韓国が通貨安に非常に弱い国である理由は、韓国が経済規模に比し、少なくない額の対外債務を抱えていることにあります。こうしたなかで、日韓通貨スワップはこれまで、韓国を通貨危機から救ってきたという側面があるのですが、これに関して韓国側から、最近の通貨安に「韓日で共同対処しよう」とする構想が出ているようです。はて?韓国が日本をどう「助けてくれる」というのでしょう?
目次
悪い円安論の虚偽
普段から当ウェブサイトにて強調している通り、円安が長期化すれば、日本経済に非常に大きな恩恵をもたらします。
その理由は簡単で、輸出産業や国内産業が潤うこと、日本が世界最大級の対外債権国であること、そして外貨建ての債務が非常に少ないこと―――などです。
もちろん、民主党政権時代に原発の操業がなかば強引に停止させられ、ウクライナ戦争などで資源などの国際的な価格が高騰するなか、鉱物性燃料(石油・石炭・LNGなど)の輸入高が急増していることは、日本経済にとっての不安要因のひとつです。
また、この30年あまりで製造拠点の中国などへのシフトが進んだ結果、単純な組立産業・川下産業が日本ではすっかり廃れてしまっていて、せっかくの歴史的円安にも関わらず、「輸出競争力の向上」という恩恵が、かつてほどは生じなくなっていることは否定できません。
通貨危機の背景
日本で通貨危機は生じない
ただ、そもそも通貨安の最大の脅威であるとされる「通貨危機」のリスクが、日本では極めて少ないことについては、特筆しておく必要があるでしょう。
そもそも論として、国際決済銀行(BIS)の集計に基づけば、昨年12月末時点における日本の銀行の対外与信は5兆ドル少々であるのに対し、日本の居住者(政府、地方公共団体、金融機関、企業など)の外貨建ての債務は5658億ドルに過ぎません(図表1)。
図表1-1 日本の銀行から外国への債権(2023年12月)
区分 | 金額 | 備考 |
日本の銀行から外国への債権 | 5兆0435億ドル | 最終リスクベース |
日本の銀行から外国への債権 | 5兆1738億ドル | 所在地ベース |
うち(相手国から見た)外国通貨建て | 4兆0346億ドル | 所在地ベース |
うち(相手国から見た)自国通貨建て | 1兆1392億ドル | 所在地ベース |
図表1-2 外国の銀行から日本への債権(2023年12月)
区分 | 金額 | 備考 |
外国の銀行から日本への債権 | 1兆2681億ドル | 最終リスクベース |
外国の銀行から日本への債権 | 1兆3256億ドル | 所在地ベース |
うち外貨建て | 5658億ドル | 所在地ベース |
うち円建て | 7597億ドル | 所在地ベース |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに作成)
日本が世界最大の債権国であるという点に加え、現に2023年度(=2023年4月~24年3月)における日本の経常収支の黒字が過去最大であるという事実を踏まえると、円安は日本経済に「危機」どころか、資産効果という多大な恩恵をもたらしていることは明らかでしょう。
外貨準備+無制限為替スワップ
ちなみに日本で通貨危機が発生し得ない理由は、ほかにいくつもあります。
たとえば、日本の外貨準備高は2024年5月末時点で1兆2723億ドルでした。4月末時点の1兆3210億ドルと比べると487億ドルほど減っていますが、これは「円安を止めるための為替介入」によるものだと考えられるものの、それでも1兆ドルを超えているという事実は驚異的です。
これに加え、日銀は米FRB、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)などと期間無制限・引出上限無制限の為替スワップ協定を結んでいるほか、タイ、シンガポール、豪州、中国との間でも為替スワップを保持しています(図表2)。
図表2 日本銀行が外国と締結している為替スワップの一覧
スワップ締結相手 | 相手国通貨 | 日本国通貨 |
米FRB | 無制限 | 無制限 |
欧州中央銀行(ECB) | 無制限 | 無制限 |
イングランド銀行(BOE) | 無制限 | 無制限 |
スイス国民銀行(SNB) | 無制限 | 無制限 |
カナダ銀行(BOC) | 無制限 | 無制限 |
タイ中央銀行 | 2400億バーツ | 8000億円 |
シンガポール通貨庁(MAS) | 150億シンガポールドル | 1.1兆円 |
豪州準備銀行(RBA) | 200億豪ドル | 1.6兆円 |
中国人民銀行(PBoC) | 2000億人民元 | 3.4兆円 |
(【出所】日銀『海外中銀との協力』を参考に作成)
このため、もしも日本の銀行が外貨不足に陥るような事態が発生した場合であっても、日銀が国内の銀行に対し、これらの外貨に関する流動性供給を行うことが可能です。
(逆に「円安で日本に通貨危機が発生する」と述べる方には、この状況でどうやって日本に通貨危機が発生するのか、教えていただきたいところです。)
韓国だと「通貨安」は恩恵をもたらすのみではない
ただ、「自国通貨安はその国の経済に恩恵をもたらす」というのは、「現在の日本」だからこそ成り立つ議論であり、日本以外の国だと、これが成り立つとは限りません。
とりわけ『韓国メディアからの「韓国にとっての悪い円安」論』でも触れたとおり、私たちの隣国・韓国だと、自国通貨安が生じたとしても、その恩恵は十分には生じません。
①輸出競争力向上と②輸入購買力の低下、③輸入代替効果
