円安の影響でしょうか、企業の経常利益が過去最高水準で推移していることが判明しました。企業規模や業種による微妙な違いはありますが、少なくとも多くの企業で経常利益も伸び、人件費や設備投資も増えていることが、財務省が発表している『法人企業統計』と呼ばれるデータから明らかになったのです。
法人企業統計の最新データ
財務省の関連団体である「財務総合政策研究所」は、四半期ごとに、『法人企業統計』と呼ばれる統計データを作成し、公表しています。
これについては現時点までに、2024年3月期までの四半期データがひととおり揃っています。
ただし、この統計は情報がかなり詳細であり、当ウェブサイトにて、それらの全容を一気に紹介するのはなかなかに大変です。
そこで、本稿では取り急ぎ、経常利益、人件費、設備投資の3項目(※いずれも四半期ベース)を業種ごと・企業規模ごとに眺めてみたいと思います。
ただし、元データには、これらの実額が計上されてしまっているのですが、現実には調査対象企業のサンプルは年度に応じて変わっていきますので、本稿ではこれらのデータを「母集団」(調査対象となった企業数)で割った「1社あたり」の数値でグラフ化してみます。
全業種が増益:人件費も伸びる!
まずは、金融業、保険業、製造業、非製造業といった、すべての産業の合計データを示しておきましょう。企業規模については、全規模、資本金10億円以上、資本金1億円~10億円未満、資本金1000万円~1億円未満、の4区分は、図表1のとおりです。
図表1-1 全産業・全規模
図表1-2 全産業・資本金10億円~
図表1-3 全産業・資本金1億円~10億円未満
図表1-4 全産業・資本金1000万円~1億円未満
(【出所】法人企業統計データをもとに作成。以下同じ)
これで見ると、意外なことが判明します。
どの企業規模で見ても、経常利益水準、設備投資水準、人件費水準はいずれも上昇しているのです。
しかも、「賃上げの影響は、中小企業には及んでいない」、などとする説明を聞くこともあるのですが、人件費の上がり方はむしろ規模の小さな企業の方が大きいことがわかります。
製造業の場合は中小企業は多少苦戦も増益傾向に
続いて製造業について確認してみましょう(図表2)。
図表2-1 製造業・全規模(1社あたり)
図表2-2 製造業・資本金10億円~(1社あたり)
図表2-3 製造業・資本金1億円~10億円未満(1社あたり)
図表2-4 製造業・資本金1000万円~1億円未満(1社あたり)
製造業に関していえば、資本金規模が大きい会社ほど、経常利益も設備投資も人件費も伸びていますが、その一方、資本金規模が小さい会社だと、それぞれの項目は、大企業ほどは伸びていません。
ただ、一般に経済学のセオリーだと、まずは大企業で設備投資などが増えれば、波及効果で徐々に中小企業の設備投資も増えていく現象が知られていますので、そうした現象がこれから中小企業にも波及するかどうかは確認してみる価値があるかもしれません。
非製造業・中小企業にも恩恵が及ぶ
最後に、非製造業についても確認してみましょう(図表3)。
図表3-1 非製造業・全規模(1社あたり)
図表3-2 非製造業・資本金10億円~(1社あたり)
図表3-3 非製造業・資本金1億円~10億円未満(1社あたり)
図表3-4 非製造業・資本金1000万円~1億円未満(1社あたり)
非製造業に関しても、やはり大企業(資本金規模が大きな企業)を中心に、過去最高益近い水準を出していることがわかりますが、人件費に関しては企業規模を問わず、総じて上昇傾向にあるようです。
岸田首相総裁選再出馬なら経済政策に注目
このあたり、「悪い円安」論者の方々は、「円安で儲かっているのは、製造業を中心とした一部の大企業」、「賃上げも大企業だけの話であり、中小企業には無関係」、などと述べるようですが、現実の統計からは、こうした主張を裏付けるデータは確認できません。
それどころか、製造業、非製造業を問わず、現在の日本では総じて利益水準が押し上げられていることがわかりますが、これは円安の影響というよりも、物価上昇の影響も含まれているのかもしれません。
また、「実質賃金が落ちて国民生活は苦しくなっている」、などと主張する人もいるのですが、しかし、物価上昇局面では、当初は名目賃金の伸びが物価上昇に追い付かず、実質賃金がマイナスになる現象が知られています(実質賃金は名目賃金をCPIなどで調整したものです)。
これについては経済成長が追い付いてくれば、実質賃金も上昇することが期待されます。
問題は、経済成長が本当に追い付いてくるかどうか、といったところも重要ですが、これに関しては政府による今一歩踏み込んだ経済制裁が必要です。
