野球の大谷翔平選手の新居をフジテレビと日本テレビが嗅ぎ回り、報じた問題で、テレビ局を擁護する意見が出てきました。いわく、野球選手の豪邸がどのようなものなのかを知りたいと思うのは、人間の「本能」なんだそうです(知りませんでした)。その上で、「プライバシーを守りたいのなら、大谷夫妻はドジャース球場に付設している『宿泊施設』にでも寝泊まりしろ」、なのだそうです。
目次
マスメディア論が増える理由
当ウェブサイトは「金融評論サイト」と名乗っているとおり、基本的には金融を中心としつつ、経済全般、産業、国内政治、外交、エクセル、ハンバーガーなどに関する話題を広く取り上げて来ました。
こうしたなかで、最近、当ウェブサイトで金融と並んで主軸の話題のひとつとなりつつあるのが、マスコミ・マスメディアに関するものです。ここでいうマスメディアとは、新聞やテレビ(あるいはそれらに情報を提供する通信社など)が中心ですが、一部の雑誌(週刊誌など)も含まれます。
マスメディア産業関係者はこれまで、自分たちのことを「第四の権力」などと自称して来たフシがありますが、それは、彼らが「報道」という力を、事実上の権力として使ってきたからです。2009年8月の衆議院議員総選挙でマスメディアが推した民主党が圧勝したことなど、その典型例でしょう。
問題の本質は「少数寡占」
ちなみに日本のマスメディアがここまで大きな権力を持っているのには、いくつかの理由がありますが、その最たるものが「少数寡占」でしょう。
そもそも日本のマスメディアは少数しかなく、たとえば全国紙・全国ネットなどと呼ばれるメディアは(カウント方法にもよりますが一般的には)5社、これに同一系列の大手テレビ局が民放5系列とNHK、これに通信社2社をあわせてせいぜい8グループほどです。
もちろん、これに主要ブロック紙や主要地方紙、独立系テレビ局なども存在しますが、それらの場合、社会的影響力が及ぶのは、その発行地域・放送地域に限られます。
ということは、主要8グループが結託すれば、選挙で特定政党・勢力の候補者の当落に、非常に大きな影響力を及ぼすことができる、ということです。
これが、「第四の権力」の正体でしょう。
ただ、日本の場合の問題点は、それだけではありません。
同じく、「国民から選ばれていない人たち」による権力の癒着構造が存在しているからです。
その典型例が記者クラブ制度です。
記者クラブは多くの場合、官庁からしっかりと情報をコントロールされていますので、記者クラブに所属するメディア記者は、基本的に官庁の批判はしません。
数年前の「森友学園問題」にかかる財務省の公文書改竄事件でも、メディアは財務官僚ではなく、安倍晋三総理大臣ら、私たち国民から民主的に選ばれた政権与党の側を叩きました。本来、最大の責任を負っているのは財務官僚であるにもかかわらず、です。
国民から選ばれていないくせに権力を持つ者たち
そして、官僚とマスメディアには、もうひとつの共通点があります。
それは、「国民から選ばれていないこと」です。
日本では2012年12月以降、自民党を中心とする連立政権が続いていますが、これは国民が衆参両院議員選挙で常に自民党を最大与党に選び続けた結果であり、その意味で、自民党を中心とする現在の政権は、「国民が選挙で選んだ正当な政府」です。
しかし、霞が関で隠然たる権力を持っている増税原理主義の財務省、NHKなどを支配する総務省、外交でへまばかりやらかす外務省などは、いずれもトップ(大臣、副大臣、政務官ら)のみが政治家であり、実務部隊は官僚などの公務員です。
官僚らは基本的に公務員試験に合格しただけの者たちであり、国民のためにではなく、自身が勤める官庁のために働くという傾向があります(※もちろん、なかには志ある人もいますが…)。
そして、官僚とマスメディアの両者にとっては、「強すぎる与党」が邪魔だ、という点においては、利害が一致しています。
だからこそ、官僚は記者クラブを通じてメディアを支配し、(とくに一部の)メディアは自民党に対して不利な情報ばかり選んで流すことで、選挙のたびに特定野党(たとえば旧民主党や旧民進党、現在の立憲民主党など)を勝たせてきたのではないでしょうか。
ただし、最近の選挙では、(一部の例外はありますが)野党が勝てなくなってきているという傾向があることは間違いありません。今年4月に行われた3つの補選では、いずれも立憲民主党候補が勝利しましたが、昨年4月の5つの補選では自民党が4勝しています(残り1つは日本維新の会)。
著者自身の現時点における主観ですが、これこそまさに、マスメディアの情報支配構造が揺らいでいるという証拠ではないでしょうか。
客観性と透明性がない報道の自由度
