公認会計士の研修会で監査に関する研修を受けたのですが、改めてこうした研修を受けて実感するのは、適切な業務監査などの重要性です。そして、冷静に考えてみると、日本のような民主主義の仕組みは、じつによくできています。政権は、任期が到来すれば国民の直接選挙で再び選ばれなければならないからです。しかし、「第四の権力」を自称しているマスコミ業界の場合は、監査を受けることも、任期が到来することもありません。だから腐敗するのかもしれません。
目次
会計士には年間40時間のお勉強が義務付けられている
世の中にはあまり知られていませんが、公認会計士というものは、資格を維持するために、年間平均して40時間以上の「お勉強」をすることが義務付けられています(※詳しくはもう少し条件があるのですが、それについては本稿では省略します)。
これは『継続的専門能力開発』ないし「CPD」などと呼ばれ、公認会計士が能動的かつ自主的に、能力を維持するために研鑽をしなければならないとされているものです。
この継続的専門能力開発が義務化されたのは2002年のことで、著者自身は正直、この制度が始まったときは、「面倒くさいなぁ」、などと思っていたクチですが、ただ、著者自身のようにすでに監査法人に属していない独立系会計士の場合は、じつはこの研修制度は、大変に有難かったりします。
詳細は控えますが、著者は自身のビジネスライフの中で、監査法人にて会計監査に従事した年数よりも、一般企業での勤務年数、あるいは起業してからの年数の方が、それぞれ遥かに長くなってしまいました。
しかし、この研修制度があるがために、会計士としての登録を続ける限り、必然的に研修を受けざるを得ず、結果的に、会計士業界の現在のトピックなどについては、それなりに詳しくなってしまう、というわけです。
(なお、制度上求められるのは年平均で40単位ですが、著者自身は毎年60単位前後を取得するようにしています。)
会計監査に関する勉強会を受けてみて…
こうしたなかで、このCPDのウェブセミナーのなかに、大変興味深いものがありました。
早稲田大学名誉教授の鳥羽至英(とば・よしひで)先生による、会計監査などに関する歴史探訪に関するものです。
鳥羽氏といえば、古参の公認会計士にとっては大変に著名な大御所で、正直、講義自体はレベルが大変に高く、それらのすべてを完璧に理解できたというわけではありませんが、それでもこうしたアカデミックな講義は大変に貴重であり、かつ、新鮮でもありました。
鳥羽先生には心から感謝申し上げたいと思います。
さて、公認会計士といえば、「企業会計の専門家だ」と世の中では思われているようです(※どうでも良いのですが、「140文字の文章しか読めない」という某自称保守論客の方の支持者からは、税理士と混同されたこともあります)。
しかし、現実には、公認会計士の重要な専門業務のひとつは、会計監査です。
会計監査とは、わかりやすくいえば、その企業が発表している決算書(財務諸表など)が会計基準に準拠しているかどうかを「保証」することです。
企業会計・経理などに詳しい方ならばご存じだと思いますが、会計基準の世界では、「こんな取引を行ったら、こんな会計処理をしてくださいね」、といったルールが定められているのですが、そのルールが複数認められていることも多く、したがって、同じような取引を行っても会社によって会計処理が異なることがあります。
たとえば固定資産を取得した場合の減価償却の方法(耐用年数など)も複数のやり方が存在することがありますし、また、いわゆる減損会計の適用も、同じような資産でも企業によって適用方法に幅があることが一般的です。
したがって、公認会計士(または監査法人)による会計監査は、その会社の財務諸表が、会計基準に準拠して、「すべての重要な点において」その企業の状況を適正に表示しているかどうかをチェックするために行われます。
「すべての重要な点において」、というのは、多少、会計基準から逸脱している部分があったにせよ、それらに重要性がなければ不問にする、という意味でもあります。多くの場合、会計士監査は大企業を対象としているため、少人数の監査チームで企業の財務諸表を精査できるわけでもないからです。
ヤバい会社の傾向
ただ、普通に会計監査に従事していれば、いわゆる「ヤバい会社」の場合、「あ、この会社、ちょっとヤバいな…」、「この会社、財務諸表でこんなウソをついているんじゃないか?」、といったことが、何となく見えてきます(というよりも、それが見えない人には会計士としてのセンスはありません)。
また、その気になれば、上場会社であっても、公開情報のみをベースに、どこかの監査法人によるチェックが済んでいるはずの財務諸表を見て、「あれ?この会社の決算、なんだかおかしくない?」という点に、何となく気が付くものです。
