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    Categories: 金融

二十年ぶりの新紙幣を迎える日本

十万円紙幣に伊藤博文氏を採用しては?

いよいよ本日から新紙幣が発行されるそうですが、実務的には本日中に新紙幣が手に入るのではなく、私たちが新紙幣を手にするには数日のタイムラグを伴うのではないかと思います。こうしたなか、日本には1,000円未満の小額紙幣が発行されていないことで、円の国際化の妨げになっているとする仮説、紙幣の発行がいつまで続くのかという予測、さらには「定番」となった、隣の国の渋沢栄一氏に対する難癖などを、つらつらと眺めてみましょう。

旧紙幣→新紙幣

いよいよ本日、新紙幣が発行されます。

一万円紙幣は福沢諭吉氏から渋沢栄一氏に、五千円紙幣は樋口一葉氏から津田梅子氏に、そして千円紙幣は野口英世氏から北里柴三郎氏に、それぞれ交代します。

ただし、現行の紙幣(図表1)が直ちに使えなくなるわけではありません。

図表1-1 福沢諭吉氏

図表1-2 樋口一葉氏

図表1-3 野口英世氏

(【出所】日銀『現在発行されている銀行券・貨幣』)

これまで使われていた紙幣が発行されたのは2004年11月1日のことでしたので、今回は約20年ぶりの改刷です(※ただし、2000年に発行が始まった二千円札については、今回も改刷の対象外だそうです)。

新紙幣の特徴

新紙幣はいずれも人物が交代するとともに、たとえば表面にはホログラムなど最新の技術が施され、裏面の券面については数字が大きく印刷されるなど、これまでとはまた紙幣の印象が変わりそうです(図表2)。

図表2-1 渋沢栄一氏

図表2-2 津田梅子氏

図表2-3 北里柴三郎氏

(【出所】独立行政法人国立印刷局『新しい日本銀行券特設サイト』)

久々の新券であり、朝一番に銀行に行ってATMでおカネを下ろそうとする人もいるかもしれませんが、想像するに、3日に銀行ATMですぐに新紙幣が手に入る可能性は高くありません。

そもそも新紙幣の発行が始まるのはあくまでも3日であり、実務的には、まずは日銀から各金融機関に送り届けられなければ、各金融機関がATMに紙幣を装填したり、窓口で取り扱いを始めたりすることは、できないからです。

もちろん、金融機関の本店ないし拠点店舗の窓口などでは、運が良ければ3日午前中から新紙幣の取扱いが始まる可能性もありますが、窓口の銀行員にとっても新紙幣に慣れる必要もあるでしょうから、実務的には新紙幣の扱いが本格化するのは、おそらく4日以降のことではないでしょうか。

旧紙幣が使えなくなるわけではない!

いずれにせよ、日本を含めた多くの先進国では、紙幣は定期的に改刷されます。

新紙幣が出回ると、必ず出てくるのが、「これまでの紙幣は使えなくなります」云々といった詐欺ですので、くれぐれもご注意ください。

この点、諸外国によっては改刷がなされると、一定の期間が経過後は紙幣自体が使えなくなる、という事例もあるようです(たとえばスイスなど)。

しかし、少なくとも日本の場合だと、戦後に発行された紙幣の多くは、現在でも有効です。

たとえば1984年11月1日に発行が始まった紙幣(図表3)であったり、それ以前の紙幣(図表4)であったり、さらには五百円札や百円札、五十円札、十円札、五円札、一円札といった紙幣が、現在でも有効とされています。

図表3-1 福沢諭吉氏

図表3-2 新渡戸稲造氏

図表3-3 夏目漱石氏

(【出所】日銀『現在発行されていないが有効な銀行券』)

図表4-1 聖徳太子氏(一万円)

図表4-2 聖徳太子氏(五千円)

図表4-3 伊藤博文氏

図表4-4 岩倉具視氏

(【出所】日銀『現在発行されていないが有効な銀行券』)

少額紙幣がない日本

さて、とくに最後の岩倉具視氏の500円紙幣については、とくに若い方を中心に、その存在を知らない、という人は多いのではないでしょうか。著者自身の記憶のなかでは、500円硬貨が発行され始めた1982年をもって、発行停止となったからです。

