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「XMLファイル活用」でさらに簡単になった確定申告

今年の確定申告、ますます便利になったようです。源泉徴収票、上場株式等の配当金、ふるさと納税額などについては、いずれもXMLファイルをe-Taxにアップロードすれば、自動計算してくれるようになったからです。もちろん、e-Taxを含めたデジタル行政にはまだまだ課題もありますが、少しずつ便利になっていることについては素直に歓迎すべきでしょう。

確定申告は本日まで!

本日で、個人の確定申告の期間が終了します。

確定申告をまだしていないという人は、是非とも早めに申告をなさることをお勧めする次第です。

確定申告の仕組み

勤め人の多くは確定申告不要だが…

さて、世の中の勤め人(会社勤め、役所勤めなど)の方々のなかには、あまり確定申告をしてこなかった、という人も多いのではないかと思います。というのも、日本の源泉徴収、年末調整などの仕組みは、職場だけで個人の所得税、住民税などを完結させるうえで、非常に優れたシステムだからです。

一般に勤め先が1つの企業ないし組織で、収入の大部分がその企業ないし組織からもたらされていれば、その人は確定申告をしなくても税金を適法に納めることができてしまいます。職場で「甲欄」が適用され、年末調整関係の書類を出している人は、多くの場合、わざわざ確定申告などする必要がありません。

(※裏を返せば、これは「企業などに対し、所得税等の源泉徴収事務、住民税等の特別徴収事務といった多大な事務負担を負わせている」という意味なのですが、この問題点については、機会があればいずれ別稿にて詳述したいと思っています。)

実際、当ウェブサイトの読者の皆さまでも、会社・役所勤めをしたことがあるという方であれば、大部分の方が、毎年末に「年末調整」関係の書類を出した経験をお持ちでしょう。

「なんだか知らないけれど、年末調整をやったら税金が返って来たよ」、とホクホク顔の方も多かったのではないかと思います。

所得税の基本的な仕組み

もちろん、年末調整には「カラクリ」があって、べつに「儲かった」という話ではありません。

所得税法では、毎年の「課税所得」に対して適用される税率が決まっており、現時点の税制でいえば、たとえば「課税所得が195万円未満」の部分に対する税率は5%、195万円以上、330万円未満の部分に対する税率は10%、といった具合に、少しずつ税率が上がります。

これがいわゆる累進課税です(図表1。なお、課税所得は基本的に1,000円単位であり、1,000円未満の部分は切り捨てで計算されます)。

図表1 所得税の税率・速算表
課税所得 税率 控除額
1,000円~1,949,000円 5% 0円
1,950,000円~3,299,000円 10% 97,500円
3,300,000円~6,949,000円 20% 427,500円
6,950,000円~8,999,000円 23% 636,000円
9,000,000円~17,999,000円 33% 1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

(【出所】国税庁タックスアンサー『No.2260 所得税の税率』を参考に作成)

たとえばあなたの課税所得が500万円だったとすれば、適用される所得税額は330万円~694.9万円の区分の20%から427,500円を引いた額、すなわち572,500円(=5,000,000円×20%-427,500円)、と求められます。

復興税と住民税を考慮した実質的な税額のめやす

これに加えて復興税が所得税額の2.1%、すなわち12,022円(=427,500円×2.1%)かかってくるのに加え、住民税が翌年度に一律で「総所得」の額の10%分かかってきます(「総所得」の額が500万円ならその10%で50万円)。

この点、住民税の計算は少しややこしくて、「控除額」の金額が所得税のそれと異なるほか、「均等割」の額が存在するなどの事情もあり、厳密には「課税所得額×10%」の金額とはなりません。

ただ、ざっくりといえば、所得税、復興税、住民税の合計税額は、上記図表1の税率を次の図表2のように読み替えたものだと考えておけば良いと思います。

図表2 所得税+復興税+住民税の合計額のめやす
課税所得 税率 控除額
1,000円~1,949,000円 15.105% 0円
1,950,000円~3,299,000円 20.210% 99,548円
3,300,000円~6,949,000円 30.420% 436,478円
6,950,000円~8,999,000円 33.483% 649,356円
9,000,000円~17,999,000円 43.693% 1,568,256円
18,000,000円~39,999,000円 50.840% 2,854,716円
40,000,000円以上 55.945% 4,896,716円

