全自動物流という構想が出て来たようです。日経の2日付の報道によれば、国交省が東京・大阪間の高速道路で、自動のカートなどが小口の荷物を運ぶ仕組みを、今後10年以内に実現させる構想を立てているのだとか。実現までに課題も多そうですが、それでも物流問題、ひいては人手不足問題への、大変有効な解決策となるかもしれません。
人手不足倒産
「日本全国で、人手不足が深刻化しているようだ」―――。
こんな話題には、事欠きません。
実際問題、有効求人倍率は一部の県で1倍を割り込む状況ではありますが、その反面、たとえば2024年4月現在において、全国で1.26倍、東京都の場合は1.73倍と、依然として「仕事を選ばなければいくらでも働き口はある」という状況は続いています。
(ちなみに有効求人倍率については、独立行政法人労働政策研究・研修機構の『職業紹介-都道府県別有効求人倍率』というページが見やすいのではないかと思います。)
こうしたなかで、やはり目立つのは、労働集約的な産業の人手不足でしょう。
これに関連し、少し前から「円安倒産」などと並んで、「人手不足倒産」なる用語を耳にするようになりました。
といっても、『「円安倒産」や「人手不足倒産」は適切な用語なのか?』などでも指摘してきたとおり、この手の「なんとか倒産」なる用語、多くの場合は集計基準などがよくわかりません。
この点、現在の日本経済の条件に照らし、円安は総合的に見て経済に良い影響を与えるという点については、当ウェブサイトでもずいぶんと説明してきたとおりです(『【総論】円安が「現在の日本にとっては」望ましい理由』等参照)。
しかし、こうした「円安倒産」や「人手不足倒産」は、あたかも円安や労働力不足が日本経済に悪い影響「のみ」を与えているかのごとき印象を与えるようなものではないでしょうか。
私たちは消費者であり、勤労者でもある
正直、「人手不足」という状況も、言い方を変えれば、「働いてくれる人材に対する需要が増えている」、という意味です。
もちろん、人手不足で事業継続を断念せざるを得ない事業者がいることは事実でしょうが、これも経済学的に見れば、その事業者が従業員に対し、「その労働力に見合った給料を支払うことができなくなった」からである、と考えることができるのです。
私たちは消費者であるとともに、多くの場合、勤労者です。
物価上昇は消費者の立場からすれば「同じおカネで買えるものが減る」ということを意味しますが、賃金上昇は「同じ労働力でもらえるおカネが増える」ことを意味しますので、人手不足という経済事象についても同様に、「消費者としての立場」、「働き手としての立場」の両面から見る必要があるのです。
ただし、当ウェブサイトで常々指摘している通り、せっかくの円安なのに、電気代の高騰や労働力不足が日本経済の足かせになっては意味がありません。
やはり、電力の安定供給には原発の再稼働や新増設が必要ですし、電気代の引き下げには補助金だけでなく、再エネ賦課金制度の見直し、メガソーラーなどに対する総量規制も必要ですが、それだけではありません。
日本の労働力人口がこれから減ってくるなかで、やはり、労働集約的な産業については、その在り方を変えていくだけの技術革新と投資が必要です。
日経報道「自動物流道」構想
こうしたなかで、個人的にちょっと興味深いと思った話題があるとすれば、日経電子版に2日付で掲載された、こんな記事かもしれません。
東京―大阪の高速道に自動物流道、トラック3.5万台削減
―――2024年7月2日 11:59付 日本経済新聞電子版より
日経新聞によると国交省が現在、高速道路の空きスペースなどに荷物用の専用レーンを設ける「自動物流道」を東京・大阪間で導入することを検討しているそうです。
無料で読める部分によれば、この自動物流道は小口の荷物を運ぶ専用レーンをカートが無人で走行するというもので、技術・費用面での課題はあるにせよ、実現すれば1日に最大3.5万台分のトラック交通量の削減が期待できるのだそうです。
日経はまた、人手不足が先進国で問題となるなか、同様の計画はスイスなどでも検討されているなどとしつつ、国交省は今後10年程度での実現を目指す、などとしていますが、実現すればなかなかに利便性が上がりそうです。
そもそも論として、技術の進歩は通信や物流を大きく改善します。
たとえば、江戸時代の飛脚は、江戸・京の約500㎞を3~4日で結んだそうですが(国土交通省『旅について』等参照)、それでも信書ひとつを両都市間でやり取りするのに数日の日数と莫大なコストを必要としていたわけです。
それが、現在だと電話、FAX、メールなどを使えば、遠方(たとえば地球の裏側にいる人)とも、一瞬で情報をやり取りすることができるようになりましたし、より遠方に、より速く、より確実に、より大量に荷物を届けられるようになっているというのも、技術進歩がなせる業でしょう。
ちなみに日経電子版の記事はサムネイル画像がおもしろく、たとえば中央帯や路肩、地下などを無人の箱が行き来するイメージが掲載されています。
「さまざまな課題」とは、路肩や中央帯などのスペースを、東京・大阪間でまとまって確保することができるのかどうか、自動車などが突っ込む事故が起きたらどうするのか、雨天・悪天候の際などにも安定して走行できるのか、といったところでしょうか。
技術的には可能か
ただ、この手の「自動物流」、技術的には十分に可能でしょう。
たとえば、モノレール、新交通システムなどの全自動運転については遅くとも1980年代までには実現していましたし、現在、社会全体で自動運転のレベル4実現に向けて大きく動いているから(『バス運休問題切り札として期待の「レベル4自動運転」』等参照)です。
また、技術的な課題が解決すれば、という前提はありますが、すでに高速道路網は本州、九州、四国でつながっていますし、北海道とも青函トンネルで接続されていますので、高速道路、鉄道をうまく連携し、離島などを除く、少なくとも主要都市間に関しては、人力によらず、全自動で荷物が運ばれる仕組みも期待できます。
いずれにせよ、本件についてはまだ報道が出ただけの段階ではありますが、典型的な労働集約産業である「小口の物流」問題について、解決のめどが立つのかどうか、注目したいところです。
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>「小口の物流」問題
地域の新聞販売店に一定数やらせればいいんじゃないの? 新聞減ってるし。
3.5万台という数字がどれだけの割合を占めるのか分からないので、俄には、感覚的に理解出来ないが。
東名の1日辺り利用台数が、17〜18万台(2017年)らしいが、そのうちのトラック台数が分からない。また、物流量の何割くらいに当たるのかも分からない。
これは、例えば、リニア新幹線が出来て、既存の新幹線に余裕が出来たら、貨物新幹線を設けて貨物を運ばせられないのか?とか。そんな考えで賄える量なのか?とか。
もし、それが出来るなら、リニア建設を止めた、某知事など、日本の未来に大きな禍根を残すことをやったことになる?