もっとも、実際に日銀ウェブサイトで調べてみると、発行停止となったのは1982年ではなく、1994年4月1日のことだそうであり、500円硬貨の流通が始まってもしばらく発行され続けていたのだそうです(個人的には、これは意外な発見でした)。

ただ、あくまでも個人的な感想ですが、紙幣の最低額面が1,000円、というのは、諸外国と比べてもやや額面が大きすぎる気がします。

たとえば、米ドルの場合だと、5ドル紙幣、1ドル紙幣などが発行されています(1ドル≒160円とすると、5ドル≒800円、といったところです)。また、ユーロの場合も5ユーロ紙幣が発行されており(1ユーロ≒175円とすれば875円相当)、ポンドも5ポンド(1ポンド≒200円とすれば1,000円相当)があります。

円安のため円換算するとわかり辛いのですが、かつての1ドル≒1ユーロ≒100円という時代の感覚でいえば、それぞれ1ドル紙幣は100円紙幣に、5ドル紙幣や5ユーロ紙幣は500円紙幣に、それぞれイメージが似通っています。

あくまでも想像ですが、日本円という通貨がアジア諸国などで広く使われていない理由は、現時点において、少額紙幣が発行されていないからではないでしょうか。

円が人民元に敗けている点

この点、財務省などはかなり以前から「円の国際化」を推進しているのですが、もし本気で円を国際化させたければ、日本も500円や100円などの小額紙幣を発行すれば良いのではないでしょうか。

日本だと現在、500円以下はすべて小銭とされ、コインが発行されていますが、もしこれらが小銭ではなく紙幣だったとしたら(あるいは小銭だけでなく紙幣も並行で発行されていたとしたら)、台湾、韓国、北朝鮮、中国、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシアあたりまでが「円経済圏」になるかもしれません。

人民元建て外貨準備がさらに減少』などを含め、当ウェブサイトで普段から説明している通り、もともと円は世界中で信頼されているからです。

しかし、現実問題としては、アジア圏などで広く使われているのは、円ではなく中国の通貨・人民元ではないでしょうか。人民元は資本規制が厳しく、現時点において「国際通貨」とは到底呼べないにも関わらず、人民元は主にアジア圏で米ドルと並び、国境を越えて広く通用しているようなのです。

中国の紙幣は100元、50元、20元、10元、1元などが発行されているそうですが、1元≒20円と仮定すれば、それぞれ2,000円、1,000円、400円、200円、20円に相当します。

これもあくまでも想像ベースですが、物価水準が安い東南アジア諸国や北朝鮮などにとっては、とりわけ1米ドル紙幣と価値が似ている10元紙幣、さらにそれよりも価値が10分の1である1元紙幣などの使い勝手が良いのではないでしょうか。

日本円の紙幣の額面が最低でも1,000円と、人民元はおろか、米ドル、ユーロ、英ポンドなどよりも大きいことを踏まえると、やはり外国の人々にとって日本円は使い辛い通貨なのかもしれません。

(※個人的に円紙幣は国際化してもしなくても良いと考えているクチですが、もし日本政府から「円を国際化するための手っ取り早い方法」についてのアドバイスを求められれば、この「小額紙幣の発行」を真っ先に挙げると思います。)

ま~た始まった!「渋沢栄一の紙幣を使うな」という難癖

さて、その一方で、世界にはさまざまな国がありますが、なかにはこんなイチャモンを付けて来る国もあるようです。

韓国の抗日団体、渋沢栄一の新一万円札に抗議「日帝植民地経済収奪の尖兵」「欺瞞的行為」

―――2024/07/02 18:10付 産経ニュースより

産経ニュースによると韓国の「光復会」、つまり「日本統治時代の抗日独立運動家の子孫らからなる団体」(?)が1日、新紙幣に対し抗議し撤回を求める声明を出したのだそうです。

あーあ。また始まったよ」。

少なくないコリア・ウォッチャーのみなさんは、一様に、そう感じたのではないでしょうか。

新紙幣の発行日の2日前になって、いきなり「新紙幣の発行を止めろ」と言われても、それは無理な相談ですし、そもそも通貨の発行は国家主権の範疇に属する事柄です。

外国のわけのわからない団体に「新紙幣発行を止めろ」と言われて、日本政府・国立印刷局や日本銀行などが、「はいわかりました、おっしゃる通り、新紙幣発行を停止します」、というとでも思っているのでしょうか。

