今から2年前に開催された経産省の会合に提出された三菱重工のマイクロ炉に関する資料を眺めていて思ったのですが、このマイクロ炉の出力は電力ベースで500kWとのことであり、年間に生み出す電力量は太陽光発電所1ヘクタールの6.7倍にも達する計算です。同じ賦課金を徴収されるなら、高くて危険で環境にも悪く不安定な太陽光発電を推進するよりも、むしろ次世代原子炉の開発に使われた方がうれしい、と思う人も多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
特定企業の宣伝はできるだけしないつもりですが…
普段、当ウェブサイトでは(マスメディア各社を除く)特定企業に関する話題について、あまり積極的に取り上げていません。理由はいくつかあるのですが、その最たるものは、個別企業からは可能な限り距離を置き、できるだけ公平な視点から物事を議論したいと考えているからです。
もちろん、著者自身は産経新聞社が刊行している『月刊正論』をはじめ、いくつかのメディアに小論を寄稿させていただいたこともありますので、「この世のありとあらゆる政党や企業から完全に独立の立場を貫いている」というわけではありません。
しかし、個別企業の名前を出すと、「密かにその企業の宣伝をしている」(俗にいう「ステルス・マーケティングをしている」、という疑いを持たれる可能性もあるため、「JALのサービスは素晴らしい」などと記述する場合は、可能な限り、競合他社であるANAについても取り上げる、といった工夫をしているつもりです。
(もちろん、常にそれができているわけではないと思われますが、この点については平にご容赦ください。)
三菱重工のマイクロ炉が素晴らしい!
ただ、注目に値する取り組みを行っている企業、この世を変えてしまう可能性がある発明を行った企業などがあれば、それについては具体的な事例を挙げたうえで、堂々と実名を挙げても良いのではないか、と思っていることもまた事実です。
その典型例が、三菱重工業株式会社が開発中の「マイクロ原子炉」ではないでしょうか。
経産省の「総合資源エネルギー調査会」に関連し、今からちょうど2年前の2022年4月20日に開催された第1回『原子力小委員会・革新炉WG』で三菱重工が提出した資料8番『三菱⾰新炉開発の取組み』(※PDFファイル)が興味深いのです。
スライド資料のP14『マイクロ炉の開発』によると、三菱重工が「米国と協調しながら開発中」の「ポータブル原子炉」という話題が出てきます。
これは、「コンテナに収納できる」くらいのサイズで「燃料交換が不要」、「長期間の遠隔・自動運転が可能でメンテナンスフリー」という特徴を持ち、設計寿命は25年、出力は1,000kWt以上/500kWe以上、などと記載されています(ちなみにkWtは熱量ベースのkW、kWeは電力ベースのkW、だそうです)。
電力に換算した出力が500kW、ということは、俗に指摘されている太陽光発電所1ヘクタール分とほぼ同じです(一般に「メガソーラー」、つまり出力1,000kWの太陽光発電所建設に必要な面積は2ヘクタールとされています)。
太陽光1ヘクタールの6.7倍!
三菱重工のスライドにはマイクロ原子炉の正確な重量やサイズは記載されていませんが、日経クロステックの2022年6月10日付の『直径1mで25年間燃料交換なし、三菱重工の超小型原子炉はどう動く』という記事によれば「トラックで運べる大きさ」なのだそうです。
一般に10トントラックのサイズは長さ6メートル、幅2.4メートル程度とされているようですので、設置に必要な面積は約15平方メートル、といったところでしょうか。
しかも、「メンテナンスフリー」で「燃料交換不要」ということは、「設備使用率」(俗にいう「稼働率」)は100%であると期待できます。このように考えたら、この「マイクロ原子炉」が年間に生み出す電力は4,380,000kWhですので、太陽光発電所1ヘクタールが生み出す年間電力の「約6.7倍」です。
これは、いったいどういう計算でしょうか。
先ほど、「マイクロ原子炉の出力は太陽光発電所1ヘクタール分と同じだ」と指摘したので、「マイクロ原子炉1基も太陽光発電所1ヘクタールも、年間に生み出す電力量は同じじゃないか」、といった疑問を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、この考え方は、間違っています。
そもそも論ですが、太陽光発電所は夜間になると発電量がゼロになりますし、天候が悪い日も発電量が極端に低下したりしますので、日本の場合、太陽光発電所の設備利用率は良くてせいぜい15%程度とされており、したがって、出力が500kWだったと仮定しても、年間発電量は657,000kWhに過ぎないからです。
再エネ賦課金よりも原子炉開発に力を入れるべきでは?