財務省(やその御用メディアと化している多くの新聞、テレビ)は、「政府財政は厳しい状況にある」などとウソをついていますが、税収見通しが過去最高を更新するなかで、むしろ今後は取り過ぎた税金が余る事態も想定されます(というか、すでに歳出に対し歳入が多すぎる状況が続いています)。
1度限りの減税ではなく、いわゆる「ブラケット・クリープ」対策の抜本的な減税も含めた経済対策を、今後の政府には期待したいところです。
このあたり、就任当初は財務省の傀儡(かいらい)として動いているかに見えた岸田文雄首相が、(中途半端ながらも)所得税等の減税を実現したという事実を踏まえると、「岸田首相=財務省傀儡」説については、ちょっと待ってみたいとも思います。
もしも岸田首相が故・安倍晋三総理大臣の経済路線を踏襲する方向に軌道修正したのであれば、結果的に日本経済にとって望ましい財政政策が取られる可能性も出てくる、ということになるからです。
いずれにせよ、岸田首相が今年9月の自民党総裁選に出馬するのであれば、岸田首相の経済政策には注目しておく価値がありそうです。
View Comments (9)
>1度限りの減税ではなく、いわゆる「ブラケット・クリープ」対策の抜本的な減税も含めた経済対策を、今後の政府には期待したいところです。
「恩着せメガネ」岸田文雄の事だから、今回以上に恩に着せる措置を併用させて現場に負担を強いる事になりそうなんですが((((;゚Д゚)))))))
岸田文雄首相が、(中途半端ながらも)所得税等の減税を実現したという事実を踏まえると >
この辺りの判断は意見の分かれるところでしょうが、私個人の見解としましては、トゥ-レイト トゥ-リトル、すなわち遅すぎでしかも少な過ぎ、といった印象しか覚えません。
税収弾性値を少なく見積もりすぎてるから、ここ数年税収の上方修正が行われているわけですし、取り過ぎた税金を還付する時期も金額も遅すぎで且つ少なすぎです。しかも外為特会でがっぽり儲けたカネはこっそり隠して、何を姑息な事やってんだと思うワケです。
いずれにせよ、仮に岸田氏が何かに目覚めたのだとしても、彼の周囲にいる輩のほとんどは財務省に籠絡された連中ばかりなので、もはや彼には何も期待はしないと思う今日このごろです。
定額減税でどれだけ余計な経理作業が全日本の職場であまねく発生しているかを考慮すると、「減税メガネ」「押し売りメガネ」の誹謗を首相は甘受して当然でしょう。弊社担当の会計事務所のかたとメール照会したときちょこっと揶揄していました。ぐだぐだ感満点。
はにわファクトリー 様
余計な経理作業が全日本の職場であまねく発生しているか >
あの減税措置の裏側では、大変な事が起きていたのでしょうね。ご同情申し上げます。政府が無駄に余計なことをやらかすと、民の側でがそれ以上の苦労を味わざるを得ない、という典型例かと思います。
取り過ぎた税金の還元については、もっとシンプルで即効性のあるやり方があるのではないかと考えています。
要は、役人の介在と補助金のシステムを、どれだけ減らせるか、ではないかと。
東京新聞ですが、こんな手間が自治体で発生しているそうですね。
複雑すぎる「定額減税」また不備が 生活保護費を減らされる人も…一部の自治体は「把握していなかった」@東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/343213
生産性を低下させる劇的な効果があるのかなと。
トゥ-レイト トゥ-リトル ×
トゥ-レイト トゥ-スモール ○
でしたね。
スモールは面積が少ないことを示すので
体積が少ないリトルの方が文法的には合ってる気がするけどなー
日本人作家が作った漫画のスモールライトだけでなく
映画のスモールパジェットとかアメリカ人自身がスモール使いまくっているけど
>スモールは面積が少ないことを示すので 体積が少ないリトルの方が・・
small とlittleはそういう限定的な感じではないと思います。
一方、ここでは主に金額的に規模が小さいというニュアンスでしょうから、small amount のように、smallの方が適切だと思います。
ネットでの検索もそういう感じでした。
正直なところ、岸田総理を財務省の傀儡と見るのは、最初から色眼鏡で見ていると思います。
軌道修正も何も、岸田総理の総裁選の宣言が安倍路線の踏襲であり、最初からやっていたこともそのままです。
岸田総理本人が何も変わっていないのに、それを見ている人達が、勝手に派閥や出身といった属性で判断し、基本的な帰属のエラーといった認知バイアスを起こしていただけでしょう。
派閥や出身を根拠に岸田総理を批判する人達は、それが実は非論理的なロジックなのだと知らないし、それどころかそれこそが論理的な理屈なのだと信じているようなので、こういう話は通じないみたいですが。