冷静に考えて、30年前屋20年前、あるいは10年前には当たり前だったことが、現在では当たり前ではなくなっている、といった事例はたくさんあります。こうしたなか、SNSでちょっとした話題となっているのが、新聞世論調査の項目で「1970年の大阪万博に行ったことがある」と答えた割合が50%近くに達していたことです。新聞世論調査に応じる人が高齢化しているという証拠であるとともに、下手をするとあと10年も経たないうちに、紙媒体がニューズ媒体としての使命を終えるのかもしれません。
2024/06/11 11:30追記
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目次
東京で30年のAさん、たまに実家に戻るとタイムスリップ
最近、つくづく思うことがひとつあります。
それは、人間の習慣などというものは、ほんの数年でガラッと変わってしまうものだ、ということです。
私たちは日々、生活をしていて、多くの人にとっての今日は、昨日とまったく変わらない生活だと信じています。しかし、ふとした拍子に昔の生活を思い出してみると、ちょっと今では考えられないようなことが、たくさんあったのではないでしょうか。
先日、著者自身がとある50代の知り合いと会食をしたときのことですが、「実家じまい」が話題になりました。この知り合いを、仮に「Aさん」とでもしておきましょう。
Aさんは30年以上前に大学を卒業し、単身、とある地方都市から就職のために上京して来たという人物なのですが、当初は「もしかしたら実家に帰るかも?」などと思っていたものの、上京してすぐ、Aさんを追いかけるように上京して来た同郷の彼女と結婚。
20代のうちに子供もでき、そのままズルズルと実家に戻る機会を逸してしまったのです。
東京で快適な都会生活を送り、いまでは孫もいるAさんですが、そんなAさんもたまに実家に帰ると両親が迎えてくれ、2階にある自室は大学を卒業したときのままの姿で残っていたのだそうです。いわば、たまに実家に帰ることで、ちょっとしたタイムスリップを経験していた、というわけです。
ご両親が相次いで他界し、実家じまいを始めたAさん
ただ、年々年老いていく両親を見ていて不安になったのか、Aさんは奥様とも相談し、自分の子供たちが大きくなり、家を出て行ったタイミングで、自分の両親を東京に呼び寄せようと思っていた矢先、お母様が急逝され、そのたった3ヵ月後に後を追うようにしてお父様も亡くなってしまったのだとか。
長男でもあるAさんはいずれ実家をどうするか考えなければならないと思っていたものの、さすがにこんなに早く、実家の片付け問題に直面することになるとは思っていなかったようで、「しばらくは実家を片付けるために毎週、実家と東京の自宅を往復する日々が続いて大変な目に遭ったよ」、といって苦笑したのが印象的でした。
さて、そのAさん、比較的新しい物好きで、iPhoneなどもわりと頻繁に機種変更しているらしく、おサイフケータイ機能なども使いこなし、LINEでは大学生の末娘ともさまざまな話題で盛り上がるなど、イマドキの中高年とも思えないほど、現代社会の生活に馴染んでいます。
そんなAさん、東京の自宅では高速インターネット回線を引き、スマートTVでYouTubeやNetflixなど視聴する生活を楽しんでおり、新聞も取っていなければ、テレビもFAXもなく、固定電話すらありません。
書籍もiPadのKindleアプリなどで読むことが多いらしく、たまにやってくるお孫さんには、そのiPadで『絵本ひろば』アプリを使い、絵本を読んであげるのが楽しみなのだとか(もっとも、お孫さんは幼稚園年中組になったあたりから、『絵本ひろば』よりもタブレットの知育ゲームなどに夢中なのだそうですが…)。
ところが、Aさんが片付けるために実家に帰ったところ、実家の「昭和ぶり」、「平成ぶり」に、改めて驚いたのだそうです。
玄関を上がったところにFAX付き電話機が置いてあり(さすがに「黒電話」ではなかったそうですが…)、その子機が2階に置かれていて、リビングルームにはでっかいテレビが鎮座し、隅っこにはお父様が購読していた地元紙がうず高く積み上げられていたといいます。
また、お父様の書斎、お母様の家事室などにはそれぞれ書籍が積み上げられていて、それらの書籍のなかには近所に暮らす妹一家のためにご両親が買い溜めた絵本などもたくさん残されているなど、面喰ったそうです。
