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新聞部数減を電子版増加でカバーできず=メディア指標

株式会社朝日新聞社は22日、4回目となる『朝日新聞メディア指標』を公表しました。今回公表されたのは2024年3月末時点のもので、これによると朝刊のABC部数は半年前と比べ13.6万部減の343.7万部、朝デジ有料会員数は半年前から0.3万件増えて30.6万件でした。新聞部数の落ち込みをデジタル版でカバーできていない格好です。ただし、部数減少ペースについては、若干ですが、鈍ってきました。これについてどう見るべきでしょうか。

朝日新聞メディア指標の公表

株式会社朝日新聞社が2023年1月19日以降、公表を始めたデータが、『朝日新聞メディア指標』です。

これによると、これは株式会社朝日新聞社の「媒体力」を示すためのもので、「報道機関である朝日新聞のコンテンツがどれだけの人に届いているかを示す指標」として、▼朝刊販売部数、▼朝日新聞デジタル有料会員の合計数――などの項目を、原則として半年ごと、4月と10月に公表するとしています。

これについては初回だけは2022年12月の数値が公開されたのですがが、2回目以降は23年3月、3回目は23年9月末時点のものが公開されており、そして今般、22日にその4回目として2024年3月末のデータが公開されました。

「朝日新聞メディア指標」を更新

―――2024-04-22付 株式会社朝日新聞社HPより

注目すべきは「朝日新聞におカネを払っている人数」

個人的に媒体としての朝日新聞の報道スタンスを巡っては同意できない点も多々あるのですが、部数などのデータを公表しない社が多いなかで、社として経営指標を公開しようとする姿勢自体は高く評価できるものだと思います。

ここに改めて、『朝日新聞メディア指標』を公開した点に関し、株式会社朝日新聞社には敬意を表するとともに、感謝申し上げたいと思います。

ただし、当ウェブサイトも「公表情報をもとに『数字で』議論すること」をモットーとしている以上、いったん数値が公開された以上は、同指標に関しても遠慮なく、論評の対象にさせていただきたいと思います。

さて、『朝日新聞メディア指標』にはいくつかの指標が公開されており、公開されている情報には、たとえば朝刊部数(ABC部数)や朝デジ有料会員数に加え、「朝日ID会員数」、「月間ユニークユーザー数」、「LINE友だち登録数」なども含まれます。

ただ、具体的に当ウェブサイトが注目したいのは、「朝日新聞におカネを払っている人たちの人数」であり、その意味では本稿で取り上げるのは朝刊部数と朝デジ有料会員数、両者の合計、という3つのデータに絞らせていただきます(図表1)。

図表1 朝日新聞メディア指標の一部
時点 朝刊部数 朝デジ有料会員 合計
2022年12月 383.8万 30.5万 414.3万
2023年3月 376.1万(▲7.7万) 30.5万(±0.0万) 406.6万(▲7.7万)
2023年9月 357.3万(▲18.8万) 30.3万(▲0.2万) 387.6万(▲19.0万)
2024年3月 343.7万(▲13.6万) 30.6万(+0.3万) 374.3万(▲13.3万)

(【出所】株式会社朝日新聞社・コーポレートサイトの報道発表をもとに作成。なお、「朝刊部数」はABC部数を意味する。カッコ内は前回対比増減)

「2015年3月期」以降、毎年40万部ずつ減り続けた朝日新聞朝刊

これによると朝刊部数は343.7万部、朝デジ有料会員は30.6万件で、合計すると374.3万。それぞれ半年前の2023年9月末時点と比べ、朝刊部数はマイナス13.6万部、朝デジ有料会員数はプラス0.3万件で、合計値はマイナス13.3万件でした。

ですが、これらの数値はいったい何を意味するのでしょうか。

じつは、朝日新聞の部数はここ数年、一貫してマイナスを記録し続けてきました。

情報源は異なりますが、たとえば株式会社朝日新聞社の昨年3月末時点までの有価証券報告書をもとに、朝日新聞の部数を拾っておくと、図表2のような具合です。

図表2 朝日新聞の部数推移

(【出所】株式会社朝日新聞社有価証券報告書をもとに作成)

朝刊に関しては2006年3月期に813.2万部だったものが、2023年3月期には399.1万部へと減っており、とりわけ(いわゆる自称元慰安婦問題に関連する報道を撤回した)2015年3月期には1年で42.8万部減っていて、それ以来、直近まで毎年平均40万部前後ずつ減少し続けてきました。

こうした減少幅と比べてみれば、2024年3月時点の「半年前と比べて13.6万部の減少」というのは、減少速度だけで見れば、マイルドになっている、という言い方もできます。なぜなら、年換算だと27.2万部の減少であり、これは2015年3月期以降で見て、最も少ない減少幅だからです。

朝日新聞が2023年5月に月ぎめ購読料などの値上げに踏み切っていたという事実を踏まえると、これはなかなかによく踏ん張っている、という言い方もできるかもしれません。

シナリオでいうところの「緩和シナリオ」に近い?

