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マスメディアグラフのインチキ史

働き方改革総合研究所株式会社代表取締役の新田龍氏が10日、X(旧ツイッター)に、大変興味深いグラフをポストしました。これまでにメディアが報じたインチキグラフの数々です。グラフのインチキぶりにもなかなかに驚きますが、それ以上に、こうやって具体的な証拠付きでメディアの所業がどんどんと拡散していく時代です。ネット空間の発達もあり、メディアが一般人からバカにされる時代が到来していることに、メディア産業関係者は気付いていないのかもしれません。

報道しない自由

日本のメディアが「なぜか」ほとんど報じない、あるいは片側しか取り上げない話題というものが、いくつかあります。とくに、日本に関する優れた指標などが出てきた場合には、その傾向が顕著です。

たとえば『日本の報道の自由度を引き下げているのはメディア自身』などでも指摘したとおり、「『報道の自由度ランキング』についてはやたら舌鋒鋭く騒ぎ立てるくせに、日本がG7中2番目に高得点を得ている米NGO『フリーダムハウス』の調査については頑なに報じない」などは、その典型例でしょう。

正直、日本のメディアの質が低いというのは、今に始まったことではないのかもしれません。

ただ、最近だとそのメディアの質の低さに拍車がかかっているフシがあります(あるいは、インターネット空間上、非常に質が高い情報が一部ウェブサイトで得られるようになったため、新聞、テレビが垂れ流す情報の低レベルさに気付くようになった、という影響もあるのかもしれませんが…)。

メディアの支離滅裂な主張

こうしたなかで、当ウェブサイトにてしばしば取り上げて来た論点が、「悪い株高論」、「悪い賃上げ論」、「悪い円安論」です。

どうして株高、賃上げ、円安が日本経済に悪影響をもたらすのか――。

そのロジック、何度見てもなんだかよく理解できないのですが(というよりも、良い感じで支離滅裂です)、いちおうそれぞれについて簡単に触れておくと、こんな具合です。

悪い株高論

現在はたしかに株高であるが、株高がもたらす恩恵は、株式や投信などに投資するごく一部の金持ちにしか行きわたらず、一般庶民にはこうした恩恵がもたらされないどころか、むしろ一般庶民は物価高にあえぐことになる。

悪い賃上げ論(タイプA)

賃上げはごく一部の大企業にしか生じていない現象であり、我々庶民が勤める中小企業にとっては無縁である。パート、アルバイトはこうした賃上げの恩恵を受けることができないどころか、むしろ一般庶民は物価高にあえぐことになる。

悪い賃上げ論(タイプB)

日本全体で賃上げが進んでくると、中小企業にとっては人材を採用することができなくなり、人手不足倒産が相次ぐことになる。そうなれば、我々一般庶民は職を失い、物価高にあえぐことになる。

悪い賃上げ論(タイプC)

日本で賃上げが進んでいるが、これは名目値であり、実質賃金で見たらマイナスが続いている。中小企業やパート、アルバイトの賃金も上がらないため、我々一般庶民は物価高にあえぐことになる。

悪い円安論

円安で食料品、電気代など日本の物価は全体的に上がっているし、一般庶民はおいそれと海外旅行にも行けなくなった。円安はアベノミクスと日銀の金融緩和がもたらしたものであり、我々一般庶民は物価高にあえぐことになる。

経済は総合的に見る必要がある

「悪い賃上げ論」にはパターンがいくつかあり、それぞれに主張内容が矛盾しているのは、ちょっとした御愛嬌、といったところでしょう。

いちおう、まじめに反論しておくと、経済を正確に評論するためには、個別のさまざまな指標を見たうえで、全体的・総合的な評価を下す必要があります。

人間の健康チェック(検診や人間ドックなど)でも、血圧だの、血中のさまざまな成分だの、心電図だの、眼底圧だの、骨密度だの、腹囲だの、その他さまざまな指標を捉え、健康状態については全体的に評価を下すことが一般的でしょう。

しかも、経済は生き物です。

一般に、経済が回復する局面ではインフレが発生しますので、名目GDPは成長しているのに、実質GDPがマイナス成長となったり、名目賃金が伸びているのに、実質賃金がマイナス成長となったりすることはあります(ちょうど現在の日本が、そうでしょう)。

