新聞業界で最大手の一角を占める株式会社朝日新聞社の決算短信が発表されました。これによると同社は売上高、各段階利益ともに前年比でプラスとなり、とくに昨年度に損失を計上した営業損益でも、黒字転換を果たしています。朝日新聞が昨年5月に月ぎめ購読料を500円値上げした影響が出ている可能性もありそうです。もっとも、もともとの高コスト体質に加え、部数減少などにどう対処するかは、同社にとっても重要な課題といえるのかもしれません。
目次
大手メディアの多くは決算すら公表せず
株式会社朝日新聞社といえば、新聞業界のなかでは株式会社読売新聞グループ本社に続き、新聞発行部数では全国2位の大手メディアです。
こうしたなか、当ウェブサイトではここ数年、同社の決算については精力的に分析の対象にさせていただいています。株式会社朝日新聞社様には詳細な決算データを開示してくださっていること、改めて感謝申し上げたいと思う次第です。
なぜ当ウェブサイトで同社の決算分析ばかり行っているのかといえば、その理由は簡単で、大手メディアの中で同社以外に決算データを公表していない――つまり、大手新聞社のなかで、詳細な決算データを開示しているのが株式会社朝日新聞社くらいしかない――からです。
もし決算データが公表されているならば、他社についてもさまざまな分析を行ってみたいところですが、残念ながら、これはかなわぬ願いであるようです。新聞社は総じて、口を開けば「説明責任」などと述べるわりには、自分たちの事業内容を開示しようとしないというのは、興味深いと言わざるを得ない論点のひとつでしょう。
株式会社朝日新聞社は増収増益
さて、今年も、株式会社朝日新聞社の決算データが出てきました。
とりあえず、「出血」は止まったのでしょうか。
28日に公表された、2024年3月期における株式会社朝日新聞社の決算(連結、単体)では、売上高は連結で前年同期比20.9億円となる2691.2億円、単体で+10.5億円となる1830.0億円で、前期に連単ともに赤字だった営業利益段階でも黒字に転じるなど、まずまずの業績でした(図表1)。
図表1 株式会社朝日新聞社・連単のおもな項目比較
項目 | 2024年 | 2023年 | 増減 |
【連結】売上高 | 2691.2億円 | 2670.3億円 | +20.9億円 |
【連結】営業利益 | 57.8億円 | ▲4.2億円 | +62.0億円 |
【連結】経常利益 | 130.7億円 | 70.6億円 | +60.1億円 |
【連結】当期純利益 | 99.0億円 | 25.9億円 | +73.1億円 |
【連結】売上高 | 1830.0億円 | 1819.5億円 | +10.5億円 |
【連結】営業利益 | 46.9億円 | ▲19.2億円 | +66.1億円 |
【連結】経常利益 | 86.0億円 | 24.8億円 | +61.2億円 |
【連結】当期純利益 | 55.1億円 | ▲3.8億円 | +58.9億円 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・決算短信等をもとに作成)
業界を挙げて、新聞部数が急激に落ち込んでいるなどの事情を踏まえると、これはなかなかの健闘ぶりといえるかもしれません。
昨年の「500円値上げ」が奏功した可能性
では、今期の決算について、いったい何が良かったのでしょうか。
これについて真っ先に思い当たる要因があるとしたら、昨年の値上げでしょう。
『「業界衰亡期」なのに…「値上げ断行」相次ぐ新聞業界』でも取り上げたとおり、昨年以降、主要新聞社(全国紙、ブロック紙、地方紙・地域紙など)が月ぎめ購読料を大幅に引き上げているのですが、朝日新聞もご多分に漏れず、昨年5月に月ぎめ購読料を値上げしています。
具体的には、朝日新聞は朝夕刊セット価格を4,400円から4,900円に、統合版を3,500円から4,000円に、それぞれ500円ずつ値上げしています。
この点、『新聞部数減を電子版増加でカバーできず=メディア指標』でも触れたとおり、株式会社朝日新聞社の発表によれば、朝刊部数は2023年3月時点で376.1万部、2024年3月時点で343.7万部であり、1年間で32.4万部減った計算です(半年間の減少部数は平均16.2万部、といったところでしょうか)。
便宜上、朝日新聞の平均部数を、2023年3月期については392.3万部(=376.1万部+16.2万部)、2024年3月期については359.9万部(=343.7万部+16.2万部)と置くと、朝刊1部当たりの単体年間売上高は、それぞれ、次のように求められます。
- 2023年3月期…1830.0億円÷392.3万部≒46,648円→月間3,887円
- 2024年3月期…1819.5億円÷359.9万部≒50,556円→月間4,213円