「絵本なんて、高いわりに読むのは子供が就学するまでの話だからねぇ」。
自分の孫には絵本ではなくiPadを見せているというAさんにとっては、これも衝撃だったそうです(※なお、著者自身としては、さすがに子供に見せる絵本くらいはiPadではなく通常の紙の絵本にしてあげたら良いのではないか、などと思ったクチなのは、ここだけの話です)。
「イエデン(自宅の固定電話)」で連絡を取り合っていた学生時代
ただ、Aさんも冷静に数十年前を思い出してみると、たしかにこの実家での暮らしに馴染んでいたことは間違いありません。
昭和40年代生まれのAさんにとって、大学生時代、あるいは社会人時代といえば、まだ携帯電話が普及し始めるかどうかというタイミングでしたし、大学生時代の彼女(つまり今の奥様)と付き合っていたころも、「イエデン」(自宅の固定電話)で連絡を取り合っていました。
そんなAさん、ふと自分の子供たち世代を眺めてみると、末の娘さんは自分のスマホで彼氏と連絡を取り合っているようですし、結婚して家を出た息子夫妻も、それぞれ自分のスマホを持っていて、自宅に固定電話を置いていません。もちろん、新聞も取っていないようです。
たった30年で、世の中はここまでガラリと変わってしまう、というわけです。
Aさん夫妻は結局、地元で暮らす妹夫妻と相談したものの、妹夫妻にとってもやはり「大きすぎる実家」は不要とのことであり、思い出深い実家ではありましたが、買い手がつくうちに売却・処分してしまうことにしたのですが、ここで困ったのが、NHKの解約です。
どうもNHKの受信料、1年契約となっていたらしく、お父様が亡くなる直前に引き落としがあったため、お父様の一周忌を前にNHKから督促状が届き、それでNHKと受信契約をしていたことに気付いたとのこと。
恐ろしいことに、NHKは契約者本人が死亡しても自動解約とならず、また、自宅を売却するまでに少し時間がかかったこともあり、NHK側がなかなか解約に応じてくれず、「未払の受信料を払え」、「この自宅にテレビがないことを説明しろ」、などと要求されて辟易とした、とAさんは怒りを込めて語ります。
ちなみに新聞についてはお父様の葬儀の直後のタイミングで、配達員に「この家にはもうだれも住んでいないから、新聞は解約してくれ」と依頼したところ、すんなりと解約には応じてくれたそうですので、著者に言わせれば、新聞を解約したタイミングでNHKも解約が必要だと気付くのではないか、という疑問も、ないではありません。
もっとも、普通の人は親御さんが亡くなった際の各種手続には慣れていないことの方が多いでしょうから、1年近くもNHKを解約せず放置してしまったことは責められないところです。
連続すると気付きにくいが…セクハラ、パワハラの認識も変わった!
さて、Aさんのように、大学生まで地元で育ち、その後は上京して家庭を持った、という経験をした人ならば、「学生時代まで」と「社会人時代以降」で明確な断絶がありますので、実家に戻りさえすれば、「学生時代まで」を思い出すことができるものです。
しかし、連続した暮らしをしていると、「ちょっとした変化」―――たとえば、インターネット動画サイトの画質の向上、電子マネーの急速な普及、FAXや電話を使わなくなったことなど―――には、なかなか気付けないものなのかもしれません。
ほかにも、10~20年前と比べた大きな社会の変化としては、ほかにも、▼スマートフォンのカメラの性能が飛躍的に上昇したことで、日常的に写真をパシャパシャとるようになった、▼職場のセクハラ、パワハラなどの基準が(とくに大企業中心に)極めて厳しくなった―――、といった項目を挙げる人もいるかもしれません。
とりわけセクハラ、パワハラの基準は、かなり厳格なようです。
たとえば今から30年前の職場だと、「女の子」(原文ママ)の仕事はお茶くみとコピー取り、電話の応対だ、などと平然と言い放つ職場もありましたが、現在だと性別で自動的に職種が決まるという事例は、かなり減っているのではないでしょうか。
そこからさらに時代をさかのぼると、「女の子」呼ばわりどころか、職場で年配男性が若い女性に抱き着いたり、下品なジョークを言ったり、と、パワハラとセクハラをごちゃまぜにした嫌がらせが横行していた社もあるようです。
こうした嫌がらせをする者は、たいていの場合、本人は相手に好意を持っているケースも多かったのだとは思いますが、好意を持たれる側からすれば、たまったものではありません。
