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野党議員「公選法違反疑惑」に対するあっさりした報道

自民党の政治家に対しては、ときとして本人が言ってもいない内容で批判するわりに、立憲民主党など特定野党の議員に対しては舌鋒鋭く追及しようとしないのが、日本のメディアの特徴なのかもしれません。立憲民主党の梅谷守・衆議院議員に対する処分を巡る共同通信のあっさりした報道を見ていて抱くのは、そんな違和感です。

上川陽子氏は「子供を産む女性」云々と発言していない

個人的にいつも不思議でならないのは、メディアが自民党の議員や閣僚、首相らの不祥事や失言などをやたらと舌鋒鋭く批判するわりに、同じようなレベルの不祥事や失言などの問題が立憲民主党などの特定野党の側に浮上した際に、同じくらいの熱量で追及している形跡がないことです。

たとえば、上川陽子外相が静岡県知事選の応援演説で18日、「うまずして何が女性か」と発言した件に関しては、一部メディアが「出産が困難な人に対する配慮を欠く発言だと指摘される可能性がある」、などとして、大々的に取り上げました。

この件については『政治家に辞任を求めるならマスコミにも廃業求めるべき』などでも取り上げたとおり、上川氏の発言、全文を読めば、「うまずして」は出産ではなく知事選での当選を意味していることは明らかであり、正直、報道自体が不適切と思わざるを得ません。

「産む」発言、過去には野党政治家も!

ただ、ここでは百歩譲って、「産む」という動詞が「出産困難な人に対する配慮を欠く」、と指摘するならば、野党側の議員の同様の発言についても、過去にさかのぼって批判するのが筋ではないでしょうか。

たとえば、菅(かん)直人元首相(任:2010年6月8日~11年9月2日)は、首相就任前、旧民主党の代表代行を務めていた2007年1月18日、名古屋市で演説を行い、「愛知県では子供を産むという生産性が最も低い」と述べたことがあります。

菅の「産む生産性」発言 柳沢批判の資格あるのか

―――2007.02.08 19:53付 J-CASTニュースより

当時、マスコミの力は現在よりもまだまだ遥かに強かったわけですが、柳沢伯夫厚生労働大臣(当時)が2007年1月27日に「子供を生み出す装置」などの発言を行ったことを舌鋒鋭く批判したわりに、菅直人氏の「子供を産む生産性」云々の発言について、同じ熱量で批判したようには見えません。

また、インターネット上では立憲民主党の辻元清美・国対委員長(※当時)が2018年5月7日付で、「立法府を立て直していく産みの苦しみ」、「ギアを切り替えて徹底審議を行う」と述べた、とする記事の写真が残っていたりもします(※ただし、立憲民主党ウェブサイトで該当する記事は確認できませんでした)。

いずれにせよ、「うむ」(漢字で書くと「産む」、「生む」)という動詞は、「出産する」という意味だけでなく、「今までになかった何らかの(良い)状態を作り出すこと」、「何らかの疑惑や(悪い)事態などが発生すること」など、広い意味で使われます。

前後の文脈を無視し、発言の一部分のみを切り取るという手法が蔓延すれば、そしてこんな切り取りが許されれば、私たちが暮らす社会に不信感が広まるかもしれないなど、大変よくない影響が随所で生じます。

梅谷氏に関するじつにあっさりした報道

そして、同じような話題であっても、「報道機関が党派によって角度を付けている」という疑惑があるとしたら、それはこんな記事かもしれません。

立民、梅谷議員の党員資格停止へ 有権者に酒提供

―――2024/05/21付 共同通信より

じつに、あっさりした報道です。

記事タイトルでもわかるとおり、「梅谷議員」とは、当ウェブサイトでもずいぶんと以前から取り上げてきた、立憲民主党の梅谷守・衆議院議員のことです。共同通信は事実関係のみ短く、立憲民主党が梅谷氏を「党員資格停止処分とする方向で最終調整に入った」、などと報じています。

しかし、これも変な話です。

以前の『立憲民主党の現職議員を刑事告発』でも取り上げたとおり、梅谷氏を巡っては4月9日、新潟県内の男性が代理人弁護士を通じ、新潟地検と新潟県警に刑事告発したことでも知られていますが、その容疑は梅谷氏が有権者に対し、日本酒などを渡していたとするものです。

