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業界が衰退なら円安も円高も無関係に倒産が増えるはず

いくら景気が良くても、業界自体が左前になっていけば、個別企業も事業継続を断念せざるを得ない状況に追い込まれるのは仕方がないのかもしれません。世の中的なトレンドとしては(さして役立つとも思えない)「円安倒産」「人手不足倒産」などに関するデータにも注目が集まっているようですが、個人的にはパチンコや新聞など、「業界として傾いている産業」で、どんな倒産が発生するのか、注目したいと思う次第です。業界が衰退するなら円安も円高も無関係に倒産が増えるはずだからです。

どんな時代も倒産が発生するのは当然のこと

「円安倒産」や「人手不足倒産」は適切な用語なのか?』を含め、最近、当ウェブサイトでしばしば指摘している通り、昨今は「円安倒産」だの、「人手不足倒産」だのといった、なかなかに不思議な表現を見かけることが増えている気がします。

円安を主因とした倒産、人手不足を主因とした倒産、ということだと思うのですが、そもそも定義自体が曖昧であるうえに、それらが「増えている」、「減っている」などと統計を取ってみたところで、なにか意味があるようにも思えません。

日本ほどの大きな国であれば、どんな好景気であっても、企業の「倒産」がゼロになることはありませんし、ましてやコロナ禍のころから始まった、いわゆる「ゼロゼロ融資」(利息ゼロ・担保ゼロの融資)の弁済期がそろそろ始まろうとするなかで、倒産件数はこれから増えていくことが予想されるところです。

ゼロゼロ融資による倒産はこれから増えるかも?

ちなみにこの「ゼロゼロ融資」とは、新型コロナウィルス感染症(いわゆる武漢肺炎)の影響を受けた企業に対し、一定条件で実質無利子・無担保・最大5年の貸付などを行うというもので、2020年に始まり、政府系金融機関は2022年9月まで、民間金融機関も2021年3月まで、新規貸付を受け付けていました。

この「ゼロゼロ融資」は、名目はあくまでも「コロナ禍で売上が落ち込むなどした企業や事業者の支援」などに主眼が行われていましたが、実質的にはコロナ禍以前から業況が芳しくない企業の支援にも使われてしまっているのが実情のようです(※これに関する情報源は秘匿します)。

また、「ゼロゼロ融資」が行われた件に限らず、コロナ禍などの異常事態を受け、中小企業などに対する融資の返済基準が緩和される傾向にあったことなどを踏まえると、最近の倒産事例は「人手不足倒産」や「円安倒産」などではなく、「放っておいてもどうせ倒産していた会社」、というケースも多いようです。

「人手不足倒産」だ、「円安関連倒産」だ、といったデータが出て来ても、それをそのまま鵜呑みに信じるのは難しいところですし、ましてやそれらのデータが政策当局者らに対しても、何らかの有益な情報を提供するものとも思えません。

そもそも、俗に「倒産」と呼ばれる経済事象については、法的整理(民事再生法、会社更生法、破産など)にしろ、私的整理にしろ、原因を明確に特定できるものとは限りません。

「人手不足倒産」や「円安倒産」に集計されている倒産も、実際のところはなにか他の原因で経営破綻に至ったものの、対外的には「人手不足」だ、「円安」だと説明した方が格好がつくから、そう説明しているにすぎない、といった事例もあるのではないでしょうか(あくまでも想像ですが)。

外部経営環境による倒産

さて、あくまでも一般論ですが、倒産には「外部要因が関わっているかどうか」という観点から、大きく2つに分けられると思います。

ひとつは、輸入企業や労働集約産業のように、「円安」、「人手不足」といった要因で経営破綻に至る可能性がある企業でしょう。

たとえば「米国産の牛肉を使っているステーキ店で、12年前と比べて仕入値が3倍になったが、価格に転嫁できず、利益が圧縮されて事業が廻らなくなり、倒産する」というケースがあったとしたら、これは「円安関連倒産」といえるかもしれません。

また、「代わりはいくらでもいる」、「安い時給で働かせる」といった具合に、労働者を湯水のように使う業態で、今までのような「時給1,000円未満」などでは人が雇えなくなり、働き手がいなくなって経営が立ち行かなり、廃業するというケースは、「人手不足倒産」といえるかもしれません。

