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観光公害対策の姫路城「外国人4倍」構想をどう見るか

姫路市長が姫路城を巡り、外国人向け入城料を引き上げることを検討している、といった報道が出てきました。読売報道だと「外国人は日本人の4倍」、などとありますが(※ただし計算は合いません)、外国人観光客に対し居住者などと異なる料金を徴収するという事例は、欧州など諸外国でも見られるものでもあるため、悪い制度ではないとは思います。ただ、こうした課金ができないケースもあります。やはり入国税の検討は必要ではないでしょうか。

インバウンド急増とオーバーツーリズム

いわゆる「オーバーツーリズム」の弊害は、当ウェブサイトでは最近、精力的に取り上げている論点のひとつです。

日本政府観光局(JNTO)が発表する統計データ(※速報値)によると、2024年3月と4月は2ヵ月連続して、訪日外国人が300万人を超えました。

単月で訪日者数が300万人を超えた、(しかも2ヵ月連続で、)というのは、もちろん、史上初のことです。

過去に訪日外国人が最多だったのはコロナ前の2019年7月の2,991,189人でしたので、この訪日者数だけを見るならば、インバウンド観光の世界においては、もう「コロナ禍」後は完全に終わったかに見えます。

しかも、実際、東京都内を含めた、外国人観光客が押し寄せている地域に暮らしている人々にとっては、中国・韓国人だけでなく、西洋人などの姿をよく見かけるようになった、といった感想を目にすることも増えていますが、これはべつに見当外れではありません。

2019年7月に関しては、訪日外国人2,991,189人の内訳は、中国人が1,050,420人で全体の35%を占めており、2位の韓国(561,675人)、3位の台湾(459,216人)で、訪日外国人の70%を占めていました。

しかし、2024年4月に関しては、訪日外国人3,042,900人のうち、トップの韓国人は661,200人で全体の20%少々、2位の中国人が533,600人で全体の18%程度、3位の台湾人が459,700人で全体の15%程度であり、この3ヵ国出身者が訪日外国人全体に占める割合は54%程度に減りました。

データだけで見れば、それだけ訪日客の多国分散が実現している、というわけです。

旅行収支は4兆円以上のプラスだが…弊害は明らかに!

財務省の統計によれば、経常収支に占める「旅行収支」はすでに2015年あがりから一貫して黒字であり、また、法務省の統計によれば、日本人の出国者数がコロナ前の水準に戻っていないことも示されているわけですが、いわば、日本にとってインバウンドが外貨を稼ぐ手段のひとつ、というわけでしょう。

もっとも、冷静に指摘しておくと、2023年度(2023年4月~24年3月)の旅行収支の黒字は4.2兆円ほどに達しているものの、第一次所得収支(つまり金融所得)は35.5兆円ですし、輸送用機器(自動車など)の純輸出額は19.5兆円です。

観光産業を振興することの意義を否定するつもりはありませんが、日本は産業大国かつ金融大国でもありますし、また、労働力不足が次第に深刻化するなかで、観光業をどこまで振興すべきかは、悩ましい論点でもあるところです。

というのも、オーバーツーリズムの弊害が、次第に明らかになりつつあるからです。

京都など一部の都市では、大きな荷物を抱えた外国人観光客が路線バスを占拠してしまい、これらのバスを交通手段として利用している地元の人たちに多大な迷惑が掛かっているとする話題もありますし、日本の文化に敬意を払わない外国人観光客がトラブルを起こすケースも頻発しています。

姫路城の入城料「外国人4倍」

こうしたなかで、ちょっと興味深い試みがあるとしたら、これかもしれません。

姫路城の入場料、外国人観光客のみ「4倍に」検討…現在は18歳以上1000円

―――2024/06/17 08:50付 Yahoo!ニュースより【読売新聞オンライン配信】

読売新聞によると、世界遺産でもある兵庫県姫路市の姫路城を巡り、姫路市の清元秀泰市長が16日、同氏における国際会議で、外国人観光客に限って入城料の4倍程度への値上げを検討していることを明らかにしたそうです。

