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値上げなのに売上減の某中小企業は2期連続で営業赤字

X(旧ツイッター)では、毎日新聞の29日付朝刊に掲載されていたと思しき「某中小企業」の決算公告の画像がポストされていました。同社は2021年3月期において、資本金を1億円にまで減額することで「税法上の中小企業」となったことでも知られています。昨年は値上げに踏み切ったわりに売上高は減少し、前期に続き営業赤字で負債比率も90%超過―――。今年も、なかなかに強烈な決算です。

2024/07/01 12:00追記

サムネイル画像が抜けていたので追加しています。

けしからんポスト、拡散するなよ!

まったくもって、けしからん話です。

X(旧ツイッター)でとあるユーザーがここ数年、150円(※)という貴重な大枚をはたいてコンビニエンスストアで毎日新聞朝刊を購入し、その紙面に掲載されている某企業の決算データ(貸借対照表と損益計算書の要旨)をXにポストしているのです(※昨年6月1日に160円に値上げされています)。

その最新版が、今年もまた、ポストされていました。

「毎年愛読している」わりには「コンビニを探し回って4件目でやっと買えた」というあたりに皮肉を込めまくっているように見えるのは、気のせいでしょうか?

某外国では事実陳列罪という罪があるそうですが(笑)、このユーザーの方も、国や時代が違えば、事実陳列罪で逮捕される展開もあり得るかもしれません。

どうして原価率と経費率がこんなに高いのか

さて、このユーザーがポストしていた内容は、「2021年3月期に資本金を1億円にまで減資することで、めでたく税法上の中小企業となった、某大手新聞社」の決算と称するデータなのですが、もしこれが事実だとしたら、なかなかに強烈です。

というのも、なにかと良い感じで、久々に「ヤバイ」決算だからです。

その「某中小企業」の「ヤバさ」がわかるグラフがあるとしたら、次の図表1かもしれません。

図表1 某中小企業の売上高と売上原価・販管費の状況

(【出所】Xおよび過去の旧ツイッター投稿画像などを参考に作成)

損益計算書の構造上、売上高から売上原価を引いた金額が売上総利益であり、その売上総利益から販管費を引いた金額が営業利益ですが、この中小企業の事例でいえば、売上高から売上原価と販管費を控除したら、ほとんど何も残らない(かむしろ少し赤字になる)のです。

そもそも論として、「営業赤字」というのは、企業会計上の事象としては、なかなかに強烈です。

営業損益とは、その企業にとっての本業での儲けを示す最も重要な指標のひとつであり、「営業赤字に転落した」という状況は、その企業にとっての「本業」が赤字を垂れ流す状況にある―――平たく言えば、「社会から必要とされていない」―――、ということを示唆しているからです。

もちろん、営業赤字に陥る要因としては、さまざまなものが考えられます。

営業経費の抑制が足りないからなのか、原価の抑制に失敗したからなのか、はたまた売上高が低迷しているからなのか――。

値上げしても売上高は微減、営業赤字は変わらず

しかし、同社の事例でいえば、これは「慢性病」という可能性があります。ここに示した2017年3月期以降の8事業年度分で見ると、同社が営業黒字だったのは17年3月期、22年3月期の2事業年度だけであり、それ以外の事業年度に関しては、いずれも営業赤字に転落しているからです。

そもそも売上高の落ち込みに関しては、直近3事業年度分に関しては非常に緩やかであり、625億円(22年3月期)、595億円(23年3月期)、580億円(24年3月期)と着実に減っているものの、それ以前の急速な落ち込みには、とりあえず歯止めがかかっているかにも見えます。

しかし、もうひとつ忘れてはならないことがあるとしたら、この中小企業、主力製品を昨年6月、値上げしているという事実です。

月ぎめ購読料(※セット料金または統合版料金)をほぼ500円、パラレルで引き上げてたにも関わらず、それでも売上高が落ち込んだうえに営業損益に陥ったというのは、それだけ同社の主力製品の売れ行きの落ち込みが激しい(あるいは値上げ幅が原価の上昇に追い付かなかった)ということではないでしょうか。

ちなみにこの「売上高に占める原価・経費の割合が極端に高い」というのは、この業界全体の問題かもしれません。『朝日新聞部数はさらに減少:新聞事業は今期も営業赤字』でも取り上げたとおり、業界最大手の一角を占める株式会社朝日新聞社にしても、やはり原価率・経費率が異様に高いからです(図表2)。

図表2 株式会社朝日新聞社・単体決算売上高と売上原価・販管費の状況

(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有報データをもとに作成)