正直、太陽光発電所が日本全国で数々の問題を引き起こしている(『中国を潤す?太陽光発電、今度は火災に崩落・感電も?』等参照)ことを思い出しておくと、高くて環境にも悪く非効率で安定性に欠ける太陽光発電を推進する意味がよくわかりません。
しかも、高い再エネ賦課金を一般家庭から徴収し、結果的に外国のローテク企業を潤しているというのも、じつに理不尽な話です。
この三菱重工のマイクロ炉は2040年の運転開始を目指しているのだそうですが、お高い再エネ賦課金を太陽光にではなく原子炉の研究開発に廻した方が、国益のためになりそうな気がします。
正直、同じ高い賦課金を支払うなら、安全で効率的な原子力発電技術の発展のために使われた方がうれしい、という人も多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
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日本の電力をこれで全部賄おうとすると20000機以上いるし、廃棄方法が決まらないものをそんなに作るの?それに、これは、ベースロード電源にしかならないので結局需要に応じて発電する火力発電や水力発電、バッテリーは必要なんですよね。
>日本の電力をこれで全部賄おうとすると
この記事に「三菱の小型原子炉で日本の電力をすべて補うべき」なんてこと書いてるの?読解力大丈夫?
太陽電池の代わりに、と書いてあるでしょう。日本の消費電力すべてではなくとも相当の比率を目指すべき、と取れます。
少なくとも数千台相当にはなるはず。20000は日本の消費電力すべて賄う場合をわかりやすくするための数字です。
横から失礼します。暴言のコメント主は無視してください。
ただ、
>太陽電池の代わりに、と書いてあるでしょう。
の下り、失礼ですが誤読ではないでしょうか?改めて本文を読み返しましたが、
>太陽電池の代わりに(三菱のマイクロ炉を)推進すべきだ
と書いている下りはありますでしょうか?
>この三菱重工のマイクロ炉は2040年の運転開始を目指しているのだそうですが、お高い再エネ賦課金を太陽光にではなく原子炉の研究開発に廻した方が、国益のためになりそうな気がします。
>正直、同じ高い賦課金を支払うなら、安全で効率的な原子力発電技術の発展のために使われた方がうれしい、という人も多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
の下り、「太陽光ではなく(マイクロ炉に限らず)次世代原子炉全般の研究開発にこそ金を使うべき」、という意味だと読めたのですが、いかがでしょうか?
一応パソコンでコントロール+Fで「太陽電池」で検索したのですが、このブログエントリー本文に「太陽光」という単語は出てきますが「太陽電池」という単語は出て来ていません。
あなた様は原文にない「太陽電池」という単語を使っていることからも分かるとおり、他人が書いてもいないことを勝手に「こうに違いない」と誤読してらっしゃるのではないでしょうか?
このブログエントリーの趣旨は「高額な賦課金を太陽光発電に浪費するのは無駄だ」であって「太陽電池の代わりに三菱の小型炉を20000台作れ」なんて言ってないと思われますがいかがでしょうか。
>再エネ賦課金よりも原子炉開発に力を入れるべきでは?
の段落のところ、要約すれば
太陽光発電を推進する代わりに小型原子炉の研究開発を進めたほうが良い
と書いてあるように読めますが誤読でしょうか?
なお、現在の太陽光の導入累計は80GW、国の目標は、2050年300GWです。太陽光発電を推進せず、小型原子炉研究を推進する、ということはこの220GWを増やさず、この代替(の少なくとも一部)として小型原子炉を推進する、という意味と取りました。
>>再エネ賦課金よりも原子炉開発に力を入れるべきでは?
>の段落のところ、要約すれば
>太陽光発電を推進する代わりに小型原子炉の研究開発を進めたほうが良い
>と書いてあるように読めますが誤読でしょうか?
ええ。誤読です。この際はっきり指摘しておきますが、先ほど指摘したとおり「太陽電池」などブログのエントリーに出てこない単語などを勝手に読み取っていることからも分かる通り、あなたの読解力は正確ではないかもしれません。
現にあなた様は「小型炉の研究開発を進めた方が良いと書いてあるように読める」って書いてますがその意味では寧ろ記事全体を読むと、「原子炉開発に力を入れるべき」とはこの場合、小型炉に限らず原子炉全般のことを指していると読むべきです。ブログ本文の以下の下り
>経産省の「総合資源エネルギー調査会」に関連し、今からちょうど2年前の2022年4月20日に開催された第1回『原子力小委員会・革新炉WG』で三菱重工が提出した資料8番『三菱⾰新炉開発の取組み』(※PDFファイル)が興味深いのです
の下りから、このブログのエントリーでは偶々「小型炉」に焦点を当てているけれど、「次世代炉」「革新炉」を含めた原子炉全般を念頭に置いているようにしか見えません。もしブログ主が「小型炉を研究を推進すべき」と言っているならば該当する下りは
>再エネ賦課金よりも原子炉開発に力を入れるべきでは?