こうした倒産は、ある意味では仕方がない話でもあります。

なぜなら、「経済とはそういうもの」だからです。

(なお、「米国産牛肉の仕入れ値が3倍になった」とする話題は、どちらかといえば円安というよりも米国内の物価上昇、という方が、ファクターとしては大きいような気もしますが、とりあえずこの点については気にしないことにしましょう。)

業界自体が傾けば…たとえば新聞業界

ただ、「外的要因による倒産」として、もうひとつ考えられるのは、「その業界自体が斜陽化していること」に伴う倒産ではないでしょうか。

真っ先に思いつくのは、新聞、テレビなどのマスメディア産業でしょう。

とくに新聞に関していえば、一般社団法人日本新聞協会のデータに基づけば、近年、部数が放物線を描くように減っているのです。これについて、新聞部数がこれからどうなるのか、過去のグラフの線形から3つのパターンを予測してみたものが、次の図表1です。

図表1 新聞部数はこれからどうなるのか

(【出所】1983年~2023年については一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』および『日本新聞年鑑』データ、シナリオ①~⑤は当ウェブサイトにて作成。ただし、セット部数を朝刊1部・夕刊1部とカウントし直している)

ちなみにグラフに示した「加速」、「線形」、「緩和」の意味は、それぞれ次の通りです。

  • ①消滅加速シナリオ…新聞部数の消滅ペースが2023年までと比べ毎年50万部づつ加速していく
  • ②線形消滅シナリオ…新聞が2024年以降も毎年318部ずつ直線的に減少していく
  • ③消滅減速シナリオ…新聞部数の消滅ペースが2023年までと比べ毎年25万部づつ減速していく

これによると最速の「加速シナリオ」だとで2029年ないし30年に、線形で減っていったとしても2033年に、それぞれ新聞部数がゼロになってしまうという計算で、「消滅減速シナリオ」ならば、いちおう2030年代になっても新聞部数は辛うじて1000万部の大台を維持している、という計算です。

単純に不便だから

ただ、社会のインターネット化・ペーパーレス化がここまで急速に進んでいるなかで、2030年代も新聞部数が1000万部台を維持するとも考え辛いところです。現時点でも新聞のメイン購読者は高齢層に極端に偏っているからです。

あくまでも個人的な予測だと、今後の新聞部数は減ることはあっても増えることはないと考えています。

その要因は、「新聞の情報にウソが多いということに気付く国民が増えている」、「多くの国民にとって、新聞というメディアそのものにカネを払う価値を見出せなくなっている」といった点もさることながら、やはり最も大きい要因は、単純に、「不便だから」、ではないでしょうか。

紙をめくるのにインクが手に付着する。

持ち運ぶのに不便。

印刷物なので情報が更新されない。

目が悪くても拡大できない。

これ、すべてPC、スマートフォン、タブレットなどで新聞を読んでいれば生じない問題点ばかりです。

現在はチラシ需要などもあって、新聞にはまだ一定数の購読者層が残っているものと思われますが、いつも取り上げている通り、新聞、チラシを合計した広告費はジリ貧状態が続いています(図表2)。

図表2 新聞広告費と折込広告費

(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)

おそらく新聞の購読者がほとんどいなくなるのは時間の問題です。

というよりも、新聞広告費の急減は、一時的な現象ではなく、事業自体がライフサイクルの衰退期を迎えていることの証左でしょう。

オルゴールが蓄音機になり、蓄音機がレコードプレーヤーになり、レコードプレーヤーがCDラジカセになり、CDラジカセがウォークマンになり、ウォークマンがiPodになり、そしてスマホになり…、といった具合に、テクノロジーが進めば、古い時代の製品・サービスは廃れていきます。

あるいは活動写真がトーキーに変わり、映像は映画館ではなく白黒テレビ、カラーテレビで自宅で見るようになり、動画配信サービスが出現するなど、サービスはどんどんと変わっていきます。

もちろん、完全に世の中から消滅するのではなく、サービスが一部生き残ることもあるのかもしれませんが(現に映画館は現在でも生き残っています)、それでも新しいテクノロジーが出現すれば、古いテクノロジーが廃れていくのは世の常です。

パチンコホールの関連事業を営む社が経営破綻

さて、産業自体が消滅していく、というのは、ある意味ではやむを得ないものですが、個人的に注目する、マスコミ各社と並んで「消えゆく産業」のひとつといえば、それはパチンコだと思います。

