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百貨店にとって中国撤退と国内シフトこそ賢明な戦略か

少なくとも百貨店業界に限定していえば、中国人の皆さまに商品を売りたければ、中国に進出するのではなく、日本の都市部でどっしりと店を構えていれば良い、ということなのかもしれません。百貨店協会のデータで見ると、コロナ禍で落ち込んだ売上高が最近、強く回復しています。都市部のインバウンド需要の影響でしょうか。その一方、読売の報道では、少なくない日系百貨店が中国本土から撤退しているようなのです。

百貨店売上高の現状

一般社団法人日本百貨店協会のウェブサイトには『百貨店売上高』というページが設けられていて、毎月の売上高を追いかけることができます。

これによると、百貨店の売上高はコロナ禍直前の2019年で5.75兆円でしたが、これが2020年において4.2兆円にまでいったん激減し、再び少しずつ回復する局面にあり、2023年だと5.42兆円だったことがわかります(図表1)。

図表1 百貨店売上高(全国、年次)

(【出所】一般社団法人日本百貨店協会『百貨店売上高』データをもとに作成)

こうした状況、月次グラフにしてみると、さらによくわかるかもしれません(図表2)。

図表2 百貨店売上高(全国、月次)

(【出所】一般社団法人日本百貨店協会『百貨店売上高』データをもとに作成)

コロナ禍以降の売上高が戻りつつある

グラフから読み取れるのは、百貨店では毎年12月に売上高が激増するという傾向があることと、少なくとも2019年までは、売上高がジリジリと減って来ていた、ということです。

ところが、コロナ禍でドンと落ち込んだ百貨店の売上高が、今度は逆に毎年、堅調に回復を続けており、2024年5月に関しては4693億円と、前年同月の4111億円と比べて582億円も増えているのです(増加率でいえば14%少々、といったところです)。

これについて、百貨店協会が6月24日付で公表した『2024年5月 全国百貨店売上高概況』<pdf.jpg>というレポートによると、これはインバウンド、つまり外国人観光客による旺盛な買い物需要が牽引していることが示されているようです。

同レポートによると国内需要は前年同月比+2.3%であるのに対し、インバウンドに関しては、何と「231.2%」(!)で26ヵ月連続のプラス成長を記録しています。つまり、国内需要よりも外国人観光客頼みという実態が出ている格好です。

これに加えて前年同月比売上高を地区別にみると、東京が17.3%、京都が24.4%、大阪が31.5%、福岡が27.3%など、都市部のデパートの売上高が強く、これに対して10都市以外の地区に関してはトータルで前年比1.1%のマイナスを記録しています。

こうした状況を踏まえると、百貨店需要の都市依存・外国人依存がくっきりしている、という言い方もできるかもしれません。

この点、当ウェブサイトにおいては以前から、「日本は積極的に観光立国を目指すべきなのか」という観点から、疑念を呈して来たつもりですが、現実問題として、外国人観光客が大勢日本を訪れ、少なくないカネを落としていくことの経済効果は侮れません。

読売報道:上海伊勢丹を含め日系百貨店の中国撤退相次ぐ

こうしたなかで、日本の百貨店にとっては経営資源をますます国内に集中させるべきではないかと思えるような話題も出て来ていることに気付きます。

読売新聞が6月30日付で配信した記事によると、中国・上海で伊勢丹が営業を終了するなど、中国で日系百貨店の閉店が相次いでいるというのです。

上海の伊勢丹が営業終了、中国で日系百貨店の閉店相次ぐ…高島屋は売上高が減少傾向

―――2024/06/30 19:53付 Yahoo!ニュースより【読売新聞オンライン配信】

読売によると上海伊勢丹は30日をもって最後の営業を終え、これにより中国本土の伊勢丹はピーク時の6店舗から1店舗に減ったのだそうです。

これに加えて滋賀県彦根市を地盤とする平和堂も中国で百貨店事業を展開し、一時は湖南省で4店舗を構えていたものの、昨年6月に不採算店を閉店するなどし、現在は1店舗にまで削減。大手百貨店のなかでは高島屋が上海で営業を続けているものの、「売上高は減少傾向で苦戦が続く」のだとか。

このあたり、日系百貨店が中国で店舗を構えることの難しさという点があることは、どうも間違いなさそうです。

読売の記事で挙げられているのは、「中国におけるネット通販の拡大」で、「2023年には中国国内の消費財販売に占めるネット通販の割合が4分の1に達した」、という事情に加え、福島原発の処理水放出に伴う日系ブランドの敬遠、中国の不動産価格下落による富裕層・中間層の資産目減りなどの事情です。