(【出所】国税庁タックスアンサー『No.2260 所得税の税率』を参考に作成)

すなわち課税所得が1800万円を超えてしまうと、その区分にかかってくる所得税、住民税、復興税の合計税率は50%を超える、というわけです(※ただし、図表2の税額はやや不正確であり、実務にそのまま使用できるものではありませんので、くれぐれもご注意ください)。

なぜ確定申告が必要なのか

課税所得695万円以下なら上場株式の配当金等は総合課税で申告を!

さて、著者自身はこれまで、自分の「社会勉強」も兼ね、最初の転職以降、自分自身の所得についてはほぼ毎年、確定申告をして来ました。斯ういうパターンは、サラリーマンにしては珍しいのかもしれません。

ただ、確定申告をやってみて気付いたのですが、やはり、私たちはサラリーマンだったとしても、確定申告という「ひと手間」をかける価値はあります。というのも、年末調整だけでは調整し切れない項目は、結構あるからです。

その典型例が、株式の配当金です。

今年の確定申告からは制度が微妙に変わり、上場株式の配当金等については「所得税で総合課税、住民税で申告不要」という方式を採用することができなくなったため、上場株式の配当金等がある場合の還付金額が従来より少なくなる、というデメリットが生じています。

ただ、それでも課税所得が695万円までの人は、もし上場株式の配当金がある場合、確定申告を行った方が、所得税等の金額を低く抑えることができます(※といっても、上限ギリギリの人は確定申告をしてもしなくても結果はほとんど変わりませんが…)。

というのも、配当金の場合は確定申告をすれば、「源泉徴収される前の配当金の額×10%」の「配当控除」を受けることができるためです。

たとえば所得が配当金のみという人がいたとしましょう。源泉徴収前の配当金額が300万円だったとすれば、612,600円(=3,000,000円×20.42%)分だけあらかじめ控除された金額が、この人の証券口座などに振り込まれているはずです。

この人が配当所得を総合課税方式で確定申告すれば、(その年度の)所得税と復興税、(翌年度の)住民税の合計額は約26万円となりますが、もしも「申告不要」制度を使って確定申告しなかった場合、(住民税均等割の額を無視すれば)合計税額はゼロです。

すなわち、確定申告をすれば、源泉徴収された612,600円から約26万円を引いた残額の約36万円が還付されますが、確定申告をしなければ、源泉徴収された612,600円を取り返すことができません。

だからこそ、課税所得額が695万円までの人は、とりあえず確定申告をすれば税金が多少なりとも返ってくる可能性が高いのです。

ふるさと納税の基本的な仕組み

これに加えて近年、節税術として注目されているのが、ふるさと納税です。

ふるさと納税の制度趣旨については今さら説明するまでもないと思いますが、その仕組みは、好きなタイミングで好きな自治体に「ふるさと納税」をしたうえで、翌年3月15日までに確定申告をすれば、「所得税+復興税+住民税」の合計額からその「ふるさと納税」した金額を引くことができる、というものです。

ただし、これには条件があります。

ひとつめは、「ふるさと納税」した金額の全額を税金から控除できるわけではない、という点です。

控除できる金額は、「ふるさと納税」をした総額ではなく、そこから2千円を引いた額です。

たとえば課税所得が1000万円の人にとっての税額(=所得税+復興税+住民税)は約281万円ですが、この人が356,000円分だけふるさと納税をやれば、この人にとっての税額は354,000円(=356,000円-2,000円)減って約245万円となります。

すなわち、ふるさと納税をやれば、常に毎年2,000円分だけ、合計税額が増えてしまう、という点には注意が必要です。

そして重要なのが、ふたつめの「ふるさと納税の上限」、という論点です。「ふるさと納税」の控除計算はかなり複雑なのですが、わかりやすくいえば、「住民税の所得割の20%」を超えると、全額を控除することができなくなってしまいます。

たとえば課税所得が1000万円の人で居住地が東京都23区内だとすれば、この人にとって、「ふるさと納税」をした全額を合計税額から控除できる上限額は、約35万円です。これを超えて「ふるさと納税」をしてしまうと、納めた全額を控除することができず、いわば、「払い損」になってしまうのです。

したがって、この「ふるさと納税」をする人は、上限額に気を付けるべきでしょう。

ふるさと納税はポイント還元と返礼品で儲かる!