もちろん、いわゆる「一般職」という職区分はいまでも存在するはずですし、こうした職区分に就くのは女性が多いのかもしれませんが、少なくとも著者自身が知る限り、いくつかの企業では、「女の子」呼ばわりはガイドラインで禁止されています(当たり前ですが、「男の子」も同様でしょう)。
また、女性の職員に対し、その容姿や身体的な特徴をほめたり・けなしたり、「早く結婚しないの?」などと尋ねたり、(産休・育休を経て職場復帰した女性に)「子供が小さいうちは母親が子育てすべき」と苦言を呈したする行為も、現代社会では広範にセクハラ、パワハラなどと認定されるようです。
これについては厚労省がまとめた『職場におけるハラスメント対策マニュアル』なども参考になりますが、逆にいえば、ほんの数年前までは、女性が職場で働いたり、出産したりすることにも、かなりのハードルが存在した、ということでしょう。
それが今では、能力さえあれば性別に関係なく社長にだって就任することができる時代です(『新幹線で喫煙ルーム廃止…次のターゲットは路上喫煙か』等参照)し、男性に対し育休の取得を勧奨ないし義務付ける企業も増えているようです。。
また、最近だと、セクハラは男性から女性に対してのみ成立するものではなく、逆に女性から男性、あるいはケースによっては同性間でも成立するとされます。
男性同士で成立するセクハラないしパワハラとしては、たとえば、先輩が後輩に対して「彼女はいるのか?」と聞いたり、女性の好みをしつこく聞いたり、あるいは夜の飲み会後にいかがわしい店に誘ったりする行為などが挙げられるかもしれません(もちろん、それだけには留まりませんが…)。
いずれにせよ、職場の倫理基準なども、(それが良いか悪いかは別として)時代に応じてどんどんと変わっていくものであることは間違いないでしょう。
新聞世論調査が話題:ただし話題となっているのは…?
さて、時代の変化という点に関し、今後の10年で間違いなくなくなると著者自身が確信しているサービスのひとつが、新聞です。
こうしたなか、X(旧ツイッター)でちょっとした話題となっていたのが、朝日新聞の「とある調査」です。
2025年の大阪万博に賛成するかどうか、といった世論調査に関連し、注目したいのが、『行ったことのある万博は?』という設問です。
これに対し、2,859人中、1970年の大阪万博と答えた人が1,349人、すなわち全体の47.18%に達していたのです。
1970年生まれといえば、今年54歳です。ということは、この47.18%の人が、少なくとも54歳以上だ、ということです。
また、「万博に行った」のが自身の記憶に残るくらいだと、1970年時点ですでに物心ついていた、あるいはその時点で就学していた可能性がありますので、この朝日新聞のアンケート調査に回答した人は、高齢層が中心である、ということを示唆しているのです。
すなわち、来年の万博云々よりも、新聞の高齢化の方が気になってなりません。
実際、50代以上の購読者の割合は、読売新聞が63.9%(読売新聞ビジネス局・イノベーション本部の媒体データのページにある『販売部数と読者データ』<pdf>P2)、朝日新聞が67.9%(『朝日新聞媒体資料2024』<pdf>P15)です。
読売、朝日という日本の2大紙がそうなのですから、おそらくは日本の新聞というものが高齢者の娯楽となっていることについては、ほぼ間違いありません。
そういえば、新聞に関連して申し上げるなら、10年以上前に見かけた「通勤電車の車内で新聞を折り畳んで読むサラリーマン」の姿が一掃されたようです。もちろん、現在でも電車内で新聞を読む人はいないではないのですが、かつてと比べれば圧倒的な少数派です。
ということは、今からあと10年も経てば、「ニューズを紙で読む」という行為が過去のものとなっている可能性は濃厚であり、最近だと高齢者のなかに新しい物好きの人も多いようですので、場合によってはあと10年も待つ必要すらないのかもしれない、などと思う次第です。
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>注目したいのが、『行ったことのある万博は?』という設問です。
これに対し、2,859人中、1970年の大阪万博と答えた人が1,349人、すなわち全体の47.18%に達していたのです。
これは、凄いデータです。こんなデータよく正直に出しましたね。
このデータ、どう読むか?