ちなみにこの団体が新紙幣発行に難癖をつけている理由は、渋沢栄一氏が「日帝植民地経済収奪の尖兵」であり、同氏を一万円紙幣の肖像に採用すること自体が「植民支配を正当化しようとする欺瞞的行為」だからなのだそうです。

この短い声明文を見るだけで、日韓が真の意味でわかりあえる未来が到来する可能性が限りなく低いことが、手に取るようにわかります。

産経によると渋沢氏自身が頭取を務めた「第一銀行」が1902年、韓国で最初の紙幣を発行し、紙幣に渋沢氏自身の肖像画印刷された、とありますが、これについては野崎コインのウェブサイトで朝鮮第一銀行発行の10円紙幣が2,200,000円で販売されているのを確認することができます。

そのうえで産経は、渋沢氏自身が同時期、朝鮮半島で最初の鉄道「京仁鉄道」「京釜鉄道」などの解説にも関わっている、などとも指摘していますが、もし渋沢氏が「朝鮮収奪の象徴」だというのなら、こうした銀行、鉄道といった「日帝製のインフラ」をすべて捨て去ってからそう主張するのが筋ではないでしょうか。

ちなみに産経によると、この「光復会」は声明で、こう述べたのだそうです。

日本が真にわれわれとの関係改善、友好増進のため、問題人物の貨幣への使用を直ちに中断することを望む」。

はて?

新紙幣の発行を止めろ、などと要求する傲慢な国との「関係改善」も「友好推進」が、日本にとって、果たして必要なものでしょうか。理解に苦しみます。

いっそのこと、一万円紙幣のさらに上位の五万円紙幣ないし十万円紙幣を発行し、その肖像画として、伊藤博文さんか、いっそのこと、日韓関係の健全化に極めて顕著な功績のあった最近の政治家を採用しても良いのではないか、などと思う次第です。

同じカネで買えるメモリは20年で2000~3000倍に

さて、話題は変わりますが、新紙幣への切り替えはもしかしたら今回、あるいは次回(2044年)あたりで最後かもしれません。日本国内ではキャッシュレスが進むなかで、マネーもペーパーレス化が進むと予想されるからです。

とりわけ中央銀行デジタル・カレンシー(俗にいう「CBDC」)を巡っては、主要国の中央銀行がその在り方を研究していますが、紙幣も物理的に印刷するのにコストがかかっているわけです。

そして、次の改刷のタイミングでは、おそらくコンピューターの計算能力は現在の1,000倍以上になっているでしょう。

というのも、著者自身の家計簿で恐縮ですが、2003年12月14日に128「MB(メガバイト)」のメモリスティックを4,704円で、2004年5月2日には1GBのメモリスティックを29,800円で、それぞれ購入したという記録が残っているからです(いずれも当時の税率でいう5%の消費税等を含む価格です)。

本体価格でいえば、128MBのものは4,480円、1GBのものは28,381円です。

これに対し、アマゾンで調べてみると、現時点でバッファロー製の128GBのメモリスティックは1,680円1TBのSSDは14,480円(いずれも10%の消費税等を含む価格)です。

2004年ごろ
  • 128MB→4,704円
  • 1GB→29,800円
2024年ごろ
  • 128GB→1,680円
  • 1TB→14,480円

128のものは、値段は4,704円から1,680円へと約3分の1に下落する一方、容量は「MB」から「GB」へと1,024倍に増えています。また、1のものは、値段は29,800円から14,480円へと約半分に下落する一方、容量は「GB」から「TB」へと、やはり1,024倍に増えているのです。

つまり、同じ値段で買えるメモリの量が、この20年で2000~3000倍に増えた、ということであり、同じ調子で今後も進化が続くなら、2044年ごろには、128TBのスティックは840円で、1PB(ペタバイト、約1,126兆バイト)のスティックは7,000円程度で、それぞれ手に入るのかもしれません。

もし世の中の通信技術、処理能力が現在のさらに数千倍となるならば、やはりおカネも紙や金属片ではなく、バイトになるように思えるのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (38)

  • 初めて購入したパソコンはNECのPC-9801Fでした。1985~6年頃だったと思います。
    初期実装メモリーは128KB、これでは使い物にならず、追加で購入したメモリーは256KB、たしか当時の価格で数万円だったと記憶しています。