著者自身もこの20年あまり、ある局面では間接的な当事者として、ある局面では無関係な一般市民として、さまざまな上場会社の不祥事などを見て来ましたし、それらのなかには専門家の目から見て「ちょっとお粗末ですね」、と言いたくなるような事例も多々ありました(※それらの実名を出すことは控えます)。
ちなみに公認会計士には守秘義務が課せられていますので、業務上知り得た事項を正当な理由もないのに公開することはできませんし、ウェブ評論サイトなどの場に記載するということも、おそらくは一生ないと思います。
ただ、そのあくまでも一般的なことを申し上げれば、こうした「ヤバい会社」には、何らかの共通点があります。
その最たるものは、「倫理観の崩壊」ではないでしょうか。
「倫理観」、といっても、難しい話ではありません。
私たち日本人は、多くの場合、子供のころから、「ウソはついちゃダメ」、「他人のモノやおカネを盗んじゃダメ」、「ルールは破っちゃダメ」、などと教え込まれると思いますし、「他人が嫌がるようなことをやってはいけない」という点についても、自然な常識として、身に着いていくケースが多いのではないかと思います。
著者自身も複数の会社を監査した経験があるのですが、会社にはいくつかのパターンがあって、たとえば「社会全体のルールをちゃんと守りながら、きちんと本業で黒字を叩きだしている」という会社もあれば、そうでない会社もあります。
ダメな会社の例としては、会社全体を挙げて違法行為(あるいは違法スレスレの行為)が蔓延している、というパターンもあれば、単純に「まったく儲かっていない」、といった事例がありますが、やはり共通点があるとしたら、そこで働いている人たちの目に輝きがないことでしょう。
これらの問題企業の中には、すでに倒産した社も多い一方、現在でも営業を続けている(そして頻繁に行政処分を受けている)というケースもあり、これについては実名を挙げたいところですが、先ほど申し上げたとおり、公認会計士には厳しい守秘義務がかかるため、それらを開示することはできません。
ただ、外部者による会計監査の目が入ることは、やはり、企業に緊張感をもたらすという意味では、大変に重要です。
あくまでも総論ですが、外部者による監査が入ることで、その会社の人も、自分たちの業務が可視化されるという面があるのではないでしょうか。
逆にいえば、外部からの監査の目が入らない会社の場合だと、自分たちの会社の業務・事業の異常性に気付かず、世間の常識からは大きくかけ離れた社風が出来上がったりするようです。
民主主義はよくできた仕組みだ
こうした監査、あるいは国民からの監視という意味では、やはり行政の透明性と公正性の確保は常に大きなテーマのひとつでしょう。
その意味で、やはり民主主義国家というものは、よくできているものだと思います。
一国の最高権力者たる内閣総理大臣は、少なくとも4年に1回以上のタイミングで、国会議員(一般に衆議院議員)の互選で選ばれます(憲法上は参議院議員も内閣総理大臣になれますが、少なくとも現行憲法下では、参議院議員から内閣総理大臣になった事例はありません)。
その衆議院議員は4年に1回以上の頻度で国民からの直接選挙で選ばれており、事実上、選挙で最大勢力となった政党が中心となって組閣されます(※ただし、村山富市内閣のように、第1党以外の政党から内閣総理大臣が排出された事例もあります)。
現在の日本では、会計検査院などの機能が不十分であるのに加え、財務省のように、官僚の分際で事実上の強大な政治権力を握ってしまっている事例もあるなどの問題点もあるのですが、それでも少なくとも民主主義が健全に機能していることは間違いありません。
マスコミのインチキ・デタラメ報道…NHKの事例
ただ、こうした基準に照らしてみれば、「第四の権力」を自称する人たち―――具体的には、新聞、テレビを中心とするマスコミ業界―――は、事実上の権力を握っているわりに、その権力の監視が不十分であると断じざるを得ません。
マスコミの業務に対して監査が入るわけでもなければ、マスコミ記者は国民からの選挙で選ばれるというわけでもありませんし、ましてやマスコミ記者になるための国家資格などがあるわけでもないからです。
それなのに、マスコミ関係者には、記者クラブ制度という排他的な特権組織の恩恵が与えられていますし、マスコミ業界は「報道の自由」、あるいは「報道しない自由」を使い、自分たちにとって不都合な候補者を落選させる、といったことが、これまで罷り通ってきました。
ちなみに新聞、テレビが垂れ流す財政や経済などに関する報道記事は、たいていの場合、インチキであり、デタラメです。税収が過去最高を記録するなかで、NHKが配信したこんな記事なども、そのインチキ・デタラメの典型例でしょう。
