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【総論】「報道の自由度ランキング」信頼性を検証する

本稿は「総論」的な内容です。ある国・地域が自由であるかどうかに関するランキングないし評点として著名なもののひとつが、フランスに本部を置く「国境なき記者団(RSF)」の「報道の自由度ランキング」、米国に本部を置く「フリーダムハウス」による「世界の自由度」調査です。ただ、RSFランキングでは日本は世界180ヵ国中70位と主要先進7ヵ国中最低だ、などとする情報が独り歩きしているのですが、このランキング自体を信頼して良いのでしょうか。

RSFランキングでは日本はG7最低水準

先日の『林智裕氏が公表の待望「ネチネチ論考」が素晴らしい件』を含め、当ウェブサイトではしばしば取り上げる論点のひとつが、フランスに本部を置くNGO「国境なき記者団」( Reporters sans frontières, RSF )による『報道の自由度』(Classement mondial de la liberté de la presse)です。

日本の2024年版の「報道の自由度」は世界180ヵ国中70位と、前年の68位から2位下げるなど、引き続き非常に低い地位に留まっており、しかもこの数値はG7諸国で最低です。

RSFウェブサイトの元データをもとに、G7諸国(日本以外は米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)の2002年以降のランキングをグラフ化したものが図表1です。

図表1 報道の自由度ランキング・G7比較

(【出所】Reporters sans frontières, Classement mondial de la liberté de la presse データをもとに作成。なお、米国については2003年~11年のデータが欠落しており、また、2012年については公表されていない)

これによると2010年において日本は12位とG7でトップを記録しているのが確認できますが、自民党が政権に復帰した直後の2013年以降の調査ではどんどんと順位を下げ、2017年以降は「G7最低」水準を行き来している、という状況です。

G7とは自由、民主主義、法の支配、人権尊重などの基本的価値を共有する諸国の共同体であるはずですが、「報道の自由度」も低く、最近、ドル建ての名目GDPも低下いるとされる日本が、このG7諸国に留まる資格があるのでしょうか。

フリーダムハウスの調査結果はRSFのものと大きく異なる

このうちGDP云々については脇に置くとして、そもそも日本社会が事由かどうかという観点からは、このRSFランキング自体が信頼に値するのかどうかに関する客観的な検証を加えておく価値はあります。

私たち日本人は、この日本という国にドップリと浸かっているわけであり、正直、この日本の社会は空気のようなものですから、「日本の報道の自由度が世界の中では低い」といわれても、おそらく多くの人は「外国の権威ある機関がそう言っているなら、そうに違いない」と思い込むのではないでしょうか。

しかし、当ウェブサイトで普段から指摘しているとおり、そもそもこのRSFランキング自体、客観性・透明性が非常に低く、「日本が70位だ」といわれても、それが客観的に導き出されてきた数値なのかどうか自体が疑わしいのです。

これについては米国に本部を置く非政府組織であるフリーダムハウス(Freedom House)が公表している「世界の自由度調査」(Global Freedom)と照らし合わせてみれば明白です。

フリーダムハウスの調査は世界各国・地域に共通の25項目の評価項目について、それぞれ4点満点で評価を行い、合計100点満点でその国・地域の自由度を判断する、というものです。

こちらによれば、日本は2024年までにおいて、100点満点中96点という高得点を得ており(※しかも2016年以降、9年連続)、しかもこれはG7諸国ではカナダに次いで2番目に高い水準でもあります。図表1に倣って、日本を含めたG7のフリーダムハウスの得点推移をグラフ化しておくと、図表2のとおりです。

図表2 世界の自由度調査

(【出所】Freedomhouse, Freedom in the World データをもとに作成。ただし、グラフのタテ軸の起点がゼロではない点には注意)

すなわち、RSFランキングでは日本はG7諸国で群を抜いて低いのに、フリーダムハウス評点では日本はカナダに続き、G7でも圧倒的に高い水準にあるわけです。

RSFランキングは信頼に値するのか?

はて?

どちらが正しいのでしょうか?