さて、先日の『林智裕氏が公表の待望「ネチネチ論考」が素晴らしい件』では、前半で、マスメディア産業の問題点について、国際的な2つの非政府組織であるフリーダムハウス、国境なき記者団(RSF)の調査をもとに、日本のメディアが大好きなRSFの「報道の自由度ランキング」のおかしさを確認してみました。
RSFの方の調査では、2024年における日本の「報道の自由度」は全180ヵ国中70位で、たとえば56位だったアフリカのガボンを大幅に下回っているのですが、フリーダムハウスの自由度調査の評点は、日本が100点満点中96点であるのに対し、ガボンはたったの20点です。
ちなみにフリーダムハウスの評点は、評点が25個の評価項目の「積み上げ方式」であり、その客観性と透明性は非常に高いのですが、RSFの方はランキングのベースとなった評点の内訳が明らかにされておらず、その客観性と透明性には、大変大きな疑問があります。
つまり、RSFランキングは、ジャーナリス業界が「日本の報道の自由度は低い」と喧伝するための、政治的な材料のひとつにされているというフシがあるのです。
もちろん、その「政治的材料」とは、「自民党政権下で報道の自由度が下がった」、「自民党政権が報道の自由に圧力を掛けているからだ」、といった印象を、一般国民に植えつけるためではないでしょうか。
大谷選手の自宅報道問題
ただ、マスメディア(あるいはオールドメディア)業界を調べていくと、その腐敗ぶりに驚くことは多いのではないでしょうか。
著者自身、2009年の総選挙をもって、日本のオールドメディア業界は、「事実を正確に報じる」という社会的使命を、完全にかなぐり捨ててしまったと考えていますが、その後も新聞、テレビ等の不祥事は続いています。
こうしたなかで、もうひとつ驚く話があるとすれば、米大リーグ・ドジャーズの大谷翔平選手が購入した新居を日本のフジテレビと日本テレビが報じた、とする話題です。
これについては一部メディアが6月12日までに、「ドジャーズ側がフジ、日テレに対する取材パスを凍結した」、などと報じましたが、のちにフジテレビ側が22日の段階で「ドジャーズの取材ができなくなった事実はない」として、これを否定する声明を出しているようです。
ただ、「フジ・日テレのドジャーズ出禁騒動」が事実かどうかはともかくとして、野球選手のプライバシーに属する内容を堂々と報じること自体、非常識であり、大問題でしょう。一般に自宅所在地がバレていると、有名人に対しては危害を加えられる可能性もあるからです。
(ちなみに米国では有名人本人やその家族、ペットなどを誘拐・略取し、身代金を要求するなどの事件も生じているようです。)
なかなかに強烈な擁護記事
ところが、これに関連し、これまたなかなかに強烈な記事がありました。
大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ
―――2024/06/30 09:06付 Yahoo!ニュースより【日刊ゲンダイDIGITAL配信】
配信したのは『日刊ゲンダイ』で、執筆したのは『週刊現代』『フライデー』元編集長という肩書の人物です。開口一番に、こう主張します。
「私は、この国にはスポーツジャーナリズムはないと思っている。競馬界、プロ野球界、相撲界を見ても、取材対象にベッタリ張り付き、タメ口を利けるようになるのがいい記者だと勘違いしているからだ。相手との距離の取り方を教えられていないのだ」。
この「スポーツジャーナリズム」だの、「相手との距離の取り方」だのといった内容が、それぞれ何を意味するのかについては、よくわかりません。
個人的には、スポーツジャーナリズムとは、そのスポーツのルールや特性をよく理解し、高く評されているプレイヤーのプレイの本質に迫ることであり、そして選手のプライバシーを根掘り葉掘り報じることではない、というものではないかとは思いますが、この点はとりあえず脇に置きましょう。
記事では、大谷選手の新居報道騒動について、「フジテレビや日本テレビのワイドショーなどの報道の仕方に問題があったのは間違いない」としつつも、なんと、こう述べるのです。
「だが、大谷側が激怒して2社の取材パスを凍結し、自分の映像を使用不可にしたというのは、私には理解できない」。
「土下座してでも大谷との関係を修復せよと、上から厳命されているようだが、これではジャーナリズムが入り込む余地など全くない。取材対象に媚びへつらうだけが記者の仕事なのか」。
取材パス凍結云々のくだりについては誤報という可能性もあるのですが、それはともかくとして、自宅を含めた選手のプライバシーを嗅ぎ回ることが、この人物のいう「スポーツジャーナリズム」とやらなのでしょうか?
