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    Categories: 金融

経常黒字は過去最大も…「悪い経常黒字論」にご注意!

経常黒字が過去最大を記録しました。財務省が10日に公表したデータによると、2023年度(2023年4月~24年3月)の経常黒字は25兆3390億円で、とりわけ第一次所得収支の黒字も35兆5311億円と過去最大となった模様です。ただ、こうした中で出てくるのが「悪い経常黒字」論かもしれません。いったいどんな屁理屈なのでしょうか。

円安の効果か…経常黒字を記録

現在の日本は対外債権の金額は対外債務の額を大幅に上回っており、資産効果が大きく出るはずだと考えられる、という点については、『【総論】円安が「現在の日本にとっては」望ましい理由』などを含め、これまで当ウェブサイトにて何度も指摘してきたとおりです。

その答えのひとつが出て来たようです。

財務省が10日、『国際収支の推移』の最新データを公表しました。

これによると2024年第1四半期(1-3月期)の収支は6兆4999億円の黒字でした。貿易収支(▲1兆2326億円)、サービス収支(▲5093億円)がそれぞれ赤字だったにもかかわらず、第一次所得収支が9兆6220億円という黒字を叩きだした格好です。

これについて、前年同期との比較表を作成してみましょう(図表1)。

図表1 経常収支(2024年1~3月vs2023年1~3月)
項目 2024年1~3月 2023年1~3月 増減
経常収支 6兆4999億円 2兆5419億円 +3兆9580億円
貿易収支 ▲1兆2326億円 ▲4兆1610億円 +2兆9284億円
サービス収支 ▲5093億円 ▲9746億円 +4653億円
第一次所得収支 9兆6220億円 9兆0148億円 +6072億円
第二次所得収支 ▲1兆3802億円 ▲1兆3373億円 ▲429億円

(【出所】財務省『国際収支の推移』データをもとに作成)

前年同期比で見て、経常収支は4兆円近く改善していますが、これは貿易・サービス収支の赤字幅がそれぞれ縮小したことによるものとみてよく、第一次所得収支の黒字は引き続き堅調に推移しています。

年度ベースでは過去最大

また、2023年度(2023年4月~24年3月)については、経常収支は25兆3390億円で前年度と比べてじつに16兆2603億円の改善を示しました(図表2)。

図表2 経常収支(2023年度vs2022年度)
項目 2023年度 2022年度 増減
経常収支 25兆3390億円 9兆0787億円 +16兆2603億円
貿易収支 ▲3兆5725億円 ▲17兆7870億円 +14兆2145億円
サービス収支 ▲2兆4506億円 ▲5兆3902億円 +2兆9396億円
第一次所得収支 35兆5311億円 35兆3151億円 +2160億円
第二次所得収支 ▲4兆1692億円 ▲3兆0592億円 ▲1兆1100億円

(【出所】財務省『国際収支の推移』データをもとに作成)

とりわけ第一次所得収支の黒字幅は35兆5311億円で、前年度の35兆3151億円を小幅上回り、過去最大を記録しています。

過去からの経常収支について、年度基準(たとえば2023年4月~24年3月を「2023年度」と見る基準)でグラフ化してみたものが、図表3です。

図表3 経常収支(年度基準)

(【出所】財務省『国際収支の推移』データをもとに作成)

これによると、2023年度は25兆3390億円という黒字は、年度ベースの経常収支で、これまで過去最高だった2007年度(24兆3375億円)を突破していることがわかりますが、それだけではありません。

貿易赤字は(おそらくは原発が止まった影響もあり)2011年以降赤字に転落することが増えていましたが、第一次所得収支に関しては一貫して黒字を計上し続けており、2023年の経常収支は過去最多であることがわかります。

これについては、やはり円安の影響もありそうです。

「国内には還流せず」

ちなみにこの経常黒字について、「悪い経常黒字論」のようなものが配信されていて、なかなかに苦笑してしまいそうです。

経常黒字が過去最大25兆円超、増える投資収益 国内に還流せず

―――2024/05/10 09:31付 Yahoo!ニュースより【ロイター配信】

記事では、第一次所得収支の黒字が膨らんだことに加え、貿易・サービス収支の赤字が縮小したことで経常黒字が増えたことにも言及しつつも、記事タイトルで「国内に還流せず」など、「余計なヒトコト」を付け加えているからです。

ちなみに本文には、こんな記述があります。

黒字拡大は本来なら円高要因とされるが、逆に円安が進み、海外での稼ぎが還流しにくい現状を印象付ける格好となった」。

個人的には、こんなことをするからメディアが信頼を失うような気がしてなりません。

どうして普通に「経常黒字は過去最大」、とだけ事実を述べないのか、不思議です。

いずれにせよ、経常黒字が過去最大、というのは、本来ならば「悪い円安」論の皆さまにとっては非常に苦しい材料ではありますが、「悪い経常黒字」論の皆さまは「おカネを稼いでも国内に還流しない」、といった「悪材料」を喧伝するのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 日本を腐したい、けなしたくてしょうがない新聞記者たちがきっと悪く書くだろう。
    足元警告射撃を喰らって編集部が身を縮める様子が目に浮かぶようです。

  • >黒字拡大は本来なら円高要因とされるが・・

    だったら、諸国は何故に通貨安競争に興じたがるのだろう?