当時、10才以上の人(現在年齢は64才以上)の50%が万博に行ったと仮定する。(実際、大阪万博の全入場者数は6400万人)
今回のアンケート結果の万博に行ったことがあるという回答も、ほぼ50%とすると、朝読の購読者は、殆ど、64才以上という推察も出来る。
これ、新聞の寿命、後10年なんてものじゃなくて、5年もしない内になくなるんじゃないか?
ある朝、起きたら、朝刊が無かった!なんて。
「新聞世論調査に応じる母集団」が推察されてしまう、見事なオウンゴールですね。
「老人世代は未来の技術なんて興味ないでしょ。実現する頃にはいないんだもん」というX(旧ツイッター)のコメントが秀逸でした。
芋の煮えたもご存じない、ような・・・、
オウンゴールしたことも、気付いてない。
そんな感じがしますね。
データの意味がわからないし、分かろうとも思わないし、%が多いか少ないかしか関心がない。
それも、50%より多ければ、皆んなそうだ、少なければ、皆んなそうじゃない、という白黒だけで考える楽な世界。
>たった30年で、世の中はここまでガラリと変わってしまう、というわけです。
1990年代バブルのころ出張のためのビジネスホテルの予約はどうしていたか。
B5くらいで厚さが5-6センチあるホテルのガイドブックをたよりにホテルに直接電話をして予約していた。バブルのころは予約がとりにくく「全館満室でございます」という高笑いをいまいましく聞き、予約が取れるまで電話していた。
たしかこのガイドブックも無料ではなく本屋で買わなければならなかったはず。
今は国内も海外もネットで簡単に予約。ほんとにガラリと変わったね。
個人的バブルの象徴リゲインのテーマ(動画)とかをYouTubeで見ると電話とメモと手書きばかりで懐かしくなりますね。
朝日新聞、今頃は「しまった!」と思っているんじゃないでしょうかね?
こんな自分達の読者層の年齢をバラしちゃうなんて。
もし「いいや、うちは老人以外にも読まれている!」と主張するならば、
このアンケートをわざわざ老人の回答数が多くなる様に細工したって事になりますし。
あえて無理やり擁護するなら、「アンケートに答えてくれたのが老人ばっかりに
なっただけで、若年読者が少ない事は意味しない」あたりでしょうか?
それならそれで「老人以外はアンケートに熱心に答えてくれない傾向がある」と
言ってしまう物ですが……
新聞、雑誌の終わりの始まりか
記事の中で以下の記述がある
>「新聞・雑誌はダウントレンド」ということで、リフレッシュオープンの際に品ぞろえを見直し、取り扱いを中止、または縮小したという。
https://toyokeizai.net/articles/-/686147?page=2
この記事の内容、古いなと思ったら、昨年7月の記事だった。もう一年前。
数年前から、駅売店で新聞雑誌など見かける事もない。それで、売店も小型化している。新聞雑誌などは、場所を取っていたんだね。
私鉄の駅のホームは、狭いから新聞雑誌で場所を取ると、朝夕の混雑時と新聞雑誌の売れる時間と重なるので、売店周りは危なかった。
JRは、ホームが広いからか、随分前から無人店舗になっている。とっくに、新聞雑誌など買えない。
JRは、民営化してから、時代のトレンドの先読みが鋭いので関心する。
この記事、ダウントレードなんて言葉出して、さも、時代を読んだふうな内容にしようとしているが、トレンドの読み方が遅い。中高年記者か?
スレタイの絵は
新聞は1970年代の大阪万博の頃から進歩してないという意味?
≫大阪・関西万博に行きますか?
そりゃあ
半分が 若くて60代でしたら、
行きますかと聞かれても
行けない人が多いでしょうなあ。
理由については、
「会場が広くて入れ歯落としたら見つけられないから」
「入居施設や医者の許可が貰えない」
「ギャンブル以外関心がない」
などの朝日の読者層に見合った
選択肢がなかったのでは?
と推察します。