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昨年の「緊急事態条項創設3党派合意」に見る改憲動向

少し古い話題ですが、昨年3月30日に、維新、国民、有志の会の衆院3会派が緊急事態条項の創設に関する合意を取り交わしました。残念ながら、現時点までに改憲発議がなされたという事実はありませんが、議席数「だけ」で見れば、少なくとも衆議院側では公明党の賛同がなくても改憲発議が可能です。来年の参院選の結果次第では、改憲発議実現に向けて大きく動き出すのでしょうか?

改憲発議には衆参両院の3分の2以上の賛同を要する

憲法を変えるためには、いったい何が必要なのか――。

よく知られている通り、憲法を改正するためには、①衆参両院でそれぞれ3分の2以上の賛成に基づいて改憲を発議することと、②国民投票で過半数の賛成を得ること、の2つの条件が必要です。根拠条文は憲法第89条第1項です。

日本国憲法第89条第1項

この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

衆院側では公明抜きでも改憲勢力が3分の2以上に

ここで最初の要件のポイントは、「衆参両院の過半数」ではなく、「衆参両院の3分の2以上」、という点にあります。

現在の定数は、衆議院が465議席、参議院が248議席ですので、それぞれの「3分の2以上」という要件を満たすためには、衆議院で310人以上、参議院で166人以上の賛成を得なければなりません。

それでは、現在の勢力はどうなっているのでしょうか。

たとえば自民党を中心とする勢力は、衆院で259議席、参院で117議席であるため、「3分の2」ラインにはまったく届きません。しかし、自民党以外の政党・会派まで含めれば、3分の2に到達する可能性はあります。

図表は、衆参両院の勢力です。

図表 衆参両院の勢力
会派 衆議院 参議院
自民 259 117
公明 32 27
維新 45 20
国民 7 13
有志 4 0
立民 96 40
共産 10 11
れいわ 3 5
諸派 0 4
無所属 6 9
欠員 3 2
合計 465 248

(【出所】衆議院『会派名及び会派別所属議員数』、参議院『会派別所属議員数一覧』。衆院については2024年2月1日時点、参院については2023年10月19日時点)

現時点では参院側で非常に高いハードル

この図表は、たとえば「自由民主党・無所属の会」を「自民」と表現していたりするなど、若干不正確ではありますが、とりあえずは現在の衆参両院の勢力を見るうえでは手っ取り早いでしょう。

ちなみに現時点において、「改憲勢力」とされるのは自民党、日本維新の会、国民民主党などですが、公明党は連立与党に入っているものの、改憲には消極的ともいわれています。

衆議院側では、公明党を抜いても、自民、維新、国民の3党で311議席と、辛うじて3分の2の310議席のラインを超えます。しかし、参議院側では、自民、維新、国民の3党だと勢力は150議席で、3分の2ラインには15議席足りません。

もちろん、無所属議員(NHK党の2名あたりでしょうか?)などが賛同し、これに加えて立憲民主党などの野党側の議員が改憲発議賛同に寝返れば話は別ですが、ただ、15議席の壁というものは、ハードルとしては非常に高いと言わざるを得ません。

正直、自民党が公明党との連立解消を覚悟のうえで、どこまで改憲に向けて動けるか、という問題でもありますが、現時点ではそれも難しいでしょう。

昨年の3会派の動きを振り返る

ただし、あくまでも個人的な意見ですが、とにもかくにも、一度は改憲をしてみるのが手っ取り早いのではないか、などと思うようになりました。要するに、まずは自民、維新、国民あたりで合意できる内容で改憲草案を発議してしまう、というわけです。

こうしたなかで振り返っておきたいのが、昨年のこんな動きです。

3月中に「緊急事態条項」条文案 憲法改正で維新・国民民主などが合意

―――2023/3/8 15:32付 産経ニュースより

産経の昨年3月8日付の記事によると、維新、国民の両党に加え、衆院の会派「有志の会」は8日、いわゆる「緊急事態条項」に関する実務者協議の初会合を開き、「3月中をめどに共同で条文案をまとめる方針で合意した」のだそうです。