ちなみに姫路市ウェブサイトによれば、現在の姫路城の入城料は大人(18歳以上)1,000円、小学生から高校生までは300円、未就学児無料となっているそうです(※なお、記事では「入場料」と記載されていますが、本稿では姫路市ウェブサイトに倣い、「入『城』料」に修正しています)。

読売報道によると清元市長は入城料収入をオーバーツーリズム対策や城の補修に充てる考えで、最近の外為相場を参考に、現在の入城料が7ドル程度であることをもとに、「外国人は30ドル、市民は5ドルくらいにしたい」、などと述べたそうです。

(※なお、どうでも良い話かもしれませんが、これだと「外国人は4倍」などとする記述と計算がまったく合わない気がします。)

計算がまったく合っていない点はともかくとして、たとえば18歳以上に関しては、「姫路市に居住する人は500円、それ以外の日本居住者は800円、外国人観光客5,000円」、など、外国人観光客に対して超過料金を要求するというのは、考え方としてはわるくありません。

もちろん、「外国人観光客に対し、あまりにも法外な料金を要求するのはいかがなものか」、といった批判が生じる可能性がある点は承知しておく必要もありますが、欧州など諸外国でも居住者と外国人で別々の料金を課しているケースはるようですので、オーバーツーリズム対策としては有効でしょう。

いわば、オーバーツーリズムの対価を、外国人観光客らに転嫁しようとする試みでもあるからです。

山梨県の事例はコスト転嫁できない

ただ、問題は、こうしたコスト転嫁ができないケースです。

たとえば以前の『富士山黒幕問題と本質見失う批判』でも取り上げたとおり、山梨県にある「ローソン河口湖駅前店」が、「コンビニエンスストアのうえに富士山が乗っかっているように見える」として、これが「絶景ポイント」として認識され、大勢の外国人観光客が押し寄せる騒ぎとなっていました。

これについては狭い歩道やコンビニの向かいにある歯科医院の私有地などに外国人観光客がひっきりなしに訪れ、交通妨害、ゴミ、建造物侵入などの弊害が生じるなどしたために、最終的には地元自治体が緊急措置として道路に黒幕を張るなどして対処しました。

これに対しては、「幕を張るのではなく、この場所を観光地化すれば良いのに」、などとして、地元自治体や歯科医院、コンビニエンスストアなどを非難する人たちもいます。

いわく、この場所に「富士山絶景撮影スポット」を開業し、外国人観光客を相手にカネを取る、などとする案でしょう。

主張する人により構想は微妙に異なるのですが、わかりやすくいえば、「富士山ローソン」前の歯科医院を移転させたうえで、その場所に何らかの展望施設を作る(あるいは歯科医院だった建物を居抜きで開放する)などし、写真を撮りたい観光客から入場料を徴収する、という構想です。

しかし、くどいようですが、そのような構想を提案する人たちは、「事業化にあたってのリスクを、誰がどう取るのか」、という論点についてはダンマリを決め込んでいます。

まず、歯科医院の私有地の一部を開放させるのか、それとも歯科医院自体を移転させるのかは知りませんが、それらをいったい何の権限に基づいてやらせようというのでしょうか?地元自治体による行政命令でしょうか?それとも「自民党の鶴の一声」でしょうか?

もし歯科医院を移転させるのであれば、歯科医院で働く人たちや、歯科医院を利用する人たちにとっての利便性を損なわないような代替地を、だれがどうやって見つけるというのでしょうか?

あるいは、「ローソンから富士山が生えているように見える」という絶景は、ローソンが引き続きその場で営業を続けるということが前提となっているのだと思われますが、それをローソン側にどうやって強制(?)するつもりでしょうか?

ローソンの裏手に高い建物が建ってしまったり、ローソン自体が営業を終了して建物が取り壊され、ある程度の高さのある建物が建てられてしまったりすれば、この景色は失われることになる可能性もありますが、こうしたリスクにはどう対処するつもりなのでしょうか?

やはり、入国税の検討が必要では?

