悪い円安、悪い株安、悪い賃上げ、そして今度は「悪い景気回復」、でしょうか。自民党広報がXにポストした「デフレ完全脱却を実現します」とするポストに対し、一部のユーザーが「安っぽすぎるのと中身が全く頭に入ってこない」、「数字で遊んでいます」、などと批判するコメントをポストしているのです。この場合、「中身が頭に入って来ない」のは自民党の側の問題ではないように思えるのですが…。
悪い株高論
個人的な「マイブーム」がひとつあるとすれば、それは、何にでも「悪い」、を付けることです。
日経平均株価は最近、再び4万円の大台を超え、3月22日には一時、41,000円台を突破する局面も見られました。26日の終値は前日比16円09銭安い40,398円03銭でしたが、いずれにせよ、史上最高値水準にあることは間違いありません。
ただ、こうしたなかで出てくるのが、「悪い株高」論です。
この「悪い株高論」、いくつかのパターンがあるようですが、著者自身が見たところ、代表的なものとしては次のようなものがあるようです。
- 「現在の株高は一部の人にしか恩恵がなく、株を持っていない庶民には恩恵が行きわたらない」。
- 「現在の株高は円安で企業収益が水増しされたことによるものであり、円安と物価高で、庶民の生活はむしろ苦しくなっている」。
- 「株高になっても実質賃金はほとんど上がっていない」。
いちいち取り合うのも疲れる、と感じる人もいるかもしれません。
ただ、この手の主張に対しては、基本的にはひとつひとつ、丁寧に反論しておくことは必要でしょう。
賃上げが始まった!
たとえば、「株高は株を持っていない人に恩恵を与えない」などとする主張は、社会保障基金などが資産を株式などで運用しているという事実を振り返るだけでも、反論としては十分でしょう。株高になれば、運用益の恩恵は年金受給者全員に及ぶからです。
また、株式投資家にとっては値上がり(キャピタルゲイン)や増配(インカムゲイン)などの恩恵が生じますし、これらの恩恵により投資家が消費を増やせば、景気がさらに良くなり、一般的な労働者には賃上げ、年金受給者には物価スライドなどの恩恵が生じます。
さらには、「むしろ我々庶民の暮らしは苦しくなっている」、などとする主張についても、現実を見ているものとは言い難いでしょう。大企業はもちろん、最近では中小企業にも賃上げの恩恵が及んでいるからです。
賃上げ平均5.25%、連合2次集計 中小企業は4.50%に
―――2024年3月22日 18:32付 日本経済新聞電子版より
日経電子版の記事によれば、連合は22日、2024年春季労使交渉の第2回回答の集計結果、賃上げ率は平均5.25%となり、中小企業についても4.50%となったとする集計結果を発表しています。
経済成長・インフレ期には、賃上げが遅行するがために、労働者の生活が苦しくなるのは経済の基本です。そして、これを我慢すれば、賃上げの恩恵が一般家庭にも及び始めることで、経済成長の恩恵が社会に及ぶのです。
それともアレでしょうか?
この「悪い株高」論者は、これからは「悪い賃上げ」論でも展開するつもりでしょうか?あるいは「悪い景気回復」論でも主張するつもりでしょうか?
自民党のポスト
こうしたなかで、ちょっと気になったのが、自民党広報がXにポストした、こんな内容です。
箇条書きで列挙されているのは、次の項目です。
- 民間平均給与、過去最高を更新へ
- 名目GDP過去最高
- 民間設備投資、過去最大
- 日経平均株価、最高値を更新
…。
すべて、事実です。
「頭に入って来ない」
ところが、これに対してイチャモンを付けるコメントが相次いでいるのです。それらのほんの一部を紹介すると、こんな具合です。
「近所のスーパーの特売チラシのような謳い文句。しっかり仕事をやってないから、薄っぺらい言葉しか出てこない」。
「安っぽすぎるのと中身が全く頭に入ってこない(具体性がないと感じる)ので凄いディストピア感が出ててSFの話かなと思いました」。
「『数字で遊んでいます』としか聞こえません」。
…。
事実を指摘しているだけなのに、いったいどこが「薄っぺらい」のでしょうか?
ここまで具体的な事実を列挙されて、「頭に入って来ない」「具体性がないと感じる」のは、むしろポストしたご本人の問題ではないでしょうか?あるいは「数字で遊んでいます」に至っては、「数字を指摘されたら都合でも悪い」のでしょうか?