そのうえで、この合意に基づき、実際に3月30日には、この3党派での条文案で合意に達しています。

【「緊急事態条項の創設に関する3党派合意」について】

―――2023.03.30付 日本維新の会HPより

【憲法】緊急事態における議員任期の延長について定めた憲法改正条文案について二党一会派で合意

―――2023.03.30付 国民民主党HPより

残念ながら、こうした動きにもかかわらず、約11ヵ月が経過した現時点において、改憲発議がなされたとする事実はありません。

昨年3月といえば、与野党がいわゆる「小西問題」(『勝負あり:高市氏が小西文書「捏造」を説明してしまう』等参照)で紛糾していた時期でもあるため、注目されずにウヤムヤになってしまったという事情もあったのかもしれません。

来年の参院選に向けて改憲発議シミュレーションを重ねてみては?

ただ、こうした動き自体は、試みとしては大変に興味深いものですし、もしも出て来た案に(公明党はともかく)自民党が賛同すれば、衆院の改憲発議は意外と早いかもしれません。

もちろん、参院側で公明党の抵抗で跳ね返されるという可能性はあるにせよ、理屈の上では、衆院側では公明抜きでの改憲発議自体は可能だからです。

そして、こうした改憲発議に向けた具体的なシミュレーションを重ねることで、もしかしたら自民党内でも公明党との連立解消の機運が高まるかもしれませんし、自民党が改憲に本気を出せば、国民・有権者の側も、本気で改憲勢力の3分の2の多数を与えようとするかもしれません。

このあたり、参院選自体がまだ1年後であるという事情もあるのですが、公明党、あるいは立憲民主党や日本共産党といった改憲に否定的な勢力のの今後の獲得議席次第では、改憲発議に向けて、さらに一歩進むかもしれません。

しかし、改憲発議に向けた本気度が足りなければ、自民党が現有勢力をさらに減らし、改憲が遠のく、と言った展開も十分に考えられます。

いずれにせよ、まだ少し気が早いかもしれませんが、近い将来予想される衆院選、そして来年確実に行われる参院選に向けて、改憲議論がどう進むのか(あるいは進まないのか)については重要な論点として、注目する価値があることだけは間違いなさそうです。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 話が少しそれますが、
    緊急事態条項の議員任期特例についてはもう少し吟味すべきと思います。

    これでは、ナチスドイツの再来を防ぐことはできない。

    最低でも、国会議決に加え、どこかのチェックが必要。
    最高裁の全員一致での承認を条件とするとか。

    • 「初動が遅い!」
      というクレームへの、愚直なクロスカウンターだと思いますね。

      「そこまで言うなら、未確認でもイージーに予算を認め自衛隊を動員できる仕組みを、平時から用意しておこう。」

      災害初動を優先するならシビリアンコントロールより現場の自由裁量を増やすしかない。
      シビリアンコントロールを優先するなら初動について文句を言わずになだめて回る責任がある。

      さあ、どうしますか?(笑)

      「初動が遅い!」
      てのは、シビリアンコントロール!と平時に雁字搦めにしてたから動けてない部分へのブーメランなのですが、あの人たち&その支持者たちは、そういう自覚すら無いのですから、アホ丸出しですよねえ。

      • 緊急事態条項自体の必要性は論を待ちません。

        平時と有事では、優先順位が異なるというか、平時に考慮しなくて良かったものが
        有事にはクローズアップされる。

        その最たるものはスピード。平時、人権と言えば水戸黄門の印籠の様なものと勘違いしている人たちの論理は、有事には人権(生存権)侵害の元凶。

        人権を構造分析し、優先順位を付け、最上位の生存権を確保するために下位の権利(財産権や移動の自由)の制限もやむを得ないというのはその通り。

        その意味では、法整備は少しづつ進められていると思いますが、想定外のことに柔軟に対処しようというのが緊急事態条項と理解しています。

        其れを問題にしているのではなく、
        国会議員の任期延長を国会議員だけで決めるのは、本質的に欠陥論理と言っているのです。

        >「初動が遅い!」

        単に真に受けて鵜呑みにするのではなく、あの界隈の言にも使えるところは使えば良いと思うのです。