またしても、ロシア制裁の強化です。報道によるとロシアで人民元決済業務を行う中国の大手商業銀行・中国銀行が今週月曜日以降、ロシアの経済制裁対象企業に対し、人民元決済サービスを停止したそうです。それだけではありません。国際刑事裁判所(ICC)は現地時間の24日、ロシアのセルゲイ・ショイグ前国防相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長の両名に対し、国際犯罪容疑で逮捕状を発行しました。
中国銀行、ロシアの制裁対象企業に対する人民元決済業務を停止?
当ウェブサイトでは1日のうちに似たような話題をいくつも掲載することは(とくに最近は)避けるようにしているつもりなのですが、「さすがにこれは取り上げざるを得ない」、という話題が出てきました。
いくつかのメディアの報道によると、「中国銀行」(本店:北京市)はウクライナ侵攻に関連して米国が経済制裁を課したロシア企業との取引を停止したようなのです。
ここでは、ニューズウィークの記事を紹介しましょう。
Russia Dealt Payments Blow by Top China Bank
―――2024/06/25 06:56 EDT付 Newsweekより
ニューズウィークはロシアの日刊紙『コメルサント』の報道を引用する形で、「金融業界筋の話」として、今週月曜日以降(ということは6月24日以降、でしょうか?)、米国による経済制裁の対象となっているロシア企業との人民元建ての決済処理を停止したのだそうです。
本件について、記事では、「ロシア、中国の外交当局者はいずれも書面によるコメント要請には応じていない」などとしつつ、「中国銀行は今後も経済制裁の対象外の企業とは協力を継続していく方針だ」、と結んでいます。
あれれ?「人民元決済なら制裁対象外」なんじゃなかったっけ?
この報道が事実なら、ロシア経済に対し、非常に大きな衝撃でしょう。
中国銀行といえば、中国の4大商業銀行の一角を占めており(ほかに中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行)、2023年12月末時点の資産規模は約32兆元(1元=22円と仮定すると約714兆円)という巨大な金融機関です。
ニューズウィークによると中国銀行はロシア国内で人民元決済を専門的に扱っているのだそうですが、今回の措置は米国によるロシア制裁に伴う「二次的制裁」―――ロシアの軍需産業のサプライチェーンを支える可能性がある分野に対する金融サービス提供に関わる制裁措置―――と関連しているとみられる、としています。
また、驚くことに、中国銀行以外にも中国の大手商業銀行も、すでにロシアに対して同様の措置を講じているとのことです。
あれれ?
「ロシア・フレンズ」の皆さまにとって、たしか「BRICS諸国は域内貿易の8割が自国通貨建てに移行した」から「ロシアは米国など西側諸国の制裁には困っていない」(『トンデモさん大歓迎(ただしエビデンスで殴られます)』等参照)はずではなかったのでしょうか?
ニューズウィーク(やその他のメディア)の報道が正しければ、中国の銀行は米国の経済制裁を恐れ、人民元建ての取引自体を停止した、と読めるのですが、どう見ても、「米ドルではなく人民元決済に切り替えたからセーフ」、という話とは思えません。
なかなかに面黒い話です。
ショイグ、ゲラシモフ両容疑者にICCが逮捕状
さて、ロシア関連でもうひとつ、ロシア好きの皆さまには「悲報」があります。
国際刑事裁判所(ICC)は現地時間の24日、ロシアのセルゲイ・ショイグ前国防相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長の両名に対し、国際犯罪容疑で逮捕状を発行しました。
Situation in Ukraine: ICC judges issue arrest warrants against Sergei Kuzhugetovich Shoigu and Valery Vasilyevich Gerasimov
―――2024/06/25付 国際刑事裁判所HPより
ICCは声明文で、両名に対する逮捕状を発行したのは第2予審部(裁判長はロサリオ・サルバトーレ・アイタラ判事)で、逮捕状発行理由としては、ウクライナ情勢に関連し、2022年10月10日から23年3月9日の間に行われた「国際犯罪」容疑です。
ちなみにICCによると、民間施設への攻撃指示はローマ規程(第8条(2)(b)(ii))違反であり、このほかにも彼らは民間人に過度の付随的危害などを加えた場合(同第8条(2)(b)(iv))や非人道的行為(同第7条(1)(k))などの罪にも問われているのだそうです。
具体的には上記期間にロシア軍が行った「民間施設への攻撃」―――、すなわちウクライナの電力インフラに対して行ったミサイル攻撃―――などの罪に問われており、ICCはこれらの犯罪について、ショイグ、ゲラシモフの両容疑者が「個人として刑事席にを追うことを信じるに足る合理的な根拠がある」としています。