また、一部メディアによると梅谷氏が渡していたもののなかには、日本酒だけでなく現金も含まれている、といった情報もあります。事実だとしたらとんでもない話であり、党員資格停止という立憲民主党の「甘すぎる処分」もさることながら、報道機関の報道ぶりの素っ気なさにも驚きます。

というのも、現金で日本酒であれ、選挙運動の一環として有権者に対して何らかの利益を供与していた場合は、公職選挙法第221条第1項にいう有権者の買収に該当する可能性があるからです。

公職選挙法第221条第1項

次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮こ又は五十万円以下の罰金に処する。

一 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。<以下略>

そういえば、かつて自民党議員が「うちわ」や「線香」を配った際には、メディアも野党もずいぶんと自民党のことを責め立てましたし、自民党の小野寺五典氏もかつて線香を有権者に配ったとして、1997年に衆議院議員をいったん辞職し、3年間の公民権停止となった、といったこともありました。

こうした自民党議員に対する野党、メディアを挙げた追及の厳しさを踏まえると、最大野党でもある立憲民主党に所属する議員に対する、野党、メディアの追及の甘さは、ダブルスタンダードの極みではないでしょうか。

発覚から3ヵ月しても処分が決まらないグダグダぶり

なお、この梅谷氏の処分に関しては、「後日談」もあります。

産経ニュースなどの報道によると、梅谷氏を巡って同党の常任幹事会は21日、執行部が提案した処分案に対し異論が出たなどとして結論を出すことを見送り、次回以降の常任幹事会で再度話し合うことになった、と報じています。

有権者に日本酒配布の立民・梅谷守氏 党が処分決定を保留、再度協議へ

―――2024/5/21 18:45付 産経ニュースより

これについて産経は岡田克也幹事長が同日の記者会見で、具体的な処分案の内容については言及を避けた、などとしていますが、これも理解に苦しみます。

くどいようですが、問題発覚からすでに3ヵ月も経過しています。それなのに、このグダグダぶり。立憲民主党は有権者に対し、問題発覚から3ヵ月も放置し続けたこと、それでも結論が出ないことなどについて、まともに説明するつもりすらないのでしょうか。

ちなみに自民党の場合、たとえば2022年6月に週刊誌で「女子大生と飲酒した」と報じられた吉川赳(よしかわ・たける)衆議院議員(比例・東海)は自民党を離党しています(ただし、衆議院で議員辞職勧告も出ていますが、いまだに議員辞職していません)。

意識変革?それとも…

いずれにせよ、公選法違反の疑いが濃厚な所属議員に対し、「事実関係をヒアリングし、早急に適切な処分をする」などの体制が整っていないのは、公党としては致命傷ではないでしょうか。

なぜなら、一般に処分が遅れれば遅れるほど、傷は大きくなるはずだからです。

これまで野党に対しては「報道しない自由」の原則が発動し、結果的にマスメディアが全力で擁護してくれていたのかもしれませんが、「共同通信炎上」の一件でもわかるとおり、社会のインターネット化がますます進む現代は、もはやそういう時代ではありません。

このあたりの意識変革の遅れに立憲民主党が気付けるかどうか。

いちおう、注目してみたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  •  そういえば民主党側の失言(?)で世間を賑わすまでいった稀有な例として、故仙谷由人氏の「暴力装置でもある自衛隊」発言がありました。当時野党の自民党が猛反発を示し、記憶ベースでは意外とあっさりでもない報道を受けた国民からもかなりの批判があったよう記憶しています。今とはTV新聞等の報道の信頼や依存度が格段に違うので、同列には語れないかもしれませんが。
     ただこれも純粋な失言であったかというと微妙なところで、暴力装置自体は引用に過ぎません。暴力装置=実力組織、軍や警察を主に指す既存のコトバです。どちらかというと自衛隊を暴力装置=国家の正規軍であると認めてしまっているのでは?という方向で民主党的に失言な気がしますが。発言主旨はシビリアンコントロールの重要性云々というまぁ言ってみれば当然の内容だったかと思います。つまり職業評や左派臭をさせてまで言わんでも良いような事ではありましたが。
     社会党上がりの仙石氏が社会学のマックス・ウェーバーを引用してといういかにも左派的なニオイを発しつつ公務員を装置呼ばわりという一般感覚では失礼なことをし擁護にまわったのがインテリぶりがちな自民党の石破茂……というわけのわからない構図でした。
     個人的には、故人を悪く言うのもなんですが仙谷由人氏は日本国にとってかなり良くない政治家であったと認識しています。それでも氏は一応は官房長官を辞任する姿は見せ後に落選と裁定を受けました。マスコミはまだ自らは責任を取っている姿は無く、公共放送は責任をとらないどころかか裁定が存在しません。その点ではまさか氏の方がマシとも思えるとは。
     また所属や思想によって評を変えることはやはり自制せねばならないなとも再認識をした次第。