パチンコ業界が本当に恐れるのは「初心者の流入減少」』などを含め、しばしば当ウェブサイトにても取り上げて来たとおり、現実問題として全国からパチンコ店が消えつつあります。

東京の都心でも、繁華街などから徐々にパチンコ屋が消滅しているのですが、こうした中で19日、ちょっと気になる記事を発見しました。

パチンコホール設備投資の減少が影響 パチンコ台取り付け関連の工事会社が破産【新潟】

―――2024/04/19 07:47付 Yahoo!ニュースより【UX新潟テレビ21】

新潟県のローカルの話題ですが、同県内でパチンコ台を取り付ける前の工事などを請け負っていた会社が裁判所から破産開始決定を受けた、とするもので、東京商工リサーチによると倒産したのはパチンコ台を取り付けるための弱電工事を主力に、弱電機器部品を販売していた業者だそうです。

具体的には、2004年4月期に1.6億円だった売上高が、パチンコホールの設備投資減少の影響で、2019年4月期には売上高が一気に2000万円にまで落ち込んでいたそうで、事業自体はすでに2019年末に停止。債務が残っていたことから債務整理を進めるために破産手続に移行したようです。

パチンコ店は減り続けているが…店舗の大型化は進む

パチンコ業界に詳しい方ならばご存じかもしれませんが、パチンコ店自体は一貫して減少を続けています。

全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)『全国遊技場店舗数及び機械台数(警察庁発表)』によると、パチンコ・パチスロなどの店舗数は1995年の18,244店をピークに減り続けており、直近の2022年の店舗数は7,665店と、ピーク時に比べて6割減りました。つまり半分以下、ということです(図表3)。

図表3 全国の「遊技場」の店舗数

(【出所】全日遊連『全国遊技場店舗数及び機械台数(警察庁発表)』をもとに作成)

パチンコ屋の場合、店舗数は警察の規制とも密接に関わっているようですが、減り方の速度はグングン上昇しています。

コロナ禍が深刻化した2020年12月末時点の店舗数は9,035店で、前年比で見ると604店舗減少したのですが、2022年12月末の前年比減少数は793店舗となっており、前年比1,089店舗減少を記録した2007年を別とすれば、これは過去最高のペースです。

ただし、パチンコ・パチスロの台数自体は店舗数と比べればさほど減っておらず(図表4)、いわば、パチンコ業界は店舗の大型化で時代の波に抗っている、という実態が見て取れるのです。

図表4 パチンコ・パチスロ等の台数

(【出所】全日遊連『全国遊技場店舗数及び機械台数(警察庁発表)』をもとに作成)

だだ、これも正直、廃業ないし業態転換できるタイミングで、パチンコ屋の経営を断念する、という決断ができるかどうか、という話なのかもしれません。

規模が小さなパチンコ店は、規模が大きなパチンコ店に吸収してもらう、パチンコ屋を廃業してゲームセンターやカラオケ店などに業態転換する、といった道が残されているのかもしれませんが、いずれにせよ、パチンコ産業自体が衰退すれば、関連する事業も売上が激減していくのは自然な話でしょう。

いくら景気が良くても業界自体が左前になれば、事業を断念せざるを得ない状況に追い込まれていくのは仕方がない話です。というよりも、業界が衰退中ならば、円安だろうが円高だろうが、それと無関係に倒産は増えでしょう。

おそらくパチンコ業界も新聞業界も、さほど遠くない未来において、「何らかの結論」が見えて来るのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • 清水建設の決算予想が巨額赤字というニュースがあった。
    大型(つまり工期の長い)工事で原価が膨らんだためらしい。
    円安との関連には触れていないが、今後輸入資材の価格が上がると他の建設会社でも赤字工事が増えるかもしれない。

  • 2030年代
    リニア中央新幹線品川名古屋間が開通するか?
    新聞業界が壊滅するか?
    どちらが早いか?
    どちらも楽しみに胸ワクワク過ごしたいと思います。