ではなく
>再エネ賦課金よりも小型原子炉開発に力を入れるべきでは?
になっていると思いますよ?
少なくとも今回のブログエントリーの中でブログ主さんが「太陽電池の代わりに、20000台の三菱マイクロ炉を設置しろ」と主張している下りは確認できないのですが。
ブログ主は、次世代原子炉の開発にお金を使うべき と書いていて、このページの文脈では次世代原子炉≒ポータブル原子炉ととるのが普通だと思いますが。
ブログ主がそのつもりがなかったというのであれば訂正しましょう。
言い忘れました。20000は私の計算で出した数字です。現在の日本の電力供給の総量が9000億kW時、太陽光の割合が約1割、1年を時間で割って約9000だから1000万kW
これを出力するには500kWの小型原子炉20000台。
日本の電力を賄う→日本の太陽電池の出力する電力を賄う
の書き間違いですので訂正して謝罪しておきます。
>ブログ主は、次世代原子炉の開発にお金を使うべき と書いていて、このページの文脈では次世代原子炉≒ポータブル原子炉ととるのが普通だと思いますが。
見苦しい。
多分、この手の人って誤りを認めたら終わりだと思ってんだろうな。間違ってたら素直にゴメンしときゃいいのに。
>読解力大丈夫?
こう言う暴言は好きじゃありません。
確かに、表現は良くないですが、元のコメ主さんの読解力が無いのは事実に感じられます。
文章中、一度も「日本の電力をこれで全部賄おうとする」ような記述が見当たりませんが、何故そのような認定をされたのでしょうか。
元記事には「離島やへき地、災害時の電源として期待できる」と書かれていますから、その前提はそもそもおかしいと思います。
放射性廃棄物の廃棄方法が決まっていないのは事実ですが、それは行政が積極的に決めようとしていないだけで、世界的に見れば廃棄方法を決めている国もあります。乾式キャスク方式が有力だとされていますから、限定的に運用するのであれば、廃棄物に関しては所定の場所を確保して一元管理すれば良いでしょう。
「ベースロード電源にしかならない」との指摘もその通りではありますが、蓄電手段さえ確保できれば問題は解決するわけですから、開発を推進しない理由にはならないと思います。
僕は積極的に研究開発を進めるべきだと思いますよ。
バッテリーがあるならそれこそ太陽電池で良いでしょう。このユニット一つで対応するのが、せいぜい200m×300m、陸上競技場一つ分です。
荒れ地に競技場1つ分の面積を占めるのと、将来的に処理不能なゴミ、かつテロの格好の目標をつくるのと、どちらがましか。
まあ、研究をしておくことは否定しません。
現実には荒れ野ではなく緑地や湿地帯に太陽光パネルが乱立して問題になってるのですが。
「放射性物質でなければ他の汚染物質など些末な問題」とはいかないでしょう。
私は太陽電池を緑地や湿地帯に作ることには賛成していません。住宅の屋根や塀に使うのが一番無難だと思っています。
ついでに言うと、このポータブル原子炉の電気代はだいぶ高いはずです。量産効果は馬鹿になりません。普通、10倍量産すると倍ぐらい値段が変わるのが普通です。これは普通の原発の1/2000のサイズなので(500kWと100万kW)、発電コストは(廃棄費用を考えなくても)ざっくり数十円~100円/kWhくらいになるんじゃないかと予想しています。
それを下げるための研究が必要なんでしょうが。
この欄のコメント・レスは、皆、筆者の本意を読み取れていません。
筆者の本意は、最後の部分の
>高くて環境にも悪く非効率で安定性に欠ける太陽光発電を推進する意味がよくわかりません。しかも、高い再エネ賦課金を一般家庭から徴収し、結果的に外国のローテク企業を潤しているというのも、じつに理不尽な話です。
>正直、同じ高い賦課金を支払うなら、安全で効率的な原子力発電技術の発展のために使われた方がうれしい、という人も多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
に書いてあり、一言で言えば、
「太陽光発電は止めろ」(直ぐに)
ということです。
これが、第一に言いたいことであり、付け加えれば、
将来の電源装置として、三菱の研究のような原子炉の方が、尤も現実的な解に近いだろうから、補助金出すなら、こちらの方が国益=日本の未来の電力源確保に資するだろう、ということ。
ならず者国家の暴走を止める者が存在しない現在
原発が攻撃目標にされるかもしれない恐怖感はある
太陽光、風力のように垂流されているエネルギーの利用は
一理あれど効率が悪く安定しない
将来的にはビーム充填できる技術が実用化されるとしても
現況、人工衛星や探査機のエネルギー源としては
太陽電池が優れていると言えよう
安定的な自然エネルギーの活用としては