ウォン安で韓国の輸出競争力が上昇することは事実です。
しかし、韓国の場合は日本と違い、生産活動のための装置や中間素材を外国(日本やドイツなど)に頼っているため、ウォン安になれば、これらの外国産の生産財などの輸入コストが上昇してしまうため、自国通貨安の恩恵を十分に受けることができません。
また、特に生産財に関しては、「輸入代替効果」が働かない分野です。ウォン安になったとしても、高品位な素材や部品、装備などは、外国産品に依存せざるを得ないからです。
④資産効果と⑤負債効果
ただ、それ以上に気を付けなければならないのは、韓国では日本と比べて「資産効果」は大きくなく、その一方で「負債効果」のマイナス影響が大きく出てくる可能性があることです。
韓国の銀行の対外与信は3000億ドルに満たない額ですが、これに対し、韓国の政府、企業、金融機関などは、外国の銀行から4000億ドル近くを借り入れており、このうち外国通貨建ては2500億ドル弱に達しています(図表3)。
図表3-1 韓国の銀行から外国への債権(2023年12月)
区分 | 金額 | 備考 |
韓国の銀行から外国への債権 | 2661億ドル | 最終リスクベース |
韓国の銀行から外国への債権 | 2766億ドル | 所在地ベース |
うち(相手国から見た)外国通貨建て | 2149億ドル | 所在地ベース |
うち(相手国から見た)自国通貨建て | 617億ドル | 所在地ベース |
図表3-2 外国の銀行から韓国への債権(2023年12月)
区分 | 金額 | 備考 |
外国の銀行から韓国への債権 | 3825億ドル | 最終リスクベース |
外国の銀行から韓国への債権 | 3761億ドル | 所在地ベース |
うち外国通貨建て | 2470億ドル | 所在地ベース |
うち自国通貨建て | 1292億ドル | 所在地ベース |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに作成)
外貨準備不足をカバーするのが通貨スワップ
また、韓国銀行のデータによると、韓国の外貨準備高は、2024年5月末時点において4128億ドルで、最盛期だった2021年10月時点の4692億ドルと比べて564億ドルも減っています。米国の利上げなどの影響で、韓国から外貨が流出したことが理由と考えられます(この点は著者の私見です)。
また、韓国の外貨準備は流動性が低い資産も含まれていると考えられ(この点も私見です)、4128億ドルの外貨準備のすべてを通貨防衛に使えるというものでもありません。とりわけ「現金預金+有価証券」の残高は3889億ドルに過ぎないからです。
こうした状況をカバーするのが、外国との通貨スワップです。
著者自身が調べた限り、韓国は複数の国との通貨スワップ協定を保持していますが(『【資料公開】今年9月時点における中華スワップ一覧表』でも取り上げたとおり、その最大のものは中国人民銀行との4000億人民元のものです)、そのなかに、米ドル建てのものはありません。
唯一、韓国が保有する米ドル建ての通貨スワップは、日本との100億ドルの通貨スワップのみです。
韓国の2470億ドルという対外債務の規模に比べて、100億ドルというレベルは、正直、危機の際に使い物になる金額ではありません。
日韓通貨スワップ詭弁
ちなみに「日韓通貨スワップの必要性」に関する詭弁については、『予想される「日韓スワップは日本にもメリット」の詭弁』でもひととおり取りまとめましたが、この通貨スワップは、(おそらくは大勢の日本国民の反対を押し切って)日本政府・財務省が強引に再開させたものでもあります。
(ちなみに日韓スワップ再開の担当官が国民からの猛烈な抗議の電話で休職に追い込まれたとかいう噂も耳にしますが、真相は定かではありません。)
ただ、この日韓通貨スワップを巡っては、一部のウェブサイトなどにおいて、「たかだか100億ドルのスワップは韓国の危機を防ぐうえで使い物にならない」、「だから日韓金融協力の『象徴的意味合い』に過ぎない」、といった主張があったことも事実です。
ここで改めて宣言しておきますが、こうした主張は、間違いです。
今回のスワップは事実上、2015年2月において失効した100億ドルの「CMIスワップ」を復活させたものですが、いったんスワップ協定が復活すれば、それによってスワップを増額することが可能だからです。
それには前例があります。
野田佳彦首相(当時)が首相就任直後の2011年10月、韓国の李明博(り・めいはく)大統領(当時)との間で、スワップの規模を一気に700億ドルにまで拡大したことです。
これによって当時、欧州債務危機で通貨危機不安が生じていた韓国で、いったん資金流出不安が沈静化し、ウォンの為替相場も安定しました。
韓国がこれに恩義を感じて日本に謝意を示してくれたのかどうかについては、次のタイムテーブル(敬称略)を見てご判断下さい。
- 2011年12月…ソウルの日本大使館前の公道上に慰安婦像が設置される、京都を訪問した李明博が野田佳彦に慰安婦問題を蒸し返す
- 2012年8月…李明博が島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下(現在の上皇陛下)を侮辱し、野田佳彦の親書を郵送で送り返す
いずれにせよ、日本の韓国との通貨スワップは、韓国の通貨危機を救ってきたという事実、そして通貨スワップ増額後に韓国が日本に何をやったかについては、事実としてきちんと語り継いでいく必要があるでしょう。
「韓日共同対処」とは?