常識的に考えて、RSFの「日本がG7で最低」というデータと、フリーダムハウスの「日本がG7でトップレベル」というデータが「どちらも正しい」とは考え辛いところであり、少なくとも片方のランキングはデタラメです。

これについては、くどいようですが、当ウェブサイトにおいて、どちらが正しくてどちらが間違っているかについての断定は避けたいと思いますが、客観的事実を述べておくならば、フリーダムハウスの方の評点は25の評価項目を積み上げたものであるのに対し、RSFランキングではこの評点プロセスはいっさい開示されていません。

すなわち、フリーダムハウスの評点については、日本がなぜ96点だったのかについて、その気になれば25の評価項目をすべて読み込み、その記述を他国と比較することで、この96点という評価の妥当性を自身で検証することができます。

これに対し、RSFランキングについては、それぞれの項目について「定性的」な内容は書かれているものの、なぜそのランキングに至ったのかに関する「定量的」な評価項目が欠落しており、したがって、なぜ日本がそのランキングとなったのかについての評点を検証することができません。

当ウェブサイトとしては、フリーダムハウスの評点が無条件に正しいとは申し上げませんが、少なくともどちらが客観的な調査であるかについては、論をまたないといえるでしょう。

RSFで日本より上位の69ヵ国のうちFH評点が低い54ヵ国

さて、こうしたなかで改めて記録しておきたいのが、RSFランキングで日本より上位には69ヵ国・地域があるのですが、69位の「東カリブ諸国機構」(OECS)を除く68ヵ国・地域について、フリーダムハウスの評点が日本よりも低い国が、なんと54ヵ国(!)もあります。

このなかでもとりわけ「おかしなランキング」が、図表3に示した16ヵ国です。

図表3 RSFランキングで日本より上位かつフリーダムハウス評点が69点以下の国・地域
RSFランキング FH評点
コンゴ共和国 69位 17点
ガボン 56位 20点
モーリタニア 33位 39点
コートジボワール 53位 49点
ウクライナ 61位 49点
ガンビア 58位 50点
アルメニア 43位 54点
シエラレオネ 64位 60点
モルドバ 31位 61点
リベリア 60位 64点
ハンガリー 67位 65点
フィジー 44位 66点
マラウィ 63位 66点
北マケドニア 36位 67点
ドミニカ共和国 35位 68点
モンテネグロ 40位 69点

(【出所】Reporters sans frontières, Freedomhouse データを参考に作成)

この図表は、RSFランキングで日本より上位かつフリーダムハウスの評点が低い順に並べてあります。

コンゴ共和国は2024年度のRSFランキングで日本より1つ上位の69位ですが、フリーダムハウス評点ではなんと17点(!)と日本より79点も低い値です。また、ガボンはRSFランキングで日本より14位上位の56位ですが、フリーダムハウス評点は20点(!)であり、これも日本よりなんと76点も低いのです。

ちなみにフリーダムハウス評点で70点未満は「部分的に自由」(Partly Free)、35点未満が「自由でない」(Not Free)というステータスだそうですが、フリーダムハウスから「自由ではない」との評価を受けているコンゴやガボンがRSFランキングで日本より上位であるというのは、なかなかに理解に苦しむ点です。

いずれにせよ、著者自身は世の中の記事などを眺めていて、「日本は2024年の報道の自由度ランキングで主要先進国最低の70位だった」などとする情報を眺めると、まずはその記事そのものの信憑性を疑ってしまう次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • これ、選定された記者は非公開ですが、選定した人が週刊金曜日の編集者かなんかだと読んだ記憶があります。
    事実かどうか確かめたわけではありませんが、もしそうならある意味納得の結果ですよね。

    例えば世界の大学ランキングなんかにしてもそうですが、一年や二年で大幅に変わる事などまずありえないはずのランキングに何の意味があるのか?と思います。
    何らかの恣意的な働きかけが行われているのでは?なんて下衆の勘繰りもしたくなりますし。
    耳目を集めるだけのゴシップ記事を報道機関が取り扱う、それ自体が報道機関としての信用低下につながっていて、それらを求める読者、視聴者が残り、その人たちに応える記事を載せる事で更なる信用低下を招く悪循環になっている、と考えられます。