すなわち、2024年3月期においては、前期と比べ、朝刊1部当たりの売上高は月間326円上昇した計算であり、500円の小売価格の値上げが売上高を押し上げる効果があったことが伺えます。
(なお、単体売上高を朝刊1部で割っても500円の増収になっていない理由としては、株式会社朝日新聞社は新聞を各所の新聞専売所に販売していて、専売所の取り分であるマージンが存在するため、といった仮説が考えられます。)
ただし、この「新聞部数と売上高」などに関するもう少し詳細な考察については、現段階ではとりあえず控えておきたいと思います。株式会社朝日新聞社は例年、6月下旬に有価証券報告書を提出しているため、セグメント分析や部数、人件費などの分析は、その際にまとめてやりたいと思います。
売上高は2005年度と比べ半分以下に減少した
さて、以下では、現時点で実施できる解説に焦点を絞っていきたいと思います。
先ほどは「売上高も段階利益も前年同期比でプラスに転じた」という事実とともに、「これは新聞値上げの効果か」、といった仮説を提示したのですが、その一方で中・長期的に見るとやはり売上高の減少が続いているようにも見受けられます。
図表2は、著者自身が手元に所持している株式会社朝日新聞社の過去の決算データをもとに、さかのぼれる最も古い2005年3月期決算以降の売上高(連単)を示したものです。
図表2 株式会社朝日新聞社・売上高
(【出所】2024年3月期に関しては決算短信、それ以外に関しては過年度有価証券報告書のデータをもとに作成)
このグラフでもわかるとおり、株式会社朝日新聞社の売上高はこの約20年間で見て、連結ベースでは6130億円から2691億円へと、単体ベースでは4069億円から1830億円へと、それぞれ半分以下に減っていることが確認できます。
ただし、同社の売上高の特徴としては、売上高が直線的に下がるのではなく、何らかのイベントがあったときにガクンと落ち込み、それ以外の時期はなだらかな減少ないしは横ばいとなる傾向が認められます。
たとえば2014年3月期から15年3月期にかけての減少は、慰安婦関連報道や吉田調書関連報道などが影響を与えた可能性がありますし、2020年3月期から21年3月期にかけての減少は、コロナ禍による要因が疑われます。
しかし、少なくともコロナ禍以降の数年に限定していえば、売上高の下落傾向はいったん収束したようにも見受けられます。とりわけ2024年3月期に関しては、連単ともに、久しぶりに売上高が前年比でプラスに転じているのが印象的です。
もちろん、「月額500円の値上げ」という要因もあったことは間違いありません(※もっとも、部数の前年比減少が値上げの効果を打ち消してしまったことについても否定できないでしょうが…)。
売上高営業利益率は2~3%という高コスト体質
ただし、株式会社朝日新聞社に関してもうひとつの特徴があるとすれば、売上高に対する経費率の異常なまでの高さです。図表3は、株式会社朝日新聞社の売上高(連結、単体)に占める売上原価、販管費の割合を視覚化したものです。
図表3-1 株式会社朝日新聞社・連結業績
図表3-2 株式会社朝日新聞社・単体業績
(【出所】2024年3月期に関しては決算短信、それ以外に関しては過年度有価証券報告書のデータをもとに作成)
どちらのグラフで見ても、売上高に対する売上原価、販管費の合計割合が非常に高く、結果的に営業利益がほとんど残らない(それどころか、年度によってはしばしば営業損失に転落している)ことが確認できます。
会計学的な視点に立てば、正直、同社の新聞事業は赤字スレスレであり、それを不動産事業の黒字や子会社・関連会社等からの受取配当金(または持分法PL)などで穴埋めしているという構図が見えてきます。これについて、2024年3月期の決算で改めて確認しておきましょう。
まず、連結ベースだと、売上高は269,116百万円(つまり2691億16百万円)ですが、売上原価が201,512百万円、販管費が61,822百万円で、残る営業利益は5,781百万円に過ぎません。売上高営業利益率(売上高に対する営業利益の割合)はたったの2.1%です。
これに対し、営業外収益の内訳に「持分法による投資利益」が5,162百万円含まれていて、これが大きく同社の経常利益を押し上げており、最終的に経常利益段階で利益水準は13,069百万円にまで押し上げられているのです。
同様に単体ベースでも、売上高は182,998百万円(1829億98百万円)ですが、売上原価は133,449百万円、販管費は44,858百万円で、営業利益は4,690百万円。売上高営業利益率は2.56%に過ぎません。
ところが、営業外収益の内訳にある「受取配当金」3,917 百万円が同社の利益水準を押し上げているためか、経常利益段階での利益水準は8,604百万円にまで押し上げられています。
不動産事業やテレビ局子会社などが収益の助けに?