よく、「観光地化してカネを取ればよい」などと無責任なことを述べる人が出現しますが、この手の人たちが、大勢の利害関係者が関わるプロジェクトを進めたことがないことだけは間違いありません。

中国共産党一党独裁国家の中国だと、中国共産党の「鶴の一声」、あるいは地元自治体の行政命令などがあれば、たいていのプロジェクトは動くようです。

しかし、日本は自由・民主主義国家ですので、自民党の「鶴の一声」、あるいは地元自治体の行政命令(?)などで、いまそこで事業を営んでいる歯科医院を転・廃業させることなど不可能ですし、ましてやローソンやその周辺の用地利用を、法的な根拠なしに、勝手に制限したり、命令したりすることなどできません。

正直、歯科医院の公式ウェブサイトに掲載されていた事情説明などを読む限りにおいては、押し寄せる観光客に「富士山ローソン」を見せないようにするための黒幕という措置は、(最善とまではいえないにせよ)やむを得ないものだったと結論付けざるを得ません。

さて、こうしたなか、当ウェブサイトでは増え過ぎる外国人観光客に対しては、やはり、現行の出国税(1人あたり1,000円、ただし日本人からも徴収)を廃止したうえで、外国人観光客を対象にした入国税を課すべきだと考えています。

昨今の物価情勢なども踏まえ、いっそのこと、成人であれば1人あたり数万円レベルの入国税を課しても良いのではないでしょうか。

そうすることによって、入国税の税収自体も財源として期待できるほか、筋の悪い人たちの入国を、ある程度は防ぐ、といった役割も果たせるかもしれません。

たとえば観光ビザで日本にやって来て、そのまま難民申請を繰り返す、といった事例がその典型例でしょう(※これに関しては、改正入管法施行により回数制限が設けられました)が、効果はそれだけではありません。おもに欧米諸国から入国する、マナーの極めて悪い観光客らも、ある程度は排除できるかもしれないからです。

いずれにせよ、観光客が増え過ぎることが日本にとって何を意味するかについても、多角的に検討すべき事項のひとつではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • 人気の高い所は需要がある。需要がある所は、価格によって調整する。
    当たり前の事ではないですか?
    そもそも、来てもらわなくていいのだから。

  • 賛成です。
    インフラは日本のインフラを使います
    それは我々の税金で作られています。
    外国人の入場料が高いのは海外で一般的なため違和感はありません。
    他のところでも注意点が出ていましたが外国人をどのように判別するのか
    一案としてマイナンバーがある。
    国民全員にマイナンバーはあり申請すればカードも付与されます
    これでいいのではと思います
    当然ICチップを読み込み顔写真との照合がデフォとなります
    尚、個人識別は世界的な流れです
    紙の健康保険証のインチキがバレて久しい日本です
    インチキはやめましょうねえ。
    現在は病院にあちらの言葉が飛び交ったてますよ

    • 海外では
      文化施設への入場に本国人割引(外国人割増)が存在するのは
      はよくある事ですね。

  •  入国税や、姫路城の外国人向け入場料値上げも賛成なのですが、その前に「訪日外国人に対する消費税の免税制度」の改善を実施すべき、と考えます。
     「商品を購入する際にいったん消費税分を支払い、出国の際に払い戻す方式への切り替え」をすべきでしょう。国内の転売目的の業者に商品を横流しし、不正に利益を得るケースが横行していますし、金地金なんぞは日本の税金が食い物にされていると言っても良いと考えます。

  • Xでの意見
    野口健氏(アルピニスト)
    https://x.com/kennoguchi0821/status/1802964261863624970
    いまもとしげき氏(獣医師?大学講師?)
    https://x.com/imamotoshigeki/status/1802512890689442130

    海外の反応まとめ
    http://www.all-nationz.com/archives/1082481805.html

    富士山の入山料なども含めて、観光施設などに汎用的に導入を考えてもよいかと思います。
    勿論、人気度や混雑度により価格バランスは必要でしょうし、自治体主体の場合は徴収増による利益をオーバーツーリズムに苦しむ地域還元などの方策も考慮すべきとは思いますが…
    日本人と外国人の区別については、それこそマイナンバーカード等のID確認をシステム化すればよいかと。リーダー機導入の初期費用のみでスムーズで汎用的な運用が可能じゃないかと思います