国の税収 令和5年度は72兆円台に 4年連続で過去最高を更新
―――2024年7月1日 21時00分付 NHK NEWS WEBより
NHKの記事では、末尾にこんな記述が出てきます。
「ただ、昨年度は、補正予算を含めた一般会計の総額が127兆円を超えていて、依然として歳入の多くを新規の国債発行で賄う厳しい財政状況が続いています」。
過去最大の税収なのに「厳しい財政状況」とは、なぜこんなデタラメを述べているのでしょうか。
ここで「歳出額」には国債の償還額が含まれているため、「歳入額」側に、国債の発行収入をカウントしなければおかしなことになるのは当然です。
NHKといえば職員1人あたり1400万円を超える異常に高額な人件費を支払っている組織ですが(『最新決算で読むNHK乱脈経営実態とテレビ業界の末路』等参照)、この「厳しい財政状況」の表現に、この組織が公共放送を騙る資格を持っていないことは明らかでしょう。
そういえば、マスメディア業界の腐敗を示すエピソードはほかにもさまざまなものがありますが(最近の例だと『選手のプライバシーを知りたがるのは「読者の本能」?』等もご参照ください)、こうした腐敗の原因のひとつは、マスコミ業界に適切な業務監査が入らないことにもあるのかもしれません。
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>「歳出額」には国債の償還額が含まれているため、「歳入額」側に、国債の発行収入をカウントしなければおかしなことになるのは当然です。
この指摘は、高橋洋一氏が自身のyouTube番組で散々やってるから、今では相当に人口に膾炙しているはずなんですがね。
NHKの記者が,よほど不勉強なのか。
それとも、Zの垂れ流すレクチャーを、逐一報道するのが「公共放送」の使命と心得てるのか。
令和6年度予算では、国債発行額(歳入)35.5兆円、国際費(歳出)27兆円、差引8.5兆円の新規発行。
これくらいなら、無駄な歳出を止めれば、増税しなくても何とかなるんじゃないのかな?
2位じゃダメなんですか?なんて安易な発想じゃなくても。
・国の借金1200兆円、何故お金を刷って返さないの?
https://www.ritsumei.ac.jp/ec/why/why02.html/#:~:text=%E5%9B%BD%EF%BC%88%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E6%94%BF%E5%BA%9C%EF%BC%89%E3%81%AE%E5%80%9F%E9%87%91,%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%A7%E3%81%99%25E3%2580%2582
不勉強な者が多いのだろうとは思いますが、「理解している場合も嘘をつくのが仕事」
なケースも少なくないんじゃないかと思います。
そうでなきゃ「円安=日本おしまいです!円高=日本おしまいです!
は?丁度いい円の範囲?質問にはお答えしておりません!」なんて言えないでしょうから。
監査と言えば、会計監査と業務監査があると思います。実務をやっている者に関係するのは、業務監査です。業務の処理を「綺麗に」されると、会計監査だけでは見抜けないこともあります。最終的には、伝票や証憑まで当たらないと分からないこともあります。
どこかで現金の調達が出来れば、仮の入金が出来ますから、中々見抜けないんでしょう。
「GE崩壊」という本によれば、同社の長年の高業績は、そんなカラクリが現場で多用されていたらしいです。
ペンは剣よりも強しという言葉があります。
つまるところペンを使う際は武器を使うよりも慎重に使わなければ行けないのです。
またテレビ放送で使用される電波は限られた資源であり
例えるなら駅前の一等地を優先的に使用できる権利であり
簡単に新規取得できない既得権益です。
新聞社は情報をしる必要があると言って軽減税率を受けて
消費税について有利な状況です。
こうしたことからマスコミ、特にテレビ放送や新聞社は国民に対して
必要な情報を提供することが使命であるはずです。
ですが現状は既得権益に驕り高ぶり、知らせたくない情報について報道しない自由を行使しして
国民に不利益を発生し続けています。
テレビ局、新聞社は不祥事を起こしてもお互いに守り合ってくれます。
対してそれらの敵組織については、永遠と報道をし続けます。
これを腐りきったメディアと言わずに何というのでしょうか?
(死刑執行権限のある)大臣様のペンは、剣よりも強い
という意味だっけ?