このあたり、当ウェブサイトではしばしば言及する通り、一般社団法人日本新聞協会のデータに基づけば、新聞業界全体の部数が近年、あたかも放物線を描くように減っているという事実を思い出しておく必要があるかもしれません(図表3)。

図表3 新聞部数はこれからどうなるのか

(【出所】1983年~2023年については一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』および『日本新聞年鑑』データ、シナリオ①~⑤は当ウェブサイトにて作成。ただし、セット部数を朝刊1部・夕刊1部とカウントし直している)

ちなみにグラフに示した「加速」、「線形」、「緩和」の意味は、それぞれ次の通りです。

  • ①消滅加速シナリオ…新聞部数の消滅ペースが2023年までと比べ毎年50万部づつ加速していく
  • ②線形消滅シナリオ…新聞が2024年以降も毎年318部ずつ直線的に減少していく
  • ③消滅減速シナリオ…新聞部数の消滅ペースが2023年までと比べ毎年25万部づつ減速していく

これによると最速の「加速シナリオ」だとで2029年ないし30年に、線形で減っていったとしても2033年に、それぞれ新聞部数がゼロになってしまうという計算で、「消滅減速シナリオ」ならば、いちおう2030年代になっても新聞部数は辛うじて1000万部の大台を維持している、という計算です。

今回の朝日新聞メディア指標の数値自体、新聞部数の消滅ペースが緩やかになっているという意味においては、上記③の「消滅減速シナリオ」、すなわち新聞部数の消滅ペースが今後減速し、新聞自体が廃れずに生き永らえるという可能性を示唆するものでもあります。

有料会員数は増えたが…紙媒体の減少をカバーできていない

もっとも、こうした楽観的な見方には、いくつかの問題があることも事実でしょう。

まず、たった半年分の、しかも株式会社朝日新聞社1社分のデータ「だけ」で、「新聞業界のこれからの部数は、こうだ!」、などと決めつけるには、少し材料が足りません。

トレンドを見極めるにはまだデータは不足しているかもしれませんし、これに加え、本来ならば、朝日新聞以外の各紙(とくに地方紙)の同期間の増減データについても知りたいところです。

(※もっとも、ABC部数については匿名掲示板などに数値が書き込まれているようですが、これについては本当に正確な数値なのかどうかが怪しいのに加え、本来は有料会員向けにしか公表されていないデータなのだとしたら、それをもとに論評するのは少し危険でもあるため、当ウェブサイトでは取り上げないことにします。)

したがって、新聞部数の減少ペースが鈍ったのかどうかについて、現時点で判定を下すのは、控えたいと思います。

ただ、なんとも印象的なのが、有料会員数です。

朝デジ有料会員は、2022年12月時点で30.5万人、3ヵ月後の2023年3月末時点でも30.5万人で横ばいだったのですが、これが6ヵ月後の2023年9月末時点で0.2万人減って30.3万人となり、これが2024年3月時点で0.3万人増えて30.6万人となりました。

朝デジの有料会員が久しぶりに増加に転じたことは、株式会社朝日新聞社にとっては「朗報」だったといえるかもしれませんが、それでも朝刊部数の減少幅▲13.6万部と比べれば、ごくわずかです。

つまり、少なくとも株式会社朝日新聞社は、新聞部数の減少をデジタル版有料会員数の増加で補えているわけではない、ということです。

最大手の株式会社朝日新聞社ですらこうなのですから、同業他社は推して知るべし、といったところでしょう。

残念ながら、株式会社朝日新聞社以外の新聞社がデジタル版の有料会員数をどれだけ伸ばせているのか(あるいは伸ばせていないのか)に関するデータはほとんどないため、朝日新聞の事例で類推するならば、デジタル版契約が1増えても、新聞部数が30の割合で減って行っている、ということでもあります。

広告費の世界ではジリ貧が続く

いずれにせよ、衰退の速度が加速するのか減速するのかはわかりませんが、新聞業界自体が衰退に向かっている、という「ベクトル」自体は間違いありません。

そういえば現在は新聞部数が辛うじてまだ踏み止まっているのも、想像するに、「チラシ需要」などの要因も手伝っているのではないかと考えられますが、新聞にはまだ一定数の購読者層が残っているものと思われる反面、新聞、チラシを合計した広告費はジリ貧状態が続いています(図表4)。

図表4 新聞広告費と折込広告費

(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)

おそらく新聞の購読者がほとんどいなくなるのは時間の問題です。

このように考えていくと、新聞部数の減少が多少緩やかになったとしても、新聞広告費についても減少ペースがもうしばらく続きそうにも見えます。なぜなら新聞等の広告費の減少は、「一時的な現象」というよりも、新聞というビジネスモデル自体がライフサイクルの衰退期を迎えていることの証左でもあるからです。