日韓財務対話の開催
こうしたなかで紹介したいのが、こんな話題です。
第9回日韓財務対話の開催について(令和6年6月25日)
令和6年6月25日(火)、韓国・ソウルにおいて、日本財務省と韓国企画財政部は「第9回日韓財務対話」を開催し、日本から鈴木俊一財務大臣、韓国からチェ・サンモク経済副総理兼企画財政部長官が出席しました。本対話では、世界・地域経済、二国間・多国間における協力等について意見交換が行われ、その成果を「共同プレスリリース(仮訳)(PDF:339KB)」として取りまとめています。
共同プレスリリースのポイントは、以下のとおりです。
- 両大臣は、「世界・地域経済及び経済政策」及び「二国間・多国間における協力」を議題として、広範な事項について意見交換を行った。
- 両大臣は、世界・地域経済の現況と不確実性等の認識を共有するとともに、ロシアのウクライナに対する侵略戦争を非難することで結束した。また、持続的な成長を確保する観点から、経済を活性化させる取組を議論するとともに、少子化対策や金融投資促進といった日韓共通の課題への政策対応に関する経験を共有した。
- 両大臣は、昨年6月の対話の合意に沿った、以下の分野における協力の具体化等を確認した。
- 昨年6月に合意した日韓通貨スワップの再開やASEAN+3の「緊急融資ファシリティ」の創設承認といった二国間及び地域の金融協力
- 税関、国際課税、マネロン・拡散金融対策、研究交流、人事交流等の二国間協力
- JBIC・韓国輸出入銀行の間等の第三国における協力
- G20、G7等の場での連携を通じた多国間協力
- 両大臣は、日韓財務対話が相互の理解促進等のため非常に有用なフォーラムであるとの見解を共有するとともに、第10回日韓財務対話を、来年日本で開催することに合意した。
―――2024/06/25付 財務省HPより
韓国が日本をどう助けてくれるのでしょうか?
さすがに日韓通貨スワップの「増額」はありませんでしたが、この記述からは、鈴木俊一財相(あるいはそれを操る財務官僚でしょうか?)がスワップを拡大することを画策していないかが気になります。
実際、韓国紙『中央日報』(日本語版)は26日、こんな記事を配信しています。
韓日財務相「為替相場共同対応」…少子化とバリューアップでも協力
―――2024/06/26 07:40付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版配信】
中央日報はこの財相会合について、「強いドルとの『為替戦争』で両国が共同戦線を確かめた格好だ」、などとしつつ、対話自体を「昨年6月に東京で会議を再開してから1年ぶりに韓国で開かれたシャトル会議だ」、などと評価しています。
そのうえで、こんな記述が出てきます。
「今年の会議で関心を集めたのは為替共同対応だ。最近対ドルでウォン相場が1400ウォン、円相場が160円に迫る状況だ」。
この手の「韓日が共同で対処する」とする話題が韓国側から出てくるときは、たいていの場合、日本には恩恵はありません。円安自体が日本にとっての危機だとはまったく思えませんが、それ以上に「為替安への韓日協力」などと言われても、困惑する限りです。
いずれにせよ、日韓間の金融面でのつながりの薄さを考慮すると、たとえ100億ドルといえ、韓国に通貨スワップを提供することが日本の国益にどうつながるのかは不明ですし、前回、日本がスワップで韓国を救済したときに、韓国が日本に対して何をやったかを忘れるほど、日本国民は愚かではありません。
いずれにせよ、本件も含め、私たち国民のあずかり知らぬところで財務省が勝手に通貨スワップを増額しようとするかどうかについては、監視する価値がありそうです。
財務省といえば「国の借金」論という虚偽の主張をばら撒くなどの罪深い組織でもありますが、反社会的組織としての監視対象とされなければならないのは、じつは財務省そのものなのかもしれませんね。
View Comments (11)
譲歩すれば増長し更なる譲歩を求められる