しかも、日本経済が置かれた諸条件(対外債権国である、川下産業は競争力を失っているが川上産業はしっかりと残っている、など)に照らして、(たとえば動かせる原発の再稼働が進み、電力の安定供給が図られる、などの)条件さえ整えば、日本経済が強く復活する可能性は高いといえます。

正直、日本のメディアは「定量的な諸条件を正確に勘案する」、「経済理論などの専門知識を現在の状況に当てはめる」、といった、情報分析の基本がまったくできていません。

医学を知らない人に正確な健康診断が期待できないのと同様、経済を知らない人に正確な経済評論などできません。

日本のメディアが専門知識に乏しいのは今に始まったことではないのですが、ただ知識がないだけならまだマシなほうで、ときとしてわざと誤ったグラフなどを使い、特定の方向に世論を誘導したりするフシがあるという点については、指摘しておく必要があります。

メディアはインチキグラフで世論を誘導する

こうしたなか、働き方改革総合研究所株式会社代表取締役の新田龍氏が10日、興味深い内容を、X(旧ツイッター)にポストしていました。

新田氏はグラフを使った偏向報道の事例として、次のようなものを列挙します。

  • 日米のグラフ、縦軸も横軸も違うのに並列比較
  • 日中のグラフ、縦軸の単位を2ケタ変えてまで日本サゲの印象操作
  • 同じ「12.1%」なのになぜか角度がまったく違う
  • 「ポジティブ52%」より「ネガティブ48%」のほうが面積広い
  • 目盛りが0から始まらない「ぷっつりグラフ」で強めの印象操作
  • 縦軸とデータの高さが合ってない「グラフもどき」
  • 家庭における電気使用割合、テレビ局が報道するときは元データから「テレビ・DVD 8.7%」を削除するステルス印象操作

どれも強烈かつ興味深い事例ばかりです。

ただ、それ以上に興味深いのは、こうしたインチキグラフがネット空間で拡散することで、新聞、テレビがエビデンスで殴られる時代が到来したことです。こういうことばかりしているから、新聞、テレビは信頼を失うのではないかと思えてなりません。

日経新聞さんの強烈なグラフ

そういえば、『日経新聞が掲載した斬新なグラフ』でも取り上げたとおり、日経新聞が昨年10月30日、日米金利を比較する、めちゃくちゃなインチキグラフを公表した事例があります(グラフそのものについてはJ-CASTニュースが報じた次の記事に残っています)。

日経記事に「詐欺グラフ」批判相次ぐ 不備認め削除→訂正も…「全然直ってない」ネット呆れ

―――2023.11.01 16:02付 J-CASTニュースより

正直、インターネット空間でこの手のインチキがいつまでも通用するとも思えないのですが、それでもメディアは懲りずに偏向報道を続けています。

ネット空間の発達もあり、私たち一般人は自然とリテラシーを高めつつあるなかで、一般人を騙そうとしても圧倒的多数の人を騙すことはできず、むしろメディアが一般人からバカにされる時代が到来していることに、メディア産業関係者は気付いていないのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 自分たちの都合で、外部に説明しやすいようにグラフを書きかえるのは、○○業界(すきな言葉を入れてください)に限らない、ということでしょうか。

  • ネット空間にこだまする哄笑。
    そんなに言論がえらいのか。タダ読み上等日本の新聞。後進国の周回遅れ産業、今日もはだかの大様実践中。ということになるのでしょう。

  • 詐欺グラフに騙される迄行かなくても、印象操作される人間は、多い。
    そもそも、グラフやデータを自分の頭の力で読み取れる人間が、どれだけいるだろうか?
    このサイトの本文記事やコメントですら、誤読や、偏見で解釈する者が多いというのだから、グラフやデータを素で読み取れる程の知能を持っている人間の方が少ない。

    • それに、自分の頭で、グラフやデータを読み取れる人間は、騙しテクニックが使われたグラフやデータに惑わされる事なく、自分で読みたろうとする。
      ついでに言えば、一つのグラフやデータからでも、読み取り力によって、読み取り方は異なる。

    • 腹囲と年頃は、関係ないですな。
      最近、中高老年でも下腹の出た人、余り見掛けなくなった。
      腹囲、高血圧、脂肪、これみんな、炭水化物=糖質の取り過ぎが原因ですから。
      炭水化物制限、カーボンラスト、ということが浸透して来ているようですね。
      体型を見れば、その人の食生活と性格まで分かる、という時代です。
      腹囲と年齢は、関係ない時代、こんなこと言っていると、年がバレますね。

  • 悪い賃上げ論ですが、タイプAに関しては大企業に比べて中小企業は額も率も低いのは数字で出てましたよね?