つまり、株式会社朝日新聞社の事例、この某中小企業の事例に共通しているのは、新聞を1部売っても、売価の9割(あるいは10割)以上が原価と経費で持っていかれてしまっている、という状況です。

想像するに、おそらくは全国各地の少なくない新聞社において、状況は似たようなものでしょう。

労働集約産業としての新聞

この点、いつも指摘している通り、そもそも新聞とは、非常に前時代的かつ労働集約的な産業です。

新聞紙とは「情報(文字や写真など)を紙に印刷したもの」であるため、記事を執筆してから人々に読まれるまで、少なくとも数時間、下手をすると半日以上のタイムラグを伴うこと。

読者に送り届けられるのは文字と写真(静止画)に限られるうえに、記事を配信してからそれらの情報を差し替えることは不可能であること、また、。個々の読者の属性に合わせて、その人に合った広告を表示することはできないこと。

新聞の題字や各記事などで構成される新聞紙を毎日、物理的に製造・運搬しなければならないため、製造原価や輸送コストなどの経費がかかること。

また、新聞の読み手にとっても、紙媒体の新聞はかなりの不便をかけています。

新聞を手に取った時点で、そこに印刷されている情報は、少なくとも数時間、下手をすると半日以上の時間が経過していて、まったく「新しくない」こと。

新聞という性質上、物理的にスワイプして拡大する、といったことはできないうえに、過去の新聞記事などを検索するためにはひとつひとつ、記事を目で追っていかねばならず、しかも嵩張る紙媒体の保管場所にも困ること。

新聞を読んでいると手にインクが付くうえに、満員の通勤電車内で読むのは非常に苦痛であること。

このように考えていくと、新聞「紙」に物理的に印刷された新聞というものは、作り手にとっても多くのユーザーにとっても、誰にとってもハッピーではない仕組みとなり果てているのかもしれません。

負債比率も90%超:評価差額で微妙に救われたが…

さて、それはともかくとして、某中小企業の決算情報に戻ると、ほかにも興味深い点をいくつも発見します。

そのなかでも特筆すべきは、財務面から見た大きな特徴―――、すなわち負債比率(総負債を総資産で割った比率)が恒常的に90%を超えているという事実です。これをわかりやすく図示したものが、図表3です。

図表3 某中小企業の総資産とその内訳の状況

(【出所】Xおよび過去の旧ツイッター投稿画像などを参考に作成)

直近2事業年度においては、株主資本ないし評価・換算差額等が増えたことで、少しだけ自己資本の「厚み」が出ていますが、それでも2024年3月期決算において、資産合計(総資産)が1320億円であるのに対し、負債合計(総負債)は1240億円と、じつに93.90%を占めています。

ちなみに株主資本は45億円で前期比9億円減りましたが、評価・換算差額等は24億円増えたため、純資産ベースでは前期比15億円増えています。

この企業は24年3月期において、7億円ほどの最終損失に陥っていたのですが、評価・換算差額、とりわけ「その他有価証券評価差額金」が39.5億円と、前期の12.7億円と比べて26.7億円も増えています。株高の恩恵で少しだけ延命した格好だといえるのかもしれません(が正直、「焼け石に水」状態です)。

しかも、同社は固定資産の部で繰延税金資産を19億円計上しているのですが、株主資本の部の厚みが45億円しかないこと、前述の通り、過去8期において6期分が営業赤字であることなどを踏まえると、この繰延税金資産の資産性が否認される事態になれば、同社の財務内容は一気に悪化するかもしれません。

案外生き延びていますね

もっとも、客観的に見て「経営危機」状況であるわりに、この状態でもう何年も生き延びていることを踏まえれば、50代の役付の従業員の方を肩たたきするのか、宗教団体の機関紙の制作を請け負うのか、外国政府の宣伝を請け負うのかは知りませんが、案外、何とかしてもう少し事業が継続するのかもしれません。

これに加えて某社の場合、テレビ局とのクロスオーナーシップを通じ、とくに不動産経営に成功するなど、経営に余裕があることで知られる某放送局が救済する、あるいはさる実業家の方が買収する、といった可能性も残っているため、同社の将来がどうなるかについて、一概に予測するのは少し困難かもしれません。

このあたり、三菱重工が新聞輪転機事業から撤退するとの話もある(『三菱重工が新聞輪転機から撤退か』等参照)など、新聞業界全体を取り巻く経営環境が芳しくないことは間違いないのですが、案外、一部の社はしぶとく(?)生存し続けるという可能性もあります。