要するに、世の中には「悪い景気回復」に踊らされる人たちが、自民党の主張にケチをつけまくっている、という構図が見えてくるのです。
このあたり、著者自身も自民党政権が100%素晴らしいとは思いませんし、手放しでほめる気もありません。
ただ、世の中の政治家の評価は「是々非々」で考えるべきであり、良い政策には素直に「良い」と指摘することが大事です。少なくとも岸田文雄首相が掲げる「デフレ脱却」、「賃上げ」は、「良い」か「悪い」かといえば、間違いなく「良い」政策でしょう。
このあたり、経済政策にイチャモンを付けるならば、具体的にどこの政策がどう悪いのかを指摘すべきです(もちろん、「岸田減税」にしても、税収が過去最大なのに、減税の額が「ショボ過ぎる」というのは問題ですが…)。
いずれにせよ、マスメディアに踊らされているだけなのか、「悪い景気回復」論者が多いということだけはよくわかりますが、現在の政府の政策が正しいかどうかを判断するためには、少なくとも現実の数値を見る必要があるのではないか、などと思う次第です。
View Comments (10)
誇大広告ならわからんでもないですが、スーパーの特売チラシの何が悪いのか理解できませんでした。
伝わりやすいようにチラシ制作担当は特に努めているでしょうし。チラシのように格式が無いとでも言うのであれば、そもそもSNS発信ではなくおカタい統計・広報を見ろよという話ですし(そしてこの人達は恐らくそんなもの見に行かない)。私はチラシに嘘が書かれていた経験はありませんし。
精肉の商品シールに品名「店長」と印字されていたり、「他店198円→当店238円!」みたいな謎のポップであったりというネタ画像なら見たことありますけどね。
Lv1.政治に無関心
Lv2.関心はあるけどよくわからんとりま政権批判しとけば自分が頭が良くなったようでキモチー
Lv3.各政策の是非が判断できる
民主主義国家で経済大国であっても、Lv2以下の層は多いのでしょう。Lv3でも、非の判断は比較的容易でも、是の判断の方はとても難しいですし。
悪夢の政権交代の時などが特にそうで、メディアはLv2以下を煽りに煽りました。容易な非「自民党だからダメになった」とするか、是の判断も加えて「自民党だからまだこの程度で済んでいた」とするかで、投票先も変わっていたことでしょう。
>現在の株高は一部の人にしか恩恵がなく、株を持っていない庶民には恩恵が行きわたらない
これ当たり前だよね。
こんなのどう?
減税は税金を払っている人にしか恩恵がなく、払いたくても所得のない人には恩恵が行きわたらない。
>減税は税金を払っている人にしか恩恵がなく、払いたくても所得のない人には恩恵が行きわたらない。
これは、物事を一元(一次元)でしか見ないと、こういう考え方になります。政治家も財務官僚も、こんな一元的思考で、物事を見て考えるんでしょうね。
減税 ⇒ 可処分所得の増加 ⇒ 個人消費の増加 ⇒ 経済の拡大 ⇒ 事業者利益の増加 ⇒ 新規設備投資の増加 ⇒ 更に経済の拡大 ⇒ 恒常的な労使の所得の増加 ⇒ 可処分所得の増加 ⇒ 経済規模の循環的な拡大と国と国民の富の増加
これ位の連関思考が出来れば、増税をすることは、この逆サイクルになり、国がますます貧しくなることが分かるハズなんだが・・・。
実際、失われた30年は、逆サイクルの結果なのだが、連関思考が出来ない、政治家と財務官僚は、今もって、増税に拘っている。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という連関・連鎖思考の訓練が必要ですね。
株高でひどい目にあってる人もいるはず。
こんなに高くなるとは考えていないから空売りをしかけ「踏み上げ」られてる人結構いるんじゃない?
評論家でさえもこんな水準を予想した人は少数派。
>さらには、「むしろ我々庶民の暮らしは苦しくなっている」、などとする主張についても、現実を見ているものとは言い難いでしょう。
についてですが、
>経済成長・インフレ期には、賃上げが遅行するがために、労働者の生活が苦しくなるのは経済の基本です。そして、これを我慢すれば、賃上げの恩恵が一般家庭にも及び始めることで、経済成長の恩恵が社会に及ぶのです。
上記を考えると、『現実を見ているものとは言い難い』のは『むしろ我々庶民の暮らしは苦しくなって“いく”』と述べた場合だと思います。
そして、過去から現在までの期間は『庶民の暮らしは苦しくなって“いる”』と認識するのが正しいと考えます。
庶民として扱われるのが年収幾らまでかは分かりませんが、下層・中層・上層と分けて資産や収入の推移をグラフ化すれば円安や株高で庶民の暮らしが楽になって行ってるのか、それとも苦しくなっていってるのかが分かるのではないかと。
>たとえば、「株高は株を持っていない人に恩恵を与えない」などとする主張は、社会保障基金などが資産を株式などで運用しているという事実を振り返るだけでも、反論としては十分でしょう。株高になれば、運用益の恩恵は年金受給者全員に及ぶからです。
非年金受給者も恩恵を感じる為には、現役世代の負担軽減が行われないと駄目でしょうね。
件の自民党広報ポストに文句をつける人は「100点満点の採点で100点か0点しか
つけられない」人である確率が高そう。もちろん全員が全員そうではないのでしょうが。
一問だけの〇×クイズの方が複数の設問をじっくり考えて総合的に判断するより
楽なのは確かでしょうけど、それを面倒くさがっちゃいけないでしょうに。
ミクロ視点とマクロ視点とを同列にしたらアカンでしょう。
個人の権利と全体最適も同列にしたらアカンでしょう。
羽田で海苔の養殖やってるよりは国際空港にして毎日何万人もが利用する方がよい。
嘉手納でサトウキビ作ってるよりは空軍基地にして共産主義と対峙する方がよい。
なじみの黒門市場や錦市場が外人客ばかりになってアホみたいに値上がりしたとしても、近くに相場の店があるからそちらで買えばよろしい。
なじみの地下アイドルがメジャーデビューして、ドリンク握手付千円だったのがS席2万円に値上がりしたとしても、ファンなら少し離れてそっと見守ればよろしい。
なんでもいつまでも永遠に変わらない。
そういうのこそ、たちのわるいデフレマインドなんじゃないのかねぇ。(笑)
マクロの日本経済とミクロの個人経済を同等に評価しはいけない。
今後来そうなのは「真の景気回復を」とか、「景気は良くなったが、何か大切なものを失っていやしないか?(具体的には言わない)」とかだろうか?