このあたり、朝日新聞、あるいは新聞業界自体がこれからどうなっていくのかについては、あまり予断めいたことを述べるべきではないのかもしれませんが、少なくとももうしばらく、部数に関するデータには注目する価値があることだけは間違いなさそうです。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 新聞報道機関とて企業体である以上、自社商品を買ってもらえる理由理由、持続可能な稼ぐ仕組みを考え続けるのは当然です。輪転機を回して刷った紙を新聞配達店に送り付ければアガリが転がり込んで来る時代ではありません。

  • 事実を報道するに当たって 角度をつけたり 報道しない自由を駆使している会社の、こうしたデータは 信用するに値しないと思われる。

  • 新聞社としては、社内で不満がでないように、新聞部数減に対応する方法としては、電子版でカバーする方法か、値上げしか思いつかないのではないでしょうか。(「その方法で上手くいかないのは、社会が悪い、最近の若者が悪い」ということで)

  • >2006年3月期に813.2万部だったものが、2023年3月期には399.1万部へと減っており

    このペースは年率4%の減少。17年間で半分以下になっている。

    2024年3月は前年の376万部から343万部へ1年間で9%減少している。
    このペースが続けば5-6年で200万部を下回る。

  • ブン屋さんネェ…
    お手盛りキャンペーンで消費税軽減税率にブッこんできたくらいですから、悪足掻き次は「点字新聞の扶助」を無理繰り拡充でもさせて『保護世帯に新聞購読料を扶助』キャンペーンでも…モシカシテモウヤッテル??

  • テレビの広告収入減をTVerで補えない「死の谷」の話と被って見えます。TVerのHPでも「会員登録数」の増加を誇っていました。売上は広告視聴数依存らしいのですが。

    >「朝日ID会員数」、「月間ユニークユーザー数」、「LINE友だち登録数」
    好意的に読むと「潜在力」なのでしょうかね。結果(売上)だけで評価されると厳しいから?
    有料会員数は増と言っても、頭打ち後の微細な上下動の範囲という想像をしてしまいます。

    しかし、朝刊発行部数がメディア指標、有報、ABCで一致しないとか、そういう数字を整えるところなどは、情報を扱うプロの会社としてなんとかならんのでしょうかね。(棒)
    (まあ、触れたくないしがらみもたくさんありそうですが)

  • チラシに頼れないぐらい地域配送の経営が厳しくなってきたら、本体廃業までの時間稼ぎの間は、自前配送インフラ存続は諦めて、第三種郵便物として日刊、隔日刊、週刊になっていくのでしょうか。但し印刷系も自前であれば連結対象から切り離しとか、まだまだ時間稼ぎの手は打てそうですが。

  •  この増減、極簡略化して表現すると、
    [紙でとっていたAさん、Bさん、Cさんが購読をやめてDさんが新規にデジタル版を契約=3減1増]というような単純な図式ではなく、
    [Aさん、Bさんは朝日絶ちをしてCさんがデジタル移行、Dさんは存在しない=2減0増]
    という方がありえそうです。
     ご指摘どおり部数減少そのものについては健闘しているかもしれませんが、全体の差分がこの程度では、新規顧客獲得についてはほとんど無いんじゃないでしょうか。

  • 2022年12月から2023年3月まで1年3ヶ月で、40万部減少し、電子版は30万件で横這い。これを見れば、この40万部の減少は、電子版への移行ではなく、純粋な紙版の減少だろう。電子版がこれ以上増えることは無いだろう。
    ここで、疑問は、紙版の購読者はどんな人達か?ということ。素直に考えれば、斜陽な商品の新規購入者というものは、それ程いないはず。
    つまり、現在の新聞購読者とは、惰性で購読しているものが殆どではないか?すると、その購読者層とは、ずっと昔から購読している高齢者層だろうと考えられる。高齢者層の中で、介護などの支援を受けずに独立して生活している人達が、長年の習慣で購読し続けているのだろう。こういう層の減少と、新聞購読数は、ある程度比例していくのではないか?
    このような購読者層の分析は、新聞社はやっているはず。その分析の下に、撤退時期を既に計算しているのではないか?こんな計算は、誰でも出来ることだから。
    さて、この見方から見ると、団塊の世代が、いま後期高齢期に入って、この層が独立生活が出来なくなった時、ある日突然、新聞購読数の激減が発生するのではないか?
    ある日、突然、気がついたら、世の中から新聞が消えていた!なんて!
    平均寿命から見て、それは、5年以内?

    • ついでに。
      広告費は、新聞とチラシで、8千億円。今、ネットでの広告費がオールドメディアでの広告費を抜いている。ネットでの広告は、プラットフォーマーの支配下にある。ネットのプラットフォーマーは、GAFAである。
      電通が本社ビルを売らなきゃならない日本の広告業界の現状とは、これに起因していることは間違いないだろう。日本企業が支出する広告費は、GAFAに流れる。日本の貿易外収支の赤字は増え続けるだろう。日本は、国際IT戦争でも負けたようだ。

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