答えのひとつが出て来たようです。

中国における自動車鋼板合弁事業の解消について

―――2024/07/23付 日本製鉄株式会社HPより

日本製鉄はこの2つの合弁会社のうち、宝山との連携・合弁事業については解消し、BNAの50%持分については宝山に譲渡することを、7月23日付で発表しました。

有報の記述でもわかるとおり、もともと宝山との連携はいまから20年以上前の2003年12月23日に原契約が締結され、営業許可証発効日から20年が経過する日、すなわち2024年7月29日(=本日)が契約の期限、と記載されていました。

日本製鉄によると同社の経営期間の満了日は今年8月29日だそうですが、これについては当局承認が得られることなどを条件として、8月29日にBNAの持分すべてを宝鋼に譲渡する方式にて、この合弁を解消することで同社と合意した、などとしています。

もちろん、この日本製鉄のUSスチール買収と宝山鋼鉄との合弁解消は、いずれも独立になされた意思決定であるはずです。また、日本製鉄という「個別の事例」がコーポレート・ジャパン全体の動きを決定づける、というものでもありません。

ただ、それと同時に日本製鉄は日本を代表するメーカーであり(同社の橋本英二会長は経団連副会長でもあります)、その日本製鉄が企業が米国との関係を深め、中国との関係を縮小したうえで、「対中国での経済安保」を口にするというのは、じつに象徴的でもあります。

金融面でも人的面でもつながりが希薄になりつつある

すでに金融面では、邦銀は中国やその周辺国(香港、台湾、韓国を含む)からの融資をかなり引き上げていますし(『邦銀の対外与信は過去最多更新:近隣国向け与信は低調』等参照)、中国に在住する日本人も減少傾向にあります(『中国に暮らす日本人の圧倒的多数は「一時的な滞在者」』等参照)。

もちろん、国と国との関係というものは、完全には断絶することなどできませんが、日本企業は(今さらながらに)中国と距離を置き、米国との関係を深めようとする方向に舵を切っていることは間違いないといえるのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 日本製鉄は、新日鉄時代に稲山嘉寛氏が、中国の宝山鋼鉄、韓国のポスコに、不必要なまでに肩入れをして、結局自分の首を絞めましたね。

    ポスコなど、日本製鉄から営業秘密を盗んで行くまでに成長しました(笑)。さしもの日本製鉄も、ポスコには訴訟を起こして勝ちました。しかし、ノウハウは流出したら終わりなので、文字通り後の祭りでした。日本企業の見識なき(お人よしの?)技術援助の典型だったと思います。もっとも、中国は自国への企業進出にあたり、悪名高き「三点セット契約」で、最初から搾取する気が満々でした。韓国も、日本から盗むことだけしか考えていなかったことでしょう。

    日本製鉄の中国撤退は、技術を吸われるだけ吸われた日本企業の当然の帰結ですし、正気に戻った姿でもあります。

    • ポスコの電磁鋼板技術が中国に流出して、流出させた韓国人技術者が会社から訴えられた事件があった。裁判でのこの技術者の証言:「あれはポスコの技術ではなく日本から盗んだものだ」と証言して日鉄から流出させた日本人技術者の名前まで出てきた。
      結局ポスコが日鉄に和解金300億円を支払い決着。
      一事が万事これ。韓国企業の価格競争力の源泉は開発費に金をかけないこと。

  • 特亜三国は「恩を仇で返す」点では共通していますね。
    中国共産党が蒋介石を大陸から追い出せたのも日本のおかげです。
    日本製鉄も流石に目が覚めたのでしょうね。
    まだ一部の政治家は中国に未練がある人も居るようですが。
    共産党政権が崩壊するまでは距離を置くのが正解ですね。

    • 共産党政権が全て悪い? なのかな
      共産主義が中華文化(皇帝文化)に都合が良かっただけでしょう
      共産党(皇帝)が終わり次の皇帝が出るだけです。
      これを理解し付き合うことを我々は覚える必要がありますねえ
      「信用しても信頼するな」
      絶対に必要な言葉です

  • 俺、経済オンチなんだけど、日鉄のUSスチール買収って、第二の真珠湾攻撃のようなもので、米国の対日感情を悪化させるのでは?

    • どうかな?

      買収価格と待遇のつり上げを狙ってるんじゃないの?

      クライスラーはイタリア企業のフィアットに買収されたし、古い話ではコロンビア映画はソニーに買収されている。
      ほっときゃあ潰れるんだから倒産してから買うのも一つの方法かな。

    • その程度が真珠湾攻撃なら
      戦後、アメリカは日本から真珠湾攻撃10回くらい受けてないか?

  • もう少し中国による浸透工作について心配されてはいかがか?

    ・多くの中国人が日本に移住(各種優遇)
    ・中国人留学生を優遇(渡航費、授業)
    ・日本の各地の不動産を買い占め
    ・都内火葬場や寺院を買い占め
    ・中国人による政治系パーティー券購入
    ・政界、官僚、マスコミの中国重視

    自民左派の政策もそうだが、この件でも何とも思わないのだろうか?

    まあ、私はゴキゲンだからそれでいいのだが(^^♪

    • 上記の件はそれなりに心配はしていますよ、それなりには。
      同時に悲観や絶望もしていません。
      中国や親中派に残された時間は少ないな、と判断していますので。

      ところで、あなたはこの記事の内容に触れる気は全くないのでしょうか?
      上記の件はどれもこれも直接的な関係は無い様に見えますが、
      日本製鉄がアメリカと関係を深め、中国との関係を浅くしているのは
      それなりに注目に値する出来事だと思いますよ?

    • >中国や親中派に残された時間は少ないな、と判断していますので。

      認識が甘いと言わざるを得ません。

      本来なら日本も中国がしているのと同様の対策を取る必要がある。
      だが一般層、保守層の危機感がまるでないのでいいようにやられている。
      今後とも取り返しがつかないくらいに浸透工作が進んでいくのでしょう。

      >ところで、あなたはこの記事の内容に触れる気は全くないのでしょうか?

      すべて日鉄の判断を尊重します。

      中国リスクから撤退するならそれも良し。
      米国にチャンスを見出し進出するならそれも良し。

      日鉄の成功を願うのみです。

  • 宝山製鉄所と言えば、山崎豊子氏の「大地の子」にも登場してくる会社で、日中国交回復後の対中経済援助の象徴ともなったところですね。

    以来続いている合弁事業というのは、普通なら多少採算性が落ちたと言っても、なんとか形だけでも残しそうなところですが、アッサリ全株式売却で撤退とは、よっぽど腹に据えかねることが積もり積もった結果なんでしょうね。

    • >よっぽど腹に据えかねることが・・

      「宝山」の内実が、『集ら病(タカラヤマ?)』だったに一票!

      タカられの連鎖に、さよオナラ! ・・ですね。
      (=_=)=3
      ・・・・・

      ↑上記は合弁解消の方程式!
      (=_=) →合弁会社の理念(対等)
      =3   →漏れ出したもの(ため息かナニか?)
      ・・デス。






      m(_ _)m

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