「大谷選手はドジャーズの宿泊施設に泊まれ」
この記事の不可解な部分は、さらにこう続きます。
「12億円の豪邸や26億円ともいわれるハワイの別荘がどのようなものなのかを知りたいと思うのは、人間の『本能』である。読者、視聴者の欲求にこたえるのはメディアの重要な役割でもあるはずだ」。
はて?
はたして読者、視聴者は、野球選手の「豪邸」を「本能として知りたいと思っている」のでしょうか?
それこそ、読者、視聴者の方を向いていないのは、この元編集長氏の方ではないでしょうか?
さらに驚くのが、こんなくだりです。
「プライバシーを守りたいのなら、大谷夫妻はドジャース球場に付設している『宿泊施設』にでも寝泊まりしたらどうだろう。警備を厳重にしてもらえばプライバシーは保てるだろうし、『さすが大谷、野球一筋』と称賛されること間違いない」。
正直、オールドメディアがなぜ「マスゴミ」と人々から蔑まれるのか、その理由がわかるような一文です。
日本のメディアといえば、大谷選手が独身だったころの記者会見で、結婚の予定を尋ねる程度にはレベルが低かったのですが(『野球選手の記者会見で「結婚予定」を尋ねる日本の記者』等参照)、さすがにここまでの発言には驚きます。
野球選手としての大谷選手に対し、想像するに、多くの読者・視聴者が関心を持っているのは大谷家の新居の住所や間取りではなく、大谷選手が出場する野球の試合結果のほうではないでしょうか?
それに、「他人の自宅を知るのが読者の本能」だとおっしゃるのならば、この記事を執筆した人物が率先して、自宅の住所・電話番号を記事の末尾に公開すべきですし、それで人々が押し寄せるのが嫌なら、講談社の社屋に引っ越せば良いのではないでしょうか?
オールドメディアの終焉
このあたりはたんに芸能・スポーツ記者の問題というよりも、もう少し広く、マスメディア業界の「中の人」の専門性の欠如、倫理観の欠如、あるいは社会常識の欠如、といった問題ともつながってくるのではないでしょうか。
いずれにせよ、ネットの普及でレベルの低さを含めたマスメディア産業関係者の実態が知られるようになったことで、メディア産業がますます人々から呆れられるようになるであろうことは、想像に難くありません。
というよりも、トヨタ自動車が『トヨタイムズ』を創刊したように、現在、メーカーであったり、著名人であったり、野球チームであったり、政治家であったり、企業経営者であったり、といった具合に、直接に情報発信をする時代が到来しつつあります。
正直、専門性もなく、選手のプライバシーを嗅ぎ回るしか能がないスポーツ記者自体、社会から必要とされなくなるのも時間の問題なのかもしれない、などと思う次第です。
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このフライデー元編集長は、昔は許されていたことが、今では許されていないことに怒っているのではないでしょうか。
蛇足ですが、この元編集長は、若手に「俺たちが若い頃は」と言っているのではないでしょうか。
ふと思ったのですが、もし、この元編集長の顔写真を出せば雑誌が売れる、と思えば、現代もフライデーも載せるのではないでしょうか。
ドラえもんの道具で
パパラッチのレポーターが芸能人の代わりに追い回される展開があった
「あの人は有名なレポーターだ」「テレビで見たことある」「是非インタヴューしよう」
目立ちライトで有名人になろう
私達は盗撮でバンバンプライバシーを暴いて飯の種にしますが
私達は攻撃しないでください
私達は人間なんです。
マスコミが腐っているのはダブスタと強烈な特権意識です。
沖縄に痛ましい事故についても
文章を切り取り都合がいいタイトルにして
被害者を書き換えます。
また直近では神宮外苑の報道が酷いです。
要点は伝えないが木々が生い茂ってる所を映して
木を切るのはケシカランと報道します。
なぜ再開発が必要なのかは聞かれたくないようです。
腐ったマスコミが現在の日本を腐らせてます。
>木々が生い茂ってる所を映して木を切るのはケシカラン
乱立するメガソーラーをなんで批判しないのだろう。
脱炭素、反原発、EV もてはやしと強要。メディアは印象操作がひどいですね。
おっと今に始まった話にあらずですが。
ソーラーのためにはげ山を作り出すのはエコだから許す
神宮球場の建て替えに木を切るのは許さない
後から植え直すことは認めない
言ってることのダブルスタンダードが酷すぎますし
マスコミはなぜ神宮を再開発の話が出ているかは積極的に言いません。
色々とアンケートを取っているようですが
老朽化しバリアフリーに問題がある神宮球場&ラグビー場の建て替えに
反対ですか賛成ですか?と問えば結果が変わるでしょう。
報道しない自由を積極的に行使しているマスコミに苛立ってます。
これはもうまるっきり豊洲ですね
あんなに騒いだ癖に、今やテレビとビリーバーの両方(ついでにシレっと足ぬけした知事も…w)が何もなかったことにしている
Q.選手のプライバシーを知りたがるのは「読者の本能」?
