中国の通貨・人民元が国際送金の世界で第4位となることが常態化してきました。ただ、SWIFTのRMBトラッカーでは人民元の動きが注目されているフシがありますが、それよりも気になるのは、昨年夏ごろからの「国際送金の世界におけるユーロの地位の急低下」です。果たしてロシアによるウクライナ侵略などと関係はあるのでしょうか。現段階では、まだよくわかりません。
SWIFTのランキング表
当ウェブサイトでいつも「定点観測」しているのが、国際送金の世界における各通貨のランキングです。これは、金融機関の国際的な送金システムを運営している国際銀行間通信協会(SWIFT)がほぼ毎月公表している『RMBトラッカー』と呼ばれるレポートに含まれています。
SWIFTは日本時間の23日までに、今月分のレポートを公開しました。
さっそくですが、その最新ランキングを紹介しましょう(図表1)。
図表1 2024年1月時点の決済通貨シェアとランキング(左がユーロ圏込み、右がユーロ圏除外、カッコ内は1ヵ月前からの順位変動)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』データをもとに作成。黄色はG7通貨、青色はG20通貨)
人民元の地位上昇…「第4位通貨」の地位を確立か
これによると、ユーロ圏を含めた国際送金ランキングでは、中国の通貨・人民元がシェア4.51%で4位となりました。わが国の通貨・日本円は3.56%で5位に留まっています。
これまでユーロ圏込みのランキングでは、1位が米ドル、2位がユーロ、3位が英ポンドで、第4位はたいていの場合、日本円だったのですが、昨年11月に人民元が日本円と逆転して以来、人民元が4位となるのは3ヵ月連続のことです。
すなわち、ユーロ圏を含めた国際送金のシェアでは、人民元が米ドル、ユーロ、英ポンドに続く「第4位通貨」の地位をほぼ確立しつつあるのかもしれません。
その一方、ユーロ圏を除外したランキングでも人民元は3.12%となり、前月から1つランクを上げて5位でした。
ただ、ユーロ圏除外データの場合だと、日本円は前月と比べて1位下げて4位に留まったものの、国際送金シェアは5.08%で英ポンド(5.18%)とほぼ並んでいます。すなわち、人民元はユーロ圏を除外したベースでは、依然として日本円には差を付けられている格好です。
ユーロの地位が急落
さて、SWIFTのレポートでは名称に「RMB」(人民元の中国語読みの拼音)という名を冠していることからもわかるとおり、彼らの大きな関心事が「人民元の国際化の進展」にあることは間違いないと思われます。
しかし、SWIFTのレポート内ではあまり触れられていないのが、昨年夏ごろからの「ユーロの変調」です。ユーロ圏を含めたもの、ユーロ圏を除外したもののそれぞれの国際送金シェア推移を調べてみると、図表2のとおり、ユーロの地位が急落していることがわかります。
図表2 国際送金シェア・2通貨比較(米ドル/ユーロ)
(【出所】『RMBトラッカー』データをもとに作成)
これで見ると、ユーロは長らく、米ドルとともに国際的な送金の世界で重要な地位を占めていたのですが、昨年夏ごろから米ドルのシェアが急上昇し、ユーロのシェアが急落していることがわかります。
その理由については、正直、よくわかりません。
しかし、人民元の国際送金シェアが上昇し始めた時期と、ユーロの国際送金シェアが急落し始めた時期がほぼ一致している(図表3)ことを踏まえると、何らかの理由でユーロの使用を止めて、ユーロ以外の通貨(とくに人民元)が積極的に使われるようになったという考察は成り立つでしょう。
図表3 国際送金シェア・2通貨比較(日本円/人民元)
(【出所】『RMBトラッカー』データをもとに作成)
ウクライナ戦争との関係は?
これについて当ウェブサイトとしては、ロシアによるウクライナ侵略と何らかの関係を疑っているのですが、これについては現時点で「こうに違いない」と断定するだけの材料がまだ不足しているため、現段階では「仮説のひとつ」、といったところでしょう。
いずれにせよ、このRMBトラッカーの議論については、しばらく目が離せない展開が続きそうです。
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欧州域内での人民元使用の急増については、単純に「どうせ中国と貿易するなら、先安感漂う人民元建てにしといた方が得だから」なんてことは? あくまで、ある程度の期間、売掛金にしておけるのであれば、ですが。
>ユーロの地位が急落【ユーロ>人民元の政策金利】
「決済資金調達コストの逆転」によるものではないのでしょうか?
対中輸入過多の諸国は、「人民元決済」でも問題無いのですしね。
ウクライナ戦争によってロシアと中国の間の防衛量が増大し、さらに中国はロシアから原油を大量に買い叩いています。その決済が人民元建なので、シェアが増加しているのだと考えられます。ロシアは制裁でドルもユーロも使えないですから。また、昨年、中国の自動車輸出台数が日本を抜いて世界一になりましたが、これも制裁で欧州や日本の自動車メーカーのシェアが激減したところを中国車メーカーがとって代わったからでしょう。
中国は漁夫の利をたくさん得ています。