つまるところ彼の国に譲歩する意味はなんらないのである。
この自民党政権の外交上の失策は厳しく叱責される必要があります。
リベラル野党はなぜか自民党よりも軟弱ですが、、、
マスコミの韓国擁護も酷いものです。
鈴木俊一財相、麻生さんの義弟でしょう。
麻生さんから韓国のことは確実に聞いているはず。
韓国が狙っているのは政権交代が起こった時、または財務大臣が交代してから今回の会談をスワップを増やす布石にするということ。
親戚だからと言って麻生さんと全く考えが同じとは限らんけどね
検討するだけでも気分は悪いですが、交渉材料や、交渉する口実で永遠に検討し続けるだけなら頑張って許容します。
話し合ってる間なら、相手の状態を直接観測できるので不意打ちがなくなるかもですから。
大人しくなって動向がわからなくなって心配していた静かなロシアが、その後なにをしでかしたかを思えばです。
ヤケクソになるとなにをしでかすかわからない危険な相手ですから、紐をつけておかないと。会議をやって、次回また会議をすることだけ結論し続けることがこの場合は正解です。あんたら得意でしょう?
スワップといえば韓国は自国の年金とスワップを約束し、実際に資金の流れも起こっているようですね。
このスワップは普段韓国が口にするスワップとは韓国目線で逆サイド。
韓国流の味方なら、韓国が年金に懇願されてやっているようにも取れそうですが、実際のところ懇願しているのは政府のようで。。つまりは「年金さま。頼むから市場でドルを買うのはやめてくれ。ドルなら外貨準備で持ってるのを貸すから」。おかげで、ある程度市場でのドル買いウォン売り圧力は弱まってるみたいです。
外貨準備の発表する数値は変わらないが、事実上ほぼ現金ですぐに介入で出せるドルはかなり減ってるようです。外貨準備が米ドルだけで積んでるとは限らないとすれば、さらに厳しいかもです。
もし、通貨危機になった場合の介入余地はほとんどないかもしれません。
実際のところは、利上げさえきっちりやれば通貨危機にはならないと思います。昔との違いは韓国の国民年金公団の存在です。8000億ドルと言われる資産があり、利上げして満足な利回りにさえなれば、韓国国内のリスクには目を瞑って買うでしょう。
考えうるのは、副作用の大きい利上げではなく、年金に強制的なドル資産売却を命じるといった方法で危機を脱する可能性です。まあ、規模大きいから多分成功しますが、不合理な運用を強いられた年金は資産を傷つけられるでしょうね。年金財政破綻。。
くず国家からのおねだりは無視するのが国益にかないますね。経済評論家の大前氏も再三厳しい、
韓国評論をのべられておりますが、韓国の野党は日本以上に腐っている。世界一のスピードで、少子化が進んで国が消滅の危機一直線なのに、ネギの値段がどうだとか大統領夫人のルックスがどうだとかくだらないことを言っている。30年後にはアメリカの準州か北朝鮮に飲み込まれるか、どちらかでしょう。アーメン。こんな国は中国かロシアにくれてやれ<<
>この手の「韓日が共同で対処する」とする話題が韓国側から出てくるときは、たいていの場合、日本には恩恵はありません。
所詮は強請り集りが目的な乞食あるいはフリーライダーなのが韓国ですもんね。
日韓漁業協定みたいなのを増やしたい韓国。
やっぱ、何世紀も冊封国として過ごして来た生き方が民族レベルで染み付いているんのかな?って。
スワップ増額云々の話が全然公式からは出ていない上に、期待して書いているのが韓国の新聞だけとなると、増額なんて話は眉唾物だと思います。
政治的環境が異なる民主党政権と比較することにも、意味は無いと思います。
彼らの提言する「協力・共同」は、言い出しっぺだけが得をする事象。
「二人で井戸を掘り、一人で水を飲む」ための方便なんですよね・・。
まぁ…、なんて暴言を……!!
謝罪、賠sy(略
ご反応いただき、ありがとうございます。
韓国のコトワザのようなのですが、これも「情けは人の為ならず」と同様に本来の意味合いとは違ってきてるみたいですね。