A.選手のプライバシーを曝したがるのは「毒者の本能」(怒)
ん! 「毒者の煩悩(ぼんのう)!」・・。
これは、
読者の煩悩、
毒者の本能、
でしょう。
これの意味は、本能が純なるものでも煩悩に惑わされる事がある。
しかし、毒者は、存在そのものが毒なのだから、煩悩などという高尚な幻惑など生じない。
例えば、毒蛇は、煩悩で噛み付くのではなく、本能で噛み付くのではないでしょうか?
おっしゃる通りですね。
都知事選見ててもまだまだマスコミ影響力あるなあと感じます。
>自宅を公にされることで、試合中は一人でいる妻に危害が及ぶかもしれない、パパラッチまがいのファンたちが大挙してマンションの前に押し寄せ、「ここがオータニサンの家よ」と大騒ぎするかもしれないという心配は理解できる。
プライバシーというよりセキュリティの問題。「あそこが7億ドルプレーヤーの家」と今現在計画練ってる強盗がいるかもしれない。
武装したガードマンを置くことになったらどうする。
これで、思い出したのですが。
「孫」という演歌が大ブームになっていた時、その歌手であるお爺さんの家が、観光バスのルートになっていたとのこと。
いやはや、こんな話を聞けば、日本は、未だ非文明国か?と?思ってしまいますね。
現在後半戦の東京都知事選挙。
マスコミ情報には接せず、極力1次情報源から情報を得ています。
多分、テレビ新聞から得るであろう世界観と全く異なる姿を観ているのだろうと思っています。
歪んだフィルタを通さないで産地直送情報を得る気持ちよさ。
一度体験したら後戻りできない感じがします。
ほとぼりが冷めるまで大人しくしとけばいいのに。援護射撃どころか、フレンドリーファイヤーで火に油になってることに気がついてないのかしら。
凄い勢いで週刊誌が休刊になってますが、マスコミも淘汰の時代ですね。
先日、某高所から都内を見渡してみました。神宮の森、神宮外苑、新宿御苑、赤坂迎賓館と緑が続いておりましたが、外苑は絵画館前が空き地で空間が広がっています。もともと外苑が一番緑被率が低いんですね。再開発は老朽化や地震対策等々いろいろな理由があるのでしょうが、開発後は植樹をする予定だそうです。偏向報道で地理を理解していない人たちに間違った意識を植え付けているのではないでしょうか。
https://mainichi.jp/articles/20230702/ddm/005/070/115000c?inb=ys
毎日新聞の記事で、現在の神宮外苑と開発後のイメージ図が紹介されています。「東京のど真ん中にある豊かな緑」とありますが、現状の外苑の写真からは「豊かな緑」という印象は受けません。
そして、記事には課題・懸念として「樹木伐採により緑が失われる」とありますが、実は再開発で「みどりの割合は約25%から約30%に、樹木の本数は1904本から1998本に増加させる」とのこと。
https://www.jingugaienmachidukuri.jp/faq/#anchor10
また、伐採される木は、第二球場近くの扇形の領域や建物周辺の木々。
https://www.jingugaienmachidukuri.jp/green/#recovery
これで「100年の森が失われる」というのは、相当な無理筋でしょう。
蓮舫さんは、これを都知事選の争点にしちゃったんですよね。コア支持層しか見てないのでしょうか。外苑の再開発って何が問題なの? と検索されちゃうと、票は逃げちゃうと思います。
100年の森っていうのは、明治神宮の森のことで、外苑とは別物なのに、本当に知らなかったのか意識的に誤解させているのか。本当に無理すじをごり押ししてるかんじです。スーパー堤防をいつ来るかわからない津波のために作る必要ないって事業仕分けして、津波の被害を拡大させたのと同じ構造じゃないですか。老朽化した球場が崩壊して死傷者多数ってなったら責任逃れするつもりですか?って問いたいです。
>選手の考えている事を分かりたいなら、まずはその競技を好きにならないと。
あの元記事を読んでなんとなく言い表せない違和感があったのですが、コメントを拝読して気づきました。
取材対象に対する敬意が感じられないんです。
駆け引きや己が利を吸い取る対象くらいにしか捉えていないのではないかと。
この話を仄聞した時に思った事は、彼の収入に比して、安く無い?ってこと。
そんなに騒ぐことか?と。
彼が、4LDKのアパートに住んでいる、というのなら、かなりニュース価値があるかもしれないけど。
勿論、何の興味も無いので記事は読んでもいませんが。