    何というか・・・昭和は遠くなりにけり、といったところでしょうか。

  • 新札供給開始で そーっと出てくるかもしれない話。
    日銀から各金融機関へ 新札が送られてきます。
    それは 続き番号で1億円束とかになっているとおもいます。
    正しい銀行員がほとんどと思いますが 
    中には そーっといい番号を 開店前に交換しちゃう行員も出るかもしれません。

    わたしの心が 曲がりすぎているのかもしれません。

    • コイン収集の世界でチェリーピッキングというのがある。
      例えば銀行で1万円札を100円硬貨100枚分に両替してもらい、その中から「特年」(発行枚数が少ない年)硬貨や珍しい「手変わり」(極印の違いによる図柄の微妙な差)を探す。これを繰り返す。アメリカではさかんなようだ。
      日本では紙幣の珍しい番号を探しだすために両替を繰り返すというのもある。今回コイン商は絶対にやるはず。見つければ何倍にも値がつき実質的に元手いらず。
      銀行員が? たぶん「何ヒマなことやってる!」と上司に怒られる。

  • 1聖徳、1諭吉に続いて1渋沢というお金の数え方が誕生するわけですね。すぐ慣れてしまうんだろうな。聖徳紙幣が誕生したときお隣の国ではとても便利な蓄財手段として当該紙幣が重宝されたとどこかで読みました。両目に¥マークが浮かぶぐらいに強い通貨だったそうです。特に釜山では聖徳紙幣は喜ばれたとも。

  • 野口英世、樋口一葉にくらべ 福沢諭吉は”ユキチ” イコール 1万円 というほど 強い存在でした。
    最高額紙幣だから 印象があったというだけでなく 表面デザインが ほとんどかわらず 2期38年間 発行されていたことによるとおもいます。
    新1万円札の愛称はどんなのが出てきそうですか?

  • 千円札の裏側のデザイン、北斎「富嶽三十六景」のうちの「神奈川沖浪裏」が気に入りました!

    2021年の処理水放出に反対して、中国報道官が出してきた例のイタズラ画を思い出します。(あのおにーさん、今何処?)
    https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/24008

    • 去年だかにペンキ塗りやってる写真が拡散されてしまいましたが、その後はサッパリ音沙汰がないですね。

      中国“戦狼”報道官「更迭」の真相 衝撃の“ペンキ塗り”写真から透けて見える習近平の企み
      https://www.dailyshincho.jp/article/2023/03261102/

      ツイッター公式アカウントは健在ですが、中国寄りニュースのリツイートばかりで直接発信はないみたいです。
      https://x.com/zlj517

      写真の拡散は意図的な気がしますし(ダメ押し)、戦狼外交部長の秦剛の扱いや先日の靖國小便小僧対応など、外交上は敢えて対立を煽らない方針に変わってるのだろうなと言う気もします。
      件の大阪領事もあまり目立つとヤバいのかもしれないですね。戦狼やらないと点数稼げないのに、やり過ぎると処分される。難しそうです。

  • 500円未満の小額紙幣だと、維持コストがペイできなかっと記憶しています。
    ・・・・・
    明治の10円金貨や、渋沢栄一の10円札。
    「パーティー券の代金」にどうでしょう?

    *領収書の額面はもちろん『10円』で!!
    ・・。

    • 逆にいうと、500円硬貨は世界でも有数の高額コイン。だから、自販機で誤認されやすい500ウォン硬貨を悪用されることが続発した(今は改良されている)。

      日本の紙幣は印刷技術の最高峰といえるから、500円紙幣を500円未満でつくることは難しいんでしょうね(それ以下の少額紙幣ならなおさら)。だからといって、紙幣のクオリティを落としていいということにはならないし。
      なお1円硬貨の製造コストは約3円とのこと。

  • 韓国経済が日本経済に比べてずっと小さかったころ、韓国人は日本円は欲しいが伊藤博文の千円札をいやがったというのを聞いたことがある。

    渋沢栄一がいやならまた伊藤博文使うぞといってやればいいんだよ。
    なんたって初代内閣総理大臣なんだから札の肖像にするのに文句言われる筋合いない。

    • いいですね~。

      坂の上の雲で見た記憶があります。
      50,000円札では、、、、500円で、、、、。

  • 5ポンドは約1000円だから全然小額紙幣じゃないじゃん
    それが少額紙幣なら、日本の1000円札も小額紙幣

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