この点、ネット上の「現地在住者」などと名乗る人たちの書き込みなどを見ていると、上海伊勢丹の場合、もともと建物の作りが不便だった(らしい)、といった特殊要因もあるため、伊勢丹上海の撤退をもって「日系百貨店の中国撤退加速」、などと結論付けるべきではありません。

さらには、現地在住者などによると、中国では(とくに都市部では)物流サービスのきめが大変に細かく、それこそちょっとしたお菓子1つから配達してくれるなど、ネット通販環境が大変に充実していて、百貨店がこうした流通網に対抗すること自体が難しいほどだというのです。

中国は日本企業にとってビジネスフレンドリーな国なのか?

しかし、先日の『拘束事案等受け台湾が中国への渡航警戒レベル引き上げ』などを含め、当ウェブサイトでも最近、しばしば取り上げている通り、どうも中国という国が日本を含めた西側諸国にとって、ビジネスフレンドリーな国ではなくなりつつあることもまた事実でしょう。

この点、ひと昔前だと、「日本企業が中国で操業できなくなると困る」、「だから日本政府はもっと中国に配慮しなければならない」、といった論陣を、(現在は倒産寸前とされる)某大手メディアなども積極的に張ったものです。

ただ、肝心の新聞業界自体がここ10年あまりで急速に社会的影響力を失ってきていることなどを踏まえると、こうした主張が社会のコンセンサスを得られる可能性は極めて低いのが実情でしょう。

いずれにせよ、百貨店業界のこうした現状は、現在の日中関係、そして日本経済の姿を象徴しているように思えてなりません。

「もう日本の時代は終わった」、「これからは中国の時代だ」、とばかり、意気揚々と中国に進出したものの、中国事業は不採算状態となり、いくつかの店舗が撤退に追い込まれる一方で、インバウンドなどの影響もあって日本国内の売上高が復活を遂げ始めている―――。

日本でどっしり構えていれば良いのでは?

日系百貨店が中国から続々と撤収するなかで、もし中国の皆さまが日本の百貨店の「非日常感」を味わいたければ、直接、東京なり、大阪なりの百貨店にやってくる必要がある、ということでしょう。

実際、日本政府観光局(JNTO)のデータなどを見ていても、まだコロナ前の状況には至らないとはいえ、訪日中国人が次第に増えていることもまた間違いありません(図表3)。

図表3 日本を訪問した中国人

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

少なくとも百貨店業界に限定していえば、中国人の皆さまに商品を売りたければ、中国に進出するのではなく、日本の都市部でどっしりと店を構えていれば良い、ということなのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • 私は中国の青島(チンタオ)で働いていたことがあります。
    そのときたしか2010年ごろだったと思いますが、反日デモにより青島のジャスコが襲撃、略奪されました。
    中国人は反日感情を持っている人間も多く、何かあればすぐに敵対的になります。
    最近の情勢も考えると中国撤退は正解でしょう。

  • >中国という国が日本を含めた西側諸国にとって、ビジネスフレンドリーな国ではなくなりつつあることもまた事実でしょう。

    というよりも元に戻っただけでしょう。

    • >というよりも元に戻っただけでしょう。

      そうですね。この国の辞書にフレンドリーという言葉はないでしょう。

  • 日本では百貨店は「オワコン」じゃないかな。
    地方百貨店は廃業、倒産が相次ぎ、東京都心ですら廃業(東急本店の廃業、小田急百貨店の廃業、ちょっと古いけど東急日本橋店の廃業)か家電量販店に代わった。(池袋三越、新宿三越、有楽町そごう、西武本店)

  • 百貨店は「何でも揃うデパートメントストア」から「欲しいものが全く置いてないストア」と揶揄される事があります。実際、行っても特に欲しいものは無いですね。日本百貨店協会によると、彼らは仲間内でも、かつて繁栄していた頃のプライド、エリート意識、地方蔑視、地域差別が未だに激しいです。その一つは月間売上等報告を見ても分かります。これは何十年も前から(少なくとも40年以上前、都市数は増えたが)この表示方式です。今は「10都市 」と言う名付け。10とは札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡。

    中でも群を抜く数値は東京なのは当然ですが、で、「10」以外の都市の百貨店は、例え人口や売上がそこそこあっても、「関東」「関西」「九州」とかの大きなくくりだけで、都市名は見当たりません。何処の県市の数値なのか分からない。私見ですが、凄く古い体質を感じます。こんなんだから、従来の一等地とされた場所でも、東京ならT、O、S、M、M、T百貨店は瀕死の重傷で、間もなく閉店か改装による業態変換、または未定となっています。関西ならT、K、京都のDが厳しいです。

