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    Categories: 金融

日本の対外投資は金融業が主導…中韓との関係は希薄化

財務省が27日に公表した2023年の日本の対外資産負債残高によると、日本の純資産過去最大の471兆円に達したことが判明しました。また、これに関して特に注目すべきは300兆円に迫る対外直接投資であり、金融業や商社などが対外投資を主導していることが判明します。また、米国が最大の投資先である一方、中国や韓国の割合の低下も印象的です。

財務省が発表した「対外資産負債残高」

財務省は28日、『本邦対外資産負債残高』を公表しました。

これによると2023年12月末時点における日本の対外資産合計は1488兆円、対外負債合計は1017兆円で、純資産額は471兆円でした。2022年12月末の419兆円と比べ、純資産は約52兆円も増えました。

これについては以前の『最新版:巨額の家計・年金資産と対外純資産抱える日本』でも引用した、「資金循環統計上の海外部門の金融資産・負債差額」の金額(484兆円)と一致していませんが、これは集計方法やタイミングなどが異なるためです。

いずれにせよ、円安などの事情もあるのでしょうか、対外資産の金額は増える一方です。

対外直接投資は300兆円に迫る

さて、こうしたなかで、本稿で注目しておきたいのが、企業などが外国に投資を行っている場合の投資残高、すなわち「対外直接投資」です。

財務省や日銀のデータを引っ張ってみると、この対外直接投資(合計)、ほぼ一本調子で伸び続けているのですが、2014年で139兆円だったものが、直近では289兆円へと、ほぼ「300兆円直前」の状況にまで伸びていることがわかります(図表1)。

図表1 対外直接投資合計

(【出所】財務省『統計表一覧(本邦対外資産負債残高)』の『直接投資残高(地域別・業種別)』および日銀『業種別・地域別直接投資』データをもとに作成)

しかも、意外なことに、伸びているのは「製造業」よりも「非製造業」であり、2023年に関していえば、金融業だけで68兆1149億円と、全体の約4分の1弱を占めていることがわかります(図表2)。

図表2 対外直接投資・業種別内訳(2023年)
業種 金額 構成割合
合計 288兆8913億円 100.00%
製造業(計) 107兆5804億円 37.24%
うち化学・医薬 22兆6908億円 7.85%
うち輸送機械 18兆5982億円 6.44%
うち食料品 16兆3081億円 5.65%
非製造業 (計) 181兆3109億円 62.76%
うち金融 68兆1149億円 23.58%
うち卸売 51兆4274億円 17.80%
うち通信業 15兆3617億円 5.32%

(【出所】財務省『統計表一覧(本邦対外資産負債残高)』の『直接投資残高(地域別・業種別)』をもとに作成)

当ウェブサイトでは、「自動車などの例外を除いて、日本はすでに『川下製品』を製造する大国ではなくなっている」、「製造業は『川上産業』を中心としており、むしろ金融業などが発達している国である」、などと述べていましたが、そうした見方が数値でも裏付けられた格好です。

また、「卸売」には総合商社などが含まれるのだと思いますが、日本の総合商社はバーゼル規制などの金融規制が適用されないだけで、実質的には投資銀行業を営んでいるとする見方もありますが、これも日本が「金融大国」化している証拠といえるのかもしれません。

米国が最大の投資先:オランダ、英国などが続く

さて、こうしたなかで、もうひとつ興味深いのが、投資対象の国別内訳です。

結論からいえば、トップは米国で100兆円を超え、構成割合でいえば日本の対外直接投資のほぼ3分の1以上を米国だけで占めていることがわかります(図表3)。

図表3 対外直接投資・国別一覧(2023年)
相手国 金額 構成割合
1位:米国 100兆8639億円 34.91%
2位:オランダ 20兆3321億円 7.04%
3位:英国 20兆1633億円 6.98%
4位:中国 18兆7693億円 6.50%
5位:シンガポール 14兆8797億円 5.15%
6位:豪州 13兆6851億円 4.74%
7位:タイ 10兆5041億円 3.64%
8位:スイス 5兆6699億円 1.96%
9位:韓国 5兆4849億円 1.90%
10位:ドイツ 5兆4817億円 1.90%
その他 73兆0574億円 25.29%
合計 288兆8913億円 100.00%

(【出所】財務省『統計表一覧(本邦対外資産負債残高)』の『直接投資残高(地域別・業種別)』データをもとに作成)

また、2位以下は、オランダと英国がほぼ同額で並んでおり、これに中国、シンガポール、豪州、タイなどが続いています。

報道等を眺めていると、「日中双方の経済的な結びつきは非常に強い」、といった印象を受けるかもしれませんが、現実に日本にとっての中国は第4位の投資先で、投資額は18兆7693億円と巨額にも見えるものの、全体に占める割合は6.5%に過ぎないのだと聞くと、少し意外な気もするかもしれません。

中国投資のシェアは減っている

そして、日本企業の対中投資額は増えているものの、中国以外の国への投資額がそれ以上の速度で増えているためでしょうか、中国が日本の対外投資先に占める割合は、むしろ低下しています。

図表4が、その証拠です。

図表4 対外直接投資・国別一覧(2014年)
相手国 金額 構成割合
1位:米国 45兆3150億円 32.61%
2位:中国 12兆4458億円 8.96%
3位:オランダ 11兆2401億円 8.09%
4位:英国 8兆9125億円 6.41%
5位:豪州 7兆3170億円 5.26%
6位:タイ 6兆1784億円 4.45%
7位:シンガポール 5兆3753億円 3.87%
8位:韓国 3兆8172億円 2.75%
9位:ブラジル 3兆7083億円 2.67%
10位:インドネシア 2兆8421億円 2.05%
その他 31兆8264億円 22.90%
合計 138兆9780億円 100.00%

(【出所】日銀『業種別・地域別直接投資』データをもとに作成)

これによると、中国に対する投資額は2014年時点で12兆4458億円でしたが、ランクは2位で、割合も9%近くありました。「金額」で見ると対中投資は増えているのですが、「割合」で見ると対中投資の重要性は落ちているのです。

これも、個人的にはなかなか興味深い姿だと思う次第です。

ちなみに「割合」で見ると、日本の近隣国である韓国も、2014年の3兆8172億円(2.75%)から5兆4849億円(1.90%)へと、金額は増えていますが、割合は下がっていることが確認できます。

いずれにせよ、外国との経済的な関係を検証するに際しては、「ヒト、モノ、カネの交流状況」といった「数値」を最低限、確認することが必要だと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 外務省が公表している国別在留邦人の数(2023年)ではアメリカが41万人余りで断トツ。2位は中国の10万1000人、3位のオーストラリア10万人と続く。
    オランダは投資金額で3位の割には人数で22位の1万にあまり。タックスヘイブンの関係か。

  • (中韓に対しての投資額)

    円換算では「増額・減率」傾向にあるとのことなのですが、ドルで換算すれば「減額・減率」だったりではないのでしょうか?

    対中韓への与信推移がそうであるようにですね。
    *サイレント・フェードアウト・・とか。