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朝日新聞部数はさらに減少:新聞事業は今期も営業赤字

本日の「速報」です。株式会社朝日新聞社の2024年3月期の決算内容の詳細が判明しました。同社が提出した有価証券報告書データが26日に発表されたからです。同社の決算の概要はすでに当ウェブサイトで先月取り上げているため、本稿では今回の有報で新たに明らかになったデータを中心に紹介してみます。

朝日新聞朝刊部数は前期比10%落ち込む

先月の『朝日新聞決算は増収増益だが…「高コスト体質」課題も』では、株式会社朝日新聞社(以下「朝日新聞社」)の決算短信をベースに、同社の2024年3月期決算の概況を紹介しました。

こうしたなか、26日、朝日新聞社の有価証券報告書(以下「有報」)が公開されています。

そこで、本稿では同社の決算のうち、今回の有報データから判明した部分を紹介してみたいと思います。

まずは、朝日新聞の部数の推移です(図表1)。

図表1 朝日新聞の部数の推移

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成)

これによると朝日新聞の部数は朝刊が358.0万部、夕刊が106.5万部で、前期と比べて朝刊が41.1万部、夕刊が17.2万部の減少となりました。減少率で換算したら朝刊が10.3%、夕刊が13.9%です。

平均給与は上向くが…従業員数は減少:平均年齢、勤続年数ともに↑

次に、人件費データです。

朝日新聞社の従業員数は前期比371人減って3,248人となりました。平均給与については前期比+343,878となる11,478,034円でした(図表2)。

図表2 株式会社朝日新聞社 従業員数と平均給与

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成)

平均給与が増えた理由はさだかではありませんが、少なくとも平均勤続年数と平均年齢についてはそれぞれ伸びていることが確認できるでしょう(図表3、ただしグラフの起点がゼロではない点に注意)。

図表3 株式会社朝日新聞社 平均給与と平均勤続年数

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成。ただし、グラフは左右軸ともに起点がゼロではない点に注意)

「メディア・コンテンツ事業」は今年も営業赤字

その一方で、驚くべき話題がひとつあるとしたら、セグメント情報です。

先日も触れたとおり、朝日新聞社の2024年3月期・連結ベースの営業利益は57億81百万円だったのですが、今回明らかになった朝日新聞社の「セグメント別開示」によると、同社のセグメント利益は「不動産事業」が84億54百万円だったのに対し、「メディア・コンテンツ事業」が25億46百万円の赤字、「その他事業」が59百万円の赤字でした(合計が一致しないのは内部振替等があるため)。

朝日新聞は昨年5月に月ぎめの購読料を500円値上げしたはずですが、それでも新聞等の事業が営業赤字に陥った格好です。

過年度有報なども参考に、朝日新聞社のセグメント利益の推移を取ってみたものが、図表4です。

図表4 株式会社朝日新聞社・セグメント利益

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成。なお、「メディア・コンテンツ事業」は、2015年3月期以前は「新聞出版の事業」を意味する)

しかも、「メディア・コンテンツ事業」は近年、営業赤字に陥ることが増えており、2020年3月期以降の5事業年度に限定すれば、黒字になったのは2022年3月期のみです。いわば、朝日新聞社にとっては、新聞・出版等の事業は、もはや「本業」ではなくなりつつある、という可能性が浮上する格好です。

製造原価上昇で値上げ効果は打ち消される

ではなぜ、新聞・出版等の事業が儲からないのか。

図表5は、朝日新聞社有報の『売上原価明細書』をもとに、同社の売上原価が売上高に占めるを費目ごとに分解したものです。

図表5 原価率・費目別分解①売上原価全体

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成)

率で見ると、「材料費」の割合が上がっているものの、「労務費」「経費」については抑え込むのに成功したのか、原価率は低下(=改善)していることがわかります。

ただし、先ほども指摘したとおり、朝日新聞は昨年5月に月ぎめ購読料を500円引き上げていることを忘れてはなりません。

図表6は、朝日新聞社の単体売上高を単純に朝刊発行部数で割ったうえで、それをさらに12で割った数値(朝刊1部あたり月間売上高)と、同様に部数・12ヵ月で割った売上原価をグラフ化したものです。

図表6 朝刊1部あたり・月間売上高/売上原価の推移

(【出所】朝日新聞社・過年度有報を参考に作成)

なんのことはありません。

原価が減ったのは「部数が減ったから」であり、発行部数1部あたりに換算すれば、ここ2年間、原価は大きく上昇しています。

すなわち、1部あたりの売上高は4,260円であるのに対し、売上原価は3,106円で、粗利益は1,153円だった計算ですが、新聞の値上げにも関わらず経費の増大によって増益効果が相殺され、さらに部数の落ち込みによって最終的には新聞事業が営業赤字に陥った可能性がありそうです。

いずれにせよ、朝日新聞社の決算は、予想通り、本業がかなり厳しい状況にあることが明らかになった格好です。せっかくの値上げにも関わらず、製造原価の上昇、部数の落ち込みなどにより、セグメント利益は前期に続いて赤字となったからです。

朝日新聞ですら厳しい:余裕のない会社は一体どうなるのか?