JR貨物より何がいいのかな?
全然別の話ですが,外国人旅行者増加にあわせて,夜行寝台列車を復活させろ,という意見もありました。
どちらも,既存のインフラで済む話。
面白いことやってたんですね。
現行物流の代替手段というより、物流キャパオーバー対策の側面が強いのですよね。
自動物流道路に関する検討会
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/index.html
>しかし、こうした「円安倒産」や「人手不足倒産」は、あたかも円安や労働力不足が日本経済に悪い影響「のみ」を与えているかのごとき印象を与えるようなものではないでしょうか。
ふと思ったんですが、かつての金融危機では貸し渋りとか貸し剥がしがあったと聞きますが、貸し渋りや貸し剥がしも日本経済に良い影響があったんじゃないかと。
具体的に何かと聞かれると思い浮かびませんが、きっと何か良い影響があったんじゃないかと。
物流に関して、小生の雑感です。この度の人手不足でクローズアップされている自動運転ですが、その前にコンテナ規格を国際化する方が望ましいかと。日本全国の工場から20ftコンテナをトレーラー、鉄道、船舶でそのまま欧米まで運べれば効率が良いですし。1番のネックはJR貨物と聞いてます。近年軽視されてきた在来線を「国道」の様にして主要港まで結んで貰いたいものです。政府も輸出を奨励するなら、外国人を呼び込むよりも、全国各地から出荷できる体制を整えて貰いたいですね。不況で余剰になっていた労働力を活用出来なかったのが、今になって響いているかと思います。
https://weekly-net.co.jp/news/175043/
「現状の燃料価格と運賃では、これまでのような給与は払えない。既存ドライバーだけはなんとか維持しつつ、新規採用では給与を下げて雇い入れたい」
だそうです。
やはり値上げできないから賃金カット、という発想の方向に進むんですね。
物価上昇⇨賃金上昇の好循環は日本人の意識が変わらないと実現しないのでは?と悲観的になってしまいました。
めたぼん 様
これは興味深い記事ですね!
情報提供、ありがとうございました。
全体の公式データを見るのではなく、一つ二つの記事で一喜一憂...
こりゃ、岸田ガー!とオールドメディアにすぐ火つけられるアホがおるのも分かるわ
そういうデフレマインド経営者をどう排除していくかを考えるのであって、悲観的になって気持ち良くなるもんちゃうで
ちなみに、
賃上げ率
(2024年)
非正規6.08%UP 2年連続で大幅上昇
中小組合4.75%UP バブル期以降、2年連続で最大の伸び
正社員5.20%UP 5%超えは33年ぶり
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231128005/20231128005.html
賃金上昇、価格転嫁には業界の濃淡があります。
業界個別の事情はどうでもいい、というわけじゃないでしょう。
一見面白そうなアイデアではありますが、よくよく考えると既に鉄道という同じようなものがありますので、鉄道を使った方が余計な投資をしなくて済むのではないかと思います。
鉄道は積み下ろしが課題のようですので、道路の場合はトラックをそのまま無人運転で走らせる必要があると思うのですが。
高速道路に空いたスペースなんかあったっけ?
佐川事件が発覚する前は、JR貨物がネックだったようですね。
運賃が高くて、トラック輸送の方が単価が安かった。
JR貨物が復活するにはスペースがないと思いますが本来はJR貨物に任せて駅を基点に配送する方がドライバー不足の今解答かもしれません。コンパクトシティーにもなりますしね。
ただ、気になる点は、郵便関連もトラックになってしまっていますからその辺もJR貨物を利用出来たらさらにドライバー不足を緩和できるかもしれません。
長距離運転がなくなるので飲酒運転も減る方向になりますし、走る凶器がへるように思えます。うっぱらってしまった用地の取得は難しいかもしれませんがね。