海流発電、地熱発電、海洋熱電対などが有望に思われる
おお、だれかセーターのパチパチや雷を蓄電する技術を開発してくれ
「この三菱マイクロ原子炉で○○(お好きなロボットアニメをいれてください)を作ろう」と言い出す人がでてくるのではないでしょうか。私としてはドラえもんを作って欲しいのですが、問題はひみつ道具をどうするかです。
多分ガンダムタグが乱立するでしょう。
電源の多様化は必要ですね。ベースロード電源としての原発(柏崎苅羽で800万kWe、福島第二で440万kWeでしたっけ?)は安くて効率的。ブログ主さんが取り上げている三菱小型炉は500kWeですが離党、へき地、災害時などに活躍が見込まれるし現地に行けば送電ロスなく効率的に発送電可能。対し太陽光パネルで同じ発電量を確保したければ100%÷15%=6.67haの面積が必要だし夜間は発電はできない。悪天候でも発電量は減る。課題は25年が経過後にどうするか。
核分裂を使用していれば、大型炉だろうが小型炉だろうが、基本は同じ。ただし、大型炉の方が減価償却が単位電力当たりでは小くなり、送電コストが(地産地消であれば)小型炉の方が小さくなる。また、ご指摘のとおり、リスクヘッジを考えれば、薄く広くという考えもありますが、必要となる運転員の確保(警備も含めて)が、案外、問題になりそうに思います。
個人的は、先ず、晴海有明あたり、或いは、思いきって、霞が関に1号炉を建設すべきかと思います。当然、補助金も交付すべきです。
世界の各社が開発中のマイクロ炉というと10000kW程度のものが多くて、三菱重工の500kWは特別小さかったと思います。
利用用途として記されていたのは、災害などでライフラインが寸断された地域にサッと持っていって供給するとか、ニッチなところが書かれていました。誰も開発していないところに目を付けて、後出しニーズに期待するところもあるんじゃないですかね。
民家1軒に必要な電力は5kWくらいらしいですから、民家100軒程度、というところでしょうかね。
うまくいくといいねと思います。
あー、本記事中に既にリンクが・・・
失礼いたしました。m(__)m
原子力も、火力もタービンを回して電力を作っている。原子力は核反応で湯を沸かし、その蒸気でタービンを回す。火力は石油、石炭で湯を沸かしその蒸気でタービンを回す。
コンテナ程度の大きさの原子炉でどの程度の蒸気が作れるのだろう。
その蒸気で回せるタービンはかなり小さい気がするが。
気体のCO2を熱媒として循環させて、炉の外部のタービンを回すようです。
水を使わない、「全固体原子炉」だそうですよ。
直径1mで25年間燃料交換なし、三菱重工の超小型原子炉はどう動く
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/06917/
「原発は安全だ」という発想を根底から変えて、「原発は危険だが、どんな過酷な事故が起こって核燃料がメルトダウンしても量が少なく簡単に閉じ込められる」程度の小型炉にするというのはいい考えかもしれない。
「小型化して分散できる」と言うメリットもあると思います。
つまり、「テロしてやれば一網打尽でウハウハだぜ!」とはいかなくなる。
厳重に管理してある施設を苦労して破壊しても、減らせる発電量は
致命的ではなく、核汚染も限定的……これならテロで狙う異議は減少します
(皆無とは言いませんが)。
マイクロ炉設置の集合住宅、という未来もあるんですね~。
それで25年間、電気料金が安く済むなら、魅力のある話ですね。
却って高額になるかもしれませんが。
送電ロスが少なくなるのは、良いことだと思います。
原子力発電がいやではない方限定でしょうね。
中国の利権が絡まないと徹底的に妨害が入るんだなあとこうやって。
トリウム発電が話題になりませんね。
安全性のレベルも発電規模も丁度いい感じなんですが。
以下、幾つかリンクを。
・この原発なら福島やチェルノブイリは起こらなかった!
「本の話」編集部
『原発安全革命』 (古川和男 著)
https://books.bunshun.jp/articles/-/1259
・トリウム熔融塩炉は未来の原発か?
https://wired.jp/2012/05/03/thorium/
・「トリウム」燃料にした原子炉、安全性は チェコ原子力研究所のウーリ博士に聞く
編集委員 滝順一
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO34003940W1A810C1000000/
・テクノロジーが拓く未来の暮らし
Vol.44 次世代原子炉の可能性
https://ene-fro.com/article/ef268_a1/#:~:text=この原子炉のメリット,が挙げられている%E3%80%82