日本も「先進国」であるなら様々な制度の質的向上を図らないといけません。
特に「監査」という概念は長年村社会として運営されてきた組織には馴染みにくいものでした。
しかし、ネットという大変便利な通信手段が普及した今、不正な行為が簡単に暴けるようになりました。
不正行為が簡単にネットで拡散されるようになったため、組織としては不正の防止に努める必要に迫られるわけですが、自覚を促すだけでは限界があります。
また、疑いの目で見られることを防ぐために、不正を行っていないという証明も必要になります。
企業では、会計監査、監査役監査、内部監査など不正の防止対策の重要性がようやく認識されるようになってきましたが、企業以外の組織に関しては、まだまだ意識が低いというのが実態です。
ただ監査を行うには費用がかかります。特に外部による監査は誰が費用を負担するのかという点が課題です。
企業は営利行為を行っていますので、外部監査の費用を負担させることができますが、例えば役所やマスコミの外部監査の費用を当該組織に負担させるのは難しいでしょう。
私としては、クラウドファンディングなどで色のついていない資金を集めて、公共性の強い組織の監査ができるような仕組みができないものかと考えています。
マスコミ一同「我々は愚かな下々の民を管理し導いてやってるんだぞ!?
監視するのは我々であって監視されるなどもってのほかであるぞ!」
「我らの行いそれ全てが正義であり規範なのだ!いちいち口を出すな!」
……とでも常にぶち上げてくれりゃわかりやすいのに。
言動一つ一つにそれらを醸し出してんだから正直に言えばいいと思う今日この頃。
コソコソ隠して高尚そうに装う所が気色悪いんだよ。
青臭い意見ですが、
「なんであの業界の人たちは閉鎖的なのか?」
民意だ!
正義だ!
多数派だ!
というならば、報道根拠をバンバン公開して賛同を増やせばよろしいやないの。
さっさと上場して内部統制や明朗会計のお手本を率先垂範すればエエじゃんか。
「メディアは社会の木鐸」
とか言われてます。
木鐸=ホームの非常停止ボタンみたいな?
それを不要!とは絶対に言えませんが、誤作動ばかりな上に、どうやら自分勝手に動作して、
「正常に運航再開したいならミカジメ寄越せ」
みたいに開き直ってる寄生虫に思えます。
放置して、耳を貸さず、別の系統の非常停止ボタンを準備運用するほうがコスパよろしいかと。
木鐸とは
いにしえの昔の政府のお役人様が、下々の人民に対して、新しい法令、命令を知らせるために鳴らしたもの
そして木鐸は、叩けば中身が詰まってないほどに、良く響くもの。
新聞社編集部は木鐸という名のエコーチャンバー
きっつーw
>こうした腐敗の原因のひとつは、マスコミ業界に適切な業務監査が入らないことにもある
*追熟も過ぎれば腐敗。樽の中の腐った林檎は、誰かに取り除いて貰わないとなんですよね。
新宿会計士さんには、会計士ジャーナルに記事を出していた財務省内の会計士による日本の財政を考えるみたいな記事について論破してもらいたいですね。
鳥羽先生ですか、懐かしいですね。ただ、CPDで検索しても鳥羽至英では引っかかることがなく、協会にメールで質問中です。
私も何十年も会計監査から離れていたのですが、直近、久しぶりに会計監査も開始しました。どなたか会計監査コストの話をされていましたが、会計監査コストは、限りなくゼロになる方向です。会計監査の仕事は、監査調書の作成がメインになりますが、この監査調書がICT/AIの活用で、一瞬にして作成されるようになりそうです。これまでの会計士の仕事の対象が調書の作成だったので、かなりの変化を強いられそうです。
日本は、解雇4要件があるので、簡単に会計士をリストラできませんが、業界にとっては大きなインパクトになります。
鳥羽先生の講義は7月4日(木)実施済みの『受託責任史観による世界の監査史探訪──監査概念の純化を求めて』です。
カテゴリーは「監査の品質および不正リスク対応」で2単位いただけるようです。
大変良かったですよ。
「受託責任の解除」とか聞くと、もう胸熱です(笑
Eラーニング化期待ですね。
>監査調書がICT/AIの活用で、一瞬にして作成されるようになりそうです。
つ、ついに恐れていたことが…(笑
ひと昔前のCPAとは Cut Past and Attach と呼ばれていたのにぃ!
新宿会計士先生、誠にありがとうございます。先ほど、日本公認会計士協会からも連絡があり、鳥羽先生の講義が検索できなかったようで、教えていただいた方に聞いてみてくださいとの返事でした。まさか新宿会計士先生に聞くわけにもいかないので、諦めようかと思っていたところでした。
会計監査のAI化については、この1年くらいではじまりそうです。
会計監査業界は、これまで欧米の会計事務所に名義料を支払う構造でしたが、大きく業界が動きそうです。
鳥羽先生の講義を拝聴してみます。
ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
> (※ただし、村山富市内閣のように、第1党以外の政党から内閣総理大臣が排出された事例もあります)。
輩出じゃなくて排出?
誰も突っ込んでないので突っ込んでおきました。
でも、わざとですよね!笑
なななななななんててこことと
わわわわざとじゃないよよよ
どどどうようなんてししててないからね