想像するに、同社にこうした莫大な持分法投資利益ないし配当金をもたらしているのは、おそらくは株式会社テレビ朝日ホールディングスや朝日放送ホールディングス株式会社など、地上波テレビ局を営む関連会社ではないでしょうか。
ということは、もしも近い将来、テレビ産業においても広告収入が激減するなどすれば、こうした持分法投資利益あるいは配当金収入が先細りとなる可能性があることは、株式会社朝日新聞社にとってはとても大きな事業リスクといえるかもしれません。
しかも、株式会社朝日新聞社の売上高には、利益率が非常に高い不動産事業から生じるものも含まれていると考えられるため、不動産事業の収益・利益を控除すると、新聞事業が実質的に赤字になっていないか、という観点は気になるところです。
なお、このあたりは来月に有価証券報告書が公表された場合、余裕があれば確認してみたいと思う次第です。
新聞業界からはまだまだ目が離せない
以上、株式会社朝日新聞社の最新決算をざっと眺めたわけですが、最大手かつ財務的にも優良な同社ですら、新聞事業では赤字スレスレである、という点については、いろいろと示唆に富んでいます。
仮に本業以外に黒字をもたらすもの(不動産事業やテレビ局子会社など)が存在しない会社の場合、もしかするとすでに継続企業の前提に赤信号が灯され、事業継続が危ぶまれているような事例も出て来ているのではないでしょうか。
そういえば例年、「純資産の部を上回る金額の繰延税金資産が計上されている新聞社」が密かに話題になったりすることもありますが(※その会社は数年前に減資を行い、税法上の中小企業となったことでも知られています)、こうした事例だと、ケースによっては、まさに倒産は時間の問題でもあります。
あくまでも一般論ですが、経営危機に陥った会社は、まずはメインバンクや親密企業などに支援を要請し、続いて同業他社などに合併を持ち掛けたりする傾向がありますので、もしかするとごく近い将来(下手すると数年後)には、意外な「全国紙」あたりで合併、廃刊などの事例が見られるかもしれません。
その意味では、新聞産業はいつ、大手紙が「廃刊」を決めるかわからないなどの意味において、目が離せない存在といえるのでしょう。
View Comments (14)
単体売上高の1年度間の差額が出ていないので、連結で20億円の増収を、新聞売上高での増収として考え、それが、月間購読料500円値上げによるものとする、という仮定で、以下の推量を廻らせてみます。
500円値上げによる増収は、1部当たり、500円×12か月=6,000円/年。
発行部数、350万部を前提とすれば、
6,000円×350万部=210憶円/年の増収額となるはず。
然し乍ら、実際の1年間の増収額が、20憶円に過ぎないのだから、
210億円-20憶円=190憶円分の、発行部数の減少があったと見ることもできる。
そして、月間購読料4,200円×12=50,400円/年の購読料とすれば、
190億円÷50,400円=377,000部
の購読数の減少が、この1年であったと見做されるのではないかと思います。
こういう推量をすれば、購読部数の減少は、着々と進行しているということですね。
ということは増収20億÷年間購読料50,400=約4万部減れば、再び赤字…
一年持ちませんな
毎度、ばかばかしいお話を。
朝日新聞;「更なる増収増益のために、また値上げしよう」
ありそうだな。
朝日新聞単体の売上高は:
新聞販売店への売上(Net で調べると卸価格は50%程度と出ていた)、広告収入、週刊朝日の売上(これ微々たるもの)その他の合計だと思う。
「その他」は例えば「朝日新聞社主催 xx展」といった催事収入だろう。
ちょっと古いが2019年の新聞協会ニュースによれば新聞社の収入の内広告収入の占める割合は19.9%で減少傾向、その他は23%とのこと。
最新の朝日単体の売上が1830億なら、そのうち広告収入が360億円程度、その他が420億円程度あるのではないかと推定できる。1830-360-420=1050億円が新聞と週刊朝日の合計。
週刊朝日の売上は無視できるほど小さい(5億くらいか?)
1045億円を360万部で割ると29,166円。月に直すと2430円でほぼ月ぎめ購読料4400円の55%。卸値50%と整合しそう。
>>「その他」は例えば「朝日新聞社主催 xx展」といった催事収入だろう。
甲子園とか?