こうしたなか、最近だとこの「ふるさと納税」は、ウェブ上でクレジットカードのサイトなどを通じて気軽にできるようになってきました。とくにサイトによっては特定の曜日にポイント還元のキャンペーンを行っていることも多く、著者自身が頻繁に利用しているサイトだと、利用額の5~10%程度のポイント還元があることもあります。

うまく高ポイント還元日を選んで「ふるさと納税」をすると、いったい何が起こるのでしょうか。

たとえば(数値は架空ですが)課税所得が約500万円、所得税・復興税・住民税の合計額が約110万円、「ふるさと納税」限度額が約15万円だったとします。

このとき、上限いっぱいの15万円分の「ふるさと納税」を実施すれば、たとえば還元されるポイントが5%だったとすると、この人には7,500円分のポイントが還元されます。この時点で、もらえるポイントは、すでに「ふるさと納税」の自己負担分(2,000円)を大幅に上回ります。

また、15万円分の「ふるさと納税」をすれば、その分、返礼品も期待できます。

自治体によっては市価が寄附額の2~3割相当の品物を返礼品として送ってくれることもあります。たとえば15万円の2割分、すなわち3万円相当額の品物(多くの場合は地元特産のコメや肉、海産物など)をもらうことができる、というわけです。

ただし、この「ふるさと納税」で寄附金控除を受ける場合は、やはり確定申告が必要です。

寄附先の自治体が5つ以下であれば「ワンストップ特例」を受けることもできますが、もし寄附先が6先を超えてしまうと、やはり確定申告が必要です。

XMLファイルでカンタン入力!

著者自身はこれまで、配当金や寄附金について、e-Taxで確定申告をする際、いちいち配当金の銘柄や「ふるさと納税」の寄付先の自治体名称をウェブ上でポチポチと入力していたのですが、この作業が結構面倒でした。

ところが、今回の確定申告では、証券会社やクレジットカード通販のウェブサイトからXMLファイル(拡張子が「.xml」となっているファイル)をダウンロードし、それをそのままe-Taxのサイトにアップロードすれば、いちいち入力をしなくても控除額を自動計算してくれるようになっていて、少し驚きました。

また、調べてみると源泉徴収票自体も一定の条件を満たせばXML形式で入手できるようであり、マイナンバーカードとカードリーダーがあれば、これらのデータを一元的に収集でき、確定申告がさらに楽になっているのです。

正直、驚くことばかりです。

著者自身、正直、財務省の「増税原理主義」に対しては思うところも多々あるのですが、単純に1人のユーザーとしてe-Taxを利用する立場からすれば、やはり最近の技術の進歩は目覚ましいと思わざるを得ませんし、ユーザーの利便性が向上することについては歓迎せざるを得ません。

この約20年間、毎年のように確定申告をしてきた身としては、紙ベースで確定申告をしてきた時代とは隔世の感があります。e-Taxを使えば、極端な話、電卓がなくても申告書を作成し、所得税額を自動計算することができてしまうからです。

将来的には歳入庁の創設を!