  • またいつもの再構築が起きる、起きているだけと言えましょう。
    製造業で見ると、自転車産業の興廃が参考になりそうです。
    素材、部材、部品、アッセンブル、各階層に広く在った関連産業も今や国内には一部に散見されるのみです。
    工業化の進展度なども関連する要素といえますが、戦前より高品質な製品として完成品の自転車を日本国内で生産して輸出、戦後も車体や部品単位などでも海外から受注してきた日本の自転車産業はほぼ壊滅しています。また、これら製造業から各部品類を選り集めて完成車を仕立て小売業者へ販売していていた商社もほぼ見なくなりました。
    残っている老舗の看板を持つ企業も海外生産やブランドのみの存続などで、雇用を伴う製造業としては国民経済への寄与も小さいものとなっていますが、こうした国内自転車産業の衰退は国内自転車市場の規模推移とはリンクしていません。
    転業、廃業、倒産、消えていった国内自転車産業従事者たちは何処へ? マスメディアが大騒ぎした記憶も無いですが、それぞれに受け皿になる業種業界に拡散して吸収されたのでしょう。

    • 面白い考察です。良く整理された内容なので理解し易いです。こういう整理された書き方は、理解するのに余計なエネルギーを使う必要がないので、読むと、その先へと思考を進めることが出来ます。
      この自転車産業の事例を読んで、これが、先進国の産業の宿命のようなことなのか、と気付きました。
      産業は需要拡大の興隆期には、技術も品質も低いので、構成部品や構造などいろいろと研究開発されます。需要拡大期なので、高くても売れます。本当に必要な人が買います。所が、社会の発展によって移動手段がいろいろと多様になると、自転車をどうしても必要とする人の数は減ります。そうすると、ニーズは2極化します。趣味で乗る高級品か、取り敢えず一家に一台あれば良くて兎に角動けば良い安いものか。
      まあ、何れにしても需要台数は限られますし、また、高級品と安いものでは、作り方が異なります。
      よって、拡大する国内需要だけを当てにした産業構造は維持出来ません。
      グローバル市場を当てにした産業構造に変化して行かなければなりません。
      高級品には、高機能高品質部品、低価格品には、取り敢えず動けば良い部品、組み立ては人件費の安い所、と見て行けば、現在の自転車産業の有様は、ご説明の通りに納まります。
      最近、買ったママチャリに、シマノのギアが使われていたのには、驚きましたが。

  • 一つの仕事で失敗しても、次の仕事で取り返せば良い、と言われた時代があった。社会全体の需要が拡大していた高度成長期だ。取り返せば良い、とは、次で取り返せる程仕事が溢れているということだった。
    これを、業界に当て嵌めれば、成長業界は仕事が継続して増えている業界。やり直しは利くし、外部経済環境の変化にも対応出来る余裕はある。一方、衰退業界は、延命か撤退時期を考えながらやって行かなくてはならない。外部環境の変化の大波中波小波で、強制的に撤退時期が早まったり、延命が出来なくなったり、ということがある。
    人手不足、円安、という外患が見えた時、乗り越えられないと判断すれば、廃業や解散という選択をすれば、その衰退業界に固定されていた労働力は、解放される。
    昔、ある人から聞いた話。彼が若い時に勤めた会社。業績が良くなくて給料が払われなかったので、従業員達で半年以上会社に立てこもった、と。
    この話を聞きながら、払われる可能性の低いものに半年も拘るよりも、未だ若いのだから、さっさと次の仕事見つけて、そこでバリバリ仕事した方が良いのに、と思った。
    会社も給料払えないなら、さっさと会社廃業すれば、未払い給与を国が払ってくれる制度もあるらしい。従業員も次の仕事を見つけることに取り掛かれる。

  • 円安倒産と言うのはおかしな表現だとは思います。円安倒産があるなら円高倒産もあるよねって話になりますが、こんな話をしたところでアホらしいって事になります。

    もちろん為替の影響で倒産って話はあるでしょう。しかし、それは為替変動に耐えられないほど企業の体力が落ちていたと言うだけです。問題は為替ではなく企業体力が落ちている事です。

    製造業、例えば日本の自動車産業は米国の規制に苦められてきました。例えば米国の排ガス規制とかその一つですが、向かい風に負ける事なく頑張って力をつけてきました。

    しかし、最近の製造業は円安に低金利と甘やかされたために、かえって競争力を落としているのではないでしょうか?

    円安は製造業のためになるのではなく、単に製造業の経営者を甘やかしているに過ぎません。人為的な低金利と金融緩和はそろそろ終わりにした方が良いかと思います。