  • 国内に還流せずの記事で

    >直接投資収益の黒字のうち半分程度が海外への再投資に回っており、経常黒字が過去最大になっても短期的には円高要因になりにくい

    これは何を言ってるのかな?

    直接投資とは海外で工場などの事業を行うこと。海外で固定資産更新投資等があれば当然海外で使うでしょう。収益の全部を日本に送金しろと言ってるのかな。

  • 国内に還流せずの記事で

    >直接投資収益の黒字のうち半分程度が海外への再投資に回っており、経常黒字が過去最大になっても短期的には円高要因になりにくい

    これは何を言ってるのかな?

    直接投資とは海外で工場などの事業を行うこと。海外で固定資産更新投資等があれば当然海外で使うでしょう。収益の全部を日本に送金しろと言ってるのかな。

    今朝のモーサテで言っていたが、日本の対外直接投資残高のGDP比はアメリカよりも高いのだそうだ。
    日本企業はそれだけ多国籍化しているという事だろう。

    「世界最大の対外純資産418.6兆円の54.6%は直接投資残高」という記事もあった。

    https://www.dlri.co.jp/report/macro/255725.html

  • 「ドル建ての数字じゃないから無意味」という言説を吐いている輩も散見しますね。

    お前は何を言っているんだという、まさにアレ。

  • 記者だけでなく読者もそういう「日本はダメ!自民政権はダメ!絶対にそうなんだ!」と
    言う記事ばかり求めているんでしょうね。自己否定になるから今更変えられっこない。

    彼らはいつまで身内同士で慰めあうエコーチェンバーの中に閉じこもり続けるのでしょうか。
    いずれは人数も金も足りなくなって、危険を覚悟で外に出るしかないのに。

  • 良いも悪いも、ドルで稼いで円に戻したら、為替差益で売上が大きくなったと言うだけ。この先、為替がこのままだったり、逆に円高に振れたら、今年の業績は悪くなるでしょう。

    円安で浮かれている人がいるみたいだが、エネルギーや食費など生活に必要で輸入に頼っているモノの物価は、賃上げ以上にあがっている。企業栄えて庶民の屍累々って感じですな。

    • 「企業栄えて庶民の屍累々って感じですな。」

      1ドル=80円の時には、
      「製造業が死んで(国内廃業&海外進出)庶民はウハウハ」
      って感じでしたな。

      年金生活者&投資家(資産家)はウハウハ。
      雇用ゼロで失業してる子育て世帯は屍累々だった訳でして。

      新宿さんとこでの議論の流れに、ついて来られてますか?
      難しいですか?
      わからんのですか?

  • 日本経済新聞とかには是非「悪い」経済論シリーズを刊行していただきたい。
    もはや期待してしまう。

    悪い繁栄
    悪い人類の黎明
    悪い人類
    悪いマルクス主義

    あれ?マルクス実像はとんでもない金持ちボンボンのプー太郎だからそのままか…

    • 今週の大特集
      1.悪い経済新聞
      2.悪い経済団体
      3.悪い経営者
      これをして現代日本の三悪と呼ぶ
      日経よく読む負けを呼ぶ。タダ読み上等新聞記事。弊社も御社も真っ赤か。オムロンの二の舞はごめんだ。

      • はにわファクトリー様

        なんかもう往年の大映テレビドラマシリーズみたいですよね。

  • 一国の経常収支黒字が行き過ぎると世界経済全体に悪影響が出るので、一応悪い経常収支黒字というのはあるにはあります。

    が、それはこの記事で取り上げられてるような内容ではなくて、アヘン戦争の原因とかそういう種類の話なので、マスコミとか一部界隈が言いたがってる悪い経常収支黒字論は的外れなものなのは間違いありません。

    マスコミが騒いでる悪い○○論全体が、個別の○○に入るものが原因ではなく、何十年にもわたって続いたデフレと増税によるひずみによって起こっているものです。

    今は単にそのひずみが正されはじめた状況でしかなく、またひずみを正すのにノーダメージということはまずありえません。

    何十年も続いた問題なんだから、解決までそれなりの期間をかけて小さいダメージで乗り切るか、大ダメージ覚悟で一気にやるかのどちらかしかないのですが、日本全体がそのあたりの覚悟が決まらず右往左往している印象はあります。

  • >黒字拡大は本来なら円高要因とされるが、逆に円安が進み、海外での稼ぎが還流しにくい現状を印象付ける格好となった」

    輸入代替効果で利益が見込める業種への投資としての還流がなされていない、と言えるのでは?

    なので、輸入代替効果を期待する人にとって、その規模と時期に不安を感じる要因になるかと。

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