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文章が読めない人たちがウクライナ支援に「条件反射」

「日本が5000億円レベルのウクライナ支援を行うことになった。日本の財政状態も大変なのに、これはとんでもない話だ」―――。こういう恥ずかしい反応はしないようにしたいものです。何の話かといえば、これは例のG7で合意された、「凍結されているロシアの外貨準備資産」から生じる利息などを、ウクライナへの支援に充てる、という話だからです。

まずは記事を読んでみましょう

まずは何も言わず、次の記事を読んでみてください。

5千億円のウクライナ支援へ 日本が年内実施で最終調整

―――2024/07/17 0:56付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

記事の表題にあるとおり、「日本はウクライナに対し、5千億円の支援を行う」、といった内容です。

注目していただいたいのは、記事のコメント欄です。

酷いこと言うようだけど、ウクライナに金出してその分の利益が日本にあるの?よその喧嘩に口出して面倒事が増えるだけじゃない?自分は日本の金を使うなら日本国民の利益のために使って欲しい。ここでウクライナに金を出した分、日本が危ない時にウクライナや欧米が支援に力を入れてくれるとは思えない」。

ウクライナへの支援も大切です。しかし、日本も極めて厳しい状況になっています。社会保障費は介護保険制度の改正で、厳しい措置がとられました。この内容は、訪問介護事業所を経営していく事が困難になります。撤退した事業所の数はかなり多いです」。

さらには、とある著名なエコノミスト・経済評論家の方は、こんな趣旨の内容もコメントしています。

日本がG7の一員として、ロシアの武力による一方的な国境変更を認めないという意志を示すことは重要だ。しかし、財政運営が厳しさを増す中で、また通貨価値があらゆる国の通貨に対して下落する中で、今の日本にはウクライナに5000億円規模の支援をする経済的余裕はないというのが実情だろう」。

…。

本文を読めていないコメント主たち

敢えて、厳しいことを言わせていただきます。

コメントをした人たち、本当に記事を読んだのですか?

税収が過去最大を記録するなかで「日本の財政運営が厳しさを増している」という言い草にも驚きますが、それ以上に驚くのは、記事本文をまったく読まずに、盲目的に、「ウクライナ支援」を批判する人たちの文章読解力なのです。

記事を冒頭からよく読んで頂くと、こう書かれています。

先進7カ国(G7)で合意したロシアの凍結資産を活用するウクライナ支援で、日本が33億ドル(約5200億円)を拠出する方向で最終調整に入ったことが16日、分かった」(下線部は引用者による加工)。

これ、当ウェブサイトを以前からご愛読くださっている方なら見覚えがあるかもしれませんが、『【資料編】G7共同声明「揺るぎないウクライナ支援」』などでも紹介した、例の6月のG7サミットで合意された「ロシアの外貨準備を使った経済支援」のことです。

具体的な金額を試算してみると…!?

国際通貨基金(IMF)のデータによると、ロシアはウクライナ戦争開始直前の2021年12月末時点において、約6300億ドルの外貨準備を保有していましたが、ロシア中央銀行が公表しているデータによれば、これらのうち3500~4000億ドル程度が西側諸国の通貨であったと考えられます。

次の図表が、ロシアの外貨準備高を試算したものですが、著者自身の試算に基づけば、その時点でロシアの外貨準備に占める西側諸国通貨の金額は3872億ドルとなっています。。

図表 ロシアの外貨準備・通貨別構成推定値(2021年12月末時点)
通貨 推定金額 構成割合
米ドル 687億ドル 10.9%
ユーロ 2138億ドル 33.9%
日本円 372億ドル 5.9%
英ポンド 391億ドル 6.2%
加ドル 202億ドル 3.2%
豪ドル 63億ドル 1.0%
シンガポールドル 19億ドル 0.3%
西側諸国通貨小計 3872億ドル 61.4%
人民元 1078億ドル 17.1%
金地金 1356億ドル 21.5%
合計 6306億ドル 100.0%

(【出所】合計金額は International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidityデータ、構成割合はロシア中央銀行がロシア下院向けに提出しているレポート【※PDFファイル】のP112を参考に作成)

これらの金額については、厳密に正確なものとは限りませんが、いずれにせよ、ざっくりと3000~4000億ドル相当が、西側諸国によって凍結されていることは間違いありません。

そして、「ロシアの外貨準備を活用したウクライナ支援」とは、これら西側諸国が凍結したとみられる金額の利息や元本をウクライナ支援に充てる、というスキームであり、今回のスキームでは、少なくとも日本国民の負担は、基本的には発生しません。

正直、一般読者が条件反射的に「日本国民の税金」云々と反応するのは百歩譲って仕方がないのかもしれませんが、「エコノミスト」「専門家」などを名乗る方々がこれだと、少々お粗末ですね。

ウクライナ支援は「ムダ金」どころか大変有益な投資

ただ、それ以上に、万が一、これが日本国民の税金で支援されるものだったとしても、これを「ムダ金」などと考えるのは、不見識に過ぎます。

以前の『日本にとりウクライナ支援が「安いもの」といえる理由』でも取り上げたとおり、もしウクライナが勝利すれば、うまくすればロシアという日本にとっての脅威が除去されるだけでなく、中国による台湾進攻断念を通じ、莫大な損害が日本に生じることを回避できるかもしれないなど、計り知れないメリットが生じるのです。