    またそれより更に地方百貨店の廃れっぶりは酷いです。大手と違い、太いパイプの仕入れルートが無い為、関東関西の大手百貨店から「小分け」して商品供給を受けたりしてましたが、親方がジリ貧なので、もう無理です

    都心百貨店も二極化が激しいと言うより、勝ち組が僅かで、殆どがデパチカ以外閑古鳥。今やお客さまは、百貨店より専門店、ショッピングモール、ショッピングセンター、ホールセールクラブ、ネット通販等買う楽しみはバラエティに富みます。

    私は東京、横浜、町田、たまプラーザ、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡以外で、クラシックなタイプの総合百貨店という業態は成り立たないと思います。かつて(と言ってもほんの15年ぐらい前)は人口100万人に1店舗が生存できると言われてました。ところが今や「150万人でやっと1店舗」だそうです(流通業勤続38年の知人)。

    コロナ禍以前の中国人観光客インバウンド集客で、大きな利益を上げた百貨店。最近の海外客復活で、商魂たくましく待っていても、数年前のように上手くはいかないです。その理由は、1番に、中国が日本への旅行規制を解いてないから。2番目に入国数でトップの韓国人は、カネを落とさず、トラブルを落とすから(笑)。あとの外国人旅行者はデパート家電店にも寄る(コースに無理くり入れさせられている?)でしょうが、ショッピングや富士山や京都だけでなく、地方にも行きます。つまりリピーターが増えたのでしょうね。そういう海外観光客が増えるのが、本来の姿だと思います。

    • 冷戦時代
      東側の国の人が日本の百貨店に来て万引きして捕まった例は結構あったらしい

      • ドラちゃん様

        百貨店の品は、きっと目が眩むほどの高級品だったのでしょうね。で、その東側国の人達は「外交官特権」で出国したのでしょうか?(爆笑)。

  • 世界的に百貨店がネットに取って代わられている現在、場所が海外であれ国内であれ、今の百貨店というビジネスモデルは賞味期限切れですね。
    生き残り策としては、貸店舗かネットで買えないレアものなどにシフトすることですね。
    地方の民芸的なものや職人さんが作ったものなどの販売代行なども良さそうです。
    それから、地域のコミュニティ施設などを設けるとより一層の集客効果が見込めると思います。

  • >少なくとも百貨店業界に限定していえば、中国人の皆さまに商品を売りたければ、中国に進出するのではなく、日本の都市部でどっしりと店を構えていれば良い、ということなのかもしれません。

    中国人は、同じ「made in China」の商品でも、中国国内向けと日本向けでは品質管理などが異なるので、同じ商品でも日本で買った方が良いって考える、と結構前に何かで読みました。

    なので、中国に行って売るより日本まで買いに来て貰う方がお互いにwin-winなんじゃないかと。

    • 日本人なら職人気質だから何処向けだろうとどんな値段だろうとしっかり作るし、

      中国人同胞なら商人気質だから売る相手を見て手抜きをして利益を増やそうとするし、

      って感じですね。

    • インドは中国製生活用品に巻き取られてしまっています。それなしでは日常生活は成り立たない。だが中國制造の役に立たなさは目を覆うばかりで、そのつもりで買っているので仕方ないのであるけれど、町がゴミでますます加速度的に汚れる原因はすぐ駄目になる中国製生活用品のせいでもある。ですから日本の百均なんて彼らには卒倒するような話。あのクオリティであの価格でどうして利益がでるのだと。それでごっそり買って土産に代える。

  • 懐かしい話。
    百貨店は、袋に価値があると。
    M越の紙袋を持って歩いてると、何か自分がセレブと錯覚する。
    そんな時代、ついこの間だったような気がしますね。

    • 私も子供のころ母親に連れられてMに行くときは「よそいき」の服を着せられました。
      近所の悪ガキ仲間が「めんこ」をやっている横を目を合わせないように通り過ぎ、後ろで「すかしてやんの」(かっこつけやがっての意味)という声を聴きながら。

      「三丁目の夕日」「たけしくん、ハイ」の世界だね。

      • >よそいき

        これは、懐かしい言葉です。
        この言葉が死語になって、「お天道様が見ているよ」という言葉を言うことも無くなり、世の中に、迷惑行為を平然とやる者が増えたような気がします。