日本政府が16日に公表した令和6年版の外交青書の記載からは、日本が外交相手として重視している国がどこなのか、その実態が見えてきます。今年度の外交青書でとくに昨年と比べ、記述が変化した国のひとつは韓国ですが、それでも「基本的価値と戦略的利益の共有」という文言は含まれていませんでした。
外交の4類型
普段から当ウェブサイトにて説明している通り、国と国との関係というものは、別に難しく考える必要はありません。
その相手国が自国(たとえば日本)との間で、基本的な価値を共有しているかどうか、戦略的利益を共有しているかどうか、という2つの軸から、次の①~④に分類できるはずです。
- ①基本的価値を共有する、戦略的利益を共有する
- ②基本的価値を共有せず、戦略的利益を共有する
- ③基本的価値を共有する、戦略的利益を共有せず
- ④基本的価値を共有せず、戦略的利益を共有せず
もちろん、現実にはこの4つだけでなく、もう少し曖昧に、「基本的価値を完全に共有しているわけではないけれども、戦略的利益の観点からは非常に重要な関係」というものもあるでしょう。
ただ、単純化していえば、上記の4つの種類に分類できるはずであり、とりわけ外交当局が気にするのは、自国にとって外交上、重要な国が、上記①、②のどれに該当しているか、であるはずです。
最新版の外交青書
こうしたなか、外務省が16日、最新版の外交青書を公開しています。
原文は外務省のウェブサイト『外交青書』のページで閲覧することができますが、ただ、現時点では、『令和6年版外交青書』は全ページ(合計369ページ分)の一括ダウンロードしかできないようですので、容量が大きい点についてはご留意ください。
これについて、本稿では取り急ぎ、日本が諸外国をどう見ているかについて、ざっと確認してみます。
自然に考えて、日本にとって重要な国は、米国を筆頭とするG7諸国であり、米国とともに「クアッド」を構成しているインド、豪州であり、日本の近隣国である中国、ロシア、北朝鮮、台湾、ASEAN、韓国といった諸国でしょう。
そこで、当ウェブサイトにとってはなかば「恒例」となっているのが、「基本的価値や戦略的利益を共有する相手国」、とする文言が、国ごとに、どのように表現されているかをチェックすることです。
これについて、「基本的価値を共有しているかどうか」という観点からざっと列挙してみると、こんな結果が出てきました。
「基本的価値を共有している」の文言が確認できた国・地域
米国、G7諸国、豪州、インド、台湾、ニュージーランド、「中南米諸国の多く」、EU・NATO…など
「基本的価値を共有している」の文言が確認できない国・地域
中国、ロシア、北朝鮮、韓国、ASEAN…など
個人的に、インドなどが日本と基本的価値を共有しているのかと問われれば、少々疑問ではあります。
ただ、あくまでも「日本外交の原則としては」、基本的価値を共有している相手国としては、米国を筆頭とするG7諸国や豪州、インド、台湾、ニュージーランドなどが挙げられている、ということであり、これは日本政府の公式見解である、ということです。
具体的な記述はどうなっているのか
具体的な記述はどうなっているのでしょうか。目に付いた各国――インド、台湾、韓国、豪州、ニュージーランド、G7諸国、米国――について列挙してみると、こんな具合です(図表1)。
図表1 各国の記載
R5年版 | R6年版 | |
インド | 「日本とインドは、民主主義や法の支配などの基本的価値や原則、また戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国であり、『日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ』の下、経済、安全保障、人的交流など、幅広い協力を深化させてきた」(P29) | 「日本とインドは、基本的価値や戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国であり、『日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ』の下、経済、安全保障、人的交流など、幅広い分野における協力を深化させてきた。また、インドは『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』を実現する上で重要なパートナーであり、日米豪印といった多国間での連携も着実に進展している」(P74) |
韓国 | 「韓国は国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国である」(P62) | 「韓国は、国際社会における様々な課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国である。とりわけ、現下の厳しい国際環境の下、日韓両国は、地域の平和と安定という共通の利益の確保に向け、多様な分野で連携を深め、協力の幅を広げていく必要がある」(P59) |
台湾 | 「台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(P51) | 「台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(P50) |
豪州 | 「地域が様々な課題に直面する中、基本的価値と戦略的利益を共有する日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ」の重要性はこれまで以上に高まっている」(P82) | 「地域が様々な課題に直面する中、基本的価値と戦略的利益を共有する日本とオーストラリアの『特別な戦略的パートナーシップ』の重要性はこれまで以上に高まっている」(P77) |
ニュージーランド | 「日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有し、長年良好な関係を維持している」(P84) | 「日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有し、長年良好な関係を維持している」(P79) |
米国 | 「米国は日本にとって唯一の同盟国である」(P95) | 「米国は日本にとって唯一の同盟国である」(P92) |
(【出所】R5年版・R6年版の外交青書)
大きく変わったのは韓国
ほかにもG7を巡っては、たとえば、次のような文言が確認できます。
「…日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、基本的価値観や原則を共有するG7を含めた同盟国・同志国との結束は、その重要性を大きく高めている」(P92)
いずれにせよ、米国に関する記述が、日本にとって最も重要な相手国であることを示唆していますが、それだけではありません。興味深いことに、中国やロシア、北朝鮮に関しては、日本との関係を端的に示す一文が見当たりません。あまりにも関係が悪いためでしょうか?
また、日本政府が公式には「国」と認めていないはずの台湾についても、「国」という表現を使うことは慎重に避けつつも、「重要なパートナー」、「友人」といった表現がセットで使用されているため、基本的には「国交が存在しないはずの国」に関しては、最上級の表現でしょう。
さらに、韓国に関しては、かつては存在していた「基本的価値と戦略的利益を共有し」などの記載が剥落したままではありますが、昨年と比べれば、「パートナーとして」という記述が加わるなど、より一層踏み込んだ記述となっています。ここ数年の文言変化はなかなかに印象的でもあります。
かつての韓国は日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」から明確に除外されていたからです(図表2)。
図表2 FOIP
(【出所】令和3年版防衛白書など)
いずれにせよ、外交青書の記載からは、現在の日本政府が重視している相手国とその距離感が見えて来るため、毎年、継続的にウォッチする価値はありそうです。
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尹がレームダックとなった今
今後は韓国は仲良くすることは禁物でしょう
隣国だから関わらざるを得ないけれど
韓国に対する記述、岸田にはこのくらいが限界でしょうね。
しかし、国際法違反状態を相手取って「パートナー」と呼ぶとは、外務省と岸田政権はずいぶん感覚がおかしいんじゃないかと言わざるを得ないです。
この青書で気になるのはむしろ中国の記述です。
5年ぶりに『「戦略的互恵関係」を推進する』との事で。
ずいぶん中国様にはお優しい感じです。パネルを売りつけられて、技術を盗まれないように気を付けて頂きたいものです。
韓国に対する記述を文字通り読むと、「パートナーとして協力していくべき重要な隣国」とは、「本来パートナーとして協力していかなければならないが、実際はそうではない」という意味にしかならない。
現在の韓国をパートナーとは呼んでいないと思いますが?
たしかにインド台湾とは記述が異なりますね
インド 重要なパートナー
台湾 重要なパートナー
韓国 重要な隣国