ちなみに首相官邸ウェブサイトに掲載されている、『日本はウクライナと共にあります』と題したパンフレットによると、昨年12月15日時点までで、日本からウクライナに対する支援総額は約90億ドル、すなわち約1.3兆円程度とされていますが、これらのうちのいわゆる「財政支援」「拠出」「贈与」に相当する金額は、最大でも34.39億ドルに過ぎません。

残額は融資であったり、返済猶予であったり、基金であったり、保証であったり、といった金融ファシリティの支援であり、とくに融資に関しては将来的に、ロシアが敗北するなどした場合に戻ってくるものでもあります。

いや、ロシアが敗北すれば、日本にとっての軍事的脅威のひとつが除去され、中国の台湾進攻の野望を挫くことができるだけでなく、極端な話、北方領土4島に加え、樺太、千島などからロシア軍を追い出し、これらの領土を完全に日本領とすることもできるかもしれません。

このように考えたら、正直、数兆円、いや、場合によっては数十兆円というレベルであっても、こうしたウクライナ支援は日本の国益に照らして「安いもの」です。

いずれにせよ、メディア記事を読んで条件反射しないような癖をつけたいものだ、などと(自戒を込めて)思う次第ですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (18)

  • 「○○を中止して、XXにまわせ」という、詭弁の定番かと。
    「○○」と「XX」では、お金の出所が違うということを無視しています。
    結局は、「○○を中止しろ」というを主張を、心にもない「XX」で正当化したいだけなのよね。

  • 紹介された記事のライターさん
    ウクライナを見殺しにしてロシアを勝たせたい
    という本音が漏れていますね

    日本の財政ガー、社会保障ガーetc.
    はウクライナ支援を咎めるための口実でしょう

  • ほんとそれ。条件反射に政府批判。
    こういうのもテレビや新聞の入念な刷り込みによる成果なのでしょう。

    テレビなどの刷り込みで洗脳された人たちの洗脳を解くうえで、このような記事は本当に素晴らしいと思います。

  • 全体を俯瞰して客観的に語るのが、エコノミスト。
    局所を仰視して主観的に騙るのは、えごノミスト。
    ・・。

  • ロシアの凍結資産を活用するウクライナ支援 >

    3行以上の長文(?)になると文意が理解できなくなるというのは、彼の国の方々の遺伝子レベル(?)に於ける風土病なのだろうなぁと、なんとなく漠然とそう思っていたのですが、我が国にもそういうお気の毒な人々がいらっしゃるようで・・・。

    残念でなりません。

    なんちゃって!

  •  「日本も大変なのに」「増税で賄うな」といったあたりにものすごい数の賛同がついてますね……

     特に気になったのは「日本がウクライナを助けても、いざ日本が攻められた時にウクライナも欧米も確実に助けてなどくれない、だからこの援助は無駄」というもの。そこまで頭がまわるのであれば、"ウクライナを見捨てた日本"という実績をつくってしまったら、助けてもらえないかもどころか、助けてもらえない口実を与えてしまい余計に助けてもらえる可能性が減るということが同義であることが自明になるはずなのですが。
     集団安全保障というものが不確実だというのならば、より確実にする努力、もっといえば策謀をすべきです。より不確実にする利など全くない。

     なんでもかんでも節約、なんでもかんでも無駄、なんでもかんでも政府が間違い。政治に興味を持つ一歩ではありますが、ずっとそこでとどまってわかった気になってドヤ顔しているのは、プラスにならないどころかマイナスを招くこともあります。事業仕分けなんぞに騙されますから。

  •  ロシアや中国や北朝鮮のような国をつぶす為なら5200億円なんてケチすぎます。
    会計士様が仰る通り日本に脅威となる国を潰す事が将来に繋がるのです。

     コロナ渦で国民一人に10万円配る事ができるなら。もっと出すべきです。

     生意気言ってすみません。m(_ _)m

    • ロシアが潰れたら
      またそれで
      100兆円や200兆円では解決できない大問題が起きるかもよ

  • それだけ今の政府が信用されていないってことでしょ。
    国民には増税・増負担を押し付けて、海外には多額の援助…これじゃ、国民もいい顔は出来ないよ。

  • 仰る通り、一般人のコメントはまだ仕方がない面もあります。

    「ロシアと言う脅威をつぶせるチャンスなんだよ」「領土を取り戻せる可能性だってある」
    「国防も外交もお金がかかって当然なんだよ」「そもそもロシアの凍結資産を使っているぞ」

    と言った所で、

    「うるさい!そんな理屈を使って金をだまし取るつもりだろう!」

    となってしまうのはある意味当然でもあるのです。人間、そういう”大きな視点”を
    持てる人と持てない人に分かれてしまいますから。例え教育で基礎を教えても。

    一方で、そういう一般人の”仕方ない感情”を利用する”プロ達”は軽蔑して良いかと。
    利用しているのではなく、本気で同意している場合はもっと手に負えませんが。

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