ただし、朝日新聞社の場合は不動産事業に加え、関連会社(とりわけ地上波テレビ局を営むテレビ朝日ホールディングスや朝日放送ホールディングス株式会社など)に対する株式投資による受取配当金(単体決算)または持分法投資利益(連結決算)が同社の利益を押し上げている格好だといえます。

しかし、最大手の一角を占める株式会社朝日新聞社でさえ、ここまで新聞事業が苦しくなっているわけですから、不動産や株式のような優良資産を持たない社の場合だと、いったいどういう状況になっているのでしょうか。

このあたりは先日の『今週の注目点は大手新聞社の決算』などでも触れたとおり、結局、朝日新聞社以外の大手新聞社が決算データをほとんど開示していないため、正直、よくわかりません。

ただし、少なくとも新聞部数が短期的に上向く気配を見せないことなどを踏まえると、新聞社の「突然死」リスク、あるいはどこかの野心的な事業家がいきなり大手新聞社を買い取ると発表する、といった可能性には、十分な注意が必要ではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • >ただし、少なくとも新聞部数が短期的に上向く気配を見せないことなどを踏まえると、新聞社の「突然死」リスク、あるいはどこかの野心的な事業家がいきなり大手新聞社を買い取ると発表する、といった可能性には、十分な注意が必要ではないか、などと思う次第です。

    分かります。SおんまSあよしさんとかですよね。

  • 取材予算も削られてるのに,どこでネタを拾ってるのかな。記者クラブ発表なんて,ネットに出てることも多いし。ネットネタだとChatGPTに負けますよ。韓国系新聞に負けないように頑張りましょう。

  • これは、築地再開発で株式会社前川と本腰いれて成功させないといけませんね。

    有楽町・新橋・築地の銀座を含む三角地帯に所有不動産が偏っていますから死活問題だ。
    そしてまた更に銀座は陳腐な安物インバウンド街に変貌していくのか…
    まぁ今はご縁がないからいいや

  • 「周回遅れとは誰のこと
     新聞記者が恐れる負け組経営の烙印」

  • 日本新聞協会で「日刊紙の都道府県別発行部数と普及度」というデータを出している。(2023年10月調べ)
    1世帯あたり新聞をどれだけとっているかという事だと思うが、全国では0.49
    都道府県では一番少ないのは鹿児島県の0.37。東京都は0.38
    一番多いのは島根県0.81、次が富山0.8, 石川0.79、鳥取、福井0.77 なぜか日本海側が多い。
    なぜ日本海側の人が新聞をよく読むのか心当たりある人教えて。

    ネットで2020年の資料があったが東京は0.5、鹿児島は0.42、島根は0.91だった。
    たった3年で東京は0.5->0.38(24%減)になっている。

    日刊紙の都道府県別発行部数と普及度
    https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation02.html

    • さては高齢化率と関係が即断したのは間違いでした。都道府県高齢化率の表との関連は薄そうです。
      そこで次に思いついたのは「在宅時間の長さ」あるいはその短さです。
      ・人口密集地域とは都市化が進行しており、そんな地域の帰宅が遅い勤労者は戸口配達された新聞など部屋で広げて読む時間は残っていない。
      ・他方、都市化が進行していない地域でも、年間を通して日照時間が長めな地域では新聞を読むことに時間を使っていない。他にできることがたくさんあるから。
      ・在宅時間が相対的に長くて、戸口配達された新聞をじっくり読む余裕のある地域では逆の傾向を示す。
      新聞普及率(あるいは断念率)結果をして、民度が高い低い、リテラシーに優れる、と話のすり替えが起きそうなのは心配です。まるでハズレだったらすみません。

    • 広告主向けの営業資料、視覚に訴える表現が高いです。でもなぜ新聞記事本文の「挿絵」はなぜあんなに幼稚なままなんだろう。
      いろいろ考えさせられるところの多い資料でした。普段からほぼ地元紙だけしか目に触れない地域が結構あるらしい。人の目に留まらない新聞はツチノコであり、そんな報道記事はこの世に存在しないのと同じです。

    • スコア階層で見ると。

      0.7以上: 島根、鳥取、福井、石川、富山、山形、長野
      0.6台 :青森、秋田、福島、栃木、群馬、新潟、山梨、岐阜、奈良、徳島、
      0.5台 : 岩手、宮城、茨城、静岡、愛知、滋賀、三重、京都、和歌山、岡山、広島、山口、香川、佐賀
      0.4台 : 北海道、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、愛媛、高知、長崎、大分、宮崎、沖縄
      0.3台 : 東京、福岡、熊本、鹿児島

      見事に、日本海側の県がズラリです。新潟も0.6台。長野は過去教育県として有名。
      西日本、四国、九州は、値が低い県ばかり。
      個人的な感想は、日本海側は、冬が長いので、冬場は外に出掛けずとも家まで配達してくれる新聞は有難い。娯楽施設も少ない。などの理由か?
      更に個人的な感想では、この傾向は、首都圏を除いて、一人当たり県民所得の傾向と似ている。又、首都圏を除いて、全国学力試験の結果傾向とも似ている。

    • 1位が2位をどれだけ引き離しているかも興味深いです。
      徳島、奈良のケースを見ますと
      前者は阿波踊り効果であろう
      後者に関しては実数に照らせば全国紙3社でパイを分け合っている状態にあり、販売店の営業努力のたまものであろうが、努力の正体は互恵でウィンウィンであるとも言えると思います。
      北海道についてはまるで当方は手掛かりなしです。

    • 2020 年の数字と比較して下落が特に東京で多かった理由は、コロナ待機で自宅にいる時間が長くなったからと言って配達されてくる新聞は読む気にならず役にもたたず、カネの無駄だと悟ったグループが解約を決断したからと思います。他の土地でも同じことが起きたと推測します。

    • 地元紙高シェアは日本海側でも傾向が違っていて、北海道は別格、東北(青森山形秋田)も低くはないが5割弱、北陸山陰がとても高い。ただ、その中でも政令市などの大都市を抱えている県は低めに出てるんですよね。新潟、京都、兵庫、山口。
      徳島は新聞普及率がやや低めですね。

      以前の少子化を扱った読者投稿での県のフィルタリングに似てるなと思いました。
      相関はわかっても因果関係はサッパリ想像が付きませんけどね。(笑)

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