この点、プーチン退勢が続く限り、ロシアがプーチン、ショイグ、ゲラシモフらの身柄をICCに引き渡す可能性はゼロに等しいといえますが、それと同時に彼らがICC加盟国に足を踏み入れた瞬間、その加盟国(図表)には彼らの身柄を拘束し、ICCに引き渡す責務が生じることも忘れてはなりません。
図表 ICC加盟国
(【出所】ICC)
いずれにせよ、ここにきて、G7を中心とする西側諸国が第三国を巻き込んで、ロシアに対する締め付けを強化する方向に転じたことは間違いないといえるでしょう。
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>プーチン退勢が続く限り、ロシアがプーチン、ショイグ、ゲラシモフらの身柄をICCに引き渡す可能性はゼロに等しいといえますが、
この下りを読んで、一瞬アレッと違和感を感じたのですが、本意は「退勢」ではなく、「体制」なんですね。
だけど昨今の状況。プーチンの後に付ける言葉としては、「退勢」の方がシックリくるような(笑)。
むしろムシロ「退勢」下で敵対外国勢力に身内を献上するリスクを考むるに…
観客最前列数人のライブで
MC/Vo.「なんで手繋いでるの?」
客「抜け駆けして帰らないように」
の図をオモイオコシてまった
「キエフの幽霊」の作者氏のツイートを貼ってみます。
https://x.com/matsudaHI/status/1805752752079094176
関係ないですが、もう今となっては「キエフ」より「キーウ」の方が馴染んでしまいました。
中国金融機関の保有する米国債等の多くは、米国内で”保護預かり状態”になっているのでは?
それらが凍結されると致命傷。米ドルへの換金能力こそが人民元の信用担保なんですものね。
欧米は中露両方を金融制裁しようと虎視眈々といろいろ考えています。今後もいろいろ出てくるでしょう。トランプ大統領になったら,中国制裁はもっと強化されるでしょう。ただ,ロシアのほうはどうかな。
ところで,ICCがイスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相に対する逮捕状を請求したら,米下院はこの裁判に関わるICC関係者のアメリカ入国を阻止する法案を可決してしまいました。たぶん,上院で否決されるでしょうが。ちっと,泥仕合の気がします。
トランプ氏はロシアファンの1人かもしれませんが,もう,裏で動いているようなので,注意して観察したほうがいいです。
ところで,中国は勝手にロシアとの国境線を書き換えようとしてるようですね。流石です。
追伸です。
そう言えば「中国の地下銀行」の話は重要かも。実体は謎の部分が多いですが。
10年くらい前「日本には地下銀行はありません」という記事を誰かが書いてた記憶がありますが,最近の中国人の日本不動産買いは,やっぱり,日本に中国の地下銀行があって,そこを使って中国から日本に送金しているらしいです。「どこのあるか?」と聞かれても私は知りません。噂レベルの話ですが,統計的に考えると存在は否定しにくいです。
中国とロシアの貿易の決済も,名のある大手銀行ではなくて,地下銀行に依存している部分が多い,という分析があります。とにかく,貿易総額自体は増えているのですから。
仮想通貨を使った地下銀行は塞がれた,という話を読んだことはありますが,どうなんでしょうね。ご存じなら教えて下さい。身の安全のため,どこにあるか探そうとしないほうがいいでしょう。
>トランプ大統領になったら,中国制裁はもっと強化されるでしょう。ただ,ロシアのほうはどうかな
トランプが大統領になれば中露離間の計を仕掛けると予想しています。
ロシアに甘く、中国に厳しく。
ロシアへの制裁緩和と引き換えに停戦を促し、中国にはいわゆるデカップリング政策を強化を進め習近平を追いつめるのではないでしょうか?
このままロシアだけを追い込めば、中国の属国化が進むだけですから。
トランプはプーチンと取引をする可能性が高いと思っています。
岸田首相が、トランプに北方領土の返還を取引条件に加えるよう説得できれば良いのですが。岸田首相は今年の9月で終わりそうなので次の首相に仕事ですが。
ウクライナはNATOにお願いという事になるのでは。
×次の首相に
〇次の首相の
中国とロシアは決して蜜月ではなく、「嫌われ者同士で組んでいる」程度の関係ですからね。
中国はロシアに死なれても困るが、かと言って自腹を切る程肩入れもしたくない。
それを鑑みると、今回の件はどういう意図に基づいているのやら……?
そろそろロシアが「リスクを許容できる程の高値」を払えなくなったのかな?
ロシアが北朝鮮なんかを頼り、しかもプーチンが直々に行ったのも意味深。
お三方はアメリカには亡命できますね
プーチンがアルゼンチンかブラジルあたりに亡命してくれれば丸く収まるかもしれんけど