    『無縁』という認識は、コップの水が「半分もある」ではなく「半分しかない」と受け止めるのと同様と言えるのでは?と。

    タイプBは、社会全体として見れば不採算部門や過剰な人手の部門からそうでない部門へのリストラクチャリングと捉えれるでしょうから、求職者優位といえよう現在ではある程度反論出来そう。

    問題は、不採算部門などで高給を得ていた人がキャリアを再構築するとなれば給料がガクッと減る訳で、求人がどれだけあろうと絵に描いた餅の様なモノ。

    給料をなるべく維持したいなら、キャリアを活かせる再就職先を探さないとだし、現状で無いなら高給を望める資格を狙うとか、色々自助努力をするところですね。

    まぁ、今の日本が努力をすれば成功する、努力は実るって信じられる世の中かと問われると、中々そうだとは言いにくいですかねぇ…。

    タイプCは、良い悪いというか「足りない」ってお話しですね。

  • >むしろメディアが一般人からバカにされる時代が到来していることに、
    >メディア産業関係者は気付いていないのかもしれません。

    メディア関係者は馬鹿にされている事に気付いているのか、居ないのか?
    恐らくはオールドメディアが滅んで数年経ち、「あの頃私たちはこう考えていた」
    と言った暴露本が出るまでは彼らの本音は聞けないでしょうね。

    私としては「気付いているけど気付いていないフリ」に一票です。
    ここまで毎回コミュニティノートをはじめとするツッコミを入れられまくり、
    ポストを修正・削除する羽目になるのも頻繁になっているのだから、
    「鬱陶しいネットユーザーどもめ!」と逆恨みの念で燃え盛っていると思うのですよ。

    しかしそれを口に出しても百害あって一利なしなので、ひたすら気付かないフリを続ける。
    残り少ない「未だに騙されてくれる有難いお客様」を大事に大事に騙し続け、
    少しでも延命できる様に今までのやり方を変えない……

    みじめな演技ですが、それでも平均よりは高い収入を未だに得られているのなら
    本人たちは幸せなのかも知れませんね。退職後の貯蓄が十分なら、ですが。

    • さわさわさわ
      「ロバ、ロバ、ロバ ...」「耳、耳、耳 ...」

    • 私見ですが、ねずみ講の社会なんですよ。

      上に行くほど甘い蜜チューチュー。
      上に行くには長い試練に耐えねば。
      あまりにも長く耐えてると、耐えることが生きる目的になってしまってなんのために耐えてるのか耐えてる本人も忘れてる。

      カルト、共産主義、左翼系の団体、大手メディア、からはそんな臭いがします。

      芸能界は淘汰が作用してるから、まだマシ。

  • グラフで印象する技をいろいろ紹介する本もあったはず
    昔からマスコミは印象操作の達人

    • >昔からマスコミは印象操作の達人

      それだけ、操作される人間が多かったということですね。
      騙される人がいるから、騙す人がいる。
      被害者が居なければ、加害者は居ない。

      皆んな、ドラちゃんのように利口になれば、問題解決です!

  • 円安ネタで思い出したのですが、一部で話題になったiPad mini 6 のサイレント値上げの件、これもやはり円安だけ言うのはお門違いかなと。

    https://www.nukeni.com/ipad/ipad-mini-6#tabmenu
    上リンクの各国相場が前提ですが、Appleストア公式の各国の値段を確認すると、日本・アメリカも含め値上がりしてるようです。
    現在の相場での換算ですが、例としてイギリスの値段は日本円換算で10万ほどでした。ただ本国の生活水準に照らし合わせたりしてないので留意してください。

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