    • >暴力装置でもある自衛隊

      暴力装置、懐かしいお言葉です。これは、元は、マルクスかエンゲルスかが著書に書いた言葉で、毛沢東は、それを一般民衆に分かりやすいようにと、鉄砲から革命が生まれると言ったんじゃなかったか?
      こんな事、マルクスなどが言わなくても、権力と法の効力は、最終的に警察や軍隊という力、更に最終的には、身体拘束を伴う物理的な制約を加えることによって担保されるものなのだが。
      社会学者だろうと、そんなことを大変なことのように言うのは、知的レベルがかなり低いレベルの方。
      子供だって最終的には、身体拘束が伴わなきゃ言うことは聞かない。そんなことしてると、押入れに入れるわよ、って言えば、暗くて狭い所に閉じ込めれるのは、嫌だと気付いて、漸く大人しくなる。

      • 大学の頃の記憶ですが、アルビン・トフラーかエズラ・ボーゲルあたりも用いてましたな。
        「近代では、暴力を国家が独占する」
        みたいな使い方。
        (要するに経済学用語で警察力のこと)

        用語自体によいもわるいもありませんわ。

        例えばば産婦人科の教科書にモロ性器の写真が載っていたとしても、それをもって
        「猥褻図画だ!」
        とか騒ぐ奴の方があたまおかしい。
        専門用語ですわ。

        「私は知らん」
        と開き直っても格好悪いだけなのにね。

        • >例えばば産婦人科の教科書にモロ性器の写真が載っていたとしても、それをもって
          >「猥褻図画だ!」
          >とか騒ぐ奴の方があたまおかしい。
          トムソーヤの冒険でもそのネタあった気がする

  •  立憲自体も信者も、自分達が与党の腐敗堕落増長に手を貸しているって自覚は皆無ですね。
     これが改まる事は未来永劫ないでしょう。

  • >いずれにせよ、公選法違反の疑いが濃厚な所属議員に対し、「事実関係をヒアリングし、早急に適切な処分をする」などの体制が整っていないのは、公党としては致命傷ではないでしょうか。

    立憲民主党は選挙互助会なのだから、公党としての自覚が無くても当然だし、公党としての扱いを受ける事を求めていないのではないでしょうか?

  • 立憲民主党にとっては、永田メール事件が今でもトラウマなんでしょう。
    そもそも脛が傷だらけの連中ばっかりだから、オールドメディアの庇護なしでは
    生きられない者ばっかり。「明日は我が身」と考えると、梅谷議員に対しても
    とことんまで優しく!を貫くしかないでしょうね。

    オールドメディアも一蓮托生の運命共同体である以上ずっと庇い続けてくれるでしょうし、
    支持者はみな見て見ぬふりをしてくれる様によく訓練されていますから、
    彼らにとってはこの選択肢が「正解」なのでしょう。この件で彼らを批判する有権者は
    最初から100%敵で、それが変わる事などあり得ないと割り切ってさえしまえば。

    • 小西メール問題ではブーメランの揉み消しに成功してのほほんと議員をやれてるから、

      もうトラウマは無くなってるかもですね。

  • 左派(立憲、共産、社民、れいわ)は、あらゆる犯罪行為を隠されて、ほとんど不問にされているように思う。これでは、国民は選挙時に正しい判断がされているとは言えないと思う。

    「悪いことをしてるのは自民党だけか?」不祥事を見るたびにこの疑問を持つようにして、自民党だけを責める人がいたら、是非そのように問う事を広めていきたい。