その意味でも、新聞産業の今後の動向からは、もうしばらく目が離せない展開が続きそうです。

新宿会計士:

View Comments (22)

  • 一番客観的な情報が番組欄だけのある意味赤旗や聖教新聞的な媒体は信者以外買うわけがない。
    新聞が生き残る道は客観的な公平公正な情報を提供し続け、かつてのクオリティーペーパーと呼ばれ信頼されていた時代に戻ることです。
    飲料水で例えるなら信頼性の高い添加物なしの天然水に徹すべきなのです。
    ただで手に入る水とは信頼性が違う、ろ過しなくても飲めるところに価値があるのです。
    天然水と偽って色や味を勝手につけてはいけません、ましてや角度のついた容器は使いづらい。

    • 「赤旗が日本でまともな数少ない新聞」とする意見も昔からあるけどね
      他は不偏不党、公明正大を謳いながら偏向報道しているのでまともではない
      最初から「日本共産党の機関紙」と言ってる赤旗の方がまだまとも。という理屈
      ちなみに、アメリカのテレビ局は民主党支持か共和党支持かを事前に公表しているらしい

  • 「クオリティーペーパーとは何のこと
     新聞産業界に淘汰の大波
     次危ないのはあの会社」

    • 上記の投稿の返信ですか?
      当時のクオリティーペーパーがまやかしだったのかどうかではなく
      当時の新聞は信頼されていました(少なくとも一般読者には)
      そのような状況(信頼される)にならないと衰退は避けられないと言いたいのです。
      その意味でクオリティーペーパー(まやかしではなく)と呼ばれるよう地道に努力しなければ生き残る道はなのではないでしょうか。
      権力の監視が我々の役割であり権力を正しい(我々が考える)方向に導くのが使命である、そのためには偏向報道、切り取り、捏造も許される、と思っている編集者を一掃する必要があるので無理でしょうが。

  • 毎度、ばかばかしいお話を。
    某中小企業:「値上げなのに売り上げ減とは、値上げが足りなかったに違いない」
    ありそうだな。

  • 毎日新聞社の決算、純資産65億円で自己資本比率4.9%
    長短借入金の合計が459億円。銀行が黙ってないだろうね。特別利益を57億計上してる。
    たぶん銀行からせっつかれて優良不動産を売却したんだと思う。

    • 「政府は銀行に、困っている中小企業向けの無利子、無担保融資をさせるべきだ」と毎日新聞がキャンペーンしそうですね。

  • 企業は人也。
    政府転覆、日本人社会の混乱と没落を企む工作員もどき或いは工作員そのものという人達が構成する企業なのだから、相応の顛末を迎えてほしいもの。
    但しこれら工作員達が方方に散って潜伏する事態は困る。無力化する方策も一緒に必要ですね。

  • 某中小企業の窮状は、タコの足喰いをみるようですね・・。
    社屋等のリース化で得た資金のとぎれる時が「いまわの際」
    ・・なのかも。

    ・・・・・
    *循環論?
    生命の危機に瀕したタコは、自身の足を喰いその場を凌ぐ。
    ただし、「自喰いした足」が、再生することはないのです。

    再生の余力があれば、「自喰いには至らない」のですから。

  • 囲碁、将棋、少年野球などなど
    新しいスポンサーを開拓しとかないと心配です
    そうだ、危地田さん
    伝統文化保存税を新設してはいかが?

  • コンビニで買った新聞の切り抜きを、手を滑らせてご丁寧に昨年分まで共有いただけるなんて、怪しからんお方です。(笑)
    R1~R4の決算公告もこちらで手を滑らせてらっしゃいます。
    https://x.com/_rtiobboitr_/status/1622805335730978818

    電通は本社ビル売却で譲渡益890億、簿価1790億見込みと発表していました。https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000485.html

    当該中小企業の決算公告にその形跡を見いだそうとしたのですが、R2~R4の土地も建物も大きな変化のあった年が見当たりませんでした。
    大阪本社ビルは売却せずに担保に差し入れて借入をしている、なんて未確認情報も見かけましたので、そういうことかもですね。

    長期借入は変動がありますがだいたい一定で、R1→R6の推移は
    311→320→348→314→406→308億円。

    本社ビルの抵当権とか見ると余命推測できるんでしょうかね?

  • 売上は減る一方、利益は出ない、借入金は多い。
    土地631億とあるが銀行の担保に入っているだろう。
    ちょっと地方百貨店に似ているかも。廃業、倒産も近いのでは。

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