また、かつては申告書の裏面に糊で貼り付けていた源泉徴収票や経費の領収書などについても、最近だと提出を省略することができるようになり、さらにはインターネット上で自宅に居ながらにして申告を済ませることができるようになったというのは、本当に時代の変化だと思わざるを得ません。

残念ながら、一部の官庁等はシステムの使い勝手が糞であり(たとえば某日本年金機構など)、また、「国税はe-Tax」「地方税はeLTAX」といった具合に、役所同士で連携が取れていない部分があるなど、現在の日本のデジタル行政にはまだまだ課題はあります。

しかし、こうした課題についても、少しずつ解決されていくことを期待したいと思いますし、個人的には、国税庁を財務省から分離して「歳入庁」もしくは「歳入省」を創設し、社会保険料、国税、地方税などは、すべてその官庁が一元的に徴収する「ワンストップ納税」の仕組みを導入することが必要だと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 我が家にて、確定申告ができる時代になりました。
    我が家では、「あおいろ深刻?」なんですけどね。
    (・・トントンです。)

  • カードリーダー購入すると5000円の税額控除を受けられた時代から確定申告していますが、確かに最近はマイナポータル連携で、年間医療費が家族分含めて入力されたり、年金データも反映するようになり、特にマイナンバーカード導入以降進化が感じられます。
    人であふれる申告会場に足を運ばなくてよいし、必要事項を確認しながら途中保存したりできますので楽ちんです。義両親の扶養申告(弟が扶養申告しているものと勘違いしてた)で5年間さかのぼっての更正の請求もe-Taxでできたが、さすがに扶養事実の疎明資料を求める電話がかかってきた。これについては紙ベースの資料を送付しなければならなかったけど。
    国税庁の医療費フォームはxlsx形式で利用していますが、素人かつ古いエクセル2010のままなので、証券関係のXML形式?は読めません。年間取引報告書を印刷し、手入力で片付けました。
    ともあれ、申告期間終了前に還付金の振込がありましたが、有りがたがるものでもないですよね、だって取られ過ぎを正しくさせる行為ですから。

  • 確定申告は会計ソフトからのe-Tax連携で終わらせました。
    会計ソフトでちょっとトラブルがあったので、それが解決しない間は、仕方ないからe-Taxで直接と思いましたが、ややこしくて諦めました。
    SNS上で、e-Taxについて聞く河野大臣に対して、同様の訴えをしている人達も多く見掛けました。お役所的には正しいとしても、書いてあることが一般人に伝わらない。用語が分からない。みたいな。
    e-Taxを操作していて、年月エラーのメッセージ表示がおかしいという不具合も見付けてしまいました。

    会計ソフトからe-Tax連携で確定申告出来る様に、便利になったとは思いますが。
    まだまだ、e-Taxには課題も多そうですね。

  • 税金の計算・手続きを自分でやると達成感ありますよね、なぜだろう(棒読み)
    税に対する理解は国民の義務のはずですが、本邦ではたいてい職場が代行してくれるのでおざなりになって来ました。制度の煩雑さ、用語のわけわかめさ、そもそもこの税率この区切りこの制度が21世日本の実相と未来に相応しいのか、そう毎年疑問に思えてなりません。

  • 税を徴収する側からすれば、給与から源泉徴収するという方法は大変優れていると思います。
    取り逃しが殆どなく、素早く楽に徴収出来る。
    給与を受け取る側は、初めから幾らか金額が引かれているのが当たり前であり、税を支払っているという感覚が恐らく無いのでは。従って税金の使われ方に関心が無い。すなわち政治に関心が無い。選挙にも行かない。
    こういう国民が多いのではないでしょうか。為政者の思う壺です。
    サラリーマンでも確定申告が必須という社会が理想ですが、源泉徴収されたものを受け取るだけの方が楽という人が多分大多数ですよね。

  • 自分は個人事業主なんですが数年前から発注元が源泉徴収してくれなくなり(義務ではないので)
    それまでは「所得税を取り戻すぞ!」と気合も入りましたがそれ以降は「支払う税金」を算定する作業になり、やる気が出ません(笑)
    まぁ支払いも申告手続きの中でネットバンキングで完了しちゃうので楽ですけどね。

  • 課税所得額が695万円までの人は、とりあえず確定申告をすれば税金が多少なりとも返ってくる可能性が高いのです。・・・・住民税や健康保険料が増えたりしませんか?

    • 控除関係の確定申告をすれば、住民税も安くなります。国民健康保険料は変わりません。