高野連と山分けしてるんじゃない?
sqsq 様
>週刊朝日の売上(これ微々たるもの)
週刊朝日の発行元だった、子会社の 「朝日新聞出版」 のことですかね? 2008年に朝日新聞社の出版部門が分社化されて、できた会社です。
週刊朝日はちょうど1年前に、事実上の廃刊になりましたね。このブログでも取り上げていましたよ。
週刊朝日が5月末で 「休刊」 へ:新聞業界の今後を示唆
https://shinjukuacc.com/20230119-02/
週刊朝日休刊へ:これに上念司氏は 「新規解約月3件」
https://shinjukuacc.com/20230531-05/
昔の朝日新聞社は、カメラ雑誌やパソコン雑誌など、イデオロギーとは関係ない、趣味の雑誌もたくさん刊行していたんですけど、インターネットの普及で全滅してしまいました。
週刊朝日の休刊は2023年5月でした。
私の分析は2023年3月の有報からだったので、発行回数47回(有報より)発行部数7万5千部、返本率40%(net 情報)、1部450円から推定しました。
2024年3月期は1-2か月しか入っていないのですね。失礼しました。
テレビ朝日ホールディングズを調べると朝日新聞社が筆頭株主で24.7% 株数にして26,151,840株所有している。24年3月期には23年6月と12月に配当を1株当たり30円と20円受け取っているはずだから、計13億759万円がテレビ朝日からの受取配当。
〉もしかするとごく近い将来(下手すると数年後)には、意外な「全国紙」あたりで合併、廃刊などの事例が見られるかもしれません。
この際ですから、三紙まとめてATM新聞社とかアトム新聞社とか、或いはストレートに反日新聞社とか名乗って、コア読者向けにより純度を高めた同人誌的新聞として生き残りを図れば良いのでは?
朝日の連結と単体の売上推移のグラフをみていて;
連結売上高が2005年6130億が2024年 2691億に 56%減
単体売上高が 2005年4069億円が2024年 1830億円に 55%減
連単の差が単体以外の子会社売上2005年2061億円が2024年 861億 58%減
なぜ同じような衰退傾向を示すのだろう。
朝日新聞のグループ一覧をみてガテンがいった。
ほぼメディアとその取り巻き関連企業なのだ。例えばスポーツ新聞、広告会社、放送局、折込広告、出版、印刷。要するにみんな朝日新聞にぶら下がっている会社。みんなで下りエスカレーターに乗っているイメージ。
https://www.asahi.com/corporate/guide/outline/11210023
これは、いい着眼点ですね。
事業のシナジー効果を狙ったはいいが、その事業群そのものが衰退産業だと全く意味がない。
コダックジャパンのように、親会社のネームと資金を利用して、拡大産業の一角を取るという戦略を採っていれば、親会社がどうなろうが関係なく成長して行けるのだが。
拡大自する情報産業をライバル視したりしていては何の手を打つ方策も思い浮かばないだろうが、情報産業と言っても、巨大な既得権益に胡座をかいて、捏造妄想情報をながしてもいいなんて虚妄の産業に堕落させてしまったのだから、虚報が直ぐにバレる双方向情報のネット世界ではやっていけないと、本能的に分かっていたのかもしれない。
単純に考えると
新聞1部あたりの単金が3,887円→4,213円で約8.3%アップ。
一方売上げはほぼ横ばいなので新聞部数が約8.3%程度減少ということか。
> 朝刊部数は2023年3月時点で376.1万部、2024年3月時点で343.7万部であり、1年間で32.4万部減った計算です
これで単純計算すると約9.4%減少。
だいたい帳尻はある。
帳尻が合わないのは営業利益の+66.1億円。
新聞部数減少で新聞用紙やインクなどの消耗部材の費用削減はあるだろうけど、リストラで固定費削減も相当頑張ったんだろう。
外部から新聞経営への圧力をかけるのには新聞用紙の再値上げがあるといいんだけれど。
記事本文もコメント欄も色々興味深い数字が出ていてとても面白く読めました。総合すると
「値上げはどうにかこうにか赤字を黒字に戻す程度の効果はあったが所詮は
一時しのぎであり、部数の減少その物はどうにもできないからリストラを続けるしかない」
と言った所でしょうか?
一番最初にとばっちりを食らいそうなのは外部のライターや”識者”や”インフルエンサー”ですが、
彼らは最近お仕事貰えているんでしょうかねえ。Xで不機嫌そうにしている様子を見る限り、
彼らには明るい未来はなさそうですが……