  • RSFは,国境なき記者団からの報告によって評点を付けているようで,フランス目線のところが多分にあると思います。日本の評点が低い最大の原因は「記者クラブ制度」にあるようです。国境なき記者団も,日本を取材しようと思ったら,外国人記者クラブを使う以外に妥当な方法が見つけられない,ということでしょう。日本には,誰に聞けば有益な情報が得られるか,とても分かりにくい文化があります。つまり,キーパーソンが誰だか曖昧な状態で,アウンの呼吸のもとに物事が進行する。日本人同士だと当たり前な習慣が,外国人には奇異に見えるのでしょう。

  • RSFランキングとFHランキングの関係に似たようなものとして、国際競争力ランキングがある。代表的な国際競争力ランキングとして、企業の競争力を評価する「IMDランキング」と、国の生産性を評価する「WEFランキング」があるようです。

    https://www.digima-japan.com/knowhow/world/17205.php

    WEFランキングは評点がついているが、IMDランキングは項目別のランキングはあるものの、評価方法についてはいまいちよくわからない。なお、日本衰退論者が喜々として引用するのは、ほとんどIMDランキングである。

    ・日本が「4年連続1位→38位」に転落した国際的指標
    韓国は20位、アジアで日本より下位は3カ国のみ

    https://toyokeizai.net/articles/-/771901

    あと、国の経済力を、経常利益、外貨準備高、対外負債の額などを無視して、1人あたりのGDP(しかもドル建て)のみで評価する印象操作も、もう飽きた。

  • 論文を書く上で、導き出された値はどのように算出されたのかは重要です。
    そして報道の自由度ランキングにも言えることです。

    現状はただのお気持ち数値でしかなく、そのような値で導き出されたランキングなど
    さして意味がない値です。
    だってどのように計算されたのかわからないのですから。

    それを錦の御旗のように政府を攻撃するのに使用しているのはお門しれています。
    使うのであれば、ジャーナリストが何人投獄された、ジャーナリストが亡命を余儀なくされた
    新聞社やテレビ局が政府の命令で廃止された・・・等具体的な事項を添えるべきです。

    クオリティメディアを名乗るのであればそれくらい当然できるべきですが
    出来ないことが日本のマスコミの限界です。

  • フランスといえば、トチ狂ったバカボ…じゃなくてマクロン大統領が解散総選挙をやって、極右政党を抑える為に与党と極左を含む左派が選挙協力した結果、極右政党を抑えたは良いけど政権運営どうすんのコレ?って状況になってますね。

  • おいしいリンゴとまずいリンゴがあるとします
    高価なものをおいしいと定義するかもしれません
    いや人気があって良く売れてるものをおいしいと定義するかもしれません
    いやいやおいしさは産地によって決まると言い出す人も出てきます
    さて、混沌としてきました
    待ってましたと科学者が登場して成分を分析しておいしさの定義を試みます
    おいしさが万人に共通の感覚という前提を受け入れない限り
    いかに分析しようと客観性は得られません
    つまり「おいしいリンゴ」という集合は存在しません
    立場の違い、主観が介在する限り客観的な評価はあり得ません
    逆に見ると、「おいしいリンゴ」をどのような観点で定義しようとしてるのか
    それを知らせる資料になってるという事でしょう
    当たり前すぎてアホみたいなこと言いましたか?

    • まー客観もソノ事象にかかる主観ズの最大公約数だのナンだの、ダレも“コップの実相”には迫れとらんのかもしれやせで
      しかして“実相”とは普遍化されるモンヤロカイ???

  • 完全に同じ基準で評価しているわけではないのなら
    順位に変動があっても「どちらかが間違い」とは言い切れないと思われ

  • まー後追い検証の難易やら追試可能性の高低やら、『ワザと無視ってんナ』と読者視聴者に視られたら“どう”なるのか?
    マスメディア、発信者側の浅慮がヒカルとこデンナ